第279話 二回目の奴隷を購入した時の事
コルキスが産まれて五日後。俺はスズランに笑顔で肩を叩かれ、家から追い出される様に執務室に向かった。
理由は簡単だ、コルキスが可愛いからだ。炊事洗濯、食事作り。代われる物はほとんど代わり、真夜中でも母乳をあげている、スズランの負担を減らす事をしていたが、ラッテもいるから平気だとの事で、産後三日目からは母子共に安定しているから、こんな感じだ。
因みに後日、北川に会った瞬間に、肩をバンバン叩かれ、滅茶苦茶祝福されまくり、フォルマさんはそろそろ子供が欲しいとか言っていた。
なんか島は居心地がいいらしいので、ここでなら子作りは色々と問題はないとの事。そりゃその辺の村に比べたら、色々と充実はしているし、衛生環境も悪くはない。ただ、常夏なだけだし。
「家族思いですねー。心配事が多いかもしれませんが、走れば直ぐですので落ち着いて下さいね。昨日もミスが多かったですよ」
「申し訳ございません。自覚はしてますが、こう見えてかなり家族思いなので。これが奴隷の購入予算と、ノーラさん達を快復させた過程を書いたマニュアルです。ミスがないか確認をお願いします」
「家族思いなのは今更ですよ。今までの事を見てればわかります。けど子供が産まれたばかりで、色々と心配事があるのはわかりますが、執務室にいる以上は、父ではなく、代表としてお願いします」
「はい、わかりました……」
ウルレさんに小言を言われる様になり、苦笑いをしながら書類を渡し、会社からお金を預かる。今回はコランダムで奴隷購入を考えている。
セレナイトで買うと、どこで誰に見られてるかわからないからね。
そしてパーラーさんとアドレアさんに声をかけてから、コランダムのコーヒー屋に転移し、カウンターに座りながら他人の会話を盗み聞き、マスターと世間話をする。
ってか昼前でご婦人が多すぎる。どんどんお茶する人が増えてきてない?
「特に目立った噂話とかはないですね。ただ、ラズライトの隣国との同盟を一時的に解消し、隣国から多く貰っていた、戦争する為のお金をもらうのを、止めたらしいですよ」
「ラズライトが金をもらって、代表で魔族と戦争をしていましたからね。一時停戦状態で、しばらく小競り合いもない。なら不要という事で、内容を見直すのでしょう。ある程度戦争していなかった時期のお金も返してそうですね。税金とかはどうです?」
「まだ上がってないですね。いつもの」
マスターと話していたら後ろから聞き覚えのある声がし、隣にニルスさんが座った。
「噂は聞いていますよ。化粧品を遊び半分で作ったら、なんか大変な事になってるって」
「人族の間でも話題になっていますか……」
遊び半分って……。確かにノリで作って、広めちゃった感は強いけどさ……。
「商人の間でですけどね。手に入れる事ができ、効果がわかれば、同じ重さの金と交換ってなっています。まぁ、私は島の倉庫の職員からも情報は入りますので」
銀貨で買えるのに、同じ重さの金ってどうよ? こいつはヤベェな。
「ってか、遊び半分ってのは否定しないんですか?」
因みにカウンターの声は、ご婦人方の笑い声もあるので、多分マスターくらいにしか聞こえていない。
「……微妙な線なので、何とも言えません」
「これはこれは……。まぁ、製造方法とかはうちの職員も知らないみたいなので、その辺はご安心下さい。むしろ知ってたら、とっくに人族側に出回ってるでしょうね。で、こっちにはいつ出回ります?」
ニルスさんはコーヒーを飲みながら、ニコニコと言っている。最初期なら儲け話に繋がるからな。
「年越祭後には増産体制が整い、数は増やせますが、人族側に卸す数には圧倒的に足らないと思います」
「そうですか……。残念です。カームさんから買い、高いうちに売りつけ、儲けの五割ほど渡そうと思ったんですけど」
「スパイが来たり、そのスパイを無傷で送り返したら、セレナイトの蒸留所前に拷問死状態で嫌がらせとして転がってたんです。今は敵を増やす事は考えられません。それこそ魔族側の貴族にしか出回ってないのに、どうやって手に入れたのか、誰が買ったのか、何で買えたのか。その辺を突き詰める為に、ニルスさんが危険な目にあうかもしれません。そのくらい貴族の中では必死になっています。知り合いの貴族の自制の効く、元メイドの奥さんが、欲しいって思う程度の物ですよ?」
「それはそれは……。内緒で二個三個って訳にはいきませんね。貴族には美貌を手に入れる為なら、結構無茶をする人が多いですからね」
「ニルスさんに奥さんがいても、譲れない程度には……。もし奥さんがうっかり話しちゃったら、この町から裸足で逃げる事になるかもしれませんし」
「本当にヤバイ状況になる物なんですね。伝手でって訳にはいきませんか」
ニルスさんはため息を吐き、コーヒーを飲みながら机を指でトントンとやり始めた。
「小遣い欲しさに手を出す物じゃ、なくなってるんですよ」
俺もコーヒーを飲み、ニルスさんより大きなため息を吐く。人族側に流れたら、それこそヤバイ状況が二倍に増える。
「で、話は変わりますが、この町に奴隷を扱ってる商店ってあります? 場所を教えて欲しいんですけど」
「もちろんありますよ? 私の商会を通り過ぎ、港の一番奥です」
「そういうのは一番端なんですね。セレナイトでもそうでした。町全体を探索してませんし、今まで興味がなかったので……」
「まぁ、最近は風当たりが強いですが、需要はありますので……。もしかして奴隷を買うのは機密保持の為ですか?」
俺はニコニコとしながら、人差し指を立てて口に持って行き、それ以上は聞くなと目で訴えた。
「そう言えば、いつも昼食後に来るのに、今日は早いじゃないですか。どうしたんです?」
そしていきなり話題を変え、この流れをなかった事にした。
「仕事の取引先と打ち合わせがありましてね。早めの昼食です。なので今ここに来ました」
ニルスさんもその流れに乗り、一応合わせてくれたので、世間話を続ける事にした。
「では、また何かありましたらよろしくお願いします」
「えぇ、こちらこそお願いします」
俺はニルスさんと一緒に店を出て、店の前で別れる事にした。そして港のさらに奥に行く途中に、買い出しに来ている、うちの船があるのを確認し、なんか雰囲気が一気に変わった区画に足を踏み入れる。
「この空気、嫌いなんだよなぁ。スラム一歩手前な感じで。会田さんが頑張ってるのに、手の届かない所はやっぱりあるんだよなぁ……」
そう独り言をつぶやきながらどんどん奥に行き、それっぽい店の前に立つ。
覚悟を決めるか……。
そう思いながら店の中に足を踏み入れる。
「おやおや、魔族のお客様とは珍しい。いらっしゃいませ、どの様な奴隷をお求めで?」
「一番安い奴隷を四人、もう一人は年上で、その安い奴隷と仲が良く面倒見がいい奴を。そいつの値段は多少高くてもいい。問題は四人がなついているかだ」
そう言うと奴隷商人は、顔色を変える事なく笑顔のまま頷き、店の奥に消えて行った。
やっぱり使い道がないのか、連れて来られたのは痩せた少女で、全員が魔族だった。なんで魔族側の大陸に人族の奴隷がいて、こっちは逆なんだよ。同族じゃない方が心情的に使いやすいのか?
そして全員に、前回買った奴隷の様な事をして、ある程度障害がないかを確かめ、ついでに奴隷商人に販売許可証みたいな物があるかどうか聞いたら、色々署名や判子がある紙を出してきたので、一応許可は取ってある真っ当な店らしい。後は扱いの改善だけだな。今度会田さんに言っておこう。
そして目の死んでいる、怯えた奴隷を連れて船まで向かい、とりあえず船員に訳を話して船に上げると、なんか転移する前に船長から飴をもらっていた。俺も持ってきとけばよかったわ……。
ってか船長も変わったなー。
甲板で転移魔法を発動して島まで戻り、今日は休みにしてあるノーラさん達と顔合わせをしておく。
「とりあえず君達と同じ奴隷だった子達だ。皆いい子だし、収穫祭前に買ったけど、先輩後輩、年齢とかは関係なしに仲良くしてくれ。んじゃ腕輪が付いてる腕を出して」
俺は新しく買った奴隷をイスに座らせ、鍵穴になんか持ってちゃいけない道具を差し込み、簡単に外した子から、どんどんパーラーさんとアドレアさんに任せる事にする。
「はいはーい。まずはお湯で体を拭いてからご飯にしますからねー。早くしないと、お昼ご飯に間に合いませんよ」
「けど、お腹が空き過ぎている状態で、たくさん食べると死んじゃうので、最初のうちだけは薄いオートミールで我慢してくださいね」
「大丈夫。皆優しいから安心してね」
そしてエレーナさんも参戦し、もう大丈夫だと思いながら鍋の中のオートミールを味見し、水で溶いた塩を少し足しておいた。
「で、あの子達って何系の魔族なんですか? 特徴がなさ過ぎてわからないんですが」
奴隷達にご飯を配膳している時に、パーラーさんに廊下に連れ出され、そんな事を聞かれた。
「買った時の書類を見ましたが、混ざり過ぎてなんだかわからない。が、答えです。親の同意書みたいなのもありました。俺も祖父母を知らないので何とも言えませんが、父がリザードマンで、母がサハギンなのでこんな見た目です。この子達はもしかしたら望まれないで、できた子かもしれませんので、その辺は気を使ってあげて下さい」
「わかりました」
パーラーさんが返事をして、羊の角が片方しかない子や、目付きが鋭く、猫だか犬だかわからないような子を悲しい目で見ている。
「同族じゃない方が使い潰しやすいんですかね? 停戦になり、多少は治安とか良くなっているとは聞きますが、やっぱり奴隷って需要があるのか減りませんね」
「奴隷を守る法が、もう少し改善されないと、こういう子達が増えるでしょうし。死んだら裏路地か海や防壁の外なんでしょうね。本当難しいです。では、配膳も終わったみたいなので、ご飯にしましょうか」
俺はコルキスの事で昼食を食べに家に帰りたいが、会社勤めのお父さんが昼前に子供に会えない事を考え、一食くらいはって気持ちで、家に帰るのを我慢した。
「ごめんね。先に来てた五人も同じ物を食べてたから、これで我慢してね」
俺は笑顔で言うと、一番年長の子が軽く頭を下げただけで会話すらなかった。この子達は、表情が明るくなるまで、前の五人よりは早いと思うけど、数日は難しいかな。
「はいはい。そんな顔をして食べても美味しくないですよ。笑顔で食べちゃいましょう!」
他の女性達も、奴隷と同じ薄いオートミールを食べ、自分達を買った人が同じ食事を食べている事を見せたり、一応気を使ってはいるが、初日はやっぱり厳しいか……。
因みにノーラさん達五人は、別の部屋で食事だ。食べている物が違うので、一応見せないようにしている。じゃないと常食を食べたくなるだろうし。
そしてなるべく会話をしようと話題を出すが、あまりいい反応はない。けど無言よりはマシだと思いつつ、地雷を踏まない様無難な話題を出し、昼食を食べ終わらせる。
そして北川の所に行く前に執務室に帰り、今日買った奴隷の事を戸籍管理の綴りに書き、証明書と奴隷の腕輪を棚にしまう。
「最悪この三倍、四倍くらいまで増えるかもな……」
そう呟き俺は棚を閉じ、第四村に転移をした。




