第274話 前夜祭でなんか愚痴られたっぽい時の事
稲刈りを手伝わされたから麦もそろそろかなーと思っていたら、雨が降って湿ってしまったので数日だけ収穫が伸びた。まぁ、こんな事もあるよな。
そして第一村の人族のおっさんが、おもむろに生えていた麦を引き抜き、生でカリカリと噛みはじめ、これなら問題ないという事で収穫が始まり、最低限の執務をして手伝う事になった。
全く動かないのも駄目という事で、スズランもラッテも負荷のかかりにくい簡単な事を手伝うが、俺の方が気が気じゃない。妊娠何週目まで運動が良かったのか詳しくないし。
それでもあの有名なお〇んの話を知っているので、動かない事の方が妊娠時に辛いっていうのはわかっている。
「無理しないでね?」
「わかってる」「はいはーい」
スズランは頭にタオルを巻き、島に来て丸太を運んでいた時の様な恰好になっているので、安心はできない。なんか進んで重い物を持ちそうで本当に怖い。多分周りが気を遣うと思うけど、目を離したら何かを持ってそうってのがスズランだからな。
そして刈り入れが始まり、俺が魔法で切っていくと他の人達が拾っていき、纏めてから布の方に持って行き、広げた布の上で脱穀している。米と違って簡単に脱穀できるのは良い事だ。
そして何気なく見ていたら、スズランがゴミ袋をゴミステーションに持って行くような感じで、麦袋を持って運び出した。
「待って! 何やってるの!?」
俺は急いで止めて聞いてみた。
「麦を倉庫に運ぼうとしていたところだけど?」
一体カームは何を言っているの? みたいな目で見ないで欲しいんだけれど?
「いや、力があって軽く感じるけど、一応普通では重いに部類される奴だよ? 二袋でラッテくらいの重さなんだよ?」
「ん? だから?」
「いやいやいや、世間一般では重いに入るの。だからお願いだからそれだけは止めて! 持たないで。お腹に力入れないで、腕だけでもてるかもしれないけど本当に止めて!」
俺は必死に懇願した。もう子供はある程度形になっているかもしれないけど、流産のリスクだけは絶対に避けたい。
「あ、うん。ごめん。いい訳かもしれないけど、二回目の妊娠で少し気が緩んでた」
「あー。うん。こっちもきつく言い過ぎた。ごめん」
そんな事があったが収穫は終わり、第一村でも収穫祭の前夜祭みたいな感じにはなる。
ラッテ? 別な場所で大人しく脱穀した麦を袋に詰めてたよ。だから注意できなかったんだね。
□
「ノーラさん、他の子供達の事を頼んでいいですか? こんな雰囲気ですので、はしゃいじゃう可能性もあります。なので極力目を離さないようにお願いします」
「はい、わかりました」
多分だけど、こういう事はほぼ経験がなさそうなので、一応女の子達に注意だけはしておく。経験はしてても、多分小規模な感じか、家族だけで少し良い食事だけだと思う。だって……ねぇ? 第二村の最初期なんかそんな感じだったし。
そして今日は家族で食事せずに、村の広場で、ほぼ全員集まってとる事が多い。まぁ、いない奴は森にでもいるんじゃないんですかねぇ? 子供は近づけさせないつもりだけどさ。覗かれる可能性もあるんだよなぁ……。
そして俺達家族は、キース一家と一緒に食事をしている。
「パトロナ。あーん」
「あー」
キースがパトロナちゃんに離乳食を与えているのを見て、俺はホッコリとする。年を越せば一歳だから十ヶ月くらいだろうか? 一定期間までは普通の乳児と変わらないけど、二歳くらいからの成長が魔族は早すぎるからなぁ……。
リリーなんか三歳頃には、家の前をこれでもかと言うくらい駆けまわってたしなぁ。
俺の記憶もそのくらいから物凄くはっきりしてるし。
「んだよ。そんな顔で見んなよ」
そして恥ずかしそうにしているキースに、睨まれながら麦茶を飲む。
「いやー。いい父親になりそうだ。なんだかんだで面倒見も良いみたいだし、料理も少し覚えた。本当、最前線でツンツンしてた頃からは想像できないなぁ」
「うっせ。親父になれば多少は変わるわ。ってかお前は本当変わんねぇよなぁ」
「まぁな。誰かさんと違って精神的に大人ですから」
嫌味っぽく言いながら、ベーコンを敷き詰めた上に薄切りカボチャと、マヨネーズを乗せて焼いただけの、名前のない料理をつまむ。
うん、カリカリベーコンもたまにはいいな。
「このカボチャのポタージュ。キースが作ったんですよ」
「ほー。よかったでちゅねーパトロナちゃん。パパの手作りでちゅよー」
キースに抱かれていたパトロナちゃんに言うと、テーブルに置いてあった布巾が顔に飛んで来た。もちろんキースからだ。
「なんだ、家じゃ赤ちゃん言葉で話しかけないのか? 話しかけるのは発育に良いんだぞ?」
「知ってるわ。人前じゃできねぇだけだよ! お前も代表なんだから、人前じゃ気を付けろ!」
「怖いパパでちゅねー。もしかしたらパパが原因で、結婚できないかもしれないでちゅよー」
今度は木製の皿が飛んで来たので、とりあえず避けておく。
「ちょっとカーム君。皆が人前でソレができる訳じゃないんだから、あまりからかっちゃ駄目だよ」
俺はラッテに怒られ、スズランはベーコンだけを取って、モグモグと噛みながら首を縦に振っていた。
「知ってる。まぁ、これくらいできる仲って事で。で、故郷にはいつ頃挨拶に行くんだ? 大陸に春が来た頃か?」
俺は前々から聞いていた、帰郷の話を出してみる。折角の浮かれた雰囲気だからこそだ。
「あぁ、そうだな。俺の故郷は結構雪が降るからその頃だな。お前の子供が産まれ、父親してるのを見てからだ」
キースが悪い顔で笑っているが、多分それは無駄な事だ。俺はよその子供にもできる男だぞ? 自分の子供にだったら、三割増しだぞ?
「悪いが今パトロナちゃんにしたみたいに、上の子にもしてたから、からかっても無駄だぞ? 俺は人前でも平気で子供をあやす事のできる男だ」
そして真面目な顔で返す。俺はお前じゃないんだよ。
「うんうん。カーム君はベリル村でも平気でやってたからねー。キース君も気にしないでやればいいのにー」
「これは本当。子供が産まれたその日から、人目を気にせず良い父親をしていた。それこそ祭りの時とかでも」
「いいですねー。変に羞恥心があるから、キースは人前でできないんです。家ではやるんですけどね」
ラッテとスズランが言っている事が本当だというと、ルッシュさんもキースの事を話し始め、奥様的な会話を始めた。もう家族同士の付き合いになっているので、会えばこんな話題にもなる。
「なんだ。後で行くから、お前の赤ちゃん言葉を聞かせてくれよ」
そう言った瞬間、顔を真っ赤にしながら空のカップを投げてきた。怒りというより恥ずかしさからだろうな。
「おいおい、パトロナちゃんが泣くぞ?」
俺は顔面に飛んで来たカップを受け止め、それだけを言う。
「うっせ。とりあえずハーデさんに狼達の引継ぎはさせるから安心しろ」
……ハーデ? あぁ、犬耳のおっさんか。
「そういや、犬耳のおっさんとパーラーさんが見えないな。あー聞くだけ無粋だな」
猫耳のおっさんも、狐耳のおっさんも見ないしな。向こうは向こうで話し合って、俺と三馬鹿みたいに家庭でも持つんだろうか?
「はぁい、飲んでるー?」
そして姐さんが俺達家族のテーブルに来て、キースの隣に座って絡みだした。止めて下さい、妻子がいるんですよ! まぁ、俺もいるけどさ。
「いいわねー赤ちゃん。私も欲しいわー」
「姉ちゃんはもういい加減妥協しろよ。私より強い人が良いとか言ってると、後何回季節が廻るまで結婚できないと思ってんだよ。ってかその辺の幼い竜族でも拾ってきて、自分で鍛え上げろよ」
「あーダメダメ。長く子供の頃から一緒に住んでると、私の中では家族って括りになっちゃうのよ。長寿種はそういうの多いわよ? プラクスちゃんも母親が違うし。ってか父が別に弱くても良いや派だから、どんどん兄弟姉妹が増えちゃって増えちゃって」
「へ、へぇ……」
キースは姉ちゃんなんだ。家族に姉でもいるんだろうか? とりあえず後半の言葉は無視しておく。
「なら、家を分けたらどうです? クラーテルさんはこっち。育ててる子はあっちとか」
ルッシュさんがなんか真面目に答えている。確かに家を分けてれば問題はないだろうけど、一日の大半を、姐さんと一緒にいたら同じじゃないのか?
「んー食事の世話とか面倒なのよねー。メイドでも雇おうかしら?」
お? なんか乗り気だぞ?
「相手を散々鍛えて、お姉ちゃんより強くなっても、女性として見てもらえなかったら?」
そしてスズランがもしもの可能性を叩きつける。現実は非常である。そしてお姉ちゃんすか……
「そうよねー。頑張って育てても、相手がその気じゃなかったら駄目よねぇ。その分無駄になるし」
「私に勝てたらエッチさせてあげる。ってな風に、良い感じで性欲をコントロールとかどうです?」
何そのエロゲ的な発想。流石夢魔族だな。
「多分早々と無理と悟って、他の女に鞍替えするんじゃないかしら?」
「「「あー」」」
ルッシュさんの答えに、俺とキースとラッテがハモった。
「姐さんが強すぎるのが悪い。これが結論だと俺は思う……。そしてやっぱり妥協も必要ですよ」
「んー。ま、別にいいか。その内その辺で異常体の出現とかあるでしょ」
かなりのんびり構えてるけど、この人の寿命はどのくらいなんだろうか?
「そんな畑から、偶然生えるみたいに言わないで下さいよ」
俺は鼻で笑いながら言い、空になった姐さんのカップにかなり強いモヒートを作ってやった。
「あの時に、いい線行ってたオスがいたんだけどなぁー。討伐されちゃったのよねー」
なんか一気に場がしんみりし始めた。なんかこんな姐さんは珍しい。
「まぁ、その後怒り狂った私がそいつ等を焼き殺して、拠点にしてた街を焼き払ったから気がすんだけど。その後が大変だったのよー。もう人族の大陸で、共通の敵になっちゃってね。今まで戦争してた国同士の猛者達が手を組んじゃって、当時お気に入りだった山まで、百人くらい集めて討伐に来るのよ? 本当人間って面白いわよねー」
そして一気に喜劇的な内容になり、一気にモヒートを飲み切った。
「大体さー、なんで魔族大陸の国王が竜族じゃないのよー。そうしたら少しくらい妥協してたのに。強くても竜族じゃないと」
「姉ちゃんみたいな性格だと、多分国が崩れるからだろ? 姉ちゃんが強くても国王に指名されない理由ってそれだと思う。もしくは形だけで、他の偉い奴が国を仕切る事になると思うぞ? そういうのを宰相って言ったっけ。それに酒で国が傾きそうだから、放置なんだろ」
キースがそう言うと、俺を含む四人が頭を縦に振り、姐さんが何か少しだけ考え事をしているのか、口元に手を当てて左の方を見て黙ってしまった。
むしろ俺は、キースから宰相って単語が出てくる事の方が、驚きだけどな。
「確かに気にくわない事があると、手が出るわね。それにそう言う面倒な事はやりたくない」
「ほらな? だから強すぎる竜族は国王になれないんだよ。だから地道に探すしかないって!」
キースが空になった姐さんのカップに酒を注ぐと、それを飲まずに放置して、何か考え事をしているみたいだ。
「……そうね。長寿種と結ばれる異種族は多いし、もう少し気長に待ってみるわ」
「兄弟姉妹の子供はどうなんです? 禁忌にも触れませんよ?」
三親等的な考えか。もしかしたら可能性があるかもしれない。ナイスだルッシュさん!
「カームちゃん達なら知ってると思うけど、プラクスちゃんを見ればわかる通り、成長が遅いのよー。今生きてて、一番早く子供を産んだ妹でもプラクスちゃんと同じくらいよ? やっぱり同じくらい待つ様なら、血縁が殆どない方がいいわね」
どんな大家族よ。確か孫と一番下の子供が同級生ってのをテレビで見たな。
「はいはーい。この話しは終わり終わり。かなり不毛だし、俺達が生きてる間には多分無理っぽいから。姐さん、カップ開けちゃって。俺が酒を注げない」
「そうねー、珍しくしんみりしちゃったわね。んあー、はいお代わり!」
姐さんはキースの注いだ酒を一息で飲み切り、俺の方にカップを出してきたので、モヒートを作るが、パトロナちゃんをあやすのを見て、菩薩の様なアルカイックスマイルを作っておく。
姐さんもなんだかんだで、あんな事もできるんだなー。
「まぁ最悪、子供が欲しくなったらその時一番強い、異種族でも無理矢理にでも襲ってやるわよ」
姐さんが笑顔でそう言ったので、俺とキースはポカーンとした表情で止まり、スズランが微笑みながら、ラッテが超笑顔で、ルッシュさんは真顔で首を縦に振った。
ってかここの女性陣四人、力業の肉食系じゃねぇかよ。
姐さんってどっちも肉食系かよ!




