第九話
「えー、では、これより我が校の文化祭名物《発掘あるあるアイドル大捜査線》の参加募集を始めたいと思います!
えー、この企画は今年から始まったものでありまして~校内、そしてご来場の皆様も対象となるものでございます。なお、校内からの見目麗しい参加者にはすでに了承を得ておりますのでご安心ください。
えー、現在募集しているのはご来場の皆様の中に自慢できる美、もしくは特技がありましたらそれを披露していただきたいと思っております。えー、参加希望者はグランド横にあります仮設テントにて受付をしておりますのでそちらへお願いします。なお投票に関しましては、御来校時にお配りしております投票券に書き、校庭周辺店舗近くにある投票箱に入れてください」
そんな校内放送を聞きながら僕が感じたのは、今回から始まったのに名物にして良いのかって事と、この放送の人は「えー」が口癖なんだなぁということくらい。ちなみに放送されていた見目麗しい参加者という人の中にはエルさんも含まれているので僕自身はすごく気が重い。
出番まで家族の会話をして気を紛らわせようと思っていたところ声を掛けられた。その声の主は悪友である。
「おーい翼ぁ~。エルさんの出番まで一緒に文化祭周ろうぜ~」
「ん?奏音姉ちゃん達が一緒でもいい?」
「全然構わないぞ。そんな事気にするほど俺達の仲は浅くないだろ~」
そりゃ小さいころから一緒なんだから今更気にするような関係じゃないけどさぁ。まあ姉ちゃんはともかく、輝はこの悪友となぜか仲がいいのでこれ以上悪い影響を受けないか甚だ心配だ…。
輝の年齢特有の病気(ちゅう○病)?すら、もとはと言えばこの悪友が原因だったりするからね。
「まあ、修二がそういうなら僕としても断る理由は……まあ、あるっちゃあるけど許可してあげてもいいよ」
そう今更だけど、悪友の名前は修二という。まあ名前が賢そうな割に学校の成績はよろしくないんだけど、時折予想だにしないことで頭を周らせる要注意人物である。勉強などは苦手だが自分の利に聡く、その方面には悪知恵を働かせるのが悪友である修二なのだ。
あっ、だからってこいつが悪い人間って事じゃないからね?もしそうなら僕が親ゆ……いや、悪友だなんて呼ぶわけがないんだから。
「ははぁっ。ありがたき幸せ~。どうせだから行動する間はエルネシアさんに交代してくれてもいいんだぞ?そうすれば俺が喜ぶ!」
「それは断る!エルさんの事は悪友のお前から僕が守るっ!」
「ちぇっ~、さっき親父が特等を当て損ねたからどうしようか迷ったが、まあ翼と行動してればエルネシアさんと話すチャンスもあるかもしれないからな」
やはりそれを狙っていたのか…。まあ修二の事だから、まだ別の狙いがあるかもしれない……。いつも通り注意はしておこう。
そんな会話をしつつ、僕たちは姉ちゃん達と待ち合わせしている校庭に向かった。
「あら修君も一緒なのね?」
「あっ、ご無沙汰してます~奏音さん」
「最近出禁にしててゴメンね~。妹のエルちゃんの事をすでに知られてるとは思ってなかったから。あぁっ、もう出禁は解くからまた前みたいにいつでも遊びにきていいからね?」
「了解っす!また近いうちに遊びに行かせてもらいますね!」
顔を合わすなりこのような挨拶を交わす二人。なるほど、エルさんと一緒になってから急に悪友が遊びに来なくなったのはそういう理由があったのか‥。さすがの修二も奏音姉ちゃんの言葉には逆らわないらしいね。うん、賢明だ。
「ふははっ!修二どのではないかっ!久しいなぁ!」
「よっ、輝。久しぶりって言っても先週コミケであったばかりじゃないか」
「ちょっ!?修二さん。その事は内密にとお願いしたよね……!」
僕と奏音姉ちゃんからいつも通りの視線を受ける輝。すぐに口調が崩れる辺り輝はまだまだ甘いね。
それに、今ここでそういう事がバラされてなくても僕たちは輝の行動パターンなどお見通しさ。
なぜなら……姉ちゃんは弟達(僕や義妹含む)を溺愛しているから、ストーカー並みに行動を把握してるみたいだし、僕自身も実はそのコミケで輝を目撃していたからね。
実はエルさんが学祭のコンテストに出場するにあたり、コスプレ関係に少し興味があると言い出したので、現地に行くという修二について一緒に行ってたんだけど、ちょうど僕がトイレに離れた隙に二人は出会ってた。僕が戻ってきた時には輝は後ろを向いて移動を開始していたけど、見慣れた後姿を僕が見間違えるはずもなく……(まあエルさんが体から出る波長から輝と特定してたんだけどね)
とにかく僕達4人……いや途中からエルさんも魔法で会話に参加してきてたから5人だけど……は、仲良く文化祭の模擬店やアトラクションなどの出し物を周った。
ちなみに修二は僕が前に出てるときはエルさんと会話できないと思ってたらしく非常に驚いていた。うーん、修二にはまだバレちゃまずかったかもしれないなぁ‥。
楽しい時間が経つのは早いもので、あっという間に目玉イベントである《発掘あるあるアイドル大捜査線》の時間がやってきてしまった。
「エルネシアさん!俺は君に一票を入れると誓います!」
「そうなの?ありがとう。でも他にも魅力的な子がいるかもしれないんだし、そういう事を先に宣言するのはどうかと思うんだけど?」
「いやいや。エルネシアさん以上に魅力的な人がこの文化祭に出てくるとは思えませんよ!」
その意見には僕も同感だけど、人目が気になるからそんな大声で叫ばないでほしい。
修二の声がデカいせいで、控室に注目が集まってしまってるじゃないか(現実は控室に入る前には注目を集めていたけど、コイツのせいにしておこう)。
女子高生で衣装の一部分をドーンと強調してる子が居たら目が行くよね・・特に男どもの目が…さ。
「ところで修二君?そろそろイベント開始時間だから控室から出てくれるかしら?」
「おっと……もうそんな時間だったか。では俺は客席から応援してますので頑張ってくださいね」
そういうと修二は退室し、客席へ向かった。
「……ねぇ、ツバサくん。さっきから控室にいる子達の視線が凄く集まっている気がするんだけど……?」
「あー、それはやっぱり多少修二のせいもあるだろうけど、エルさんが美人だからじゃないかなぁと思う。まあ今回のイベントは外部参加者もいるみたいだから、外国人(?)のエルさんが目立つのは仕方ないと思うよ」
「ふぅん、まあ私は他の人からどういわれようと、ツバサ君から綺麗とか可愛いって思われてるならそれだけでいいんだけど」
「それはもう僕が太鼓判を押しちゃうよ!……まあ僕としてはあまり目立ってほしくないけど、エルさんの容姿的にもそれはありえないから、今までこの地球で学んだ常識の範囲内でアピールする程度にしてくれると助かるかなぁ」
「そう、ありがとう。でも大丈夫よ。ちょっと光魔法で演出する程度にしておくわね」
うん、僕としてはその魔法すら使って欲しくないんだけどね……まあいいか。魔法ってバレなきゃいいだけなんだし。
脳内会話を進めていると一人の参加者らしき可愛らしい女性が近寄って来た。……うん?どこかで見たことあるような気がするけど、何処だったかなぁ……。
「ちょっと、あなたがエルネシアっていうこの学校で噂の生徒ね?確かに容姿は目を見張るものがあるけど、それだけじゃ勝てないって事を教えてあげるわ!首を洗って待ってなさい!」
その女性は言うだけ言うとズンズンと歩き去って行った。うん、訳が分からない展開だ。
「ねぇ、ツバサ君。もしかして私今喧嘩を売られたのかしら?」
「違う違う。喧嘩じゃなくてライバル宣言?じゃないかな?エルさんには負けないぞって言う…さ」
「うふふっ、それは楽しそうでワクワクしてきたわ」
どうやら、初めて挑戦状・・?を受けて興奮してしまった様子のエルさん。
この文化祭……荒れそうだよ…。