第275話 収穫祭で罠にかかった時の事
あれから数日。収穫祭本祭という事で、俺は朝からトマトを毎度の事の様に刻んでいた。唯一の救いは、目の前にスズランとラッテがいる事だ。
毎回の様に故郷でも力仕事をしているスズランだが、流石に今回は下準備をしている。本当助かる。精神的に!
「カーム君。こっちでもこんな事してるの?」
ラッテは玉ねぎを刻みながら、なんか少しだけ眉を寄せて俺に聞いてきた。
「まぁね。俺は偉くないって事になってるから、頑張ってこうして下準備をしている」
偉そうなそぶりが嫌いなんだし。
「力仕事の方が面倒が少なくていいのに」
スズランはベーコンのチーズポテト包みの方を見ながら、トマトをザルの上で握りつぶし、皮を捨てるの繰り返しをしている。
「いや、それも十分面倒が少ないからね?」
そして物凄くご機嫌な、奴隷だった子供達も下準備に参加してくれている。
「カームさん、なんかいつも以上にお肉がいっぱいありますよ!」
「あんなお肉の塊見た事ないです」
「パスタも凄いよ」
「あのサンドイッチ美味しそう」
「お祭りだからね。君達の体調が戻ってくれてよかったよ。アントニオさんが、今日は沢山食べても良いって言ってたから、どんどん食べちゃっていいからね」
俺は子供達にニコニコとしながら言い、スズランやラッテの方を見ると同じような顔になっていた。
「なんか一気に娘が五人増えたみたいだ」
俺は黙々と作業をしていたノーラさんの方を向き、笑顔を作ると、スズランもラッテも笑顔になる。
「騒がしくて申し訳ありません。前日に言い聞かせていたのですが、やはり誘惑には勝てなかったみたいです」
「いやいや。まだ小さいですし、こんな経験した事はないと思いますので仕方ないです。ある程度仕込みが終わったら、五人で楽しんできていいですよ」
「ありがとうございます」
ノーラさんは微笑みながら言い、島に連れて来た当時には想像もできない表情だ。
「んじゃ、ちょっと各村の様子を見て来る。あ、一応毎回恒例だから」
ある程度の作業が終わったので、一声かけて見回りの準備をする。
「別に言い訳じゃない事くらいわかるわ。カームはやる時はもう少し上手く誤魔化す。執務室でこっそりお茶を飲んでたりするみたいに」
「そうそう、そんな堂々と言わないもんねー」
「いやー、あんなのサボりじゃないさ。息抜きだよ。文字を書く速度を微妙に遅らせたりして、もう少し巧妙にやるさ。そして少し時間が足りないかなーって感じにして、区切りが良いから早く終わらせる。時間が来てから、手を付けてたのが終わるまでとかだとなんか面倒じゃん?」
「カームさん。それ、よくわかります」
偶然通りかかったウルレさんがそんな事を言ってきた。
「いやいや、ウルレさんは一応形式上上司の俺に言っちゃ駄目でしょ」
そう言ったら、俺とウルレさんだけが笑い、遠くにいたルッシュさんが変な目で見ていた。あの人真面目過ぎでしょ……。
第二、第三村と回り、前回行きそびれた第四村を最後にして、少し楽しみに転移をしてみた。
うん、ハロウィンだコレ。
品種改良されたクソデカいカボチャをくり抜き、なんか小さい松明を入れてるし、子供達はなんかブカブカの鎧とかローブを着て仮装している。
けどなんか、お菓子をどう絡めて良いのかわからなかったのか、普通にテーブルに乗っている。
「ほら、お菓子作りが上手い魔王さんだぞー。ねだれねだれ!」
そして俺に気が付いた北川が、指をさしながらそんな事を言い、大きめの衣装を着た子供達がヨタヨタと歩いてきた。
「「「まおーさん。おかしつくってー」」」
キラキラとした目で見られて頼まれたら断れねぇよ……。ってか北川の顔を見る限り確信犯だなこりゃ。
「あいよー。なんか作っから待っててくれー」
テーブルの上に置いてあったカボチャを二個だけ手に取り、家の中に入っていく。時間短縮の為にカボチャを細かく切り、【熱湯】を鍋に入れて煮込み、見た感じ一番年上そうな男の子に、このカップ一つに、ラクダのおっぱいお願いします。って頼んで来てと言いつつ、布の上に乗せて、粗熱を飛ばしつつ表面の水分も飛ばす。
途中からフォルマさんも入ってきたけど、この人はただ単に作り方を見ているだけっぽいので、とりあえず続ける。
そして細かいザルを使って裏ごしして、焼き芋みたいにじっくり温度を上げていないので、本来の甘さが出ていないカボチャに、卵黄と蜂蜜を足して練り、丁度戻って来た男の子からラクダの乳を受け取り、少しずつ入れながら混ぜ、ベタベタする柔らかさになったら油を塗った鉄板の上に、スプーンで掬って落としていく。搾り出し袋なんかないから仕方ない。
そしてそれをオーブンに突っ込み、良い感じで焦げ目ができたら取り出し、粗熱を取って一個口に放り込んだ。
「うん。まぁまぁ。バターが欲しかった。だいじょーぶだ! 皆食べていいぞー!」
そう言った瞬間に子供達がお菓子に群がり、美味しそうに食べていた時に酔った北川が入ってきた。
「子供達の面倒見させて悪かった。後でフォルマが作ると思うから味見を頼む。それと客だ。商船が港に入ったってよ」
「あぁ、確かに定期船は今日だったわ。その船はついてるな。島の収穫祭なんだから楽しんでもらおう。んじゃまおー様は、お仕事があるからまた今度な」
とりあえず全員の頭を撫でつつ、外に出て転移しようと思ったら、北川が俺がなんとなくで作ったお菓子を食べて、おー……ってな顔になっていた。酔ってるから糖分でも欲しかったんだろう。
□
「いやー申し訳ありませんでした。少し外してまして」
第一村に転移し、俺は急いで応接間に行き、お茶を飲んで待っていた顔なじみの商人さんに挨拶をする。
「いえいえ、問題ありませんよ。にしても良い時に来ました。収穫祭をやっているんですから」
「そうですね。丁度重なって良かったです。もしよろしかったら楽しんでいって下さい。但し――」
「ピンク色の髪の女性には触るな。でしたよね」
商人さんは、俺が言い切る前にそう言った。わかってるじゃないか……。
「えぇ。何回も来てますからね。けど一応注意だけは……」
「ですよね。なんか危ないらしいですし。噂は色々と……」
そしていつもの商人さんが語尾を濁らせる。どんな噂かは知らないけど、とりあえず危険だから関わるなって感じか。
「とりあえず慰労とか日頃の感謝って事で、ベリル酒を小樽一個ほど酒を出しますので飲んでいって下さい。もちろん料理も」
小樽でも二十リッター近くあるし、多分足りると思う。正確には知らないけど。
「酔っちゃえば所かまわず、その辺にある酒とか飲んじゃうんですけどね」
「そうなんですよねー。離席してる人の席に座り、半分ほど瓶に残っている酒を、自分の持っているカップにダバー。宴会あるあるですね。では、荷積みが済んだら参加させていただきますね」
「はい。楽しんでいって下さい。お酒は別途用意しておきますので」
俺はいつも通り握手をして商談を終わらせ、増えた船員分の料理の下準備を一人で追加する。
そしていつも通り収穫祭は盛り上がり、姐さんの飛び入り参加で絡まれるが、珍しく犬耳のおっさんが俺の隣に座った。
「カーム。工業区を、森側から回り込んで見学してる男が一人いるぞ。狼からの情報だから確実だと思うが、人気のない所でフルールに聞け」
「……わかりました。今向かいます。おっさんは狼達に近付かない様に言い、皆さんと同じようにしてて下さい」
俺は姐さんの酒に付き合っていたが、その話題が出た瞬間にいつもとは違った真剣な顔つきにする。
すると姐さんが、傾けていたカップを少しだけ止め、真面目な目で俺を見ていた。この人は耳も良いからなぁー。
「すみません。ちょっと掃除してきますね」
「えぇ、私には関係のない事だから、お好きにどうぞ。その前にシュワシュワするお水と、氷だけお願いね」
手の平を上に向け、笑顔でどうぞどうぞってな感じで言って来るが、最後のがなければかなり締まった気もする。姐さんすんごい真面目顔だし。本当どこまで知っているんだろうか?
「……何かあったらフルールに言って。村人総出で行くから」
「誰かを頼るのも大切だからね?」
スズランとラッテにも、もちろん聞こえているので、麦茶を飲んでいた手を止め、一言だけ言ってきた。引き止める時間も煩わしいって思われているのか一言だけで済ませてくれた。
俺は急いで自宅に戻り、クローゼットから黒い服とタオルを取り出し、フルールさんに話しかけた。
「今は錬金術師の工房付近よ。あの畑に植えてある個体で見たから」
「ありがとうございます」
俺は上着とズボンを脱ぎ、ろくに装備を付けず、ナイフとバール、縄と袋だけを持ち出し、見た感じこっちの方が圧倒的に不審者ってな装備で飛び出した。ってかハロウィンだから色的にブギーマンっぽいなコレ……。
侵入経路はアピスさんの工房裏手、色々調べながら工業区の中央に来たら捕獲でいいか。
そんなプランB的な思考をしながら、かなり暗いが、それでも多少はある月明り。そしてそれでできた建物の陰を走り、アピスさんの工房の正面が見える場所まで移動するが、ロウソクの火が消えない様にする為の、ガラス部分が小さい缶ジュース程度のランタンを持ち歩き、最小限の光源で探索しているらしい。
ってかアピスさんの工房明かりついてるな……。あ、一応窓から覗くんだ。そしてなんか首を捻りながら次の工房に向かった。何があったんだ? 凄く気になるんだけど……。
ってかガラス窓じゃないし、熱帯で開けっ放しだから見放題なんだよな。
そして男は何件かの工房を覗き、一応用意しておいたダミー用の工房にあたりを付けたのか、ドアを押して入ろうとしても開かず、何か道具っぽいものを取り出して鍵穴に突っ込んでいる。
そこだけ窓も開かないし鍵がかかってるから、クソ怪しいよね。けどそれっぽく作った石鹸工房予定地の倉庫なんですよ、ソレ。
そして鍵と格闘中、俺はなるべく男に近づき、開いたのか、ゆっくりとドアを押した瞬間に大きな音が鳴り、かなり驚いている。
油を点してないし、遊びとかなくしたドアだから凄く鳴るでしょソレ。そしてそのご褒美は、大量のカルツァ家の紋章の入った、梱包用の空の木箱。当たりっぽいでしょ? 残念外れです。
俺は後ろから近づき、首を絞めて落とし、口に布を突っ込んで袋をかぶせようとしたが、慌ててたので布を忘れた事に気が付いた。
いいや、小さい石でも入れるか。叫べなくて舌を噛めないならいいんだし。コイツに俺のハンカチを使うのももったいない。暴れられてあばらに肘を食らったしな!
そして袋をかぶせて縛り、イスに座らせてから後ろで手も縛って、足も縛り付けた。
袖に中に刃物なし、わきの下や足首、その他色々な場所の身体検査を済ませた。一応縄を切る道具はないと思う。
「さて……どうすっかな……。多分船長も商人も酔ってるし、明日でいいか」
俺はイスと一緒に引きずって運び出し、一応ドアのカギを閉めてから、人目に付かない様に応接室に運び、フルールさんとパルマさんに監視をお願いして、着替えてから祭りに戻った。
「あらおかえり。思ってた以上に早いわね」
「えぇ、罠に引っかかってくれたので楽でした」
俺は椅子に座り、冷めきった麦茶を一気に飲み干した。
「で、どこにいるのー? ごーもんするの?」
「殴って吐かせる?」
「いやいや、そんな乱暴な事はしないよ。明日朝に、船長と商人さんを応接室に呼び出して、話を聞くだけ。監視は二人いるから平気でしょ。気にしないでお祭りの続き続き」
俺は手を叩き、半端に残っている瓶から酒を注ぎ、それも一気に飲み干した。二人が出産して乳離れするまでは、飲むまいと思っていたが、状況が状況なので、気分だけでも飲んだ事にする。
ってか嫁の思考が怖いです。なんでそんな言葉が出るんですかねぇ? スズランに至っては、なんか握り拳を作って、首をかしげてたし。もしかしなくても自分でやる気満々だった? 胎児に影響が出そう。
ってか暴力とかをストレスと思ってないの? 俺には無理だね。
◇
翌朝、二日酔いの商人さんと船長を執務室に呼び出し、ドアを開けた瞬間に物凄く驚いている。そりゃそうだ。いきなり拘束された男がいるんだから。
「早朝から呼び出して申し訳ありませんでした。昨日はお楽しみいただけた様で何よりですが……。これ、知ってますよね?」
俺はカルツァ家の紋章が入ったクリームをテーブルから取り、二人の前に出す。
「えぇ、噂なら知ってます」「知らん」
二人の声が重なった。商人さんなら知ってるか……。
「知らない船長に一応説明しますが、最近うちで作った化粧品です。ここの島を持ってる貴族経由で宣伝してもらったら大人気で、まだ貴族の間でしか出回っておらず、位の高い方でも入手困難となっております。ここからが本題です。秘密を探ろうとセレナイトを嗅ぎまわっている輩を最近よく目にし、実際に処理された奴が二十人を超えました。そしてここ最近島にも来る様になって、対策をしていたんですが……。こいつ。知ってます?」
そう言って俺は首の紐を外し、かぶせていた袋を取ると、船長が何かを思い出す様に眉をひそめた。
「そいつは飛び込みで入った新人だ。賭け事ですっからかんになって、安くても良いから働かせて下さいって理由で来た。飯が食えて寝れれば生きられるし、船の上じゃ金が使えないって喜んでたから覚えてる」
「そうですか……。この方が昨晩祭りの最中を狙い、ほぼ無人の工業区をうろうろし、鍵のかかっているとある場所に入ったので捕まえました。こんな気候ですので、工房系は東屋や壁が三面しかなかったり、風通しが良かったりするんですよ」
「そうか。金目の物があるって思ったんじゃねぇのか?」
俺は男が持っていたピッキングの道具を船長に手渡した。
「素人が、金目の物欲しさにこんな物持ってると思います? 最悪金目の物なんか、その辺の工房に入れば取り放題ですよ? 問題はなんで鍵のかかっている場所にだけ入ったかですよ。物資収集所は港付近なのに。ってな訳で本人に聞きますね」
俺は口の布を取ると、男は直ぐに石を吐き出した。そこまで大きくないし、歯とかは問題ないか。ってかなんでそんな顔で俺を見るん? 布じゃなかったから?
「あの中で特に厳重だから、金目の物があると思ったんだよ!」
「ならこれの説明を。説明できなければ、町の衛兵に、過去に泥棒もしていたって事で突き出しますが?」
俺は船長からピッキング道具を返してもらい、座っている男の太ももの上に放り投げた。
「そ、それは……」
「はぁ……。こいつ、預かっていいか? ちょっと個人的に聞きたい事ができたわ。庇うなら取引停止と、補給の為の停泊禁止にするつもりなんだが?」
「え、えぇ……私は構いません」
「せ、船長は船員を守る義務があるが、犯罪を犯したらどうにもできねぇ。身元もはっきりしてねぇ流れっぽいしな」
少し声を落とし、目を細めて笑顔で言うと、二人共引き吊った笑顔で答えてくれた。
「ありがとうございます。今後もアクアマリン商会をご利用下さいませ」
そしていつもの口調で笑顔で言い、二人を船まで見送った。
「おいお前、簡単に見放されたな。とりあえず尋問するから」
そして俺は男に近寄り、転移陣を展開して第四村に転移した。
第四村に転移したが……。なんか後片付けは後でいいや派なのか、かなり洗い物でゴチャゴチャしていた。そして北川を探そうと思ったが見当たらず、外に出ている村人が少ない。もしかしたら今日は休みにして、もしかするかもしれないので、北川の家の前で出てくるまで待機させてもらった。
それから爽やかな顔で北川と、なんか肌の艶が増しているフォルマさんが、家から仲良く出てきた。昨夜はお楽しみでしたね。待機時間? カフェで一服できそうな感じかな。今は太陽の位置的に九時くらいじゃない?
「おい、どうしたんだそいつ!?」
自宅から出た瞬間に、拘束された奴がいればそうなるよな。
「昨日の客に紛れてた、ピッキング道具を持った泥棒。祭りの最中に人気のない工業区を物色してた」
そして北川と話し合って作った鍵のかかる、ダミー用倉庫の事を話した。
「あーはいはい。理解したわ。んじゃ教材って事で全員連れて来るわ。海岸に運んでおいてくれ」
「あいよー」
俺が男を運び終わらせると、北川が訓練中の二十人を連れて来たので、とりあえず経緯を全て説明した。
「以上だ。これから尋問を行う。いいか? 俺の質問にだけ答えろ」
そう言って口の布を外し、テーブルにあった布巾を取り出してやる。石じゃないだけマシだと思って欲しい。
「雇い主は誰だ?」
「そんなのいない。俺はタダのどろぼ――」
「俺が聞いた事だけを答えろ。拷問に切り替えてもいいんだぞ?」
そして俺は男の言葉を遮り、その事だけを言った。
「質問が最初から核心に寄り過ぎてたな。まず名前からだ。直ぐ思いつく偽名でもいいさ」
俺は高圧的な態度を止め、かなりハードルを下げて、いつ、どこで、だれが、なにを、どのように、を心がけて質問を始める。
「さてフィー。このまま君の言った事が本当だとしよう。そうしたら俺は君をセレナイトに連れて行き、衛兵に突き出す事になる。しかもクリームの製造方法を探りに来た奴ってのを言うだろう。あそこの貴族は、執務室で話した通り、もう二十人以上君みたいな疑わしい奴を処理をしている。酷い拷問をされて死ぬまで喋らないか、ここで本当の事を喋って死んだ事にして逃げるか。賢い君ならわかるよね?」
尋問の経験はないが、とりあえず映画とかを手本に、優しく語り掛け、言った事は全てメモを取る。
「あ、あぁ。わかった、言うよ。言うから助けてくれ」
そう言って男は喋り出したので、もう一度丁寧に質問をし、メモを取る。一応言っている事はさっきと変わらない。
そして商人と船長を送り出した帰りに、アピスさんの工房に寄ってもらってきた、前々から作ってもらったファンタジー成分満載の、強力な幻覚剤を布に染み込ませ。笑顔で口と鼻を塞いだ。
そして目が虚ろになり、空にある何かを見たり追ったりし始め、笑い始めた。
「さてフィー。拷問って嫌だよね。何か楽しい事でも思い浮かべようか。空に何が飛んでるんだい?」
「あー? なんかでっけー牛が飛んでるんだよ。あんなの見た事もねぇよ」
「牛かー。そいつは楽しいな。ところでフィー、君はどこから来たんだっけ?」
「あ? さっきも言っただろ。俺は――」
ふむ、さっきと言ってる事が違うな。
「誰にこの仕事を頼まれたって言ったんだっけ?」
「おいおい、お前は頭がいいって聞いてんのに、物覚えがわりぃクソ野郎だな。もう一回言ってやるよ――」
おーけぃ。雇い主がわかった。直属に指揮してる系か。
「フィー。どうやって祭りの日を知ったんだい?」
俺は一応偽名で質問を続け、もう少し情報が手に入らないか試してみる。
「何人も使ってアクアマリンに寄ってー、人族の大陸に行く船に乗ったんだよー。そして向こうとこっちで情報の交換をしてー、この前収穫してたから収穫祭が近いなーって。だからさらに数を使って俺みたいに、短期労働で船に乗り込むんだ」
「そうかー。裏の仕事も大変だなー。ところでフィー、君はどこから来たんだっけ?」
「あー? さっき言わなかったっけ? 俺は――」
ふむ、二回目の質問も後に言った答えか。精神的に開いてるから、こっちの方が正しいかもな。
「ところでフィー、給料はどうなの?」
「危険が多いのに、その辺の奴より少し良いだけで、成功報酬が上乗せだよ。正直やってらんえーおー」
「んー舌が回ってないね。飲みすぎ? 奢ってあげるから、もう帰って寝なよ」
「うっせー、俺はまだ飲めるわ!」
「はいはい。今日はもう飲むの止めような」
そう言って俺は、二つ目の薬を取り出し、蒸発皿に少しだけ垂らして【火】で炙り気化させ、気絶状態にさせる。
「さて、拷問と尋問だけど、苦痛から逃れようとする為に、嘘を言うかもしれない事とか、こまめにメモを取って矛盾点を突いて、精神的に追い詰めるかとか色々ある。望む答えが出てくるまで殴り続け、お前あの時はいって言ったよな! とか。悪い兵士と良い兵士みたいな感じで、怖い人に脅され優しくされて安心させるとかね。今回は試験的に幻覚剤を使って、頭を酒の飲み過ぎ状態にしたけど、倫理的にはアウトかもしれない。けど拷問するのが嫌とか、労力を考えると楽だよね。あ、後遺症とか常習性はないし、精製にもピルツさんに頼んで、島にない特殊なキノコ作ってもらったりで、簡単に作れない様になってるから安心してね」
俺が笑顔で言うと笑顔をひくつかせ、誰も何も言わなかった。
「おい、手慣れ過ぎじゃねぇか? 今までに経験でもあんのかテメー」
北川の口調がヤバイな。薬を使ったからか? それとも上手く行き過ぎたからか?
「いや、とある情報からヒントを得て、それが事実かどうかを判断し、錬金術師に相談して、意識が朦朧として、精神の解放ができるかどうかとか色々だ。言いたい事は山程あると思うが、手段は選んでられない。今は我慢してくれ。こいつを拘束した状態で、ベッドに寝かせて見張ってて下さい。俺はこのメモを持って貴族様に報告してきますので」
そう言ってパルマさんに話しかけ、来ても平気と言われたので転移をした。まぁ、ドラマとか映画、漫画って単語は皆の前じゃ出せねぇよ。




