第288話 特に問題はなかった時の事
フルールさんの定時の報告を聞きながら、室内戦闘訓練を入念にしつつ、数名にピッキング方法とコツを教え、ブリーチングハンマーの作成依頼をヴァンさんにしたが、翌日にはできあがっていた。
重さはロングソード五本分くらいで、普通のスレッジハンマーよりは少し重い程度になると思う。
そして片側が斧に、握り柄の部分も鉄製にしてもらい、柄の部分はバールになっているそれっぽい物だ。
これの訓練で、何枚ドアを破壊したかわからないが、ドアノブ部分を破壊し、二人目が蹴破ってなだれ込む。
昼か夜に作戦を実行するかわからないので、とりあえず両方使えるようにさせた。本来なら蝶番部分を二ヶ所破壊したいけど、ショットガンがないと多分無理だし、簡単な作りの鍵だからドアノブの破壊で妥協した。
そして十日が経ち、昼に蒸留所に届けられた報告書を第四村で読む。
主な人数は十名。二日交代で五名が入れ替わる感じだ。そして一回しか出入りしてないのが一名。これは買い物というよりストレス発散の為に外に出たって感じに近いらしいので、常駐している可能性がある。
連れて来られたけど出てこないのが一名。これは今朝死体になって、蒸留所前に転がっていた奴の特徴と一致しているが、服装が違うので無作為に選ばれた誰かか、借金か何か理由がある奴が浮浪者風にされた感が強い。
夜中は明かりが灯っており、普通に生活している風だが、交代時に持ち込まれる食料が多いので、拘束されている奴が数名いる可能性がある。
かいつまむとこんな内容だ。
「どう思う?」
北川にも報告書を読ませ、意見を求める。
「交代の直前の、さっさとおわってくれーって気持ちで、だらけている時期を狙いたいが、俺なら朝駆けを推したい。深夜よりは周りの民家や、中の連中は寝てるだろう? 目撃者は少ない方がいい」
「ならピッキングか。けど土地の面積や二階建てでも、拷問中の叫び声は聞こえるとやばいから、地下はあるだろうな。問題は速度だ」
「四班いるから制圧は簡単だが、問題は地下への入り口の発見だな」
「二階に地下への入り口がないのが救いだな」
「なに当たり前の事言ってんだ?」
少しだけ冗談を言ったら、真面目な顔で返された。たまに二階から外に出て、そのまま非常階段で地下に行ける裏口とかあるじゃないか……。意味もなく遠回りさせられるホラーゲームとかで。
「とりあえず床の音の反響とか、暖炉辺りを調べつつどうにかするしかないな。正確な図面がある訳じゃないし、外からの情報で中の間取りがどうなってるか、大体で把握するしかないな」
俺は腕を組んで報告書と、家の外観の絵を見ながら、それらしい事を言うしかできない。
「だな。似たような作りの集合住宅じゃないから、その辺は制圧してからの発見になるだろう。地下に突っ込む時はどっちかがついて行った方がいいだろうな。まだあいつらに突入と制圧以外は任せられない」
「あぁ、その辺は手本を見せつつ追々だな」
「で、交代要員はどうするよ? 泳がせるか?」
「貴族様が親の事は知ってるんだ。朝に仕掛けて、交代要因も全員攫う」
「ははは。本当に大分キてるな。まぁいい。なら全員攫うか。で、部隊名はどうなんだ? 中学生が考えたような、痛々しい物でも候補にあるのか?」
北川がニヤニヤしながら、今まで俺が秘密にしていた、部隊名を聞いてきた。
「ねぇよ。普通だよ普通。アクアマリン特殊警備隊。湾岸警備隊とか色々考えたが、中の事もこういう時の外の事もやらせるからな」
「スペシャルセキュリティーチームか。頭にアクアマリンのエーが付くな。発音が面倒だな、普通にエー、エス、エス、ティーでいいか? 無理矢理音にするなら、エスを一個抜いてアストか?」
「そうだな。そのどっちかだな。さて、ミーティング用の資料作って来るわ。コレをブリーフィングで済ませるには厳しいだろ?」
「だな。少し早めに訓練を終了させるわ」
「時間帯は明日の明け方前、第一と第二班は一階部分の制圧後地下への隠し扉の探索、第三班は二階の制圧後に退路の確保、第四班は屋外での警戒。ドアを開けるのはピッキングになると思うが、地下を見つけ、ドアを開ける必要があるかもしれないので、ブリーチングハンマーも持って行く。と言う訳で、太陽の先端がギリギリ出ない、皆がまだ寝ているであろう明け方に作戦を実行する。何か質問は?」
北川が三時頃に訓練を終わらせ、俺が作った資料の説明を終わらせると、一人が手を挙げたので発言を許可した。
「前回も言った通り、極力敵を生かして捕らえるのでしょうか!」
「もちろんだ。だが、最悪一人だけ生きてればいい。殺してしまった場合は、死体はそのままだ」
「地上部分の制圧が遅れた場合や、激しい抵抗にあった場合の対策は!」
「面倒なら各班一人だけ残して全員殺せ。そうすれば全員同じ部屋で寝ていても絶対一人は残る。ばらばらに寝てたら四人も残る。まぁ、報告書では家の中に五人から六人しかいないけどな。他にないか? ないなら朝日が昇る三個前の時間に起床し、準備をしてから蒸留所に転移して作戦実行だ。今日は自宅に戻らず、兵舎で寝る事。北川、何かあるか?」
「全員生きて帰って来る事が目標だ。以上!」
ずっと腕を組んでいた北川が、それだけを言った。遠足みたいに言ったが、面倒なだけじゃないよね?
「解散!」
「「「了解!」」」
ミーティングを終わらせると、全員が共同生活をさせる為に作った兵舎に戻り、早めの夕食を作り始めたので、後は北川に任せて、俺も一度だけ自宅に戻る事にした。
「ってな訳で、今日は第四村で夕飯を食べて寝る」
「わかった」「はいはーい」
さっきまでしていた説明を嫁達に済ませると、なんか軽い返事が返ってきた。
「軽くない? 俺寂しいわー」
「カームが死ぬとは思えない。むしろ今まで育ててた人達の、訓練内容とか聞いてると、そっちも死ぬ気がしない」
「まぁねぇ……。魔王と勇者に育てられた人達だし。今回の作戦内容で、全滅って事自体がありえないよ」
「ははは……。まぁ、やり過ぎた感はあるけどさ。訓練は必要だろ?」
俺は階段下の物置から、マチェットやバールを取り出し、腰に差してさり気なく準備を進める。スコップは長いから今回は持ち込まない事にした。
「ロックって勇者は? 話に出てこないわよ?」
「あー確かに。戦力として当てにしてないの?」
「連携とかが大切だから、今回は外した。次回があったら参加させるつもり」
物置の扉を閉め、肩のナイフやポーチ類が全て止まっているかの確認をし、マチェットが簡単に抜けるか、バールは落ちないかを念入りにチェックして、スズランが抱いていたコルキスを預かる様に抱き上げる。
「ちょーっと行ってくるねー」
そう言って胸の辺りに鼻を中て、思い切り深呼吸をする。とりあえず乳児独特の香りを堪能する。
そしてスズランにコルキスを返し、ラッテからもメルを預かり、同じことを言って香りを嗅ぐ。
「よし、父さん頑張る」
メルをラッテに返すと、スズランがコルキスを床の布団に寝かせており、軽く手を広げていた。
「私には?」
そう言って首をかしげていた。
「ごめんごめん。ってか二人には、帰ってきてから頼みたかったんだけどなぁ……」
そう言いながら、スズランに近づくと、頭を掴まれ胸に持ってかれた。
「死ぬとは思えないけど、心の傷が心配。無理はしないで」
「ふぁい」
そう言うと解放されたので、頭を上げると今度はラッテが笑顔で手を広げていたので、そっちにも顔を埋める。
「スズランちゃんに全部言われちゃったから、何を言うか迷うなー。あ、やり過ぎないように!」
「ふぁ。ふぁい」
ラッテには釘を刺された。確かに初めてだし、やり過ぎちゃうかもしれない。ちょうど良かったわ。
「んじゃちょっと行ってくるわ」
「気をつけて」「気を付けてー」
そう言うと、二人にニコニコと送り出された。本当もう少し心配して欲しいよなぁ……。
◇
翌日の午前三時頃。監視の為に借りていた家から、一人を残して蒸留所に集まり、全員音の鳴らない黒の皮製防具を身に付けさせ、軽くジャンプさせて音が鳴らないかとかも細かくチェックさせる。もちろん武器関係も光を反射させない様に、夜間特別仕様にしている。
そして俺も北川も、王都襲撃時に身に着けていた装備をしている。ってかまだそれあったんだな……。
そして小窓から、東の空が少しだけ明るくなるのが確認できる、まだ太陽が出ていない微妙な時刻になったので、全員最終チェックをさせる。
お互いがお互いの装備品や背中、なにか違和感がないかをチェックさせ、整列させる。
「事前の打ち合わせ通りだ。極力陰を通り、足音を立てずに行動する様に。作戦開始だ。アクアマリンに喧嘩を売った事を後悔させてやれ」
整列している一番後ろの奴に、ギリギリ聞こえるくらいの声で言い、案内は見張りをしていた奴に任せ、俺達は何かあった場合の補佐役に徹する事にし、後ろをついて行く事にした。
そして見張りをしていた奴と合流し、全員が揃ったところで、本格的に作戦開始になる。
一人がピッキングをしている間は、クロスボウを持った奴が道と向かいの家の警戒をし、残りはドアが開いたら素早く家の中に入れる様に待機している。
そして十五秒程度でピッキングが終わったのか、ゆっくりと静かにドアが開き、ハンドシグナルで一班と二班がまず音もなく侵入し、三班が階段を音もなく上って行き、四班が警戒をしている。
そして俺はナイフを握りながら、深呼吸をして待つと、二階から三班が下りてきて、ハンドシグナルで敵がいない事を俺に伝えると、隠し扉の探索に入るが、その頃にはアジト内にいる六人全員が俺の前に、声も出せない、しっかりと縛られた状態で転がされた。もちろん頭には麻袋がかぶせてある。
「情報にあった、十日に一度しか出かけていない者と、交代の為に入った者の特徴が全て一致しております」
「隠し扉を発見。一班は応援に来てくれ。二班は荷物の見張り、四班はそのまま警戒」
小声でそんなやり取りがあり、北川と目を合わせると顎で指されたので、俺が後ろからついて行く事にする。
情報と照らし合わせると、全員確保しているけど、家の中全てを見ないと話にならないからな。
そして外からつける閂をゆっくりと取り、全員がアイコンタクトでタイミングを合わせ、ドアの隙間から閃光が漏れた瞬間に、手裏剣を持った奴がなだれ込み、その後に短剣組が素早く入って行ったが、イスに縛られ、うなだれていた奴が一人だけいた。
多分コイツが、蒸留所前に転がる四人目予定な気がする。けど十日間ずっとここにいるって事は、もう少し拷問する予定か、拘束してた理由があったのかもしれない。
「騒がれると面倒だ。喋れない様にして、位置も特定できない様に麻袋をかぶせろ。撤収だ」
そしてイスを持って囚われていた奴も回収し、一階部分に戻る。
「交代は今日の昼食後だったな。上に報告されると面倒だ。一班と二班はここに残り、来た奴全員を捕らえろ。明日、同じ時間に迎えに来る。捕らえた奴の糞尿は垂れ流しにさせろ。決して拘束を解くような事はするな。飯も水も飲ませるな。緊張した時間が続くが耐えてくれ。明日にはここを無人にしてやれ、以上だ」
そして一班と二班を残して、蒸留所に戻ったのが、朝日が四分の一くらい地面から見え始めた頃だった。
「ふむ。最初だから早いか遅いかわからないが、多分目撃者はいないか、物凄く少ないだろう。では、帰るぞ」
俺はそう言い、大きい方の転移魔法を発動させ、全員を島に転移させ、翌朝に、一班二班と捕らえた交代要員全員を確保した。
□
一班と二班を回収した直後、捕らえた奴等を兵舎の個人部屋に全員分けて隔離し、反省会っぽい物を第四村で始め、そろそろ締めに入る。
「初めての作戦だったが、とても素晴らしい動きだった。これからも驕らずに励んでほしい。そして今言うのも締まらないと思うが、皆が気にしている部隊名は決まっている。アクアマリン特殊警備隊だ。島の内外問わず、アクアマリンに降りかかる危機を未然に防ぐ意味合いが強い。お前達はその創立に立ち会った栄えある一期生だ。最悪家族が狙われる事になるから、後々存在しない事になるだろうが、表向きは防衛部隊として活躍する事になるだろう。後々には細分化し、島外活動専門の部隊も出てくると思うが、まだまだ先だ。それでは君達には数日の休暇を与える。解散!」
そして俺と北川は兵舎に残り、兵舎の個人部屋の方を見ながら盛大にため息を吐いた。
「勢いで捕らえたけどさ。ノープランなんだよなぁ」
「あぁ。なんか……こう……。育ててた部隊の初運営って事で浮かれててさ、どうするか決めてなかったよな」
「あぁ。この歳になっても、ワクワクでうっかりをかますとは思わなかったわ……」
そして二人して、もう一度大きなため息を吐いた。
「体を輪切りにして、ホルマリンに付けて送り付けるのが今頭に出てきちゃったんだけど。さすがにアレはス〇ンド能力ないと無理だわ」
「そもそも、アクアマリンに手を出すとヤバイってのは、もう当たり前になってるっぽいけどよ、こういう場合は、証拠を残さないで静かにしてた方が不気味で怖いんじゃないか? もう島に埋めちまえよ。それか船から三日目くらいの場所に捨ててくるとか」
「まぁ、その話はロックも交えて明日にでもしようか」
「だな。いやー、勢いってやべーな……」
北川の言葉にとりあえず同意しておき、もう一度二人で大きなため息を吐いた。
と言う訳で、普通でなんの捻りもない部隊名です。




