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第261話 思っていた以上に事態がやばかった時の事

作者の交渉術はほとんどないので、結構残念な結果になっております。

二話分書きました、同じ時間に次話が投稿される予定です。

 故郷に妊娠の報告をしに行った翌日、いつも通り机で書類を片づけていると、定期便でなんか凄い便箋に入った手紙が届いた。

「カルツァ家の紋章……」

 裏を見て俺は呟き、封蝋を剥して中の折りたたまれた手紙を開くと、小難しい事が長々と書かれているはずの貴族特有の手紙ではなく、ほぼ要点だけだった。

 この間のクリームの早期生産体制の確立。信頼できる部下を島へ移住。ガラス製造のできる施設の誘致、もしくはガラス容器の定期便での安定供給。とりあえずこの手紙を読んだら、全部売ってくれ。さっさと来い、そして話し合いましょう。目に留まったのだけでもコレだ。

「……なんだコレ。なんだコレ!」

 俺は手紙に目を通して固まった。もしかしなくてもヤバイ?

「どうかしました?」

 手紙を持って混乱していたら、ウルレさんが驚いた顔で執務室に入ってきた。

「見て! ちょっと梱包してくる!」

 主語が抜けているが、多分手紙を見ればわかるだろう。そして俺は旧自宅に走り、残りの半分の五十個のクリームの梱包を済ませた。


「カームさん。これどういうことですか!?」

 俺はクリームを運搬用の木箱に詰めていたら、ウルレさんが旧自宅にやって来た。

「知りません! とりあえず領収書! 一個銀貨一枚として四十個。そして化粧品代金として書いて下さい、写しも含めて二枚。ジャイアントモスの布だったか忘れましたが、即金でくれたので多分くれます。なんか俺の知らない所でやばい事になってそうな雰囲気がバンバンです! ちょっと重いのでここでテーブルやイスを端に寄せて転移します!」

「は、はい!」

 早口で必死に言ったらとりあえず返事をしてウルレさんが出て行った。本当にヤバイ気がする。

 あと十個くらい手元にあってもいいよね、コレ? だってセレッソさんの所にも持っていくし。


「んじゃ行ってきます。先ほどは慌てましたが、常に冷静でいろ。迅速かつ丁寧にという言葉を思い出し、検品してみたらちょっと雑でした。慌てさせて申し訳ありませんでした」

 俺は色々と隅に寄せた室内で、梱包を手伝ってくれたウルレさんに謝ってから転移をした。

 カルツァの屋敷前に転移をすると、門番がこちらに寄ってきた。まぁ、急だから話は通ってそうだな。

「中で主人がお待ちです。これは自分が運びますので、メイドについて行って下さい」

 そして門の方を見ると、少し歳を取った方の門番が開門していたのでそちらに向かうと、メイドさんが早足で入り口からこちらに向かってきていた。

「どうぞ。手紙を出してから外出せずにずっと待機しておりましたので、カーム様が来たら通せと言いつけられております」

「あ、はい……」

 そしてメイドさんの後について行くと、いつもの部屋でカルツァが机で何か書いていて、旦那がその紙を纏めている。絶対に面倒事だな。

「いらっしゃい。旦那にはあなたの事はもう話してあるから口調はそのままでいいわ。掛けなさい」

 顎でソファーを指されたので、とりあえず座る事にする。

「で、概要だけを手短にお願いします。残りは多分その書類を見て話し合う事になりそうですので」

「貴方の言う通り友人に配ったら、一回しか会った事のない自称友人が数名訪ねて来る事態になってるわ」

「理解しました……」

 つまりクリームの需要がクソ高いって事だな。考えが甘かったな。貴族社会舐めてたわー。美しさを手に入れるならなんだってやる世界か……。

 前世の海外じゃ、旦那の領地内に自分より綺麗な貴族階級じゃない女性がいたら、平気で殺されるよう時代もあったしなぁ……。この世界じゃどうかわからないけどな。

 俺はカルツァの旦那からできてる書類を預かり、一枚目をめくって少し流し気味に読んでいく。早期生産体制の確立は、まぁどうにかなる。配合量をきっちり数字化して、カカオバターと薬草エキス入りオリーブオイルの器の大きさを変えれば、ハンディキャップ持ちのイセリアさんだってできる。一対一で混ぜて下さいって言うだけだし。

 信頼できる部下。これは却下だ。情報が漏洩する。信頼できても信用できないなら最初から使わない方がいい。

 問題はガラスだな。今から建築してたら間に合わないから、とりあえずあの工房を買収した方が早いかな。

 それかカルツァが買収して、ガラスを島に送るか……。

「さて、まずは順番に潰していきましょうか」

 俺は軽く顔を上げ、そう言ったら旦那が少しだけ固まった。目付きと言葉選びが悪かったな。反省反省。

「もう少し待ってなさい。コレで書き物は終わるわ」

 出鼻をくじかれたわ……。


「さて、書類はある。メモ用の紙もある。お茶もある。ちょっと本腰を入れて話し合いましょうか」

 カルツァはテーブル越しに、俺の座っている前にドカリとすわり少し身を乗り出して言ってきた。本当に本腰っぽそうだ。

「えぇ、まず優先順位ですね。ガラスの容器がないと商品として販売はできません。次に早期生産体制の確立ですが、人員さえあれば空き家でも作れますので問題はないです」

 俺は指を組んでテーブルに置き、笑顔で続ける。

「ではガラスから。セレナイトにある、とあるガラス工房で蒸留所の瓶を製造を頼みました。そして何の偶然かは知りませんが、ガラス容器を頼んだのもそこです。もう買収した方が早い気もするんですよね、アクアマリン商会で。グラスや他の容器は工房の隅で職人が細々とやり、増築して人員と設備と機材やらを増やして、容器の量産体制がとりあえず一番現実的ですかね。そこでですね、前に話した無利子でのお金の借り入れの約束って……。まだ生きてますか? ある程度急かすんですから、そのくらいはしていただかないと……」

 そう言ったら、一瞬カルツァの左目がヒクついたが、それ以上の変化はなかった。

「えぇ、多分生きてるわ。具体的な数字は追々かしら?」

「そうですか。多分じゃ困りますが、まぁ良いでしょう。増築費と設備投資くらいで済みますので、問題は少ないはずです。そして職人への給金はクリームの売り上げでどうにかしましょう。そしてしばらくは一定額を三十日に一回お返しします。つまり季節が一回巡れば十二回払うことになりますね。それが五巡すれば六十回。大金貨一枚お借りしたなら、大銀貨一枚と銀貨七枚程度。面倒なので大銀貨二枚としましょう。そうすれば五巡すればお返しできます。無利子なら……ですが。あの施設の増築は大金貨一枚あればかなり大きくなると思います。けど設備がどの程度なのかがわからないので大金貨二枚と見積もっておきましょう。あくまで自分の考えている見積もりです、詳しい数字は追々」

「え、えぇ。そうね」

「ガラスの材料費がどの程度かは不明です。砂浜の砂を高熱で溶かして固めればとりあえずガラス化するのは知ってますが、他にも色々混ぜていた気もします。その辺は専門家に任せましょう。初期生産分は後で見積もっておきます。クリームが売れたら、そこから材料費を出していきましょう」

「あ、あぁ」

 まぁガラス工房の方が、やり方が気に食わねぇとか言って突っぱねたら、最初からつまずく事になるけどな。

「ここまでで何かありますか? そちらがお金を出す事前提で話が進んでいるとか、何か面白くないからガラス工房に関してはこっちが管理するとか。まぁ、お金の方は別に大金貨二枚程度ならこちらの商会でどうにかなるので、借りなくても問題はないです。俺に貸しを作りたいなら出しても良いですよ」

 カルツァ夫妻は相槌しかしなかったので、問題があると嫌なので聞いてみた。後で何かあると厄介だし。

「え、えぇそうね。貴方には大きな貸しを作っておきたいわね」

「まぁ、払い終われば借りは返せますけどね」

 軽くドヤ顔をしたカルツァを、とりあえず軽くジャブで牽制しておく。貴族の優位性全然ねぇな……。下手な事言うとクリームの生産は俺の気分になるし。

「次にそちらの部下です。産業スパイが怖いので、そちらが用意する人員はいりません。信頼しても信用はするな。良くある事です。別にそちらの用意する人が信用できないって訳じゃないです。信頼もできるかもしれません。ですが過去に数名(・・)、チョコレートの秘密を探りに来た奴を、魔物や熊の仕業で死んだって事で処理した事があります。ですので人員は島に永住しつつ、アクアマリン以外じゃ生きていけないような、それこそこの間の視察で見た体が不自由な子とか。君はこれだけやってればいい。を、十名ほど集めれば色々な物ができます。そして衣食住が約束され、多少の給金も出る……。忠誠心は得られます」

 スパイを殺した数は少し盛ったが、誇張して言わないと危機感とか出ないだろうな。

「体が不自由な子達は、貴方だったらそういう使い方をするのね……。本当目の付け所が上手いわね」

 けど流された。まぁ、貴族だし? 多少暗殺とか、仕方なく処理する事もあるか。

「まぁ、色々と面倒なので、大きな壺でクリームをセレナイトに運んで、そこで瓶や箱詰めですかね。治安の良さそうな場所の、少し大きな空き家を買い取って改装すれば問題ないです」

「その子達が襲われたらどうするのよ?」

「配合量の情報は知らないので、最悪製作の漏洩は防げます。殺された場合は……。あらゆる情報網を駆使して、灰色の奴でも片っ端から潰していきます。誰に喧嘩を売ったのかわからせてやりますよ。その為にスラム化してたゴロツキに釘を刺してたんですから。けど護衛なのか防衛戦力とかしっかりしてないと、責任者的にかなり問題があるな。やっぱり島に住んでもらって、ガラス容器を送ってもらいながらクリームを少し高くしましょう。輸送代ですね」

 笑顔で言ったら、二人とも苦笑いをしていた。たまにはやっぱり魔王だって事を思い出させないと。

「プライドはないのにそういうのには怒るのね。貴方ってどんな性格なのかサッパリわからないわ」

「別に自分は良いけど、関わってる者が害されれば怒る、心優しい魔王ですよ」

 冷めたお茶を飲みながら言い、口を湿らせた後に、メモ用紙に先ほど話した事を箇条書きしていく。二人は何言ってんだコイツって顔してたけど。


「さて、ある程度話し合いが必要な物は終わりましたが……。他に何かあります?」

 あの後は重要項目の詰めに入り、さほど重要でもない話も済ませた。

「……好奇心で聞くけど、貴方のその知識はどこから来てるのかしら? 一応寒村出身の普通な家庭の生まれで、村にとある人が善意で建てた学校があって、読み書き計算ができる程度の教育よね? 多少学のある大人が教えてるだけで、元商人とかが教えてたりしないわよね? 正直その辺の商人や、馬鹿な貴族の次男三男よりは専門的な学はあるわよ? 王都の役人や官吏(かんり )だったって言われたほうがまだ信じられるわ」

 カルツァは左手で右肘を持ち、右手で口と顎に手を当てて、少し目を細めて聞いてきた。

「そうですね……。そうだったんじゃないんですか? 官吏してました。実は強くてそのまま魔王になったんですよ」

 話を合わせる事なく生返事をし、メイドさんが淹れてくれたお茶を啜る。態度を見れば、聞くなって言っているのと同じだ。

 むしろ前世で有名ではないにせよ、大学を出て社会人やってましたとは言えない。

 有名大学出てたら、ばけがくだって問題なくできるわ……。そうしたら色々と苦労はしていないさ。

「で、前に銀貨一枚の大銅貨五枚とか言ってたのに、クリーム一個が銀貨一枚って何?」

 カルツァは、俺の持ってきた領収書に突っ込みを入れてきた。

「輸送費代の切り捨て、そして知り合い価格って事で。けど銀貨二枚に値上げする事は忘れないで下さい。配る時もそれとなく言って下さい。あ、島で買うなら輸送代がかからないから安いって事も。そうすれば商人が仕入れに来ると思うので」

「貴方、結構やり方が汚いわね」

「誉め言葉ですね。正攻法でやるなら、儲けが出るまでに季節が一巡しますよ? 友人の貴族様がお抱えの商人に言って仕入れる。けどそれだけじゃ儲からないのでかなりの数を買って帰り、自分の店とかで売る。噂が広がる。素晴らしい事です……。では、早速動くので、詳しい見積もりとか進展があったら報告はしますよ。不在の時もあるかもしれませんので、紙を便箋に入れて門番にでも渡しておきます。ここにいれば口頭での報告もできますがね」

 俺は立ち上がり、メモ用紙と、ガラス工房がごねた時の為のカルツァの一筆があるのを確認してから部屋を出た。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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