いつものやつ
今回で鮭編は終わりです
しかし野生というものは厳しいもので、やる気を出そうが出すまいが死ぬときは死ぬし生きるときは生きる。だが気の持ちようでその確率がだいぶ変わってくるのも確かなことだ。個人としては根性論は好きではないけど、そんなことを言っている俺も最終的には気合いと根性なところ多いし。
つまり現状がどう言うことかというと、だ。
「だぁオラカスゥーッ!!」
「キャイン!?」
ッパァーーーン!!と綺麗な音を響かせて水飛沫を連れた俺の尾が狐の顔面に叩きつけられた。獲物を爪で押さえつけ牙をたてて意気揚々といただきますしていたところにジャンピング尻尾スマッシュをブチかまされた狐が悲鳴を上げて逃げ去っていく。
狐とシロサケってサイズ的にはあんま変わらないからな。体重はさすがに狐の方が上だけど一方的に狩られるような力関係じゃない。やられていた鮭も鷲に捕まってもがき落とされたところをキャッチされた形だし。
そんな食われかけていた鮭も致命傷には至っておらず、血は流しているが遡上に支障はなさそうだ。それはそうと周囲の雰囲気に染まったのか俺の口も荒くなってる気がする。
「鮭神、救援マジ感謝ッス!この鮭介、拾ってもらった命で先陣切らせていただきます!」
命拾ったのにまた捨てに行くのか、大変だなお前も。まあ熊とか狐とか鷲とかの出現エリアに入ったからにはどこにいようと命の保証はないから一緒か。
「鮭神の勇姿を見たかお前らァ!この期に及んでイクラ野郎になるな!群れの俺たちがイモ引いちゃぁいられねぇーぜ!」
「しゃあ続け野郎共ォ!次ァ鮭神に俺らの戦い見てもらおうじゃねーか!」
「「「鮭神!鮭神!!鮭神!!!」」」
他鮭の勢いがシンプルに怖い。ニンジャドーでもボスとして祭り上げられたことあったけど、やっぱ俺は一番上に立つのダメだな。この熱気を受け止めてコントロールできる気がしないし、気持ちよくなったりもできない。
社会では出世争いがどうこうって話を聞いたりするけど、人の上に立ちたいって思えるのも1つの才能だよな。社長とか絶対になりたくねーもん。戦国武将とか上昇志向の塊みたいじゃんね。
もし俺が1組織のトップなんかになろうもんなら確実に会議で頷いて書類に判子を押すだけの機械になるぞ。んで青みたいなやつが実質的に全部回してる感じ。何かあったら首を差し出すことしかできねーな、あらやだ戦国武将になっちゃった。
「いよいよ川が浅くなってきたか。産卵地は近いが……」
「しょ、正面に熊公だぁーーーっ!!」
「……まあ、そうなるよな」
産卵期の鮭を狙う熊は1匹2匹なんかでは絶対に満足しない。栄養価の高い卵を狙い、腹部を食いちぎっては打ち捨てて次の鮭へとどんどんその凶爪を向けていく。本来だと狐なんかはこのおこぼれを貰うのが基本だ、なぜかラオシャンだと積極的に狩りにくるけど。
つまり熊1匹だけで多数の鮭がやられるし、熊から逃げる鮭を狙ってありとあらゆる捕食者が目を光らせているのだ。川も浅くなったことで群れで層を作れなくなり、猛禽類たちによる襲撃の被害も爆上がりだ。
「鮭次の兄貴ィ!俺、漢になってくるよ!」
「鮭泰!?待て、早まるんじゃねぇ!」
「見ててくれ兄貴!鮭神!うぉおおおお!死ね熊公ォォーーーッ!!」
1匹の鮭が川面から躍り出て仇敵へと飛びかかる。
その姿は実に美しく、力強く、彼の鮭生において最高の跳躍だったことだろう。
だが残念なことに、野生の世界ではベストをつくせば報われるなどという保証はない。
「鮭泰ゥゥゥーーーッ!!」
その尾鰭が届くよりも先に熊の爪が苦もなく彼を切り裂き叩き落とした。衝撃により背骨は折れ、断末魔を上げる間もなく彼の命は川底に沈む。
……ああ、これだ。弱肉強食と食物連鎖の名のもとに軽々と命が失われる感覚、命は平等などという戯言を一笑に付すかのような残虐さ。
強者は弱者を食らうために殺し、弱者は持てる全ての力を振り絞り足掻いて足掻いて生にしがみつく。野生の世界はどこまでいってもどうしようもなく血生臭く、そして美しい。
生きるために命を懸ける。これこそが【ザ・ライフ・オブ・オーシャン】の醍醐味だ。
「でもなぁ、弱いやつは食われるしかないなんて……そんなこたぁねぇんだよ!」
鮭泰を殺した熊が再び川の中に腕を振り入れた瞬間、その腕に沿うように跳び上がる。伸びきった腕のすぐ側というのは全動物中で屈指の器用な腕を持つ人間ですら案外対処に困るものだ。
だがラオシャンの陸上動物を舐めてはいけない。コイツらは俺たちを殺すためだけに存在するキリングマシーンあるいはバーサーカーだ。この熊も同様、サッと体を引くと同時に反対の腕でカウンターを放ってきやがった。
「甘い、ハチミツ食いすぎじゃねーのか!」
前世の熊との交戦でお前らがそれくらいやるなんて百も承知。カウンターブローにタイミングを合わせて身を捻り、紙一重で回避した上で熊の腕を足場(?)に再度の跳躍。
野生の世界で弱者が強者に勝つには知恵と度胸を尽くさなきゃならない。それを突き詰めて進化した生き物こそが人間である。
「こちとら体はシロサケ、頭脳は人間!その名もラオシャンプレイヤーだ!!」
「ブモァ!?」
フィギュアスケートの選手もかくやとばかりの回転を加え、熊の鼻っ柱に全力で尻尾を叩き込む。まさかの反撃に熊が怯んだうちに着水、素早くその横をすり抜けて危険地帯を脱出する。
機を見るに敏というか、俺が戦っていた数秒のうちに多くの鮭が熊を抜けていた。
「鮭神、アンタまたしても熊公を……!」
「見てたか鮭泰……お前の仇、鮭神が討ってくれたぞ!」
「鮭神の伝説はとどまるところを知らねぇぜ!いきましょうや鮭神!俺たちを約束の地へ導いてくれ!」
同胞の声を背に、俺はまた先頭を泳ぐ。いや悪いけどもう先頭を泳ぐくらいしかできることがない。さっき無茶な跳びかたをしたせいでだいぶ身体を痛めてしまった。特にテンション任せでぶつけた尻尾の付け根がマジで痛い、骨がイッたかもしれん。もうマトモに跳ぶのは無理だな。
この負傷で産卵地までたどり着くのは望み薄だろう。次に鷲に狙われたら回避できる気がしない。気合いと根性はある程度を覆すことはあっても不可能を可能にする魔法じゃないのだ。
だからこそ俺は先頭を泳ぐ。俺個人……いや個鮭としては無念極まりないが、生き物の究極的な目的は種の保存。なら、群れが1匹でも多く生き残らせる行動がベスト・サーモン・ロールプレイだとは思わんかね?熊の顔面をビンタしといてロールプレイもクソもないだろって?うん、それはそう。
それにほら、先頭を泳いでたら死んでもそれなりに格好つくし、あんま喋りかけられずにすむし。
「鮭神……その泳ぎ方、アンタまさかっ!」
「なんてこった!これが熊公を退けた代償だってのかよ!?」
「酷ェ……鮭には神も仏も微笑まねぇんだ!」
あ、群れのやつらにバレたわ。一目で俺の負傷を見抜くなんてアンタらも中々やるね。まるで邪竜を倒した勇者が呪い食らったみたいなリアクションされてるけど。
落ち込み嘆く群れの中に大きな声が張り上げられる。
「名誉の負傷を絶望の象徴みたいに言うな!鮭神を見ろ!弱音を吐かず、驕りもせず、ただひたすらに先頭を泳ぎ続けるその背中を!あの生きざまこそが鮭魂だろうが!」
この声は確か鮭次。さっき熊に攻撃をしかけて殺された鮭泰の兄貴分だったか。
「熊に殺されようが産卵地までたどり着こうが俺たちゃ死ぬ。ならよぉ、とことん特攻ンでいくっきゃねぇだろ!鮭神はそれを俺たちに教えてくれてんのよ!」
「ああ、見える……見えるぜ……鮭神の偉大すぎる背中が!」
「黙して語らず、だがその姿は雄弁すぎる!言ってんだよな?黙って俺についてこいってよォ!!」
いえ、ただ話しかけられたくなくて黙って先頭泳いでるだけです。国語の文章読み解き問題みたいに深読みしすぎだって。『この文章を書いた作者の心境を答えなさい』なんてなぁ、だいたいが『締め切りなんとかなれーっ!』か『こうやって書いときゃウケるやろなぁ(笑)』か『こんな文章を書ける俺って天才か?』のどれかだろ。純度100%の偏見だけど。
でもまあ、期待されたら応えたくなるのが人間だ。いや鮭だけど、そうではなく。
だったらある程度は応えようじゃないか。とりあえず死ぬまでは先頭を泳ぎ続けるよ、元からそのつもりだったし。そこそこ運が良かったら産卵地までいくのも不可能ってわけじゃないしな。
そうやって痛む尾を振り前へと進む。その俺の背中を追って群れが進む。俺は全くもってボスの器ではないけれど、旗になって突っ込むくらいはできるから。
ついてこいよ、お前たち……っ!?
何の前触れもなく激痛が走る。右の胸鰭のやや後ろくらいから体の中心近くまで何かが突き刺さっている。
鮭の体では自分に刺さったそれを見ることはかなわない。が、それが何かを俺は知っている。それを俺に突き刺したのが何かを俺は知っている。
それは長い木の棒の先端に付けられた鉄鉤。それを俺に刺したのはある意味で熊よりもタチの悪い、ラオシャンプレイヤーのほぼ全員が一度は悪態をつくことになる天敵。
もがき暴れる俺を悠々と川から引きずり上げる、独特の模様を染めた衣装を纏う二足歩行の生物。知恵と度胸で世界をその手にした地球最強の生物種。
つまり、そう。
「っっぁ人間ゥゥゥーーーッ!!」
「「「しゃ、鮭神ィーーーッ!?」」」
本サーモン・ランのリザルト。
結果:死亡敗退
撃退:狐1匹、熊1頭
死因:アイヌ漁師による銛での刺突
結論:人間はクソ
今回サーモン・ランをご一緒した鮭の皆様はラオシャンプレイヤーとしては『ノリはいいけどやや弱い』部類です。でもこれくらいが一番ゲームを楽しんでる層なんじゃないかなとも思います。
次はどんな海産物にしましょうかねぇ…




