ぼっちにはキツ過ぎる試練
クラフト&サバイバルゲームは序盤数日の忙しさが好きです。
装備と設備が整いだすと『サバイバル』からジャンルが変わっちゃう気がするんですよね。
サバイバルで作る寝床と言えばどんなものがあるだろう?なんかこう、漠然と木を組み合わせて葉っぱの屋根、みたいなイメージ。あとは洞窟とか?
「けっこう素材と時間がかかりそうですけど……?」
「そこで俺のパラシュートってわけよ。これを使えば屋根は何とかなるだろ?いい感じに生えてる木に張ればそれだけで雨露はしのげるぜ。日中に日陰にいるかどうかで水分の減りがだいぶ変わるからな、素材を集めた後の作業は屋根の下でやりゃあいい」
確かに、仮拠点くらいならそれで問題ないだろう。あとで移動するような時もちょいと畳むだけでおしまいなのもグッドだ。しっかりした布地だしパラコードもたくさんついているから縛りつけて固定するのもやりやすい。なんだ、パラシュートって便利だな。
「じゃあ、テントを張るのにいい感じのところを探しに行こうか。茶管、なにかポイントはあるの?」
「おう。まず俺たちは四人だからな、そこそこ開けた場所がいい。そんで風通しが良いのと、地面がしっかりしていて湿ってないのが重要だ。毒虫が出ないイージーならそこまで気を使わなくてもいいんだけどよ、リアルでも通用する知識だし知ってて損じゃないだろ?」
「何事も真剣にやるからこそ楽しいと言いますし、上の難易度でも使えるテクニックはどんどん教えてもらえると嬉しいです」
うむうむ、今回は自給自足バカンス気分でまったりのんびりするのが目的だ。でも、だからこそ居心地に直結するところで手を抜くわけにはいかない。どうせやるなら徹底的に楽しんでこそ、だ。
さて現在太陽は直上にある。きーちゃんの懐中電灯があるとはいえ光のあるうちに仮拠点は作ってしまいたいので、さっそく移動だ。海岸付近に猛獣の類は出ないそうなので銃火器はとりあえずしまっておくが、念のため俺がスコップ、青が日本刀を手に持った状態で歩く。
絵に描いたようなこの無人島は砂浜からすぐに森林地帯となっていて、山のようなものは今のところ見当たらない。生えている植物は南国っぽく、森の方からは鳥の声が時折聞こえる。
そんな砂浜と森林の境目をてくてく歩いている道中、茶管からこのゲームについて軽くレクチャーを受ける。あとで実体験すればいいところはサラッと流しながら、主にシステム面での仕様の話を聞かせてもらう。
「分かってるたぁ思うが、チョイサバはクラフト&サバイバルって感じのゲームだ。素材を採取して、道具を作って、よりよく救助が来るまでの時間を生き延びるするのが目的なわけよ。んで、このクラフトがちょいと変わっていてな」
このゲームにおけるクラフトは大雑把に二種類ある。すなわち、システムで作るか、自分で作るか、だ。
システムメイドのメリットは出来上がりまでが早くて均一、これに尽きる。どんなに不器用なプレイヤーでもシステムの方でクラフトしてくれるので失敗や出来上がりにムラがない。まあ、俺が知ってるゲームと言えば大概これだ。
逆にハンドメイドのメリットは大きさや形に融通がきくことと、なにより出来栄えに応じてボーナスが付くこと。例えば竹で背負い籠を作ったとすると、ハンドメイドの方には『軽量化』だとか『収納枠+1』なんかが付くことがある。当然、不細工な出来ではボーナスは付かないが、システムがそうだと認証してくれる限り道具としては使える。
「板やロープみたいな『素材を加工して作る素材』はシステムメイドでいい。つーかシステムメイドがいい。大量に必要になるし、寸法が合わねぇんなら後で切るなりなんなりできるからな」
「デザインが重要な部分はハンドメイド、って感じだね」
ゲームだとものの数秒そこらで作り上げるけど、丸太を材木にしてそこから板を作るなんて手作業でやったら、出来上がる前に干からびて死ぬわ。そこまでリアルにされるとゲームの意味を考えたくなるし、システムに任せた方がいい部分は任せよう。
「あとはケガと死亡についてだが、この手のゲームキャラのお約束で自己治癒能力は異星のバケモンレベルだ。割とバッサリ切られて大量出血しても包帯なりなんなりで止血したら一日かからず治るし、骨折も大概二日三日でくっつく」
ああ……よくあるよね、攻撃力はともかく耐久力が異常に強いサバイバー。脱水と飢えには勝てないけど、外傷なら大抵ほっとくだけで自動回復の超能力者かよってレベルで回復するよね。
「で、死んだ場合だが……取れる行動は二つ。素直にゲームオーバーするか、新たなサバイバーとして流れ着くかだ。再合流する場合、当然だが最初みたいなアイテムの持ち込みはできねぇ。完全に身一つだ」
再持ち込み可だったら、自分のアイテムを仲間に預けて自殺して復活からのアイテム持ち込みでやりたい放題できるもんな。こればっかりは仕方ないか。
再度流れ着くことができる人数にも上限はあるみたいだが、そもそも全員が同じタイミングで死亡するとゲームオーバーらしい。
「それと、難易度が上がるごとにどんどんいろんなルールが厳しくなる。こうやってのほほんと歩けるのもノーマルくらいまでだな……っと。おい、けっこう良さそうな場所があるぜ」
初期漂着地点から北に十分ほど歩いたところ。砂浜から森の方へとちょっと入れば、そこは木がまばらで見通しが良く、地面もしっかりしている。さっき茶管が言っていたポイントを押さえているというわけだ。
「あの……一回言ってみたかったセリフがあるんですけど、いいですか?」
仮拠点はここで問題ないだろうといった流れになった時、もじもじしながらきーちゃんが小さく手を挙げた。ふむ、割とズバズバ言う彼女にしてはなかなか恥ずかしがっているけど、なんなんだろう。
「黄色いの……わかるぜ、そのセリフ」
「うんうん、せっかくだからみんなで言おうね」
ちょっと待って俺だけマジでわかんないんだけど。そんなお決まりのセリフみたいなのがあるのか?あの、一分俺に下さい今から人生二十年を振り返って思い出すんで仲間外れはやめてください。
おい待てせーのとか言うんじゃない、ここ数週間で一番焦っているぞ俺は。そんな俺を可哀そうとか思わないのかお前らは。あー待って待ってホントに待って!
「「「ここをキャンプ地とする!!」」」
………………。…………、……。
「いやーオメェらわかってるわ、これ言わないと始まんねぇよな」
「お決まりのセリフっていうのは、みんなが言いたいと思うからこそお決まりなんですよね」
「あれ、どうしたの赤?そんなところで膝を抱えて座り込んで。屋根張るらしいから手伝ってよ」
なんか……仲間外れになったことがこんなに寂しいと思ったのは久しぶりだ……。思えば、ここ最近こいつらの誰も見ない日なんてあんまりなかったなぁ。知らず知らずのうちに友達という存在が当たり前になってたんだな……。
手早く木と木の間にパラシュートを張って屋根とすることで、ひとまずの休憩場所は手に入れた。これで雨と日差しはある程度防げるが、太陽の移動や風通し等を考えるとせめて一方向にだけでも壁は欲しいところだ。
「壁か、それなら割と簡単に作れるぞ。刃物を持ってる赤いのと青いの、ちょいとその辺で木を集めてきてくれ。その間、黄色いのは俺と一緒に行動だ」
男女別行動ってやつだな、と眩しい笑顔とともに組み分けを言い渡される。それにしても茶管のアバターはデキがいい。妙にリアルで居そうな顔というかなんというか、誰かモデルでもいるのかな?
「木材集めかぁ。イージーだと最大でイノシシまでしか出てこないっていうし、特に何もないとは思うけど気をつけていこうね」
「ん。木は何本あっても困らないだろうし、できるだけたくさん集めよう。竹なんかもあれば便利なんだけどな」
竹はしなやかで強靭かつ加工もしやすく、手ごろな大きさのものはそのまま水筒や容器としても使える。斜めに切れば竹やりにもなるし、とにかく利便性が半端ではないのだ。
木材集めとは言え、周囲の地形の把握も同時に行っておいて損はない。脅威となるものは少ないみたいだし、迷子にならない程度に動きながら手ごろな木を集めていこう。
木はその辺に生えているものを切り倒すか、落ちている枝などを拾い集めるかでアイテムとしてストックされていく。あまりにも小さい枝は『木材』ではなく『小枝』としてカウントされるのが中々細かい。
「日本刀をこんな使い方したら各方面からお叱りを受けそうだけど、見てこれすっごいスパスパ斬れるよ。さすがに丸太は何度も斬りつけないとダメだけど」
「俺はむしろ丸太を切り倒す方が得意……かな?スコップの斧モードがなかなか」
スコップの先端部を九十度横に倒して固定すれば斧モード。多機能品はそれぞれの本元には劣るけど使い勝手は抜群だ。俺に森林間伐の知識はないけど、根本付近を何度か斧スコップでコーン、コーン!と斬りつけてやれば丸太も伐採できる。
木の大きさで得られる木材量が違うのは当然として、使用するツールによって必要な作業量なんかも微妙に変わってくるようだ。それなりのスピードで切り倒せたところを見ると、俺のスコップは見込み通りなかなか優秀だな。
「結構集まったし、そろそろ戻る?」
「そうだな。副産物で蔓なんかも手に入ったし、ロープの代わりに使えるんじゃないか?」
ロープの可能性は無限大。セレスティアル・ラインの飛行船にもたくさんロープが使われててさ、ロープの結び方ってめちゃくちゃ多くの種類があるんだよね。ナイフとロープがあればだいたい何とかなるとは我らが副長のお言葉よ。
「ただいま。とりあえず材木50個くらいと蔓を集めてきたけど、これぐらいあれば大丈夫かな?」
「じゅーぶんじゅーぶん。俺らは寝床用に落ち葉やらをかき集めたついでに火を熾しといたぞ。あとそれもな」
茶管が示すのは木で作られた物干し台のようなもの。一本の細長い木が間に渡された、円錐になるように組まれた木製のタワーが二つ。それが拠点で日中一番陽が差す方向に置かれていた。ああなるほど、なんとなく使い方が分かったぞコレ。
「私は空いた時間で石を割って石器ナイフを作りました。性能はともかく、作るのも楽ですし素材はその辺にありますし、使い勝手は良い方かと思います」
電脳の極致たるフルダイブVRゲームの中で打製石器を作ってたのかこの娘。やはり人間も動物、原始の本能に勝てようはずもなく……。まあ、そういうゲームだしね。
とりあえず、集めた木材を茶管に教えてもらいながらインターフェース経由のシステムメイドで板材へと変換。そしてクラフトした板材をポケットから取り出し……やっぱどう考えてもポケットから縦2メートルくらいある板が出てくるのはおかしいな。
で、取り出した板を茶管が用意していた物干し竿のようなものに斜めに立てかけていく。おお、これだけでも立派な壁になるもんだ。板材じゃなくても長めの木の枝を立てかけるだけでもできそうだな。
パラシュートの下は全員が満足に足を伸ばして寝られるだけのスペースはないけど、このやり方なら壁の下の空間を使うこともできる。壁兼屋根の簡易シェルターというわけか、どうしてなかなか考えられた設計思想だ。
そして一通り初日にやるべきことを終わらせた俺たちは、焚火を囲み車座になった。口に入れているのは救命いかだから漁った非常食と水だ、味はノーコメントだが、食料は明日から集めればいいさ。これのおかげでのんびりと拠点づくりに精を出すことができたんだ。
パチパチと静かに爆ぜる焚火を見ていると不思議と落ち着く。そろそろ日が暮れようとしているので気温も下がってきて、揺らめく炎とじんわりと来る暖かさが心地いい。この静けさを友人と共にすることのなんと贅沢なことか。
口の端を緩ませながら火に薪をくべていると、さて、と言ったように茶管が口を開いた。
「じゃあ赤いの、一曲頼むぜ」
「うん?」
「うん?じゃねぇよ、三味線だ三味線。弾けるんだろ?一曲披露してくれや。明日のコンディションにボーナスもつくからな」
夜寝る前に楽器を使った演奏と歌を聴くと、次の日に体力が上がったり、ケガをしにくくなったりといったようなバフがかかるらしい。ああ良かった、三味線は無駄じゃなかったのか。
「家族以外に聞かせるのは初めてだけど……なぁ、これ下手だったらデバフついたりしない?」
「安心しろ、曲として認識できる限りは大丈夫だ。試しにカラオケで35点を叩き出したツレにタンバリンで歌わせてみてもバフがついたからイケるイケる」
だったら、まあ。みんな聞く態勢に入っちゃってるし、勇気を出して一曲行こうかな。
ポケットから三味線をずるりと取り出し、試しに数回ほど弦を弾いて音を確認。うん、ゲームだからそうだろうなとは思っていたけど、音は狂っていないし調律の必要は無さそうだ。
居ずまいを正し、撥を構える。思っていた以上に緊張する、カラオケ好きのやつらはしょっちゅうこんなことをやっているなんて正気か?どんだけ肝が据わっているんだ、その勇気を欠片でもいいから今俺にくれ。
……ええい、ままよ!笑ったやつは寝てる間にスコップで張り倒す。今決めた、俺は絶対にやるから覚悟しろ。
べべん、と音を鳴らせばもう後戻りはできない。そうだ、カラオケ35点で歌わされた茶管の友人に比べれば何の恥があろうと言うのか。後はもう、歌い抜くのみ。
「では一曲……【見ゆる色】」
何もない道の上で 俯きがちにただ歩く
逃げるように陽に背を向け 月も見ずに伏せて眠る
並び立つ影は見えず 漏らす言葉 返事はなく
いつしか音を失い 色と光が褪せていく
すべて諦め すべてを忘れ 伸ばした手は何も掴めず
目的も無く ただ前に進む 止まることをなぜか選べず
どこへ行こうか 何をしようか 同意も反対も聞こえない
気楽でいいや 荷物もないし わざとらしい声が消えゆく
果てなく続く 灰色の道 求めるものはなに? わからない
時は流れ季節巡る ひとり残して過ぎ去ってく
下を向いて歩くのなら 見えるものなど限られる
どれほど進んだのだろう ふと振り返り目を凝らす
思ったほどの距離は無く 誰かが手を振り 近づいてくる
何かが変わる音が聞こえた 跳ねる心 一筋の汗
背を向ければいい? 声を出せばいい? 半端に伸びた手が震えだす
思考が止まる どうしたらいい? 忘れていたからわからない
胸が詰まる 景色が狭まる 息が苦しい 助けて欲しい
当然のように伸ばされた手 手のひらのものはなに? わかっている
落としたもの手渡されて 影の横に影が並ぶ
見ゆるすべてに色が戻る 伏せていた顔が上を向く
すべては在った 待ってくれていた 伸ばした手を友の手が握る
目的はない なら作ればいい 道が七色に染まってゆく
どこへ行こうか あそこがいいな 言葉に言葉が重なりあう
無数の色が世界を作るように 独りきりなんてありはしない
果てなく続く 虹色の道 求めるものはいつも そばにある
「……ご清聴、ありがとうございました」
やり切ったぞオラァ!どうだ文句あれば言ってみろ、俺は生涯一度もカラオケに行ったことが無いから、自分の歌が人と比べてどうとかは全然わからないもんね!そもそも結構古いユニットの曲だからみんな知らないだろうしな!でも、和楽器とバンドをミックスさせた独特のテンポが俺は好きなんだ。
「おう、なんか言えよ」
てっきりなにがしか弄ってくるだろうと思っていたオーディエンスたちは、予想に反して目を丸くしてこちらを見ているだけだ。なんだ?コメントすらできないってか?
「……普通に上手くて驚いてんだよ。三味線のテクニック的な上手い下手は正直わからねぇが、音と歌は良かったぜ」
「僕はこう……赤が一曲フルで歌い切れる喉を持っていたことに感動してね……」
「録音してあーちゃん……優芽ちゃんに聞かせたいのでもう一回いいですか?」
「ほんとにやめてマジで切実に兄としての何かが壊れるから」
兄貴のセルフ演奏生歌なんてそんな第一級危険物を渡したら、ことあるごとにネタにされる暗黒の未来しか見えねーよ。妹っていうのはなぁ、だれよりも頼りになる味方である反面、最も身近にいる敵でもあるんだぞ。
「むしろ見直されそうな気もするんですけどね……」
最終的に、これは褒められたととっていいのだろうか。一人感動の涙を流しているのもいるがアレは根本的にズレたところで感動しているのでノーカン。
……うん、まあ茶管は上手いって言ってくれたしいいか。システム的にOKかどうかは明日の朝になればわかるさ。あとは茶管ときーちゃんが用意してくれたふかふか落ち葉の寝床で寝ればいいだけだ。
ドラスレ、セレスティアル・ラインもそうだったけど、ゲームの中で寝るっていう行為も不思議に思わなくなってきた。人間の慣れって怖いなぁ。
作詞するのしんど過ぎて草も生えない。
でもキャンプファイヤーにはギターと歌だと思ったのでやりました(偏見)。焚火と三味線ですが。
ここをキャンプ地とする!の使い勝手のよさたるや...




