第289話 ゴミ処理をした時の事
翌日。ロックを交えて、捕まえた奴の処理の事で話し合う事にした。
「とりあえずどうする? 勢いで攫って来ちゃったけど」
「こっちは相手の事を知っているんだろ?」
「そりゃ知ってるよ? 別に今更聞きたい事なんかないしな。意趣返しするつもりもないし」
俺は北川に意見を求めたが、なんかどうでもいい答えが返ってきた。
「ある程度の事はさっき聞いたからいいんすけど、奴等の処理の事で悩んでるんですよね?」
そしたらロックが、迷わず言いにくい事を言ってくれた。
「まぁ、早い話がソレなんだよね。一応殺す事なく確保できたから、事の経緯が漏れると一応不味い。海賊は声帯を切除して犯罪奴隷として売ったけど、それすらも今回はダメだ」
「なら殺せばいいじゃないっすか。せっかく神隠し状態になってるんですから」
ロック……。すっかりこっちの世界に染まっちゃって……。
「まぁ早い話がそうなんだけどな」
「言いにくい事を簡単に言ってくれるぜ……」
「盗賊なんか、もう何人も切り殺してますからね。いい加減慣れましたよ……。すみません……。ちょっとやらせてもらいます」
そう言いながら、ロックは懐から紙巻きタバコを取り出し、マッチで火を点けた。なんか少し表情に陰りが見える。
「綺麗事じゃ済まされない事も、結構ありましたからね」
そう言って少しだけタバコを吸って、ゆっくりと煙を吐き出し、指に煙草を挟んだまま机に肘を突いて、こめかみの辺りを手の平に置いた。
「自分が殺りますか? 多分察してると思いますけど、こういう状態のを何人も処理してるんで」
そして十秒ほど沈黙して頭を上げ、机にある灰皿を見ながら、特に感情を込めずにロックが言った。ちょっとだけ目が怖いな。
「いや、責任者として俺が殺る。それにそんな状況のロックに任せられない。軽く悲観っぽい言動している様じゃ、悪化する可能性もある。その前に聞きたい事があるからその後だ。とりあえず島民には内緒な。それとちょっと違法だけど、怒らないでね」
「うっす。じゃあすみませんが、もう少しだけ待っててください」
そしてロックはゆっくりとタバコを吸って、何か感傷に浸る感じの表情で煙を吐いていた。この事は喋ってくれるまで、聞かない様にしよう。
そして攫って来た全員を兵舎の会議室に集め、麻袋を外して回ると、全員がギョッとした表情になった。
「やぁやぁ。とりあえず反応からすると、全員俺の事を知ってくれているみたいだね。嬉しいよ。何をしても喋ってくれるとは期待していないから、こっちのやり方でやらせてもらう。そう言えば神はサイコロを振らないってどこかで聞いたけど、俺は振らせてもらう。誰が一番偉いか知らないし、興味もない」
そうして娯楽室にあったサイコロを三つ、全員に見えるように手の平に出す。
「君が一番ね。確率論とか良く知らないけど、重心の位置で五が一番出やすいらしい。と言っても、ばらつきは微々たる物だから、何万回って振らないと駄目だけどね」
俺はニコニコとしながら、向かって左の奴を指さし、サイコロを手の平から落とした。
「九か。期待値的にはある意味許容範囲内だね。じゃ、フィーがなんで情報を吐いたか、優しい俺は残りの人に教えてあげよう。君は一生知る事はないと思うけど」
そう言いながら、左から九番目の奴を少し前に出し、猿ぐつわを外して中の布を取り出し、アピスさんの所から持ってきた、薬品を染み込ませた布で口と鼻を塞いだ。
「よう、調子はどうだ? 奴は何か情報は吐いたか?」
「いいやまだだ。奴は訓練されているのか、全く吐かねぇ」
俺の質問に九番が答えると、全員が驚いた様に目を見開いた。中にはモガモガと何か叫ぼうとしている奴もいる。
「まぁ疲れただろう。ちょっと休憩にしようぜ」
「あぁ、殴り続けるのも疲れるしな」
「そういや蒸留所に死体を置きに行ったけどよ、アレってなんの意味があるんだ?」
「嫌がらせだろ。貴族様のお気に入りの女が捕らえられたから、クリーム作りを知ってる魔王の店の前に置けって、この間別な奴が来て言ってただろ」
「わりぃ。その時交代でいなかったわ。で、地下にいた奴は誰?」
「他の貴族お抱えの同業者っていうのは、上の情報でわかっている」
そう言って、北川から言われたヤバイ笑顔で、九番の後ろにいる奴全員を見て、そのまま聞きたい事を全て聞き出し、二つ目の薬品で気絶させる。
「フィーが情報を吐いたのはこんな感じだからだ。そして本人は言った記憶がないから、記憶的には喋った事にはなっていない。だからあんな悲惨な死に方で蒸留所前に転がっていたって訳だ。本当フィーには悪い事しちゃったよ。そしてその消えた女はカルツァの部下に捕まり、俺が今みたいに聞きたい事を全て喋らせた。だから聞きたい事は、なんで嫌がらせをしていたかってだけなんだよね。後はおまけ」
俺は九番の口に布を突っ込み、猿ぐつわを付けた。
「それと世間の俺の認識はよーくわかった。甘い魔王やら、怒りを知らないやら中々素晴らしい評価だ。だからお前達みたいな一般人じゃない奴に舐められるから、今回みたいに全員攫う事ができる。しかも今回は証拠は残っていないし、上や同業者にはいきなり全員消えたって事で、不気味がられるだろう。そのうち何回かあれば噂になるかもな。アクアマリンに変な関わり方をしたら、一晩で全員消えるって」
そしてニヤニヤしながら、黒曜石で【杭】を作り出す。
「なんでこんな秘密を皆の前でベラベラ喋ると思う? 全員殺すからってもう決めてるし。とりあえず生きたまま、こんな長い木の杭を尻から刺して口から出し、嫌がらせを指示した貴族様の庭に全員植える。さっさと気絶できれば幸せだな」
そう言ってから蒼い顔色をしている、一番の肩を優しく叩く。
「まぁ、冗談だ。折角アジトから全員綺麗に消えたんだから、そんな馬鹿な事はしない。貴族様には、しばらく不安になってもらう事になるけどな。とりあえずもう少しで尽きる余生を楽しんでくれ」
そして振り返ると、北川とロックがやばい奴を見る目で俺を見ていた。
「おいおい、俺がそんな拷問できると思ってるのか? 甘い甘い優しい魔王様だぜ?」
「いや、普段やらないだけで、やる時はやる奴だから、最悪全力で止める覚悟はしてた」
「カームさんヤバいっすね。串刺し公ってどんだけっすか……。あと優しい人は、自分から言わないっすよ? よくそんな事がこの状況で言えるっすね」
「えー。比較的すぐ死ねるだけ有情じゃない? 多分直腸突き破って、大切な臓器に行く前に出血多量か何かで気絶だよ? っと、姐さんの所に行ってくるから見張ってて」
「ん? なんでだ?」
「地下にいた別の貴族のスパイも含め、全員火山に捨てるからに決まってるだろ?」
「別に勝手に捨ててもいいんじゃないんすか?」
「許可なくやったら怒ってたけど、相談してくれれば問題ないわよ? その代わり……わかってるわね?」
「「「うおっ!」」」
なんか会話に女性の声が混ざったので、会議室の入り口を見たら姐さんが立っていた。
「さ、酒っすか?」
俺はまず最初に酒と言ってみた。多分正解だけど。
「わかってるじゃない……。人の住み処にゴミを落とすんだから、それくらいはねぇ? 何もかもなくなるから、隠蔽にはもってこいよ? 島民にも、あまりこういうのはばれたくないんでしょ?」
姐さんは胸の下で腕を組み、胸を強調させるようにして、壁にもたれかかった。
「……一人果実酒の瓶一本分のベリル酒」
「三本」
「にほ――」
「三本」
「はい。三本納めさせていただきます……」
俺は姐さんの笑顔には勝てなかった。多分殺気も飛んでると思う。捕らえた奴等が小刻みに震えてるし。
「あ、そうだ。姐さんって討伐に来た名のある冒険者を食ってましたよね? そっちだったら?」
「あいつ等見るからに魔力とか少なそうだし嫌よ。ってか、私が物凄く効能がある薬を、好き好んで飲む様に見える? 貴方達もまずい物を食べたくはないでしょ?」
「食べる基準って、魔力だったんですか……」
「そう。だからカームちゃんが、敵対したら食べてあげるわよ?」
姐さんはそう言い、歯をむき出しにしながら笑った。
「ははは、長生きしてるとそういう風な基準になるんですね。覚えておきます」
「後はなんかむかついた時は、足とか食いちぎって生かして放置とかかしら? そもそも竜化した時の攻撃手段って、結構単純になるのよねぇ……」
姐さんはため息を吐きながら、頬に手をあて、なんか少しだけつまらなそうに言っているが、捕らえた奴の数名が漏らしているので、どこかで殺気を当てられたみたいだ。
そして北川とロックも、足を開いて腰を少し落とし、直ぐに動ける様に警戒していたのを見ると、かなりヤバイ系の殺気だったっぽい。
食べさせる、長生き、俺と敵対。どの辺りで飛ばしたのかさっぱりだ。全部? まぁ、気が付かなかったしいいか。
「じゃ、行きましょうか。もうソレに用はないんでしょ?」
「えぇ、ないですね。んじゃ酒は今日中の方がいいですか? 明日?」
「その内ふらっと遊びに行った時でいいわよ。じゃ、山で待っているわ」
そう言って姐さんは窓から出て、羽を生やして飛んで行ってしまった。
「まぁ、死体処理代としては安いか。んじゃ運んでくるわ。見届けるか?」
そう言いながら二人を見ると、全力で首を横に振っていた。うん。もう少し殺気に敏感になりたい。
捕らえた奴と一緒に転移し、いつも酒を置く綺麗に整地した場所に並ばせる。
「跳べ。石が溶ける温度だ。多分楽に死ねる。火口に落ちて死んだ事がないからわからないけど。ちなみに勢いが足りないと、途中で岩にぶつかって飛び降り自殺状態になるぞ」
そう言って一人目の足の縄だけを切ってやるが、飛ぼうとはしない。
「どうした、跳ぶ勇気がないなら突き飛ばされる方がいいか?」
そう言ったら、なんかモガモガとし始めたので、仕方なく口の布を取ってやった。
「ふざけんじゃねぇ! いきなり攫われて、溶岩に飛び込めだ!? 誰がするかこのクソ野郎が!」
そう言いながら蹴りつけてきたので、腋の下に挟んで片足を掴んだ。
「いやー。俺って殺しとか嫌いなんだよね。だからなるべく自分で跳んでくれないかな? って思ってたんだけど。やっぱり無理か……。それとよくこんな場所で蹴りなんか出せるな。俺なんか怖くて無理だわー」
そう言って、俺はそのまま蹴ったと同時に足を離して火口に突き落とし、叫び声と共に落ちて行ったが、悲鳴が途中で途切れた。
多分勢いが足りなくて、途中で岩にぶつかって気絶して落ちてったか、首の骨が折れてれば幸せだと思う。
「跳ぶ奴なんかいるのかしら? こうした方が早いわよ」
そう言って姐さんは、一人の頬骨辺りを殴ると首が横一回転し、膝から崩れ落ちた胴体を蹴り飛ばして、火口の真ん中辺りに落ちた。
「こういう風に死にたくないなら、自分から跳びなさい」
姐さんが笑顔でそう言うと、足が縛られているのに数人が自分から飛び降りたが、残った奴は足がすくんでいただけで、軽く蹴り飛ばす様にして、全員代わりに処理してくれた。
「殺すのが嫌いなんだから、代わりに処理してあげたわよ。あのままだったら多分明日になっちゃうかもしれないし。じゃ、三本ね」
姐さんはそう言い、手を振りながら火口の中に飛び込んで、五分経っても出てこなかったので転移でまずは兵舎に転移した。
「どうだった?」
「一人は俺がやったけど、残りは姐さんが、優しく跳びなさいって言ったら、ほとんど自分から跳んだ」
真っ先に北川に話しかけられ、事の詳細は濁して教えたら、二人共アチャーって感じの顔になった。
「いやー。クラーテルさんって本当ヤバイっすね。カームさんとの会話中に死を覚悟しましたよ。よくあんな殺気当てられて平気っすね」
「コイツ馬鹿だから、殺気にクソ鈍感なんだよ。他の島民とかの反応見ると、俺とじゃれ合ってる時の殺気とかでも反応して逃げるのに、そういうのも感じねぇんだから」
「まぁ、だから姐さんとあんな付き合い方ができるんだけどね。さ、地下にいた奴も処理したし、今日からまた日常だ。午後の訓練も休みだから、俺は戻って飯食ってから書類だ書類! あーあ。嫌がらせしてくる集団が一組減っただけで、あんまり実りがなかったなー」
そうワザとらしく言い、少しニヤニヤとしながら、軽く手を上げて転移魔法で自宅前に戻った。
火口に人と同じくらいの重さ(?)のゴミを捨てる動画ががりますが、結構凄いですよね。
固まった表面に穴が開いて、圧がどうのこうのっぽいですが、アクアマリンの火山は姐さんが常に出入りているので、固まってません。




