第十一章 新部長決定
第十一章 新部長決定
あれから特に進展もなく、結局行動もできなかった僕だった。というのも言い訳になるが、学園祭があったため、その準備や片付けに追われ、研究発表のための資料が当日までに完成すればいいとだけ思っていた僕にとっては予想外の忙しさだった。学園祭は、先輩方3人がほとんど発表資料を完成させたといってもいいくらいで、僕たち1回生は雑用がメインだった。
当日は予想通りというか、資料を展示したスペースにはそんなに来客はなく、ぼちぼちと過ぎ去っていった。どちらかといえばその会場設営や片付けが忙しくて矛盾を感じてしまう僕だったが、毎年こんな感じなのだろう。役割を与えられ、それをこなしていたことで夏樹ちゃんとは以前のように話が出来るように戻ったが、しかしそれは逆に言えば戻ってしまったということだった。
とにかく学園祭が終わった11月の、少し寒さが増してきた今日この頃、僕はいつものように部室へ向かっていた。
「失礼しまーっす。」
「やあ草野くん、相変わらず元気がないねぇ。」
と、僕より生気のない武田先輩が出迎えてくれた。
「あれ、武田先輩、今日は就職活動って言ってませんでした?」
「今日はミーティングの日だよ?就職活動なんて後回しさ。」
「武田くんは受けるはずだった試験、面接で落ちてるから今日はフリーなのよ。」
「ぶ、部長、そんな言い方しなくても。」
そうですか、武田先輩、これで何回目の落選でしょう。お疲れ様です。
とそこへ扉が勢い良く開いた。
「くくくく草野!!出たっ!出たんだよっ!」
「ど、どうしたんだよ木村、何が出たんだ?」
木村が顔を真っ青に震えている。こんな表情は初めて見る。いったい何が?
「ト、トイレにオッ、オバッ・・・」
木村は顔面蒼白でそれ以上は何も言わなかった。
「とりあえず行ってみましょう。」
「えっ!?夏樹ちゃん、別に行かなくても。」
「だって気になるじゃん。」
意外と好奇心旺盛だ。
「木村、案内できるか?」
何も言わず頷いた木村はトイレに向かって歩き出した。
「い、一番奥の個室、ゆゆゆゆっくり開けてね。」
木村は相変わらずガタガタ震えている。
「私はヤだよ、男子トイレ入るの。」
「えぇ、夏樹ちゃんが行きたいって言ったのに。」
どうせお化けなんて存在しないのさ、と頭ではわかっているが、木村の姿を見ると少しビビる。
そして静かに扉を開ける。
キィー
「おい木村、どういうことだ。説明しろ。」
「はーい!出たのは僕様のウンコでしたぁ!どぉ、この芸術的なウンコ!まさに国宝級!この大きさといいツヤといい、そしてこの深みのある色合い!これを僕様だけで堪能するのが勿体無くて、たくさんの人に見てもらうにはどうしたらいいと思う?」
僕の中で何かが切れてしまったようだ。
「あぁ!!草野早まるな!僕様はウンコじゃないっ!便器に突っ込もうとするな!」
「遠慮するな木村!その両手を便座から離して楽になれ!国宝級の芸術とともに深淵へ逝けるんだ、本望だろう?」
「くっ、くさいっ!これ以上近づけないでくれっ!僕様の体内からこんな悪臭を放つ物体が放出されたとは思えん!」
「夏樹ちゃーん、何か尖ったもの持ってきてー。」
「えっ?尖ったもので何を?」
「こいつを刺して沈めるんだよ、尖ったものでブスッと。」
「草野よ、ちょうど僕様の乳首が尖っているところ、あぁ!冗談ですごめんなさい!マジで許してっ!」
「くらえっ!ポセイドンの怒りっ!」
ガコッ
ジャーーーーーーゴゴーーーー
「あぁ!僕様の芸術的な作品に嫉妬したリヴァイアサンが、僕様が生み落としたクラーケンを飲み込んでいく・・・あぁ、クラーケンが回っている・・・草野っ!貴様は世界の宝をあぁっ!近いっ!しぶきが顔にかかるじゃないかっ!」
「あたし部室に帰ってるからね。」
「まったくひどい目にあった。国宝はなくなるわ、未知の液体が顔にかかるわ、もう散々だよ。」
「散々はこっちだ。いつもいつも付き合わされてるこっちの身にもなれ。」
そう言って部室に僕たちは戻ってきた。
「遅いよ2人とも。ミーティングの時間よ。」
「あ、すいません水島先輩。草野がふざけてばっかりいたので僕様が連れてきた次第であります。」
「こっ、こいつっ!」
パンパン
「では始めます。今日は幹部交代についてです。毎年学園祭が終わると3回生は就職活動や卒論のために部に籍を残したままOBとなります。だから部長と副部長を次の代にお渡しすることになります。」
「えぇ!僕たちまだ部長の下で1年も過ごしてませんけど?」
「まあそうなるわね。でもそういう決まりにしているの。ほら、私はともかく武田くんはまだ一つも会社から内定もらってないしね。」
「おいおい、僕だって本気になれば内定先の一つや一つ、一つって難しいですよねぇ?」
誰に言ってるんですか武田先輩。
「というわけで、まあ会長は唯一の2回生であるレ」
「お断りします。」
「レ、レナちゃ」
「ですからお断りします。このような現状で部長になるくらいなら木村を殺害することを選びます。」
「僕様は死にましぇんっ!!」
「困ったわね。どうしてもレナちゃんが嫌って言うなら・・・」
おぅ!?なぜこちらを見るのだ3回生よ。
「じゃあこうしましょう。1回生3人それぞれがレナちゃんに条件を出し、それをすべてクリア出来たらレナちゃんは副部長ってことで。あ、木村くん、条件は常識の範囲内でお願いしますね。」
「僕様がそんな鬼畜のような真似をするはずないじゃないですかねっ!心外ですぞ!」
「はいはい。じゃあ夏樹ちゃんはどうかな?」
「あたしは別にかまいませんよ、以前にレナ先輩と行きたいねって話してたミュゼリア・カフェで、いちごスイーツセットを奢ってくださるなら♪」
「む、そうきたか。中々夏樹はあくどいな。まあ2,800円で済むなら安い出費かな。」
2,800円のスイーツってどんなんですか?縁のない庶民の僕にはまったく想像がつきませんが。
「では夏樹ちゃんは承諾ってことでいいわね?草野くんはどうかな?」
ここで変な条件を出してしまったら次の1年間が冷戦状態になること間違いなし。ここは無難にいこう。
「じゃあレナ先輩が僕を部長に指名しないって条件を飲んでくれるならいいです。」
あとは木村だけだが、あ・・・なんかニヤニヤしている。これはマズイ展開になりそうだ。
「僕様はレナ先輩が2つの条件を飲んでくれるなら承諾するでしょう。」
「言ってみなさいよ。変なこと言ったら分かってるよね?」
「では一つ目です。簡単なことです。この部の存続のため、この部のためです、新入生勧誘時期にはレナ先輩が僕様の用意したお洋服で勧誘すること。ちなみにお洋服はこれです。」
と言ってスマホを取り出し写真を見せる木村。どうしてこうも用意がいいのだろう。ってこの写真、ガチでロリじゃないですか。あぁ、全員固まっている。
「き、着れるわけないじゃないっ!こ、こんな恥ずかしいコスプレして、さらに金髪のカツラまで付けろっていうの?」
「ではこの話はなかったことに。」
「うぐぅ・・・1日だけなら。」
「えっ?今なんて言いました?」
「うるさい死ね木村。」
「はい、僕様からの一つ目の条件は承諾されました。では最後の条件は簡単。なんと今この場で3分で終わります。レナ先輩はそこに座って無言でいてください。そしてその正面に草野拓斗が座ります。」
なぜに僕。なぜにフルネーム。
「そして草野が2秒に一度、”レナ”と優しくレナ先輩の目を見つめながら言います。その回数は100回。たった200秒、3分と20秒、それだけで終わっちゃいます。僕様なんてお優しい。レナ先輩は座っているだけ。」
「後輩から100回名前を呼ばれるだけならいいよ。木村なら絶対許さないけど。」
おーい、僕のことは無視ですかーい?
「草野、機械的に言うのでは意味がないぞ?ちゃんと色々なトーンと愛情を駆使してレナ先輩のお心に呼びかけるんだ。氷の扉を溶かすのだ魔法使いよ!」
「僕は魔法使いじゃありませんし、条件を付けられる側でもありません。100回呼べばいいんだろ?」
こうしてなぜか僕にとっても罰ゲーム的な感じでレナ先輩最後の試練が始まった。
「レナ。・・・レナ。・・・レナ。・・・・・・」
いくらちっちゃいとは言え先輩を呼び捨てにするのは抵抗があったが、慣れとは恐ろしいものだ。
そして身長差があるため僕がレナ先輩を見下ろす形となり、必然的に上目遣いになってしまっているレナ先輩はどうにも言い表せないほどに可愛く見えてしまい、僕が目を逸らしてしまいそうになる。あぁ、なんてメガネが似合うんだ・・・
「・・・レナ。・・・レナ。・・・・・・」
自然と気持ちが入ってしまい、機械的に名前を呼んでいるつもりが抑揚がついてしまう。気付けばレナ先輩の頬と耳が赤くなり、目が少し潤んでいるようだ。
「んぅ・・・」
レナ先輩から息が漏れる。これは僕にとっての試練だったのか!?木村の罠か?僕の鼓動が早まる。周囲は気まずそうな雰囲気でただ見守っている。
「・・・レナ。・・・レナ。・・・・・・」
今何回目だろう?誰か数えているのか?あっ!木村がニヤニヤしながら動画撮影してるじゃないかっ!?
それに気付いたレナ先輩が怒ろうとしたのか、ピクっと動いたが、”無言で”及び”目を見て”という条件があることを思い出したのだろう、結局動けなかったようだ。
レナ先輩の頬と耳がますますキレイなピンクに染まり、目がちょっと涙目になっている。きっと相当悔しいんでしょうね、先輩。
木村よ、お前はここまで計算していたのか?なんという悪魔的天才。なんという無邪気なサディスティック。僕も少し楽しくなってきちゃったじゃないか。
「・・・レナ。・・・レナ。・・・レナ。・・・レナ。・・・・」
もじもじしていた涙目のレナ先輩が突然立ち上がり、うつむいたと思った瞬間、なぜが僕に平手打ちが飛んできた。
パンッ
ギャハハハハ、と爆笑する木村。
「レナ?」
何が起こったのかわからない僕は、何も考えられないままにレナ先輩を呼んでいた。
うつむいたままのレナ先輩は”ごめん”とだけ謝り、冷めないピンクの頬を両手で押さえ、そのまま座った。
「はい、じゃあ約束の100回を耐えたので、レナちゃんは副部長に決定。まあ新入生勧誘時の条件が残っているけど。」
「僕様、興奮して今日は眠れません!」
『黙れっ!』
というわけで、必然的に1回生の3人の誰かが部長をすることとなり、今度はレナ先輩が提案する番となった。
「部長は公平に投票で行います。投票の参加は1回生と私の4人。」
「はいはいはいはーい!僕様が部長様に立候補しまーす!」
なんだよ、最初からやる気満々だったんじゃないか。部長を免れた僕は内心ほっとしていたのだが。
「却下よ。さっき言ったけど、部長は公平に投票で決めるわ。ただし、草野からの条件によって私は草野には投票ができない。草野と夏樹は部長をしたくないみたいだけど、私は木村が部長になるのは反対。だから投票ルールを定めます。」
あぁ、さっきの僕の条件がこんなところで生きてきたのはいいけど、レナ先輩、もしかして僕を部長に考えてらっしゃいますか?
そして投票にルール決めるって、公平性を潰すつもりってことですよね?
「まず、票は全部で4票。だから全員一致の4票を獲得すれば当然当選。だけど、ここで特別ルール。全員一致じゃない場合、0票の者が部長よ。つまり”4-0-0”は4票の人。”3-1-0”もしくは”2-2-0”の場合は0票の人。”2-1-1”の場合は2票の人が部長ってこと。投票は入部の順番でいいよね?」
なんかややこしいことになったぞ。0票で部長、か。考えろ草野。まず僕は部長になりたくない。かと言って同じく部長になりたくない夏樹ちゃんを生贄にすることはできない。部長をしたい木村がいるんだ、今だけは渋々だが木村と共闘することを考えろ。
木村は間違いなく自分自身に投票するはずだ。レナ先輩は僕以外への投票となるけど、木村に入れることはありえない。何があっても木村にだけは入れないはず。よってここで”木村1-夏樹ちゃん1-草野0”となる。
夏樹ちゃんが誰に入れるかが未確定だが、普通に考えたら僕だろう。いくら夏樹ちゃんでも木村が部長に、なんてことは考えていないはず。ここは草野に1票だろう。となれば僕は木村に入れることで”木村2-夏樹ちゃん1-草野1”の理想系が完成するはず。簡単じゃないかっ!
いや、待てよ。レナ先輩は間違っても木村になることを避けたい。そして夏樹ちゃんにさせるような人とも思えない。ってことは、やはり僕に部長をって考えているはず。そこで夏樹ちゃんに1票入れてしまうと、僕が夏樹ちゃんに入れ、”木村1-夏樹ちゃん2-草野1”で夏樹ちゃんが当選してしまう可能性も残っている。つまりそんなリスクを避けるためには木村に入れるはず、いくら嫌でも。
どうすべきだ?まずレナ先輩が木村に入れた場合。木村自身の票と合わせて2票だ。夏樹ちゃんは僕に入れるだろうから、僕が木村に入れると夏樹ちゃんが0票当選になってしまう。だからって僕が夏樹ちゃんに入れて、レナ先輩も夏樹ちゃんに入れていた場合、夏樹ちゃんの当選で僕は罪人扱いだ。よってここでは僕は木村に投票するしかない。
次にレナ先輩が夏樹ちゃんに入れた場合。これは先ほどのシュミレーション通りなので僕は木村に入れる。レナ先輩の提案によって僕は夏樹ちゃんに入れることが難しくなっている。なぜならこの投票は誰が投票したか結果で必然的に見えてくるからだ。これはレナ先輩の策略?いや、考えすぎか。
ん?もし木村が自分に投票しないというケースがあるのか?いや、僕や夏樹ちゃんが部長をしたくないことから自分に票が入る可能性が高い以上、2票獲得を目指して自身に投票するはず。どう考えても僕は木村に投票するしかなさそうだ。
そしてレナ先輩が投票し、続いて木村、夏樹ちゃんと続き、最後に僕が入れた。
「では部長最後の仕事として私が開票します。木村くん1票、木村くん1票、夏樹ちゃん1票、木村くん1票。結果、木村くん3票、夏樹ちゃん1票。ってことは、えっと、ルールによって草野部長ってことになるのかな?」
出たー!特別ルール発動!みんなの視線が僕に集まっているよー!
「おめでとう草野部長。今日から君がみんなを引っ張っていくのよ。」
「おめでたくありません。予想と違う結果になってちょっとびっくりしてます。」
「草野は”2-1-1”で木村を部長にしたかったんでしょ?だったら自分に入れるべきだったね。ちょっと考えればわかることなのに。」
「考えた結果、一番確率が高いところに投票したつもりだったんですが。夏樹ちゃんが木村に入れたのが意外でした。」
「あたしは木村くんには入れてないよ?」
「えっ?」
「そこが草野の考えが浅いってことだね。夏樹の立場になればすぐわかるよ。この条件で自分が当選するのを免れるためにはどうするのが一番いいか。いろんなパターンを考えてみても夏樹は自分に1票入れて、0票当選をなくすだけでいいの。それがわかれば私が木村に入れることもすぐわかるはずよ。夏樹に入れたら夏樹が当選する可能性が上がるから。ここまで読めたら草野は自分に投票して、0票当選を免れることが出来たってこと。」
なるほど、夏樹ちゃんの立場でシュミレーションすれば、確かに夏樹ちゃんはどんなパターンでも自分に入れることでほぼ回避可能ってことがわかる。
「僕が自分に・・・木村が他の人に入れる確率は、木村自身が当選するためには0に近い。ってことは、夏樹ちゃんの考えとレナ先輩の考えが読めれば・・・降参です。」
「僕様の部長計画が・・・水島先輩に引継ぎをしてもらうチャンスが・・・レナ副部長をこき使う野望が・・・くーさのーっ!貴様裏切ったなぁ!!」
「不可抗力だ。」
こうしてめでたく0票というなんとも情けない当選により草野部長が誕生したのでした。
「あ、ちなみに草野部長の初仕事は、我が部の伝統行事、クリスマスパーティの企画よ。私と副部長も手伝うから頑張りましょうね。」
「は、はい。よろしくお願いします。」
「くーさのーっ!貴様には冥界から召喚したクラーケンを刺客として解き放ってやるからなぁ。」
う、うんこは止めてください。
次回 草野部長 vs 冥界からの使者クラーケン




