第286話 一応出す常識は持っていた時の事
岩本君が来てから一週間。二人はこの島に慣れ始め、進んで村の事をする様になり、もう役割がある程度固定された感じだ。
岩本君もとい、ロックが北川の補佐をし、ジャクソンさんが対魔法戦用講師になっている。
むしろジャクソンさんは、畑仕事の方が好きなように思える。村を飛び出したとか言っていたが、重税がなく、やればやっただけ成果が出るなら、って感じでどんどん手を出しまくっている。
そしてロックを拉致し、山の温泉で待機していたご老人二人と北川で温泉に入りながら日本酒を飲み、姐さんの洗礼を受けぶっ倒れた。
姐さんの裸でのスキンシップ過剰なのか、意外にアルコール度数が高い日本酒と温泉が原因かは知らないけど。
まぁ、俺はスズランとラッテがいるし、北川はフォルマさんと結構な頻度で楽しんでいるので、問題はなかった。
ご老人二人はもう女性の裸にあまり関心はないみたいなので、問題はなかった。
けど若くて、あまりそういう経験がなかったのか、姐さんの裸に過剰反応し、少し騒いだら絡まれてたので、しばらくは玩具にされそうだ。
「カームさん、お手紙ですよ」
執務室のドアがノックされ、返事をするとウルレさんが小さな木箱を持って入ってきた。
「手紙……ですよね?」
「えぇ、一応名目上は手紙になっていますよ。ほら。それに軽いですし」
そう言って、木箱の上には大きく手紙と書かれていて、アクアマリン島のカーム、とデカデカと書かれている。
「……本当ですね。折れたり潰れない様にしてるのかな?」
俺は木箱を受け取り、差出人を見ると夢追い街ギルドとなっていたので、ミスリルバールで釘ごと蓋を外すと、中から油紙に包まれた紙が出てきた。
それを丁寧にはがすと、大きな封蝋の付いた封筒が出てきたので、ナイフで開けるとまた封筒が二枚出てきた。
「子供達からの手紙ですね。家に置いてきます」
「読まないんですか?」
「まずは妻達にですね。俺は昼でいいです」
「少しくらいなら抜けていいんですよ?」
「いいんですか? なら少しだけ……」
そう言って笑顔で腰を浮かし、木箱に手紙を戻して裏口から家に向かった。
「リリーとミエルから手紙が来た」
木箱を脇に抱えて玄関を開けると、子供達をあやしていたスズランとラッテが凄い勢いでこっちを見た。
「嘘……。まさかリリーから手紙が来るなんて」
「リリーちゃんが!?」
なんでリリーが出す方に驚いてるんだよ。確かに驚くけどさ。一応スズランはお腹を痛めて産んだ実子だろうに……。
「はいはい。んじゃどっちから読む?」
「情報量が少なそうなリリーから」
「そうだね」
リリーの扱いがなんか酷いな。確かにミエルの方が性格的には詳しく書きそうだけど。
「えーっと、なになに。手紙を書くのは初めてだし恥ずかしいから手短に。私達は国王様が治めてる王都の隣にある、一攫千金を狙った冒険者が溜まってできた、夢追い街にいます。この街は最初は王都から遠征でダンジョンに向かってたんだけど、だんだん人が集まり出して、勝手に村が作られて、どんどん人が来て、鍛冶屋や宿屋、露店やギルドが勝手に増えてできた、治める人がいない状態のまま大きくなって街になったって、歴史があるらしいの。今はそこを拠点にして、パーティーを組んでダンジョンに潜っています。元気だから気にしないで。だって」
「なんかリリーらしいわね。とりあえず元気なのは伝わったわ」
「そうだねー。まぁリリーちゃんだし」
「そうだね。リリーらしいっちゃらしいね」
文が少しアレだけど。ってかその国王様兼大魔王様と顔見知り程度の間柄なんですけどね。ってか王都の隣かよ。絶対に何かあったら、即行で大魔王軍が出張る為に王都があるんじゃね? どのくらい魔力がそこに溜まってんだ? ってか王都が先かダンジョンが先かだなこりゃ。どっちでもいいけどさ。
「んじゃミエルだな。んーっと。せめて季節が一回巡った節目くらいはと思い、こうして筆を取っています。僕達は王都から半日ほど歩いた、夢追い街と呼ばれている所に拠点を置き、ダンジョンに潜っています。最高到達者が地下二十階程度らしいのですが、まだまだ深いと専門家は言っているらしく、装備や荷物、食料、討伐部位的な問題で、今は十階辺りをうろついています。パーティーメンバーの仲は良く、男二人の女二人で問題は特にありませんが、姉さんといい勝負をする男性がメンバーにいて、姉さんも男性もまんざらではないみたいなので、そろそろ男女の仲になると思います。女性も僕好みですので、ダンジョン攻略に満足したら、四人でそちらに戻るかもしれません。追伸、姉さんに手紙を書かせるのには苦労しました。だそうだ……。そっか……。リリーと同じくらい強いのかよ……」
俺は手紙を読み終え、額に手を当てて盛大にため息を吐いた。
「勘弁してくれよ……。どのくらい強くなってるのかは知らないけどさ、最悪その男と戦わされるんだろ? 手加減したらこっちが死んじゃう。ってか前衛か? 後衛か? それにもよるわー。クソ! 前衛だったら俺の命か、向こうの命がヤバイ」
「一応リリーの好みの男ができた事に、喜んでおきましょう。あんな性格の子を好きになる、もしくは惚れさせる男よ? どんな子か楽しみだわ」
スズランはニコニコとしながら、コルキスの太ももをポンポンと叩きながら言った。
「だねー。けど、私はミエルの好みの女の子が気になるなー。だって私にだって言わなかったんだよ?」
いや、母親には恥ずかしくて絶対に言えないって……。
「俺だって知らないさ。ったく、どんな見た目が好みすら言わないんだもんなー。いきなり連れて来られてもびっくりするしかないな。んじゃ俺は仕事に戻るよ。夕方には手紙を父さん達に届けて来るよ」
「わかった」「はーい」
それだけを言い、あと一時間くらいでお昼だけど、仕事は仕事なので執務室に戻った。
「ってな感じだ」
「ほー。そういや旅立って一年か。懐かしいな。まぁ生きてるならいいだろ」
「ってかカームさん、そんな大きなお子さんいたんですか?」
「んー。子供いるとか言ったけど、どのくらいか言ってなかったっけ? ロックに会った時には、四歳五歳くらい、それから三年間学校に通って成人。ちょうど出て行ったのが一年前の春。今こっちにいるのが第二子」
そう言った瞬間ロックが眉間に皺を寄せ、口を半分だけ開けた。
「仕方ないだろ? 魔族は早熟なんだから。で、こいつの奥さんは二人共肉食系なんだし、こいつだって子供作ったの十歳前後だったよな?」
「あぁ。卒業して八歳、そこから一年社会勉強って事で隣町に出稼ぎに行って、戦争を体験して、帰ってきてからだから……。そこで仕込んで一年。うん、産んだのが十歳程度だ。けど産めるだけで、適齢期というか婚期は一切不明。ロックが来る三日目に故郷に行った男と、その奥さんは俺より年上だから、多分二十歳くらいじゃないか? だから魔族の適齢期とかわがんね。姐さんだってこの島に木とか生えてない頃からいるんだぜ? なのに旦那が欲しいとか言ってるし。長寿種とかの混血ってマジわかんねぇわ」
そう言ったら、ロックが半目でこめかみの辺りをガンガンと叩き、なんとか理解しようと頑張っている。
「最悪人間より繁殖力が高くて、一気に増えません? やべぇっすよそれ」
「さっきも言ったけど産めるだけで、経済的な理由から産まない奴もいるしな。明るい家族計画って奴だ。ってかティラさんなんかエルフだぞ? 何歳かわかんない。しかも過去のそういう話は聞かないから、経産婦かどうかもわかんない、失礼だし聞きたくない。だから凄い不安定な感じでバランスはとれてると思う」
「魔族こえぇっす……」
そして考えるのを止めたのか、ロックが腕を組んで目を瞑りながら首を縦に振っていた。
「まぁ、今日は訓練場の拡張の為、開墾だ開墾。俺が切る」
「俺が根っ子を抜く」
「自分が運ぶ」
「「「枝打ちは我々が!」」」
そして防衛部隊の人達が、剣を振る訓練だと言って、代わりに鉈を持たせている。
「安全第一。怪我のないようお互いが離れ、何かあれば声をかけ、それでも反応しなかったら、丸めたタオルをそいつに投げて、気付かせる事」
「「「了解!」」」
「開墾、はじめ!」
俺がそう言った瞬間、【チェーンソー】を発動させて木を切り、北川が根っ子を抜き、ロックがその根っ子を炭焼き場まで運んでいくという流れができあがり、切り倒した先には五人一班に別れた部隊が枝打ちを始めた。
今回は大量に丸太を使うからね。その道具を自分達で作るって知ったらどう思うんだろう? まぁ、アレだよアレ。戦争映画とかで海兵隊の訓練とかでやってるやつ。
微笑みデブが障害物とか乗り越えられなかったり、泥水の中をほふく前進したりする奴。新人じゃなくても、ブートキャンプで使う障害物は必要だと思っている。
「縦はここまでか。んじゃ次は横だな」
事前に用意していた計画図と、歩数で数えた木に紐を縛っておいたので、とりあえずは切る奴は決まっている。ティラさんとフルールさんやパルマさんにも相談して、問題ない事は確認済だ。
外周が決まったら、あとは中の木を全て切って整地すればいいだけだ。余剰木材は休憩室とか、第四村の住宅に回せばいい。
そんな事を思っていたら、俺の背中に何かが当たったので、作業の手を止めて振り向くと、北川が立っていた。
「三時の休憩だ」
「もうそんな時間かよ」
俺は空を見て、太陽の位置を確認すると確かにそんな時間だ。リアルな振動工具じゃないから、別に時間とか気にしてなかったわ。
「休憩だ。お前等戻るぞ」
「「「了解!」」」
そういや、軍隊とかって気温で室外の勤務に制限があったよな。戦争中や訓練中以外だけど。そういうのを考慮した方がいいのだろうか? まぁ、まだいいか。
「そういや、ロックは口調変わったよな」
「そうですねぇ。自分元々こんな感じだったんすけど。ほら、二人共年上じゃないっすか? 元日本人としては一応……」
「そうだなぁ。カームも初対面じゃ確かにそんな感じだったしな」
「まぁな。今でもその癖は抜けないけど、大体誰にでも丁寧語だな。親しすぎる奴は別だけど」
「そんなもんだ」「そんなもんすよ」
「だよなー。なんだかんだで俺達は仲がいいけど、魔王と勇者二人ってどう思う?」
俺は休憩してた防衛部隊に振ってみる。
「今更じゃないでしょうか? この島じゃ人族も魔族も関係ないですよ」
「あ、休憩中は普段通りでいいですよ」
「そうっすか? まーあれっすよ。キタガワさんとカームさんが、じゃれ合って軽くどついたりしてますけど、気が気じゃなかったのは最初だけっす」
「そうっすよ。今じゃイチャイチャしてんなー程度でおわりっすよ。なんで仲がそんなにいいんっすか?」
防衛部隊の人は、お茶を飲みながら笑い、そんな事を聞いてきた。
「それはだな、趣味があったからだよ。俺の嫁は魔族だろ? 俺はこいつに魔族側の娼館を紹介してもらってんだよ。なんてったってラッテさんも夢魔族だし」
「「「あー……」」」
「違くないけど違うよ!? 俺は惚れられて、猛アタックされて折れただけだからね? 本当はスズランだけ愛するつもりだったんだからな!」
「言えば言う程嘘くさい……。素直に認めちまえよ」
「うっせ! 俺は拒否しようとしたんだけど、スズランが認めちまっただけだよ!」
「カームさんの嫁さん、マジ凄いっすね。向こうじゃ考えられねぇっすよ」
「本当だよ。ロックもこっちで嫁を見つける時はマジで気を付けるんだぞ? 最悪増えるからな!?」
「カームさん。嫁なんか男から声かけなきゃ滅多に増えませんよ?」
ロックに少しだけこっちの注意を教えたら、魔族の防衛部隊の一人がツッコミを入れて来た。
「知ってるよ。どこでどうなるかわからないから注意してるの。もしお前がこの島の防衛部隊の上官になって、部下が数十人ついている高給取りになったとしよう。生活も安定して、そろそろ嫁さんが欲しいなぁーって思ってたら、偶然自分の事が好きな女性が数人いたら? その人達が話し合って仲良くするから全員で! ってなるかもしれないだろ? 一夫一婦じゃなきゃいけないって教えもないしな。女性がハーレムを築く場合もあるし。本当どうなるかわからないんだぞ?」
俺が真面目な顔をして言ったら、防衛部隊の全員が静かになった。
「確かにそうだな。この訓練がある程度になったら、五人一組で各村に配置して、そこからまた二十人くらい訓練するし、多少偉い立場にはなる。そうすると経済力や他の人より偉い立場ってのが絡んで来る。そうなると生活が安定して、少し裕福な暮らしができる訳だ。そうなるとどうなる? そういうのに弱いのが寄ってくるって事もある。つまりそういう事だ」
「まぁ俺は魔王になる前からだから、純粋に愛されてただけだけどね」
「俺だってそういうのが嫌だから、勇者って身分を隠してたし」
そう言った瞬間に北川から突っ込みを貰った。
「やっべ。自分この島じゃ勇者ってばれてるから、勇者の奥さんってのを狙ってる人が来るかもしれない……」
ロックがお茶を飲む手を止め、そう言ったら北川が優しく笑顔で肩を叩いていた。
「もう一回旅でもしてくるか?」
その言葉にロックが苦笑いをし、防衛部隊の全員が大笑いをしていた。本当仲が良くなるようにしておいて良かったわ。




