表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
289/324

第280話 義父に睨まれながら酒を注がれた時の事

正月中盛大にサボっていたので、一話のみの更新です

「んじゃ、行ってくるよ」

「行ってらっしゃい」「行ってらっしゃーい」

 俺は故郷のベリル村の年越祭に参加するのに、二人と話し合い、一人で行く事にした。

 理由は、スズランはコルキスを産んだばかりだし、コルキスはまだ生後一ヶ月経っていないし。ラッテは年越祭過ぎくらいに産まれそうという体なので、転移による負荷を減らす事。一番大きいのは、それぞれ気温の急激な変化だ。

 いつも住んでれば、季節の移り変わりと共に生活をしているので平気だ。俺が野菜とかをベリル村に運んでいる時に、ちょこちょこついては来ていたんだけど、妊娠三十週目を過ぎたあたりから連れて行かなくなった。だって怖いし。

「いってきまーす」

 俺はコルキスに微笑みかけながら言い、ほっぺを突いてからベリル村に転移をした。


「さぶっ!」

 ダウンジャケットを島で着てきたが、やっぱり寒いものは寒い。今後脳梗塞とか色々心配だ。

 とりあえず故郷に戻って来た時の日課にしている、自宅の窓を開けて、空気の入れ替えをしつつ、軽く【風】を起こして埃を飛ばし、屋根に積もった雪を下ろして酒場に向かうと、もう既に見知った顔が大勢おり、三馬鹿もそろっていた。

「おー。カームじゃねぇか! やっぱりスズランと子供、ラッテさんは連れて来なかったんだな」

「あぁ、急激な温度変化は色々と不味いからな。こっちが春になる頃には、五人で顔を出しに来るわ」

 イスに座ると、ヴルストが麦酒を注いできたので。とりあえず四人でカップをぶつけ、一気に飲み干しておく。

「けどスズランの子は男の子かー、リリーちゃんみたいに強くなるのかなー?」

「わかんないなー。指とか握られると、力は物凄く強いってわかるけど、問題は性格だよね。どっちに似るかで、手が付けられない子になるかもなー」

 シュペックが、炙ったベーコンを少し俺の方に寄せてくれたので、とりあえず摘まんで口に運んで飲み込んでおく。

「親が魔王なんだから、力でねじ伏せておけば問題ないよ」

「巣立っちゃった場合、性格に難ありだと、イチイさんが動く可能性が高い。だからある程度の良識は、身に付けさせたい」

 シンケンにフォークを渡されたので、受け取ってからもう一個ベーコンを口に運び、麦酒のお代わりをマスターに頼んでおいた。

 相変わらずこの三人といると、落ち着くなぁー。

「で、お前達嫁さんは?」

「別な場所で女同士飲んでる」「別な場所で何か企んでる」「別な場所で愚痴でもこぼしてるんじゃない?」

「別な場所で鬱憤を晴らしつつ、何か酔った勢いで企んでるって事はわかった。スズランが子供を産んだから、そろそろ二人目って感じじゃないのか?」

「いや、二人目はまだまだ先ってなった」

「僕もかな」

「こっちもだ。けどペルナが町に出て、少し他の場所で暮らしてみたいって言ってるから、ちょっと心配」

 とりあえず三馬鹿は、来年に二人目って事はなさそうだ。

「おー。見聞を広める事は良い事だぞ? ベリル村の常識だけだと、村が行き詰まった時……。は、まだないとして、何かする場合は外の刺激を受けてる奴の、柔軟な意見も大切だと思うぞ?」

「まーそうなんだけどね。やっぱり親としては心配じゃん? カームは良く二人を送り出したね?」

「親として、よそに出しても恥ずかしくない教育はさせてきたつもりだ。リリーは少し怪しいけどな……」

 ミエルはしっかりしているからいいけど、リリーは少し手が出るのが早そうだし、ミエルが苦労してるんだろうなー。

「まだ手紙とか来てないし、ヤバイ噂も聞いてないから問題はなさそうだけど、絶対に過剰過ぎるほどの知識を与えたのは確かだ。そして訓練も……」

「エルフと一緒に森で十五日だっけ? 食料五日分で。僕の母さんでもそんな事やらないよ?」

「本当かよ? ちょっとやらせ過ぎたな。ま、訓練だしな」

「島にいる勇者との、近接戦闘訓練もやってたって聞いてるね」

「やらせてたね。どうしても俺だと接近戦に難ありだったからなー。実力差がないと殺し合いになっちゃうし」

「なんか町で二人でパーティー組んでて、馬鹿みたいな新人がいるって噂を、春の頃に聞いたぞ?」

「……最後のだけ初耳なんだが?」

 ヴルストの言った言葉だが、クリノクロアの誰も教えてくれなかった気がする。あの後にクリーム関係で何回か通ったけど……。

「ま、まぁ飲めよ」

「そうそう。ほら、マスターが麦酒持って来たよ」

「お、向こうの大皿に大量のから揚げが。持ってくるよ」

「お前達は優しいなぁ……。まぁ、気を遣わなくてもいいよ。やり過ぎたって事は知ってるしさ」

 から笑いをしながら言い、目の前の麦酒をとりあえず一気で飲み干して、ベリル酒を頼んでおいた。


「あ、父さん達が来たから、少し顔出してくるわ」

「おう」「うん」「あぁ」

 三人の言葉が見事に重なり、少しだけ四人で笑ってから俺は席を立ち、父さん達の付いたテーブルに座りに行く事にした。

「ただいま。前々から言ってた通り三人は来てないから」


「あぁ、子供が小さいなら仕方ない。産後の体調や、コルキスの様子はどうなんだ?」

「二人共元気があり過ぎで、少し困ってるくらいかな。スズランは産んでないかのように動き回るし、コルキスは指を掴んだら離さない」

「間違いなく俺の孫だな」

「俺の孫でもあるんだからな?」

 イチイさんは、早速運ばれて来た麦酒を一気飲みして、魂の叫びを上げつつ袖で口元を拭いている。普段はこんな事しないのに、三人目の孫が生まれたのがかなり嬉しいんだろう。

「昔から体だけは丈夫な子だったからねぇ……」

「子供ができたのに、丸太運びをしてた時は驚きましたけどね。秋の収穫の時は、麦袋を軽々と持ってましたし……。あまり力を入れてないとか言ってましたが、こっちからしてみたらヒヤヒヤもんですよ」

「スズランちゃんは、本当にそういう所は昔から変わらないわよね」

 母さんは、何か思い当たる節があるのか、目を瞑りながら軽く頭を縦に振って共感していた。本当にリリーを産む前は、俺の見てない場所で何してたんだ?

「結構力任せで解決って事が多いので、かなり不安ですよ。木の根っ子なんか、鷲掴みにして、そのままメジメジ引っこ抜いてましたし。鍵のかかった鉄の扉とか、蹴破りそうですし。リリーも……」

「その辺はイチイ似だな」

「うるせぇよ。カームなんかどっちかって言うと、スリート似だろうが」

「肌は俺だぞ? まぁ、春には二人目の二人の孫に会えるんだ。楽しみが増える。そういや島にミエルから(・・・・・)手紙は来ているか?」

「来てないよ? なんで?」

「こっちにも来てないからな。リリーが出すはずはないし、ミエルなら……とは思ったんだが。そっちにも来てないならいい」

「あぁ……。確かにリリーは出さないね。絶対」

 手紙があったら、逆に何があったんだと疑いたくなる。だったらまだミエルの方が書くかもしれない。

「そういうところもイチイ似だな」

「そうねぇ。便りがないのが良い便りっていうし。ただ、私が出した手紙にも返事をくれないのは、どうかと思うわよ?」

「おいおい、何回前の秋の話をしてるんだよ。二十回以上前だろうが。しかも直接会いに行ったじゃないか」

 筆無精なのは、イチイさんの家系かららしい。そう言えばこまめな手紙でもいいのに、月一で村からクリノクロアに来てくれたスズラン。もしかしたら行動派なんだろう。いや、絶対に行動派だな。

「で、お前は帰ってきても、重要そうな報告は何も毎回しないが、今回はどうなんだ? また一巡分何か報告とかため込んでないか?」

 父さんが軽く麦酒を飲んでから、なんとなくで聞いてきた。

「んー? なんとなく作った商品が貴族達の間で大人気で、生産が追い付かない。製造方法を知ろうと、スパイが船員に偽装して潜り込んだり。そのスパイを…………優しく追い返したら、港町に作った蒸留所前に、拷問された状態で死んでた」

 そう言った瞬間、父さんが酒でむせて、イチイさんがつまみまで伸ばしていた手が止まった。

「まーたうちの子は厄介事抱え込んでるのねー。どう思うリコリス? 私は言葉が詰まった所を詳しく聞きたいけど」

「昔からでしょ? 一応魔王やってるんだし、最悪一帯焼け野原で済ませれば丸く収まりそうよね」

 母さん達は、なんか軽く聞いちゃいけない単語が飛び出しているし……。

 ってな訳で、周りが騒がしいので、薬を使った状態からの尋問方法で、本人が喋った記憶がない状態で、情報を引き出した方法を言うと、なんか全員が眉を寄せて首を傾げている。

「それってどうなんだ?」

「痛みに耐える訓練はあるらしいが、そんな状態だとどうしようもねぇな」

「前々から暴力とかは嫌いだったのは知ってるけど、まさかそんな物も作ってたとか、母さんでも驚くわね」

「しかも情報を引き出した相手が、喋った事を覚えてないっていうのも質が悪いわねぇ。だから拷問死した死体が転がるのよ」

「普通に拷問した方が、まだ耐えそうだよな」

「あぁ、そういう奴は意志が強いしな」

 盛大に家族から()不評である。

「まぁ、発想がぶっ飛んでるのは子供の時からだろ。今更だ今更。んじゃ、他にもなさそうだし飲むか」

 そう言ってイチイさんに酒を注がれたので、軽く頭を下げてから飲んでおいた。


「ラッテちゃんの方は体調はどうなんだ? 二人共向こうで産むって言ってたから、特に何も言わなかったけど。後はスズランちゃんの産後だ」

 しばらく雑談をしながら飲んでいたら、いきなり父さんにそんな事を言われた。

「んー。元気だよ。産婆さんもなんだかんだで優しいし、人間のシスターも医者もいる。錬金術師がポーション作ってるし、出産時に母子共に危険になる事はかなり少ない。近所付き合いっていうより、村全体に一体感があるから、困ったらお互い様って感じで、お互いに支え合ってるよ。なんだかんだでスズランもラッテも、近所で産まれた子供の面倒を見たり、掃除とかもしてたからね。この間なんか、雨降った時に、三軒隣の人族のおばちゃんが洗濯物取り込んでくれたなぁ……。二人が産婆さんの所に、診てもらいに行ってる時だったかな?」

「本当、お前ん所の島は不思議だよなぁ。魔族と人族が一緒に仲良く暮らしてるしよ」

「そういう風にしましたので。喧嘩はありましたが、殺しはまだないですね。っていうか、俺と勇者が肩を組んで仲良くしてれば、誰もが種族間の垣根は低くなりますよ」

「んー。戦争を吹っかけてきてた、人族側の国は大人しくなったんだっけ? なら平和そのものよね」

「そうですねぇ。俺が王都に乗り込んで、勇者と一緒にヤンチャした時に、指揮を取ってた勇者が国王を裏から……。今のは聞かなかった事に」

「ほー。話しに聞いてた、理解力のある勇者が裏からねぇ……」

「そこまでは聞いてなかったな……。なぁイチイ」

 そして父さん達がカップを口に付けたまま、こっちを睨むようにして見ていた。

「まぁ、飲めよ。酔わないらしいがな。ちょーっと面白そうだから、そっちも聞かせてくれ」

 そう言ってイチイさんはまた俺に麦酒を注いだ。今日中に島に帰れるだろうか? ってか三馬鹿、こっち見てないで助けてくれ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ