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第十章 僕ってヤツは・・・

第十章 僕ってヤツは・・・


「くーさのーっ!さあ今日も出ました僕様の”普通の言葉なのになんだかエロティカル”シリーズ第8弾、審査をお願い申す。」

「またか、飽きないな木村も。どうぞご自由に。」

「どうしよう。最近、なんだか上司が元気なの。」

「2点。」

「10点中2点だとっ!?」

「一万点中だ。」

「低いっ!超絶にひくっ!お前にはわからんのかこのエロさがっ!30代後半の独身OLが昼下がりにつぶやいた一言、それもデザートのパンナコッタを付属の透明プラスティックのスプーンで少しずつ味わいながら、そのスプーンを舌で弄びながら、ちょっと照れたように、だぞっ!?なんて意味深!なんて妄想力!」

「そこまでの細かな設定は伝わらんぞ。そしてなぜにパンナコッタなんだ。」

「草野めぇ、第7弾ではマイナス20点とか極悪非道な数字を言いやがって。しかし第10弾には乞うご期待!!」

「第9弾はどこいった。」


夏樹ちゃんと2人で食事をした日から、初めて迎えた平日。つまり今日は月曜日。いつもにも増してニヤニヤしている木村が気持ち悪い。夏樹ちゃんとは無事帰ったことの報告メールを受け、それに返信しただけで他に何も話していない。顔を合わせたときに気まずくならないだろうか、そんなことばかり考えてしまう。木村の余計とも思えた、ありがたい取り計らいによって起きた、ハプニングともいえる出来事。僕はずっとそのことばかりが頭から離れない。

酔っていたことと、あまりに突然すぎたことで前後の記憶がほとんど思い出せないかわりに、夏樹ちゃんの柔らかな唇の感触だけが強烈に残っている。

それにしても一体どういう意味なんだろう、あのキスは。夏樹ちゃんは雰囲気とか気分だけでそんなことをするようなタイプにも見えない。

かと言って僕への友達フラグが外れた、なんてキッカケあったか?いやいや、ないだろう。勘違い男にはなりたくない。

考えの輪廻転生によって頭がパンクしそうな僕。

そこへ部室のドアが開き、夏樹ちゃんとレナ先輩が入ってきた。僕の心臓と脳にガソリンが注ぎ込まれ、フルスロットルで再び動き出す。

「木村くんおはよー。あっ、草野くんもおはよ。ってもうすぐお昼か。2人とも今日はお昼ご飯どうするの?」

「うむ。僕様は今日はドナルドを頭から引きちぎって食してやろうと思っているのだ。真っ赤な血が床に滴り落ちぬよう気をつけながらなあ!」

「あぁ、ハンバーガーね。木村くんまたケチャップが服につかないように気をつけてね?ホント懲りないんだから。」

あれ?なんか普通だ。一昨日のことがまるで何もなかったかのような夏樹ちゃん。

「じゃあ草野くんも木村くんと一緒かな?レナ先輩とお弁当屋さんに行くつもりなんだけど武田先輩はどうされますぅ?」

おぉ、武田先輩いたのか。気付かなかった。

「僕も弁当買いに行くよ。一緒に行こうか。あれっ?今レナちゃん露骨に嫌な顔しなかった?」


結局僕は独りで勝手に照れてしまっているせいで、不本意にも夏樹ちゃんたちとは別行動を取ることになり、先日の事件の首謀者とドナルドの頭を買うことになってしまった。

「それでそれで、今日の反応を見るに何かありましたね?何かあったのだろう?どうなんだぁ!答えろ草野拓斗ぉ!」

「なぜにフルネームだ。別に何もないよ。それよりなんで嘘ついてまであんなことしたんだよ。」

「話を逸らそうとするとはいい度胸だ。この僕様がそれくらいで逸らされると思っているのかぁ!僕様を反らせることが出来るのは水島先輩くらいだぞ?」

「意味深なことを言うな。それにいつも話を逸らすのはだいたいお前だろ。」

「ふむ。それもそうか。しかし僕様は嘘などついていないはずだが、何か勘違いをしているんじゃないのかね?」

「土曜、風邪引いたって元気に電話してきて、僕と夏樹ちゃんを2人きりにしただろ。完全に嘘じゃないか。」

「ひどいっ!ひどいよ草野くん!僕様は風邪を引く予定って言ったんだ!僕様の予知能力が発動して脇のお毛々様がお乳首様まで到達したんだ。これはつまり風邪を引く前兆だよ。だから僕様は僕様のお体を思って大事をとったんじゃないか。それをまるで罪人のように、詐欺師のような扱いをするなんて、お前はまるで悪魔だっ!」

「そこまで言ってないし、お前にそんな予知能力はないっ!だいたい店に聞いたら最初から予約は2名だったぞ。どう説明するんだ。」

「まあいいじゃないか細かいことは。僕様の風邪のおかげで何かあったんだろ?何があったのか吐露しちゃえよ。しなきゃ草野の飲み物に常に僕様の爪のアカを混入してやるぞっ♪」

「僕を殺す気か。ちょっと夏樹ちゃんが飲みすぎたから駅までおんぶしただけだよ。どうせ僕は経験値が低いからさ、それだけで意識しちゃってて、夏樹ちゃんは特になんにも感じてないのか覚えてないのか、とっても普通だっただろ?」

「草野、だからお前はレベル2のくせに童貞スキルだけ99なんだよ。」

「レベルひくっ!僕はまだ2だったのか!?そしてお願いします、スキルチェンジさせてください木村様。」

「今日の夏樹がいつもと同じだと?微妙な変化に気付かないのかこの童貞がっ!もう一回言っとこ。この童貞がっ!」

「お願いします、繰り返さないでください木村様。その言葉は聞きたくありません。ってそんなことはどうでもいい、夏樹ちゃんがいつもと違ったっていうのか?」

「ああ違った。存分に分かるよ僕様には。つまり草野軍曹が昇格したのかな?と推測する僕様なのだよ。」

「そうなのか、気付かなかった。でも木村が期待するような展開はなかったよ。ところで木村よ。僕に罵声を浴びせ続けているが、お前も童貞なんだろ?」

「乳首るなよ草野童貞大臣。あっ、見くびるなよ。こう見えて僕様はすでに人生におけるモテ期を4度経験してきている。」

「誇大妄想アンド勘違い乙。」

「ふっふっふっ、また今度草野くんにとっては厳しい現実というものを見せてしんぜようではないか。疑いようのない物的証拠をなっ!」

「どうせ合成写真とか、二次元の彼女ってオチだろ?」

「ただいまー。あれ?2人ともハンバーガー買いに行かなかったの?だったら一緒に来ればよかったのに。」

「あぁ、今から行ってきまーす。」

僕は気まずさから部室に同時に存在するのを避けるかのように、夏樹ちゃんと入れ違いで出て行ってしまった。本当はもっと一緒にいて、もっと話をしたいのに。夏樹ちゃんの声を聞きたいのに。木村のせいにして自分の弱さから目を逸らしている。そんなことくらいわかってる。わかってるはずなのに。


「草野、真面目な話だ。今お前が逃げると一生チャンスは来ないぞ。たぶん夏樹は揺れてる。何があったかは想像しか出来ないが、ん?妄想しちゃってもいいのかな?僕様が受信した電波によると、決定的なことは起きていないのかもしれないが草野が対応できない事態が起こったのは間違いない。しかしその理由もわからず夏樹にどうやって声を掛ければいいかわからない。夏樹は普段通りにしようと思っているけど草野がビクビクとウサギみたいに怯えているのを見て少なからず動揺している。あたしがいけなかったのかしら、なんて思っているに違いない。つまり草野、お前が悪いっ!」

「エスパーですかっ!?」

「僕様のラビット・アイズにかかれば君の脳みそくらい筒抜けなんだよ。」

「ウサギの目にそんな能力はない。普通は耳だろうウサギさんはよっ!それとエレファントはどうしたエレファントは。」

「誤魔化すなこの素人童貞がっ!」

「残念ながら玄人でも童貞です!」

「おいおい、本当に残念な自分を認めるなよ。ま、僕様にとっては一生童貞の草野ってもの面白いからいいけどね。そうだ!30歳を超えた童貞は魔法使いになれるんだったらさ、そのまま40歳になれば何になれるんだろう?試してみようよぉ、くさのん♪」

「人の人生をなんだと思ってるんだ君は。」

「お前のものは僕様のもの。僕様のものは水島先輩とレナ先輩のもの。」

「ちょっとMなジャイアニズム!?」


そんな調子で知られたくない真相はなんとか守り抜き、守れ抜けたのかな?なんか見透かされてるみたいで気持ち悪いが、木村はそれ以上聞かなかった。部室に戻ってからできるだけ普段通りにしようと心がけた僕だったが、そうそううまくはいかず、結局ギクシャクしたままで一日が終わった。

部屋に帰るとヒンヤリとした空気が僕を迎えてくれる。まるで僕の不甲斐無さを攻め立てるかのように。僕は携帯を取り出しメールを打とうとしたが言葉が出てこない。

こんな時はなんて送ればいい?謝るのも変だし、いきなり普通の会話しても白々しいよな。

僕はベッドに倒れこみ、そのまま2時間ほど動けなかった。


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