一つのゲームを極めた人は大概他のゲームもできる
黙々と素材集めをするのがクラフト&サバイバルゲームの醍醐味だと思っています。
二日目の朝。ステータスを確認するとばっちり『作業効率アップ』のバフがついていた。俺の演奏と歌は無事にゲームの神様に認識してもらえたそうで何よりだ。
「今日は水と食料の調達だな。水は適当に歩いてりゃ川や泉の一つくらいはすぐに見つかるし、動物もその途中で出くわすだろうさ。ま、気楽に散歩気分で無人島探索しようぜ」
そういう訳で今日も二人組で探索することに。グーっとパーっで別れましょ……何年ぶりだこれやったの。で、相棒はきーちゃんか。クーラーボックスと懐中電灯があるから、俺のスコップと併せて採取に向いてる装備だよな。
「私にはクーラーボックスがありますから、いっぱい採りましょうね」
「よろしく」
ロボットに乗っていないきーちゃんはドラスレ以来か。チョイサバにも参加するあたり、IR以外に全く興味がないってわけじゃ無さそうなんだよな。
しかしまあ、自作の石器ナイフを弄びながら歩く姿はどことなく上機嫌で、何というか年相応の女の子という感じが新鮮だ。何に熱中しようが人それぞれの好みだから良い悪いはないけど、デフォルトで美少女の彼女はやっぱり顔が見えるゲームの方が映えるね。
「まだ始めたばかりで何ですけど、このゲームなら優芽ちゃんとも一緒にできそうですね」
「あいつ虫とか苦手だからなぁ、できてもイージーまでかも」
ラオシャン以外で俺が持っているゲームだと、妹ができそうなのはせいぜいセレスティアル・ラインくらいか。ドラスレですらドラゴンの見た目によっては無理っていうしな。いっそめちゃくちゃファンシーなやつならいけるかもだけど。
「私はその辺はゲームだからって割り切っちゃいますけど、フルダイブは結構リアルですから無理な人は無理でしょう。私もさすがにあんまりにグロいのは苦手ですけど」
「そう考えると、フルダイブのホラーゲームってめちゃくちゃ怖そうだ」
モニター越しの前世代機ですら物によっては泣いたり気を失いそうになる人がいたっていうしな。かくいう俺もホラーゲームはあんまり得意じゃない。怖い怖くないというより純粋にビックリして変な声が出るから、何事かと思った母さんが部屋に来たりするんだよな。
「実際、フルダイブのホラーゲームは異常興奮センサーとの戦いですからね。十五禁、十八禁になってくるとセンサーの感度をソフト側が調整して、わざと強制終了しにくくするらしいですけど。……あ。あーさん、あそこにウサギがいますよ」
話しながら歩き、開けた原っぱのような場所に出た時にきーちゃんが足を止め指をさした。その先を目で追うと、まだまだ距離はあるが確かにウサギが数匹いる。
古今東西、サバイバルと言えばなぜかウサギだ。罠で捕まえられたりして、可哀そうだなと思いつつも主人公は明日を生きる糧にするため泣く泣くナイフを振るい命を絶ち『ッターン!!』……え?
「ふむふむ、このゲームは武器に対する変なこだわりや手抜きはないみたいですね。ちゃんとレティクルの中心に弾が飛びました、ヘッドショットです」
「びゅ、びゅーてぃふぉー……」
そっか……この娘、武器で獲物を撃つという行為に何の感慨も持ってないタイプの女の子なんだな……。いやまあ、いちいちゲームで「いやーん可哀想で撃てなーい」とか言われるのも面倒くさいけど、引き金を引くことに躊躇がまるでない。いつの間にライフル取り出して構えてたんだろう。
「やっぱり小さいウサギからだと肉もたいしてドロップしませんね。弾一発で肉が三個ではコスパ悪いでしょうか?」
うん、サバイバルにおいては生命の尊さなんて費用対効果に何の影響も及ぼさないね。腹が膨れないどころか燃料にもならないなんて、ケツ拭いた後のトイレットペーパー以下だわ。命の重さより残弾数と肉の重さですよ。
初日で打製石器を作ったあたりでなんとなくわかっていたけど、きーちゃんはなかなか逞しい。綺麗な顔に似合わずズンドコ進んでいくし、動物を見かけたらとりあえず狩りに行く。
石のナイフだけでなく槍も何本か作っていたようで、持ち込みアイテム以外はもはや完全に原始人のそれだ。
ロボットの世界でも文明から見放された世界でも有能とは、きーちゃんの順応性はかなり高い。ぜひそのままラオシャンにも来て欲しいんだけど、なぜか彼女はあまり海に来ない。俺を呼びに来ることはあっても、腰を据えることは無いんだよなぁ。悲しい。
「結構な量のお肉が手に入りましたね。あんまり取り過ぎても時間経過で腐敗するらしいので、これぐらいにしましょうか」
「うん、とりあえず見える範囲からウサギの姿が消えたな」
これぐらいにしようじゃなくて、これ以上獲れない、なんだよなぁ。この娘の前世って猟犬かなにか?獲物を見ると狩らないと気が済まないのかな?そういうタイプの人にはやはりラオシャンがお勧めです、鮫とかやると良いんじゃないかな。
狩りで肉は十分になったので、お次は水と植物性の食べ物だ。向こうのグループも探索して何か見つけているだろうけど、下手すると肉&肉になりかねないから違う味も探しておこう。
「水ってこういうところに湧きやすい、とかあるのかな」
「どうでしょう?マップ生成は基本的にランダムだって昨日ちゃーさんが言ってましたけど。でもイージーならよほどのバカ以外は脱水で死ぬことは無いそうですよ」
よほどのバカにならないように気をつけよう、最低難易度かつ経験者のフォロー付きで死んだらゲーマー名乗れないぞ。
使えそうな素材を適当に採取しつつ、島の中央の方へと探索の脚を伸ばしていく。次第と植物も鬱蒼と茂りだし、視界が悪くなってくる。これは高難易度だと毒虫や猛獣が出現しそうだ。でもイージーの今はただフルーツ系の食料への期待だけが高まるね。
「バナナ、リンゴ、ブドウ、オレンジ、マンゴー……アボカドとかもあるかもしれません。栗やクルミみたいなナッツ系もいいですね」
「ゲーム特有の気候土壌云々をガン無視した植生、いいよな」
個人的にはイモ系も欲しかったりするんだけど。やっぱり主食は欲しいよ、炭水化物大好き。塩がきいたおにぎりとか最高。ああ、この無人島って稲が自生してたりしないかなぁ。
「そうか、肉をどうするにしても塩が要るな。やっぱり海水を蒸発させる感じでいけるのかな……ん?」
今、何か視界に違和感が。その木、何かが動いたような気がするぞ。
立ち止まってじいっと目を凝らすと、いた。ジャングルでお馴染みのあいつだ。種類によっては致命的となるそいつは……
「きーちゃん、蛇だ。結構デカい」
スルスルと音もたてずに木の表面を這う、鱗に覆われたロープのようなシルエット。俺はウミヘビならそれなりの知識はあるけど、陸の蛇は残念ながら専門外だ。見ただけで毒があるとかそういうのは分からないが、今までリアルに見たことがある蛇に比べたら十分デカい。
「蛇の肉って美味しいんでしょうか?」
蛇だと聞くや否や石槍を取り出し味を気にするあたりはさすがのサバイバーです。ますます中身が妹の同級生だとは信じられなくなってきたが、ゲームプレイヤーとしては全く物怖じしないその度胸は頼もしい。
「変なバフが付きそうだな。槍を構えてるところ悪いけど、俺がいく」
ウサギは全部彼女にジェノサイドされてしまったので、実は自分で狩りをしていなかった。せっかくだから自分で見つけた獲物くらいは自分で狩ろう。
反撃された時のことを考えて、ナイフではなくスコップを構える。平面で叩くのではなく刃を立てての攻撃を狙おう。
息を殺してジリジリとゆっくり距離を縮め、スコップの射程に入ったところで素早く斬りつける。ありがたいことに蛇は攻撃を避けることもなく、その身をドロップアイテムと化した。
【蛇】
島の中ではごくありふれた普通の蛇。特に毒はなく、可食。
古来より蛇には血と肉に精力増強の効果があるとされ重宝されてきた。食べればその効果が迷信ではないと知るだろう。
・満腹値+10
・食後の一定時間、疲労しなくなる。
「お見事です。へえ、蛇肉はウサギの肉とは別扱いなんですね。それ、クーラーボックスに入れときますか?」
「よろしく。……クーラーボックス、持とうか?」
ゲームの中とは言え、女の子を荷物持ちに使うのはどうも気が引けるというかなんというか。優芽なら率先して俺に押し付けてくるぞ。いや、その代わりに外出先での会話をしてもらっているからトントンなんだけど。
「重いと感じるほどじゃないので大丈夫ですよ。さっきまでコレ持って槍でウサギ狩りしてましたしね」
そう言えばそうだった。本人がいいって言うのなら無理に代わることもないか。そもそもクーラーボックスはきーちゃんのアイテムだしな、自分で管理したいと思うのも当然だな。
しかし、果物なんかが欲しいと思っていたのに手に入れたのはまた肉か。種類が違うとはいえ、ちょっと動物性たんぱく質が多すぎる。栄養素なんてゲームには関係ないだろうがこれは気分の問題だ。娯楽としてプレイしている以上、気分の問題は何よりも重い。
まあ、まだまだ探索の時間はある。ゆっくり散歩気分でいこうじゃないか。
そろそろ日が傾き、これから太陽が水平線に姿を隠すまで数時間と言ったところで拠点のキャンプ地へと戻ってきた。
俺たちの成果はたくさんのウサギ肉と蛇肉、それと探索の途中で見つけることができた野生のスイカ。スイカってこういう森林地帯にある物なのかな?俺は陸上の生態系はよくわからん。
【スイカ】
一抱えほどもある立派なスイカ。文明の中で育てられたものほど糖度はないが、たっぷりの水分が空腹だけでなく渇きも満たしてくれるだろう。
耕した土に種を植えると、時間はかかるが実がなることもある。
ずっしりとした重さは、これを投げたり落としたりして攻撃に転用することもできるかもしれない。
・満腹値+15(四分の一サイズ)
・水分値+10(四分の一サイズ)
こうやってみると青のアイスがどれほど優秀かが分かるかもしれない。持ち込みアイテムだから再生産は不可能だけど、初期の飢えと渇きを凌ぐにはあのアイスは文句のつけようもない。
「おお、水源は見つけられなくても水の代わりになるものは見つけたってことか。いいぜいいぜ、サバイバルにおいて代用品をいくつも確保しておくってのは重要だ。まあ、水源は俺らが見つけといたから安心してくれや」
「君たちの向かった反対側に進んだら、割とすぐ見つかったんだ。ちょっとした泉と小川があったよ。あとは野菜類をそれなりに見つけたから、そっちと補い合えるようになってるね」
青と茶管のチームは俺たちに足りないものをばっちり見つけてくれたようだ。というか、おそらく肉はあっち、野菜はこっち、水はそっちというように、初心者でも混乱しにくいような配慮がされているのかもしれない。
「それとな……ほら、竹を見つけたぜ!これで道具作りが捗るってもんよ、ありったけ切ってきたからオメェらもクラフト手伝え!」
おお!初日で俺がそれとなく探していたのに見つからなかった竹か!いいねいいね、竹と聞いただけで作れそうなものがバンバン浮かんでくるな。救命いかだから頂戴した飲料水もそろそろ切れそうだし、まずは水筒をいくつか作るべきかな?
「竹はいいぜぇ、竹はよぉ。建築、容器、武器、燃料。何にでもなるし加工は早いしな。高難易度だと竹をどれだけ早く見つけられるかで生存率がグッと変わるんだぜぇ?」
そんな茶管のおすすめは竹のベッドだそうだ。今は落ち葉をクッションにして寝ているけど、ちゃんとしたベッドがあると体力回復なんかのスピードが段違いだそうな。毒虫なんかが出てくるハード以上だと、地べたで寝ていると毒をもらうこともあるのでその対策にもなるらしい。
自給自足とはいえ大自然のバカンスを楽しむという目的の今回、寝床はどれほど豪華だろうと構わない。効率よりも居心地の良さを重視するのだ。サバイバル系のゲームだと居心地の良さ=効率でほぼ間違いないんだけどな。
「そう言えば、肉もあるし塩が欲しいな」
「そうだね。塩があるか無いかって調理的にも保存的にも大きいよねぇ。やっぱ海水蒸発させる系?」
ある意味当然ではあるけど、システムクラフトでは一部を除いてアイテムが出来上がるまで動けない。立ったり座ったりはできるけど、一応は自分の手で作っているという建前上、他の作業をすることはできないというわけだ。ベッドは竹製なのと昨日の歌のバフのおかげでそれなりに早くできるみたいだが。
「塩か。金属製の鍋があったら作業効率がよくなるんだけどな。まあ、塩は素材と設備があればほっといても作れるタイプだから構わねぇんだけど」
「それなら、明日は海で塩を作りながら遊びましょうか。釣りをしたり貝を探したりして」
「今日獲った肉と明日作る塩で海岸BBQなんていいかも。竹ベッドも持って行ってビーチチェアみたいにしちゃおうか?スイカ割りもできるねぇ」
ほう、海、海とな。そういえば俺がやってきたゲームの中で、ラオシャンを除けば明確に海に触れるのは無かったな。セレスティアル・ラインの海雲はあくまで限りなく海っぽい雲だし。
他のゲームがどれくらい海を作り込んでいるのか、今からちょっと楽しみだ。そして何より、人の体で海に入るのはゲームで初めてなんだよな。たまにはそういう趣向も悪くない、むしろワクワクする。
ふふふ、そうなれば今夜の演奏は気合が入るというもの。水中での呼吸が可能になるバフとかつかないかな?さすがに無いか。
ベッドを作り終わり、水筒など細々としたものをそれぞれでクラフトした後は、夕食タイム。今日はウサギ肉を焼いて、それに青たちが採ってきたトマトをつけ合わせて終了。うん、塩が無いと肉は何かが足りない感がヤバい。明日は塩の製造をがんばろう。
演奏と歌だけど、なにもフルで歌わなくてもいいらしい。早く言えっつーんだよ、そういうのは。ただでさえ曲のレパートリー少ないんだから勘弁してくれよな。
ウミヘビには爬虫類有鱗目ウミヘビ科のものと魚類ウナギ目ウミヘビ科のものがあるので気をつけようね!
だいたいのウミヘビ(爬虫類の方)は神経毒を持っているので遊び半分に近づくのはオススメしないよ!