第297話 其の後の報告が来た時の事
会話多めです。
翌日、俺は簡単な報告書をまとめ、同じ物を二枚作ってカルツァと会田さんに渡しに行き、島所有の船で補給を済ませつつ、コーヒー豆やチョコレート、蒸留酒や蜂蜜などを積み込んでいる最中に、船長に訳を話し、コランダムにいる勇者に引き渡して欲しいと説明した。
そして日本語で報告書を書き、北川にもサインというより名前を書かせた物を渡し、一応この件については島内では解決した。
そしてその十日後、会田さんに呼ばれたので王都の地下に転移をした。
「どうも、お久しぶりです。禁輸品の件はありがとうございました」
「いえいえ。偶然みたいな物ですし、見ちゃったからにはーって感じですよ」
「で、その件なんですが、こちらは一時的に解決しました。村の制圧と畑の焼却をして、奴隷以外を処刑、無理矢理働かされていた奴隷はそのまま村に住んでもらい、開拓とか色々やらせる予定です。もちろん二年ほどで解放の条件を付け、護衛兼見張りとして兵士を四名ほど駐在させていますので、何かあれば芋づる式に見つけられるかもしれません」
会田さんはため息を吐きながら、お茶を飲んでそんな事を言った。
「一時的……ねぇ。確かに一時的かもしれませんね。大陸間なのでアヘン戦争的な感じで、片方から金やら銀が減るかもしれませんし、魔族大陸の方はまだ解決はしていませんので、そうかもしれませんね」
「兵士四人ってのは少ないんじゃないか? 最悪全滅させられねぇか?」
そして一緒に付いて来た北川が、そう指摘をした。
「一応十日に一回、行商人に偽装した兵士が行く事になっているし、そこの村に行くまでに寄るであろう村にも兵士を配置しました。もちろん買収されていた可能性が無きにしも非ずってな懸念もあるので配置換えですが」
「なら報告は、一応来るって事か」
北川もため息を吐きながらお茶を飲み、腕を組んでイスの背もたれに背中を預けた。
「意図的に魔族大陸から金を取ってる可能性もありますね。地下組織的な物ができあがっているか、カルテル的な物ができあがっているか……。後は俺の上司……ってか、あの辺りを領地に持ってる貴族か……。が、上手くやってくれればいいんですが。最悪人族が魔族大陸で売りさばいてる可能性も捨てきれませんね。戦時中は防衛費として他国からお金をもらって兵士や兵站の輸送をしてましたし、その辺りの奴等が横領したりして、私腹を肥やし、甘い汁を吸っていたのが忘れられなかった。とかかも」
俺もお茶を飲み、なんとなくで言いながらテーブルに肘を突いて顎を拳に乗せる。
「あり得るかもしれませんね。横領してた資金を元手に、組織を作ったか。なんにせよ、頭はまだ捕まっていません。人族の大陸と魔族の大陸でそれぞれ幹部がいて、その上もいるでしょうね。この件は現地の勇者に任せていますが、最悪国を動かす事になるかもしれません」
そして会田さんは更に深いため息を吐き、頭をボリボリと掻いている。厄介な仕事が増えたって感じだな。
「ここの傀儡的王様はどうなってるんです? 何か心当たりとかないんですか?」
「当時は腐りきってたし、把握してなかったってのが現状。なんか大臣クラスはいまだに反抗的なのもいるから、そっちには聞くだけ無駄かな?」
「当時の目録みたいのはないんか? あ、やっぱいいや。多分残ってねぇだろうし、どこで誰がどのくらい抜いてたとか追う事すら無理そうだ」
そして三人でため息を吐き、お茶を飲んだ。何か新しく動きがあるまで、どうしようもないってのが三人の共通認識っぽい。
「とりあえずこの事は、俺の上司にも話しておきますよ。そして俺が仲介して連携を取りつつ、どうにかするしかないですね」
「あぁ、悪いね。じゃ、お願いするよ。カーム君の上司とは面識がないしわざわざこっちから出向くのもなんだしね。じゃ、何かあったら連絡するし、そっちもお願い。はぁーー。対策らしい対策が今はこれくらいしかないのが、非常にもどかしいけど、解散かな? もう報告する事がない」
「そうですね。んじゃ、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした。話が上司の上司に行ったら連絡しますよ。禁輸品に関してどう思ってるか知りませんが」
「あぁ、頼むよ。こっちはこれから具体的な対策案とか、組織を探す為に潜入調査の囮とか決めないと。これが忙しい時期とかじゃなくてある意味助かってるけどね。じゃ、悪いけど先に戻らせてもらうね」
会田さんはそう言って立ち上がり、取ったメモを持って地下通路に戻って行った。
「大変そうだなー」
「だな。下手に国取りの指導してたから、そのまま責任者って事で滅茶苦茶忙しいだろうし。そういやメイドとは夜の方は上手く行ってんのかな?」
「妊娠したらしたで、報告はしてくれるでしょう。裏で国王やってるから、忙しいと子育てとかに影響しそうだし。良い父親とかもできないだろうし」
「俺は嫁探し前に近くにいたけど、なんかその時より大変そうだし。ま。動きがあるまでこっちも動けないし帰るか」
「だなー」
そう言いながら、地下で見張りをしてくれている勇者さんに挨拶をしてから、島に戻った。
「本当。動けねぇのがもどかしいよな」
「島に入ってこないだけマシかな。それに島を経由してないのもある意味ありがたい。傍観できる」
「それもそれで考えが酷ぇな。対岸の火事って奴か」
「だなぁ。対岸も火事にならなければいいけどな。人口とか増えて、各村の港からこっそり入ってくる可能性もあるから、対策はしてるつもりだけど……。狼達が中毒にならない様気を付けないとな」
「だなー。麻薬犬が間違って大量に粉を吸い込んだ例もあるしな。幸いなのかどうかわからないけど、乾燥した葉っぱなのが救いっちゃ救いか。臭いがするって事は、微細な粒子が舞ってるって事だし」
転移で戻り、軽く立ち話をして、お互い仕事があるので別れようと思ったが、足元にあったフルールさんの鉢植えが変化した。
物凄く嫌な予感しかしない……。
「貴族様が呼んでるわよ。なんでも大切な話があるって」
「こういう時の嫌な予感って当たるんだよなぁ……」
「行ってこい。頼りにされてるって事は、ある意味貸しを作れるぞ」
「向こうの大陸にも魔王がいても良いと思うんだけど、なんでそっちに頼らねぇかなぁ……。んじゃ行ってくるわ」
俺はため息を吐きながら、軽く手を上げてカルツァの屋敷前に転移をした。
「で、どの様なご用件でしょうか?」
俺はソファーに座り、ため息を吐いてから目の前に座っているカルツァに用件を聞いた。
「ひとまずだけれど、運び込まれていた村の情報と、報告書を感謝するわ。とりあえず大量に現物を確認し、指揮していた人族を捕まえたわ」
「まぁ、そこまで情報があれば見つける事くらいはできるでしょうね。で、もう一度俺に尋問をしろって事ですか?」
「あ、それは済んでるから平気よ。問題は運搬ルートと運び込まれた場所なのよ。組織化されてて、そこの頭を潰しても色々と多くて、消滅しないのが問題なのよね」
「はぁ……。まぁそのくらいは想像してましたが……。何が言いたいんですか? カルテルを片っ端から潰せと?」
「違うわ。島を通る海路を外れた船の、取り締まりってできるかしら?」
カルツァは、俺の目を真っすぐ見ながら、かなり真面目に聞いてきた。
「海は陸と違って道がなく、ある程度どこでも航行が可能なので、難しいと思いますよ? 今回はたまたま島から泳いで半日以下の場所での転覆ですので、どうにか発見できましたけど、俺のいる島の周りってほとんど島とかありませんよね? いちいち止めて縄梯子を降ろさせ、中を探索させます? 俺だったら逃げますよ? 長々と追跡させ、報告させろっていうんですか? 陸なら単独で見つからない様に馬車を追って、そのまま居場所を突き止めてから、戻ってこいって言ってる様な物じゃないですか」
俺はソファーに寄りかかり、腕を組みながら当たり前っぽい事を言った。
「そう……よね。無茶を言ったわね。悪かったわ」
「先ほど勇者のまとめ役と話してきましたが、向こうは生産地の特定と破棄なので、こっちの対応とは別ですね。この辺をまとめてる魔王って当てにならないんですか? 俺はあそこの島しか領地じゃないんすよ?」
「皆貴方みたいに学があったり、大規模な組織運営やら経営をできると思ってるの? 私は新鮮な魚が食べたいからこの町にいるけど、こっちの魔王は街で組織化しそうな、ならず者を蹴散らしてるだけよ? そんな奴がいる場所にわざわざ運び込んだりせず、旅人を装って売りさばいてる個人相手には通用しないわ」
カルツァもため息を吐き、眉間の辺りを指で押しながら、かなり愚痴っぽく言った。
「そうっすか……。それはそれで一定の防衛としては役に立ってますね。生産してる廃村とか見つけて殲滅のお願いはできそうですけど、今回は確かに役に立ちませんね」
シティ派な魔王か……。別に問題行動を起こさなければ処分されないし、ただ単に強い魔族ってな感じなんだろう。どうやって稼いでるか知らないけど、立ち位置的には筋肉魔王的な感じだろうな。抑止力的な感じで最前線に留まってるし。
「ちょっとした人数が集まって、地下にでもいれば噂を聞きつけ、さっさと潰しにかかるって話が蔓延してるのよ。だからそんな形で少なからず街に入ってるわ」
「まぁ、俺だってそうしますね。一応変に暴力的じゃないだけマシって奴か……」
性格に難ありだった場合は排除されるのは知っているが、一応口に出しておく。
「で、本題はこれだけですか? 何か俺に頼もうとした具体案は他にないんですか?」
「他にあるとしたら、国王様に手紙が届いた時に召喚され、詳しい事を聞かれるくらいかしら? 海での追跡は現実的じゃないし。呼び出しちゃって悪かったわ」
「いえ、問題はありませんが、こっちが動けるのは島に物が入った場合だけです。ハーピー族の飛行距離や体力とかわかりませんから、見つけてから追いかけるのも難しいでしょうし……。お力になれず申し訳ありません」
「貴方が少し規格外過ぎたから、もしかしたらって思っただけよ。お茶でも飲んでいってちょうだい」
ドアがノックされたので、お茶だと思ったカルツァがそんな事を言い、特に会話がないままお茶を飲む事になった。
「そういえば、町のスラムに潜ませた部下の動きとかどうなってます? 十日じゃ厳しいですか?」
お茶を半分飲んでから、なんとなく聞いてみた。
「そうね。十日じゃ少し厳しいんじゃないかしら? スラムのまとめ役にはなっているけど、筋を通してるから犯罪組織から声がかかるとかはないし、接触した部下からの報告でも、今までにそんな話は来ていないらしいわ」
「こっちも知り合いの元ならず者に聞いてみましたが、買うだけでそんな話はなかったと。どっかの森の中か廃村じゃないっすか? 足を使って地味に探すしかないですね。じゃ、お茶ご馳走様でした」
「お粗末様でした。何か動きがあったら連絡をちょうだい。こっちもするわ」
「わかりました。ではそんな流れで動きましょうか。何かあれば手は貸しますが、あまり離島にいる俺を頼らないで下さいね。正直管轄外ですので、島外活動は避けたいですし」
俺は肩をすくめてから立ち上がり、軽く挨拶をしてから退室をして島に戻って、全然進んでいない書類の続きをため息を吐きながら書き上げた。
なんか半日で二日分は話した気分だわ。




