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第287話 実戦投入を考えた時の事

 あれから二十日、作業は事故があると怖いので結構慎重に進め、ブートキャンプの訓練場的な物ができ上がった。早速個人的に走ってみたが、泥水に突っ伏して、匍匐(ほふく)前進する時だけ、服の汚れを気にするだけで、一回汚れちゃえば特に問題はない。

 むしろ戦闘服だから気にしないで突っ込むけど、帰る時に水場で雑に汚れを落としてから、水球で更に水流を使って、濁りがなくなるまで放置するが、なんか色々と諦めた。微細な土なんか繊維に入り込むし……。

 そしてまた嫌がらせなのか、身元不明の浮浪者の死体が、なんか苦悶の表情で蒸留所前に二人目が置かれた。

 返せと腕に傷を付けられていたので、俺はカルツァに直接(・・)報告に、行く事にした。


「いやー。もう前回みたいにフルールさんを使っての報告じゃ、ちょっとだけ齟齬とか発生するのもアレじゃないですか? なので直接ここに来たんですけど、この間の女性は生きてます? いい加減俺の所に、返せって傷をつけられた死体を置いて嫌がらせしてくる人に、痛い目見て貰わないとそろそろいけないんじゃないかな? って思ってるんですよ? 二十日で二人ですよ? 全く関係ない浮浪者を、巻き込むのも気に入らないんですよね」

 俺はアポなしで突撃して、門番やメイドを無視しつつ、いつもの執務室に行き、笑顔で穏やかに言うと、カルツァが引き吊った笑顔で固まっていた。

「セレナイトにあるアジト的な物を知っているなら、ぜひとも教えてくれないかなーと……。ね? この間の女を生かして返す気がないなら、地図とか描いてくれると嬉しいんですけど?」

 少しだけ首をかしげて言うと、震える手で簡単に、特徴がしっかり書かれている地図を描いてくれ、無言のままこっちに押し出してきた。

「ありがとうございます。では、失礼します」

 そして廊下でお茶を急いで運んで来たメイドさんとすれ違うが、思い切り飛びのいて、目を見開いて驚いていたが、気にしないで玄関を出て、中庭で蒸留所のロフトに転移をした。

 地図を頼りに住宅街を進み、角にある肉屋から三件目にあった、ありふれた一般家屋の場所だけを覚えて通り過ぎ、少しだけ高い建物か、空き家がないかを探し、通りの向かい側の五軒隣が開いていたので、そこに目星をつけておき、蒸留所から第四村に転移をした。


「北川、ちょっといいか?」

「ん? なんだ?」

 畑仕事をしていた北川に話しかけると、いきなり頬をつねられた。

「とりあえず落ち着け、その笑顔は正直やばい。肝臓をそら豆と一緒にワインで食ってる感じと殺気ムンムンだから。で、何があった」

 北川はそう言って、俺の両頬を同時にパシパシと叩いたので、事の経緯を全て話した。

「そうか……。で、ナニをするんだ?」

 そして睨みつけるような目付きになり、持っていた鍬を置いてタオルで顔を拭きだした。

「ここの場所が、今回嫌がらせをしてきている敵スパイのアジトだ。歩いて通り過ぎた時に確認したが、ここが空き家になっている。不動産屋的な場所に行って短期で借り、各班一人出して四人で交代して見張り、出入りしている人数や、一番多く人がいる時間帯、少ない時間帯。出入りする者の顔や特徴などなるべく多くの情報を仕入れ、一番人が少ない時に短時間で全員(さら)う」

 そう言った瞬間にデコピンを食らった。地味に痛い。

「お前は特徴があり過ぎるんだから、この地図をもらった瞬間に一回戻って来い馬鹿が! 見られてたらどうすんだよ!」

「すまん……」

「はい。深呼吸三回。いー、あー、いー、あー」

 俺は北川に言われた通り、深呼吸をして、笑顔を作ったり大口を開けたりした。

「かなりマシになったな。後はちょっとだけ出てる殺気は、温泉に……。一人だと考え込むタイプだったな。よし、お前はフォルマに飯作りを教えててくれ。俺がその辺全部手配してくる。午後は見張りの選別だな。よし、地図はこの場で燃やせ、そして俺を蒸留所に送れ」

 そして俺は北川と蒸留所に転移し、昼飯期待してるぜ。とか言ってロフトの階段を下りて行った。


 フォルマさんに料理を教え、昼食を作り終えた頃にフルールさんが変化をしたので、蒸留所に迎えに行き、俺も昼食を食べるのに、一度家に戻った。

「……何があったの? 話して」

 イスに座ると、スズランがこちらを見ずに肉にフォークを突き刺し、正面に座っているラッテを見ると、少しだけ冷ややかな目になっていた。

「家を出ていく時は普通だったのに、帰ってきたら少しだけ怒ってるんだもん。やっぱり気になるじゃん? 言えない事ならいいけど、できれば言って欲しいなー?」

 そして目だけが笑っていない状態で、微笑みながらラッテが言ってきた。

「……言っていいものなのか、それとも不味いのかはわからない。それでもいいの?」

「気にしない」「平気平気」

「はぁ……。まぁ、アレだ。セレナイトの蒸留所への嫌がらせがあった。今日で二回目、前のを合わせるなら合計三回目だけどさ。多分クリーム作りの事で、どこかの貴族がやってるんだろうけど、浮浪者の体に傷を付けて、死体を置かれた。無関係な人を巻き込んでるのが我慢できない」

「なら、従業員だったら良かったの?」

「そんな事あるはずがない。殺されたのが従業員だったら、もう少し凄い事になっているさ」

「カーム君は優しすぎるんだよねぇ……。そういうのが無視できないんだもん。普段大人しい人を怒らせると酷いっていうのは、こういう事だよね」

 ラッテは少し唇を尖らせてサラダにフォークを刺し、口に運んでいる。

「大人しい人を怒らせるくらいの事をした。っていうのが正しいかな? まぁ、ちょっとやり返してくるだけさ」

 俺は笑顔で言うと、正面と隣からため息が聞こえた。

「ちょっとじゃ済まさないわね」「多分ちょっとじゃないね」

「二人して言わなくてもいいじゃん。なるべく事なかれ主義だけど、やられたらやり返す事はしないと。先に仕掛けてきたのは向こうなんだし。ってか今までも、こっちから手を出した事なんか……。少ししかないし」

 二人と話して、少しだけ気分がまぎれたが、やると決めちゃったし、北川も動いたからもう引けないんだよね。


「んじゃ第四村に行って来るよ」

「気を付けて」「はーい」

 嫁達に送り出され、第四村に転移をすると防衛部隊が既に整列しており、俺は上を見て太陽の位置を確認した。

「遅れてないよね?」

「あぁ、俺が少し早く並ばせた。言いたい事を言え」

「助かる。今朝、セレナイトの蒸留所前に浮浪者の死体が置かれるという、地味な嫌がらせを受けた。個人的には関係ない浮浪者を殺すのが気に入らない。だが、従業員だったらいいって訳でもない。やられてやり返さないのは、相手がさらに増長するだろう。そこでだ。各班から一人か二人、偵察に特化した者を募る、もしくは育成する。具体的には数日の監視をさせたいと思っている」

 ある程度大雑把な説明をするが、特にざわつく事もなく、皆は静かに話を聞いていた。訓練の成果かな?

「ただ見張ってるだけでいい。何があっても手を出すな。その家に入った人数、出て行った人数。出入りしている奴の特徴、持ち込まれた食料の多さ、どの時間帯に出入りの頻度が多いか。夜中に行動をしているか。そこから大体人数を割り出し、作戦を立てて実戦だ。なるべくなら全員生かして攫え、無理なら最低でも一人は生かせ」

 言いたい事を言い終えると、一人が挙手をしたので発言の許可をした。

「偵察中、こちらに危害が及びそうな場合は戦闘でしょうか? 撤退でしょうか?」

「撤退だ。町の中で盛大にやり合うな」

「実戦と言う事でよろしいでしょうか?」

「実戦だ。初めてが島内じゃなくて悪いが、そういう訓練はさせているつもりだ。この中で殺しの経験がある者は正直に手を上げろ。どんな形でも構わない。手が滑った、戦争で、喧嘩で。なんでもいい」

 そう言うと、一人だけ手が上がった。

「一人だけか。まぁ、ある事の方が少ない。だからなんだ? って感じだが、その内皆も体験するかもしれないから、心の隅にでも置いておけ」

「教官達は、我々の後方にて支援いただけるのでしょうか!」

「もちろんする。俺は今物凄く怒っている。だから作戦の成功率を上げる為に、相手の情報を手に入れ、襲う時間帯や人数の把握が必要だ。別に一人でやってもいいが、せっかくの機会だ。君達は実戦。まぁ初めてってのが頭に付くが、何事にも初めては存在する。何か間違っている事があったら、遠慮なく言ってくれ。復讐や、やり返す事が間違ってると言わないでくれよ」

 そう言うと少しだけ笑いが出るが、不安にさせるよりは良い。

「では、我こそはという者は手を上げろ」

 そして手を挙げたのは、魔族でも獣人系四人と、人族の二人だった。

「自分達は夜目が利きます! 夜中の見張りはお任せください!」

「良い自信だ。これから打ち合わせを行う。今手を挙げた者はついてこい」

 そして俺は子供達に教えた、偵察方法を教え、正面玄関は一人しか使わず、買い出しは一人暮らしの男がいるって事を徹底させる事にし、残りはローテーションでの見張りだ。

 最初に、引っ越しの荷物っぽく偽装した食料も持ち込むので、買い出しは一人分でも大丈夫だろうって事になった。

 期限は十日。それまでにどんな情報も記載させる事にした。


「じゃ、北川。引っ越しっぽく頼む」

「おう、まかせろ」

「何回も言うが、仲間との絆を優先。見捨てるような奴は再教育だが、捕まった場合は全員で助けに行くから、最悪の場合は撤退を早期に立案し、フルールさんに報告後破棄、蒸留所へ全員で逃げる事。その際は戦闘を極力避けろ。以上、健闘を祈る」

「「「了解!」」」

 俺はそう言い、作業が終わった蒸留所に転移し、搬送用の正面の大きな出入り口ではなく、脇のドアの外をしばらく警戒してから全員が出て行った。


「問題はない。今は宴会風な騒ぎをさせているし、適度な時間になったら一人を残して出て行き、真夜中に戻る様に言っておいた」

 そして待つ事一時間。北川が帰ってきて説明をしてくれた。

「助かった。ありがとう。この近くに行きつけの飲み屋があるんだけど、飲みに行かねぇか?」

「ばーか。お前酔えねぇだろ。酔えねぇ奴と飲んでも面白くねぇよ。ってかさっさと帰って奥様達と子供達にサービスでもしてろ。不安にさせる様な育て方はさせてねぇはずだし、信じてフルールさんの報告だけで十日待てよ。んじゃ島に帰るぞ」

 北川にデコピンをされ、軽く笑いながら親指で海の方を指し、床をつま先でトントンと鳴らした。さっさと魔法陣を展開させろって意味だろうな。

「……そうだな。昼間は嫁達に少し言われたが、夜は何も言われない様にするわ。んじゃ、帰るか」

「おう。とりあえずお前が昼に作った魚の煮物が残ってるから、味が染みてるだろうし、楽しみで仕方がねぇんだよ。さっさとしろ」

「あいよ。日本酒で一杯やってろ。ってか、そろそろ部隊名考えねぇとな」

 冗談なのか本気なのかわからないが、北川が笑顔で言ったので、俺も笑顔で魔法陣を展開し、島に戻った。

部隊名はもう考えてありますので、次回にでも……

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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