四機(の武装が)合体!
やだ、私の異世界修羅場すぎ……?
すいません、ちょっと異世界での戦いが激化しすぎていて更新ができてませんでした。
無限戦機迎撃戦、その最終日となる日曜の午前九時。全員がログインしていることを確かめ、きーちゃんをリーダーとしてチームを組んでナーガラージャ戦線へと出撃する。
廃墟の市街地とその周辺の荒野というバトルフィールドに降り立った俺たちは、事前の打ち合わせ通りきーちゃんが先導する陣形でマップのとある地点を目指す。
僚機としてサブモニターに映し出されている名前は【デッドゾーン】【轟震】【セレスティアル】の三つ。好きなゲームからとっただけという何の捻りもない名前だけど、青にしては上等だ。
『ねぇ、その【レッドウィル・FF】のFFって何?油断したら僕らを後ろから刺すとか、そんな感じ?』
『あーさんはリアルだとアサシン的な雰囲気を醸し出してる割には結構派手好きですからね。私たちごと爆散させるとか、そんな感じじゃないですか?』
『で、それはなんて海産物がモチーフなんだ?』
「お前らの俺に対する評価はよくわかった」
何とかしてこいつらにほえ面かかせることができるようなゲームはないだろうか。ラオシャンだと勝てて当然みたいな反応されっからなぁ。
背負ったゴッテゴテのクソデカパーツを除けば比較的まともな人型であるセレスティアルとデッドゾーンに対して、レッドウィル・FFと轟震は異形としか言えない造形をしている。戦うことを放棄しているとまで思わせるその二機は、それぞれの役割を十全に果たすために作り上げられたものだ。
茶菅の轟震はぱっと見れば八輪駆動の大型レムナントだが、実は本体はその真ん中にある人型だ。言うなれば武装が一切ない下半身だけの戦車に人型が埋め込まれているとでも表現すべきもので、そのくせ八輪はやる気無さそうにゴトゴト回っているだけでロクな速力がない。
俺のレッドウィル・FFはというと、胸鰭と尾鰭ブースターの代わりに小型レムナントくらいあるバカみたいな大きさの推進器を身体の左右に一つずつ取り付けたもの。しかしこのブースターも現状では火を噴くことは無く、その重量ゆえに飛ぶこともできない。そのため仕方なく取り付けた無限軌道にてノロノロと体を引きずるように動いているのが現状だ。
『まあ赤のは特に負担が大きいからね、見た目にこだわれるほどの余裕はないか』
「代わりにエネルギー出力だけならアホほどあるぞ。なんたって使う先が無いからな」
『それを空っぽにするものをこれから作るんだろーがよ。へっへっへ、腕が鳴るぜ』
時折飛んでくるミサイルなどは先導するデッドゾーンと轟震の背に乗るセレスティアルが迎撃し、ナーガラージャ本体から微妙に離れた位置にある場所を目指して、俺たちは戦場をそそくさと走る。
「青は最初から茶菅の背中に乗ればよかったんじゃないのか?」
『何回か試したんだけど、二機でバランスをとるのが難しくてな。直線だけならともかく、急カーブや急ブレーキを入れるとすぐに青いのが吹っ飛んじまうんだわ。その他のギミックも封印安定になっちまうしな』
『バイクじゃなくて自動車型なら結構いい感じだったんだよ。でも結局与ダメスコア稼げるのが僕だけになっちゃうし、不公平かなって』
『俺ぁ別に構わねぇっつったんだけどな。自作ビークルで戦場を走り回れるってところに魅力感じてこのゲームやってんだからよ』
そう言えば茶菅のホームとなるゲームは知らないな。レースゲーが一番得意、むしろスピードが重要項目になる物ならなんでもやるらしく、二人乗りメインのゲームがあったらバディ組もうぜと言われたことがあったなぁ。
敵から距離をとっていることと優秀過ぎる自動迎撃装置のおかげでピクニック感覚で駄弁りながら移動をしているけど、遠くの方ではそれはもう修羅場ってる。広域回線が阿鼻叫喚の渦なのはいつも通りとして、プレイヤーを原料にした薄汚い花火がいたる所で弾けまくっている。
まあ、フレンドでもない他プレイヤーの生死なんぞそこまで重要なことじゃない。そう思えるくらいにはこの一週間で爆発する機体を何度も見てきたし、自分自身も爆発して来た。今はただ自分の目的のために進むのみ、だ。
『このあたりが目的地ですね。それじゃあ始めましょうか』
『『「おいーっす!」』』
やることは単純だ。まず俺が茶管の上、そのお尻の方に乗る。そして次に青ときーちゃんがその上に前後並んで乗る。そしてコンソールのサブモニターに浮かび上がった『Docking』の文字を押す。たったこれだけである。
しかし、一見簡単に見えるこの作業だが適当にやっていいものではないんだな。なにせ乗る場所や前後左右を間違えると、とてもとても悲しいことになってしまうからだ。
ついでに言うとドッキングそのものはウイーンガション、ガッチャン、ズゴゴゴゴで終わるけど、その後のシステム認証と各機体の同調にかなりの時間がかかる。どれくらいかというと、通常戦闘でこんなものを起動しようものなら速攻で飛んできた敵に死ぬまで殴り続けられるくらいと言えばいいか。
しかもドッキング中は一切他の操作を受け付けない。だからひーひー言いながら巨体を引きずってナーガラージャの戦闘域からできるだけ遠ざかったここまで来たのだ。
「俺が友達と合体ロボを作る日が来るとはなぁ……」
なかなか進まない機体間の同調率を示すバーを眺めながら、ぽつりと言葉をこぼす。本当に何の気なしに現実と現状を再確認するかのような、そんな言葉。
『僕もそうさ。フレンドはたくさんいても友達なんてほとんどいなかった』
『こんな感じの話、前もしませんでしたっけ?』
『ダチなんて数じゃねぇだろ。互いになんかあった時に体張って助け合えるかどうかだ。ダチの多さを自慢する奴は、その時点でダチを人じゃなくて数としか見てねーのさ』
そんな言葉に、いくつかの返事があることがただただ嬉しい。以前の俺なら、独り言に返事が来ることなんてなかった。
そう、今の俺は以前の俺とは違う。時間が許す限り全力を懸けてこのレッドウィル・FFを仕上げてきた。一人でプレイするのならまず作らない、パーツとなるためだけの機体。ただひたすらにエネルギーを生産することだけを考えて組み上げた、一機だけでは何もできない特化機という名のでくのぼう。
『システムリンク完了だね。それじゃあ、ちょっとカッコつけていこうかな?メインウェポン担当セレスティアル、ブルマンだ。準備万端、いつでもいけるよ。みんなはどうだい?』
わざと気取ったような口ぶりで、青が出撃前口上の口火を切った。妙に手慣れた感のある言い方だけど、そういやこいつ別のゲームでは大手ギルドのトップみたいなもんだったな。
『サブウェポン担当デッドゾーン、クチナシです。迎撃はお任せを。大暴れしてやりましょう』
『足回りを担当する轟震の茶管だ。派手に行くぜ、舌ぁ噛むんじゃねーぞ?』
くすくすと笑いながらきーちゃんが、自信たっぷりに茶管が、それぞれ名乗りを上げる。
そして俺の番だが、言えることは一つだけだ。俺が言いたいことは、ゲームに望むことはいつだって一つだから。
「エネルギー生産とメインブースター担当、レッドウィル・FF、赤信号。……全力で楽しもう。いくぞ、みんな!」
『『『おう!』』』
機体間の同調が終わり、今ここに四機のレムナントが一つとなった。ここに至るまでただのデッドウエイトでしかなかった大型パーツたちが正しく機体の一部として動き出し、秘めていた力を解放する。
蒼天を衝く弩級の双砲が威容を誇り、いくつもの砲身を連ね束ねる警戒色の副砲群が牙を剥く。大地の力強さを示すかの如き逞しい八輪が戦場に轍を刻み、莫大なエネルギーが爆風となって真紅の推進器から吹き荒れる。
巨大かつ凶悪。四機が組み合わさってできた戦車のような機体は目覚めるまでの沈黙が嘘だったかのようにその存在を見せつけながら、いまだ脅威であり続ける無限戦機の竜王へと走りだす。
これこそがチーム戦専用合体武装【バスターパッケージ】。それぞれが一機ではなんの効力もないパッケージをチームで複数持ち寄り、組み合わせることで規格外のスペックを叩き出す超兵器へと変化する特殊武装だ。
元々は合体ロボが作りたいというユーザーからの熱い要望を受けて試行錯誤した運営が『好きにやらせたらどうせとんでもない物になる』という考えをベースにして、『だったらこっちが規格を統一してしまえばいい』という結論に至って実装されたという武装群らしい。
ゆえにバスターパッケージを使うにはその要求に見合った機体を作らなければならないし、そもそも合体機構を邪魔するような造形のレムナントは作ることができない。どのパッケージを組み合わせるかで最終的なスペックが決まり、同じパッケージを使用するのなら外見に大差はなくなる。
最低二機、最高五機で合体することができ、いずれにせよ高いスペックを誇るが例外なくエネルギー消費量が凄まじい。普通の機体に搭載してただ組み上げるだけでは十全には動かない困ったちゃんなので、基本的に合体するレムナントの数機は高出力機であることが求められる。
そのために作り上げたのがこの機体。攻撃の手段を捨てて、並の機体の三倍近いエネルギー供給量を誇る真紅のでくのぼう。一人では何もできない代わりに、その全機能を仲間のためだけに使うという赤き意志。
レッドウィル・For Friend
さあ出撃だ、お前らの背中は俺が押してやる。
バスターパッケージは連結させるほど性能が強化されるオーバードウェポンみたいなもんです。
ちなみに私はオーバードウェポンの中ではグラインドブレードが一番好きです。六連装チェーンソーとかカッコよすぎでしょう。