人は見かけによらなくもないかも
今回は本編では久々の完全に現実世界の日常回です。そして長いです。
読まなければ話が分からないというほどではありませんが、番外編での話が出てるので気になる人はそちらもどうぞ。
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「お待たせしちゃいましたか?」
もうすっかり春になって温かい午前の駅前。ショートパンツにオーバーサイズのパーカーという動きやすそうな装いのきーちゃんが小走りでやってきた。
「大丈夫。俺たちもさっき着いた」
「そうそう、こんなの待ったうちに入らないよ。さ、行こう」
今日の目的地はいつぞやに行ったARゲームをメインにした大型アミューズメントパークだ。いろんな電脳世界をアバターで走り回っているとはいえ、自前の体を動かすのも悪くない。なんだかんだ普段の感覚に引きずられることもあるっていうしな。俺はラオシャンで感覚を体に合わせるように矯正されたけど。
「そういえば赤って最近何やってるの?」
「ラオシャンやってる」
のんびり歩く道すがら、ダークブルーのサングラス越しに問いかけてきた青に答える。何の変哲もない無地のTシャツの上に薄手のアウターだけだというのになんでこいつはこんなにも様になっているんだろう。顔だけじゃなくて全体的なバランスがそうさせるのか?
「いやいや君にとってのラオシャンってRPGの『たたかう』『まほう』『どうぐ』『にげる』みたいな基本コマンドじゃん。そうじゃなくてもっとこう、違うことやってないのってこと」
「本当にラオシャンしかやってないぞ」
「今まで陸に上がりすぎてた反動ですか?」
「産卵するために海に戻ってきたウナギみたいだね」
好き勝手いうじゃん。まあ俺の帰るべき場所に帰ってきたわけだからウナギの例えもあながち間違いじゃないけども。
「そういう青は?」
「んー、セレスティアル・ラインで最近サイレントアプデがあったのか、たまに無人飛空船が見つかることがあってさ。とりあえず商会員のみんなには空中接舷用のパーツを積んで人海戦術で捕獲作戦してるところ。まず間違いなく何かしらの背景設定の情報があるだろうね」
「そうか。週一くらいでいいなら手伝うよ」
「いいねぇ、桃ちゃんやましろちゃんも赤に会いたがってたよ。早く次の大漁旗を描かせろー、シナトをモフモフさせろーって」
あの2人も変わらないな……と言いたいところだけど2人とも結構な有名人になってるんだよな。桃ちゃんさんはゲーム内でもトップクラスのデザイン力と造船技術の持ち主として、そしてましろさんは攻略サイトよりもウィンズに詳しい妖怪ウィンズ大好き女として名物プレイヤーになっている。
「なんで私には聞かないんですか?」
「「IRに決まってるから」」
「まあそうなんですけど」
少し不満げに口を尖らせるきーちゃん。この娘、若干だけどゲームの中よりもリアルの方が感情豊かな感じがするんだよな。俺と青は強いて言うならゲームの中で開放するタイプ。
「あっ」
ドンッと軽い衝撃。会話に気を取られていたからか、交差点の近くで人とぶつかってしまった。相手はお爺さんで、持っていた大きな買い物袋の中身を散らばらせて軽く尻もちをついていた。
「あいたたた……」
「すみません、大丈夫ですか?落とされた荷物は僕たちで拾います。きーちゃん、お爺さんをお願い」
「はい。お爺さん、お怪我はありませんか?」
「ありがとう、荷物に気を取られて不注意になっていたよ」
突然のことに意識がフリーズしていると青がテキパキと場を仕切り、いつの間にか俺はお爺さんの荷物を拾い集めていた。ぶつかったのは俺だというのに情けない限りだ。
お爺さんが怪我をしておらず痛みもそこまでではないことを確認し終え、拾った荷物をお返しする。食料品や日用品がほとんどだったが、ダメになったものはなかったらしく安心した。
「お荷物、お運びしましょうか?」
「そこまでしてもらうことではないとも。気持ちだけいただいておくよ」
「……すみません、これを」
それではと別れる前。当事者のくせにほぼ何もせずさようならではあまりにも無責任すぎると思い、カバンの中に入っていたメモ帳を破って携帯端末の電話番号を書いて渡した。
「……後で痛んで病院に行くことがあれば、連絡してもらえると……すみませんでした」
「今時には珍しいほど義理堅いな。今回のことはお互い様だから気にする必要はないよ。こちらこそすまなかったね」
一礼してお爺さんは去っていった。その足取りはしっかりとしていて、本当に怪我がないようで安心した。
「2人とも。助かった、ありがとう」
「僕たちも気づかなかったからねぇ」
「それにしてもあのお爺さん、あれだけの荷物を持っても全然重そうにしていませんでしたね。鍛えてるタイプの人なんでしょうか?」
だとしたら不幸中の幸いと言っていいのかな。俺も年を取るなら穏やかで健康なお爺さんになりたいもんだ。ウチのじいちゃんも健康だし、家系的に病気に弱いということはなさそうだけど。
ともかく、そのあとは何事もなくARゲームセンターにたどり着いた。休日だけあってそれなりに人がいるが、順番待ちをしなければいけないほどでもない。
俺ときーちゃんはクレジットカードを持っていないので、このセンター専用の電子マネーを購入して携帯端末のアプリに入金しておく。クレジットカードを持っていても使いすぎを防止するために電子マネーを購入する人も多いらしいけどな。クレーンゲームとかで沼るとヤバいし。
「まずは何をしようか」
「僕は!絶対に!君の隣では踊らない!」
「思ってたよりも踊れてるなと思いましたけどね」
前回ここに来た時に一緒にダンスゲームをしたのを青はまだ引きずっているらしい。まあ強制してまでやりたいものでもないから構わないのだが。
じゃあ別の何かをと思ったところで目に入ったのはガンシューティングゲーム。よくあるチームを組んでゾンビを倒すやつだな。ステージをクリアするごとにホログラムマップが変わり、合計5ステージを生き残るとゲームクリアとなる。完全クリアには早くて40分、だいたい50分くらいかかるそうだ。
「でもこれ、4人推奨ですね。マップも4人チームが前提かもしれません」
「ガチでクリアを狙ってるわけじゃないから3人でもいいと思うけど……」
「すみません。もしかしてメンバー1人募集中でしょうか?」
チャレンジするかどうか相談していた俺たちに大柄な男性が1人話しかけてきた。
社会人感がする穏やかで丁寧な口調とは裏腹に服装は絶妙にこう、チンピラっぽいというかなんというか。下はダメージジーンズにゴツめのベルト、上は黒のインナーに派手な柄のシャツを羽織っている。なんだろう、間違いなく初対面のはずなのにメチャクチャ見覚えがあるなこの人……。
「友人が来るまで時間があって今は1人なのですが、少しこのゲームに興味がありまして。よければメンバーに加えていただけませんか?」
「あー、その、えーっと……」
すごいな、あの青が言葉に詰まってるぞ。まあどう見ても怪しい人だもんな、俺と青だけならともかくきーちゃんもいるわけだし。並大抵のメンタルをしている男ではイケメン界の頂点に君臨しているような青の隣にいるきーちゃんをナンパしようとすることもできなかったが、俺にデジャブを起こさせるこの人がオリハルコンハートの持ち主じゃないとは言い切れないわけだし。
「あ、本当に1ゲームご一緒させていただくだけですのでご安心ください。お互いに名乗ることも連絡先を交換することもなし、後腐れのない一期一会でお願いします」
しかしまあ、その眼と態度を見ていれば下心を持ってなさそうなのはわかる。
「青、青。多分この人は大丈夫、マジでゲームしたいだけだ」
「うーん、君のことは信じたいけど君の人間観察力を信じるには経験が薄すぎるからね」
「ホントに大丈夫だと思いますよ。この人、私に一切視線を向けてませんから」
そう、この人きーちゃんの方に目もくれないのだ。話しかけてきた時に俺も含め全員に顔を向けたけど、それからは完全に青とだけ話している。道ですれ違う男が二度見どころか三度見くらいはする美少女であるきーちゃんを前にして、だ。
それに目がね。そりゃもう早くゲームやりたくてうずうずしてる人のそれなんだよ。新作のゲーム買って帰ってきた親父と全く一緒なんだ。この目だけは世界中でもトップに入るくらい見てきたから間違えたりしない。
「では、連れもいいと言ってるので1ゲームの間よろしくお願いします。名乗りなしとは言いましたが協力プレイですし僕は青、彼は赤、彼女は黄と呼んでください」
「青さん、赤さん、黄さんですね。なら私は紫でいきましょう」
話がまとまったところで電子マネーを支払いゲームフィールドに入る。30メートル四方ほどのフィールドに床からせりあがった壁にホログラムを投影され、ちょっとした段差や坂なんかも床下にある機能で形作られるみたいだ。
武器は入場時にハンドガン二丁、アサルトライフル、ショットガン、サブマシンガンの中から選べる。それぞれ2つずつ用意されていたがせっかくなのでみんなバラバラの銃を使うことにした。俺がハンドガン、青がアサルトライフル、紫さんがショットガン、きーちゃんがサブマシンガン。
ちなみに銃床っていうのか?グリップの底とかにセンサーテープみたいなのがあって、この部分であればゾンビをぶん殴って倒すこともできるらしい。
プレイヤー同士での会話やホログラムのゾンビが立てる足音や物音を聞くインカム、銃の照準や残弾を伝えるゴーグル、そしてダメージ判定を伝えるセンサーを身に着けて準備完了。
インカムから聞こえる開幕を告げる不気味な音。話の流れでリーダーになった青の指示に従い、周囲を警戒しながらフィールドの中央へと向かう。どうせ最初の方はゾンビの数も少ないだろうし、俺たちが中央に陣取ることででゾンビから寄ってきてもらう作戦だ。
「よっ、と」
左右から近づいてきていたゾンビをそれぞれの手に持ったハンドガンで撃ち抜く。ヘッドショットはさすがに難しいから2発ずつブチこんだ。
「リアルでも二丁拳銃使えるのすごくない?」
「フルダイブの方で慣れてるからな。まあ腕の疲れがあるから精度は落ちるけど」
「ほほう。赤さんは素晴らしい腕前をお持ちですね」
「あの、紫さんも十分すご……銃撃と打撃が信じられないほどシームレスに繋がってるんですけど」
「ははは、これも社会人としての嗜みですよ」
これが年齢ではなく立場が作る大人の力、歳だけ成人している俺たちとは違うお金をもらう責任感の為せる業ってことか。俺たちもこんな大人になれるんだろうか。
1ステージめを難なくクリアし、ステージの配置が変わって第2ステージ。こういうゲームってなんか第2ステージからいきなり難易度上がるよな。油断せずいこう。
「なんかいきなりゾンビの量が5倍くらいになってない!?」
「だったら5倍動いて5倍撃て!」
思ってた以上に難易度の上がり方がすごいぞ!しかもただ歩きよって来るだけじゃなくて、這いずって来たり飛び掛かってきたりとバリエーション豊かだ!
「左から団体さんが来てますー!」
「えーっ!他からも結構来てるよ!?」
「はっはっは、楽しくなってきましたね!では正面を突破しましょう。赤さん、私と前に出れますか?」
「行きます」
駆け出した紫さんについてゾンビの塊に突撃!ショットガンの散弾がこじ開けた隙間に俺が飛び込んでさらに広げ、手の届く範囲まで来たゾンビの頭を銃床でカチ割り生ける屍どもの波をかき分けて進む。
突破したらすぐに体勢を反転させて俺たちが来た道から押し寄せる敵を片っ端から撃って撃って撃ちまくる。迫真の叫び声と共に襲いかかってくるゾンビ、迫真の高笑いと共にゾンビを爆散させる紫さん、転んでゾンビに群がられる青、棒読みで謝りながら青ごと掃射するきーちゃん。
生き残るために戦う。何よりも原始的であるがゆえに生物としての本能を強く刺激する行為は、付き合いの長さだとかそういうのをまとめて吹き飛ばしチームを一丸にさせた。
最終的な結果だけを言えば、俺たちは最終ステージを見ることなく第4ステージで負けた。ゾンビの物量もさることながら、ステージボスとして配置された改造ゾンビに勝てなかったのだ。というか初見で勝てるかあんなもん。
「おっす、途中から観てたよ。惜しかったね純也」
「草一、もうついてたのか。では皆さん、私の友人も来たようなのでお別れです。実に楽しいひとときをありがとうございました」
にこやかに礼をして去っていく紫さんとその友人。ちなみにご友人はオールバックにセットした髪とアンダーリムの眼鏡、黒いカラーシャツにスラックスという出で立ち。紫さんのファッションと相まってその道の人感がスゴい。
「見た目ほど怖い人じゃなかったけど、見た目以上に怪しい人だったね」
2人が見えなくなってからポツリとこぼされた青の呟きが彼らの印象の全てを物語っていた。
ひと通り遊び倒したころには結構な時間が経っていた。ARのバイクゲームとかもあったから今度茶管が遊びに来た時にやってもらおう、俺たちではイマイチな結果だったもんな。
「もうあと2週間で春休みも終わりかー。まあ春休みったって仕事ばっかりだったけど」
「なかなか都合付きませんでしたもんね。さすが今年度ベストイケメンに選ばれただけはあります」
2週間前くらいに青は日本で最もイケメンな20代の称号を手に入れた。発表はテレビ中継もされていてウチの家族一同で観ていたが、だれ一人として青が落選するとは思っていなかったので茶管に貰ったいいお茶を飲みながらまったりしていたっけ。
「名実ともに日本で一番のイケメンなわけだ。とりあえず拝んでおけばいいか?」
「日ノ本一の我が尊顔を拝し崇め奉ることを許してあげよう」
「普段から見慣れてるんでありがたみないですね」
「そういう君も美少女コンテストに出れば少なくともファイナリスト間違いなしだと思うよ?」
「今でもそれなりに面倒なのにこれ以上は御免です」
散々聞いてきたけど美男美女にはそれ相応の悩みがあるものだ。俺なら嫉妬で刺されたり自称彼氏彼女が勝手にできるような顔面は要らない。ゲームの呪いの装備まんまだもんよ。
やっぱ平凡が一番楽なのかもしれないな、モブ顔万歳。
「帰ったらちょうど晩メシどきか」
「このまえ仕事終わりにぼーっとしながら買い物して玉ねぎを買いすぎちゃったんだ。しばらくは玉ねぎ尽くしだね」
「保存もきいて使い道に困らない玉ねぎでよかったですね。足の速い食べ物を買いすぎると大変ですから」
去年の夏に母さんが安かったからとゴーヤを大量に買ってきたのを思い出した。ゴーヤってチャンプルーとサラダ以外にあんまりレシピがなくて、母さんを最上位に置く赤石家でもさすがに3日目からは辟易とした記憶がある。安いからって何でもかんでも多くあればいいもんじゃないよな。
「今日はメシ食ったらアトランティスで血を流すかな。ここ数日よく外国人に絡まれるんだ」
「自動翻訳もいい仕事してるけど、やっぱり相手が外国人だとわかるよねー」
「私もIRでよく挑戦を受けるのでわかりますが、挑戦状を送ってくるのは日本人より外国人の方が多いですね。血気盛んで目立ちたがりが多い印象です」
「日本人は日本人で宣戦布告までは誠実なんだけど、戦いになったら罠も嘘も作戦のうちの堂々と陰険なのが多いかもな。ルール違反をすることはほとんどないんだけど、ルールの内なら何でもしてくる」
ゲームをやっていて人種の違いを強く感じるのはいわゆる玉砕特攻のスタンスや自己犠牲の酔い方。日本人は『そんじゃ死ぬまで戦うか』と自分が死ぬことを作戦の一部として認識して淡々と死ぬことが多く、また自己犠牲は心の内で静かに酔う。外国人、特に西洋の人は『俺の死で戦況を動かしてやるぜ!』と盛り上がる演出のように認識している人が多く、自己犠牲でもちゃんとヒーローとして扱われたがるように感じる。
あくまで印象の話だからみんながみんなそうってわけじゃない。外国人でもシャイな人は多いし、日本人でも自分が一番目立たないと気が済まないという人はいる。血液型占いよりは信頼できるかな?くらいの感覚だ。
そう考えると俺はどうなんだろうか。自分から主張をしてるとは思わないが、目立つ行動をしてることもある。作戦的として死ぬことは厭わないけど淡々とは死なず最後まで足掻くし生き延びる道を探す。まあ比較的日本人よりだとは思う。
「それじゃあまた。赤はきーちゃんを送っていくんだよ?春先は頭が暖かくなってる人も多いからね」
「ナンパ避けなら青の方が役に立つけどな」
「確かにナンパ避けには無類の効果がありますよ。その代わりブルさんのストーカーに私が絡まれたりしますが」
「あのきーちゃんの顔を見るや否や絶望してへたり込んだストーカーか。そんなこともあったねぇ」
俺が知らないうちに顔面が不幸を呼び、別の顔面がそれを跳ね退けたようだ。ストーカーにすら勝てないと一目で理解させるきーちゃんの顔面恐るべし……。
だったらきーちゃんのストーカー相手だと俺は普通に刺されて終わるのでは?と内心ビクビクしつつ、きーちゃんを家に送り届けた俺は晩メシとラオシャンのために気持ち速足で帰宅するのであった。
紫さんこと紫木純也とその友人である月野草一はデスブラのあの人とあの人です。ちなみに2人とも休日に軽いコスプレ感覚でファッションを楽しんでいるだけで決してその道の人ではありません。普通の一般サラリーマンです。




