遊びだからこそ真剣に
NTE面白いですね。
マイルームに出てきたキャラが下着&ワイシャツ1枚だったのにはビックリしましたが
「嘘だろ、この俺が負けるだなんて……クソ、楽しかったぜ……」
「プリオサウルスながら素晴らしい戦いだった。モササウルスであれば兄弟と呼べたかもしれないな」
モッさんを相手にプリオサウルスは数十分粘るという驚異的な健闘を見せ、最大級の賛辞を受けながら先に逝ったイクチオサウルスたちの後を追い海底へと沈んでいった。
いや、本当に凄い戦いだった。イクチオサウルスを全員沈めてモッさんを手伝おうかと思ってたけど、あまりに白熱した戦いにすっかり観客になってたよ。俺だけじゃなく他のプレイヤーたちもそうだったようで、絶叫が鳴り止まないトリトンコロシアムでモッさんとプリオが戦う音以外が消えたほどだ。
「赤信号君、イクチオは3頭ともやったみたいだね。さすがだ」
「モッさんもスゴかったよ」
あの戦いを見せた後でさすがと言うのは嫌みでは?まあモッさんは本心から言ってると思うしありがたく受けとるけど。
「いやぁ、君と血を流そうかと思っていたがすっかり満足してしまった。すまないが君とはまた今度ということで許してくれ。ではね」
はっはっは!と高笑いしながら悠然とコロシアムから出ていくモッさんに全プレイヤーが自然と道を譲った。今日の戦いでモッさんはまたひとつトリトンコロシアムに伝説を刻んだな、戦闘の映像が動画サイトに投稿されるだろうからチェックしとこ。
ラオシャンは海と生物のリアルさを売りにしてるだけあって動画や写真を撮ることへの規制は余りない。というかなんとなく適当に撮ったらオキアミやら小魚やらで数十人のプレイヤーが1枚の写真に収まったなんてザラだし。
それに動画や写真にはプレイヤーネームが写らないようになっており、外部サイトに動画をアップもできる。ただし外部サイトで個人名やプレイヤーネームを出そうものならあっという間にラオシャン運営に特定され、ラオシャンの規約違反としてゲーム内のお知らせで晒された上でアカウント停止にされる。その余りの速さはサイバーポリスすら上回ると言われる程だ。
まあラオシャン内のプレイヤーコミュニティならプレイヤーネーム出すくらいで目くじらたてられることはない。俺だっていつの間にか名前広められてたし、鮭の神としてだけど。
「モッさんが帰るなら俺も今日は終わろう。結局、あのプリオとイクチオが仕事がどうたら言ってたのはなんだったんだろうな。そういうロールプレイか?」
リベンジに来る感じもないし、映画1本観終わったくらいの満足感をモッさんの戦いから得た俺はログインしてから現実時間では10分くらいだけどログアウトしたのだった。
そんな微妙に不思議な戦いがあった日から3日。ラオシャンにログインした俺はとあるダイレクトメールを読んでアクアの前で完全にフリーズしていた。
差出人:ザ・ライフ・オブ・オーシャン運営
本文:平素は本ゲームをプレイしていただき、まことにありがとうございます。
この度、私ども運営は本ゲームのクオリティを向上させより良いゲーム体験をプレイヤーの皆様へとご提供するため、特定条件を満たしたプレイヤーの方々をご招待して意見交換等を含む交流会を3月30日にアウラムホテルにて開きたいと考えています。
急な申し出で大変恐縮ではございますが、赤信号様にはぜひともご出席していただきたくご招待差し上げました。
交流会に参加するにあたっての交通機関や宿泊等の手配は弊社がすべていたしますので、必要なものは海への熱き思いのみになります。
ご出席いただける場合は本メールへの返信に出席と記入して3月21日20:00までにご送信ください。
それでは、ご一考のほどよろしくお願いいたします。
「今日、19日だよな……はは、ははは…………助けて、青えもん!!!」
俺はメール内容を写真に撮った後、すぐにログアウトして親友へとヘルプを求めたのだった。
んで、ヘルプコールから30分後。VRマイルームには青だけでなくきーちゃんと茶管、そして茶管の彼女さんであるサキさんまで集合していた。
いやね、最初は青だけ呼ぶつもりだったんだけどパニックの余りいつもの4人のグループチャットで一斉通話かけちゃったんだわ。そんでたまたま全員が携帯端末を見ていたらしくて、わずか数コールで接続した皆が聞いたのは過呼吸寸前みたいなヤバい感じの俺の声だったわけ。
そしたら青は救急車呼ぼうとするし、きーちゃんは焦って自分の部屋で盛大にすっ転んでるし、茶管は4時間待ってろってバイク乗りそうだしでグループ通話はカオスの極みに。
結局、休日で茶管と一緒にいたサキさんが茶管にビンタ入れて落ち着かせ、冷静さを取り戻した茶管が青ときーちゃんを宥めて今に至る。俺?皆が俺以上にパニクってたから逆に頭冷えたよ。
「先ほどは大変ご迷惑をおかけしまして……」
「謝んなくていいよ。赤っちは助けを求めただけで、ダメなのはこっちのアホ3人だから」
「「「本当に申し訳ない……」」」
VRマイルームの床で土下座する俺の顔を上げさせながらサキさんが後ろにいる3人を肩越しに親指で指せば、3人とも身を縮ませて謝った。ちなみにサキさんと青&きーちゃんは初対面であるはずなんだけど、もうすっかり上下関係ができてしまったようだ。
「んで、赤っちは何で助けを求めたの?まあアタシはオマケだけど聞いていいなら聞かせてみなよ?」
「えーっと、それは……」
かくかくしかじか、と理由を説明。メールの写真も見てもらった。
「メールは本物っぽいね。招待から開催日まで10日くらいしか無いのは妙だけど。ていうかアウラムホテル?ホントに言ってるの?」
「こういうのって少なくとも1ヶ月くらい前には招待するものじゃないんですか?」
「そっちでグダグダ言ってもしかたねぇ。赤いのは出席すんのか?しねぇのか?大事なのはそこだろ」
「あんね、それが決まってたらあんな声で呼ばないって。いきなりすぎてどうしていいのかわからないんじゃないの、赤っち?」
サキさんがスゲェ頼もしくて後光が差して見える。いい彼女さんを持ったな、茶管。
「行きたい気持ちはある。ラオシャンは俺の人生を変えたゲームだから。でも行っていいのかわからない。行って、まともにやれるのかわからないんだ」
最近はかなりマシになってきたと言われるけど、それでもやっぱりリアルで知らない人と会って喋るのは怖い。それに大好きなゲームのイベントだからこそ、情けないことになりたくない。
ビビってる。怖じ気づいてる。イモ引いてる。でも行きたい。でも怖い。
俺は、どうしたらいいんだろうか……
「行けばいいと思うよ」
特に何の感情も込めず、当たり前のように言ったのは青だった。
「もうボチボチ僕たちだって漠然とでも就職を考えないといけない時期だ。就職活動もそうだけど、働くことになったら知らない人と喋らないといけなくなることだってあるし、その喋らないといけない相手っていうのは大概の場合は喋りたくない相手だよ。赤が誰とも喋らなくても生きていくのに困らない稼ぎ方を手にできるなら話は別だけどね」
「……案外、突き放した言い方をするじゃん」
「う、まあ、はい」
眉をひそめ軽く睨み付けるサキさんに若干弱腰になったけど、それでも青は続けた。
「ゲームのイベントってことは遊びの延長だよ。赤はたまに言うでしょ、遊びだから真剣に一生懸命やるんだって。遊びで一歩踏み出せないなら、君は何で踏み出せるの?」
問いかけに言葉を失った。俺には家族を除けばゲームしかない。ここにいる友達たちだってみんなゲームで繋がった。つまり、俺のほとんどは遊びでできている。
この件は現実のイベントではあるが、青の言う通りゲームの延長でもある。それも俺が1番好きなラオシャンだ。
「オマエ、行かなかったら今度からラオシャンにログインする度に『あのイベントに行ってたらどうなったんだろうな』って考えることになるぜ。行って失敗したら恥だ。でもよ、恥と未練は違うぜ?恥はいつか乗りこえられっけど、未練は断ち切れるまで日増しにデカくなってくぞ」
オッサンみてぇな言い方で嫌なんだけどな、と頭を掻きながら茶管が言う。社会人として働いている茶管の言葉には説得力というか重みがあった。
「赤っちが逃げたいなら逃げりゃいいと思うよ。苦手なことから逃げるなんてみんなやってる、何も恥ずかしいことじゃない。だけど苦手なことに挑戦して失敗したとしても、それも恥ずかしいことじゃない。どっちを選んだとしてもさ、少なくともアタシはそんなことで赤っちのことを嫌いになったりしないから」
大雑把に、それでいて優しくサキさんが頭を撫でてくれた。もし俺に姉がいたとしたら、こんな感じなんだろうか。
「私は真剣に遊んでるときのあなたが好きです。言葉は少なくて、表情も乏しくて、たまに誰よりも悪辣になって、死生観が少しバグってて、強かったり弱かったりして、負けたら悔しがって、勝ったら誇って、誰よりも夢中になってて楽しそうで。だから、迷って苦しそうにしているあなたを見ると私も苦しくて……すみません、自分でも何を言ってるのかよくわからなくて……」
どこか泣きそうな顔のきーちゃん。この子のこんな顔を見るのは初めてだ。……こんな顔をさせてしまったのも、初めてだ。
「……決めた。行く」
みんなどちらかと言えば行った方がいいと考えてるみたいだし、そもそも俺は怖いだけで行きたくないわけじゃない。
背中を押されて、訓示をくれて、逃げ道を用意してもらって、俺が苦しんでると自分も苦しいと言ってもらって。
そこまでしてもらってようやく決められた。そこまでしてもらわないと決められなかった。情けないけど、青に言わせるならそれでも1歩は踏み出せたことになる。
行くと言いきった俺を見て、みんなは頷いたり納得したり、笑ったり安堵したりしていた。
「それでこそ我が親友だね。よし、そうと決まったら買い物だ!暇なんでしょ?今から町に出るよ」
「なんで買い物に行く流れになんの?宴会でもするのか?」
「赤、この会場のアウラムホテルがどんなところか知ってる?」
多分知らないんだろうなという気持ちを隠すつもりもない青の質問を俺は右に流した。
「知らない。きーちゃんは?」
「知りません。茶ーさんは?」
「知らねぇ。サキは?」
「知らないよ。で、どんなとこなのよ青っち」
「そこに泊まることそのものが泊まる理由になるような高級ホテルだよ。スタンダードな部屋でも1泊10万弱はするだろうね」
「「「「ちょっとなにいってるのかわからない」」」」
青を除いた全員の心がひとつになった瞬間だった。ラオシャン運営のゲーム会社ってそんな儲けてんのか?あそこ確かラオシャンしか出してなかったと思うけど……。
「だからほら、服とか買わなきゃいけないでしょ?ある程度は整えとかないとメチャクチャ浮くと思う。普通に考えればスーツが無難だけどゲームの交流会、それにまだ学生だから少し質のいいシャツの上にジャケット羽織ってれば多分大丈夫。着こなしとかヘアセットとかは僕がみっちり教えてあげるから」
「アウラムホテル、アウラムホテル……うわ、これは確かに普段着で行けるようなホテルじゃないですね。半袖Tシャツにサンダルとかで行ったら公開処刑ですよ」
「呼ばれたのがオレじゃなくてよかったと心から思ってるぜ」
「赤っち、アンタはいい男だったよ」
友達の手のひら返しが熱い!
本作品において最も現実離れした存在、それがラオシャン運営(の親玉)




