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第254話 喧嘩祭りでの時の事

 あの時から十数日、特に姐さんの接触もなく普段通りに過ごしていた。そして喧嘩祭りの開催日が近くなり、島全体が祭りの雰囲気で浮ついている。

「そういえば、本祭は第二村でしたよね」

 ウルレさんが書類を置きに来て、本当についでの様に言った。

「そうですねぇ。優勝者は第二村の副神父様でしたので」

「そんなに凄かったんですか?」

「凄かったですねー。今まで良い感じに戦っていた、第四村の体格の良い獣人系の方を、一ラウンドで戦闘不能ですし。それくらい実力差があるって事です。これは余程の事がない限り勝てないんじゃないんですかね?」

 俺は素直な感想を言い、階級分けとか今年は無理でも、確実に導入させないとまずいと思っている。

「元凄腕の冒険者っぽいですし、実戦をある程度の年まで続けていたのなら、同じくらいの冒険者をぶつけないと勝てませんよ」

「そんなもんですかね?」

「そんなもんですよ。勇者とか、少し能力が高い人とか」

「クラーテルさんとか?」

 ウルレさんは苦笑いをしながら言って来た。

「化け物には化け物をぶつけるって言葉がどこかにありましたが、格が違うので姐さんでは役不足です。もう少し……かなり弱い方を連れて来ないと。姐さんは本当にやばい……」

「ならカームさんとかですか?」

「無茶言わないでください。決められたルールの中じゃ俺は副神父様に勝てませんよ。鍛えまくったトローさんとかなら行けそうですね」

 俺は代案を言い、笑いながらサインを書いてスタンプを押していく。


「そういえば、防衛戦力として育ててる人達は喧嘩祭りに出すのか?」

「軍隊として殺しを学んだ奴が、路上で格闘技を習っていた奴に絡まれて、正当防衛って事で目を躊躇なく潰したとか海外のニュースで聞いた。格闘技としてのルールが当たり前になってる奴と、殺す事を教え込まれてる奴じゃ畑が違う。出させない」

 北川が切った丸太に座り、フォルマさんが届けてくれた冷たいお茶を飲んでいる。ちなみに俺は熱い物をもらって【氷】をちょっと入れて温めにする。暑いからといって冷たい物を飲むと胃腸が弱るし。

「そうか……。確かにそうだな」

「まぁ、別枠で来年あたりにでも公開演習的な感じでやらせて、じわじわと参加者を募るさ。それまでは二十人の少数精鋭ってな感じで」

「少数すぎんだろ……。司令官は北川な。ある程度有事の際は任せる」

 島の代表、しかも魔王で総司令官で、アクアマリンの社長……。正直な話そんなにやってられるかよ……。

「……あいよ。でもよ、陸海空で連携とれねぇんじゃ話にならねぇぞ? 仲が悪い話は良く聞くしな」

 旧日本軍も仲が悪くて連携がどうのこうのって聞いた事あるな。確かに仲が良いのは大切だ。

「その為に魔族だけの村、人族だけの村、両方いる村を作って、お互いに慣らしてるんだろ。しかも喧嘩祭りみたいにお互いに慣れ合う機会も与えてるんだし。北川も個人的にハーピー族とも仲良くしてんだろ? その時考えりゃいいさ。お前達に従うのは嫌だとか言ってる奴は一人を除いてまだいないしな」

「一人ってなんだよ一人って……。あーはいはい。確かに一人だわ」

 北川が何かを思い出す様に言い、軽く頭を縦に振りながら思い出した様だ。

「姐さんは気分屋だから……。一人で場をかき回していくし、最悪一瞬で……ボン……だ」

 俺は握っていた拳を開いて、どこかの世紀末風の主人公っぽく言う。まぁ、子供の頃アレを真似して突き指したけどな。

「ネーさんならやらないとは言い切れないな。んじゃ仕事再開すっぺ」

「んだんだ。休んでても仕事終わんね。サボってたらカーチャンに飯食わせてもらえねぇだ」

「言っちゃなんだが、すげぇ即興だな。アニメの昔話みたいになった」

「たまに地元の話だったり、さりげなく怖いのがやるからなーアレ。子供にはたまにトラウマだ。んじゃふざけてねぇでやるか」

 そう言って俺は立ち上がり、北川は根っ子を掴んで投げ始めた。相変わらず凄い力だなぁ。そう思いつつ、俺もどんどん木を切りながら、隣の根っ子を魔法で掘り起こす器用な事をし始める。

 効率化が進むと、なんとなくでできちゃう様になるから怖いわー。



 そして喧嘩祭り前日になり、村では積もり積もった恨みを晴らすべく、指名で殴り合いの喧嘩をしている。ちなみに本当にどうでも良い事で殴り合いをしてるから始末が悪い。

 それと理由なんかどうでも良いのか、から揚げレモン対から揚げマヨネーズに派閥ができたのか、全員でやり合うとか言ってたので、五対五の団体戦で先に三勝した方が勝ちと俺がルールを付け足した。数が多い方が有利だし。

 俺はオブザーバーとして参加したかったが、審判席に座らされた。

「だから小皿にレモンとマヨネーズを用意して、付けて食えばいいだろって毎回言ってんのになぁ……。なんでこんな事になってるんだろうか……」

「特に理由はないそうです。自分達の派閥の方が少しだけ優位に立ちたいだけで、独身者用の食事風景を見ればわかりますが、小皿に調味料を乗せてますし」

 第一村の村長は俺の隣に座り、俺の呟きを聞いてたのか丁寧に答えてくれた。いや、知ってるよ。スズランとラッテが来たのってここ最近で、それまで皆とご飯食べてたし。

「はぁ……。本当にどうでも良い事で争う理由作ってるんだなぁ……。目玉焼き学会的な」

 生前に見た漫画でやってた奴。別に十人十色だから何でもいいと思う。目玉焼きにはコレ、卵焼きにはコレ、ゆで卵にはコレってな感じで。

「なんなんですかそれ?」

「材料選びから始まり、目玉焼きの焼き加減、調味料は何をかけるか、何が美味しいか。どんな食べ方が一番美味しいかまで議論をして、結論を出さないまま終わらせて、次の集まりに持ち越す。討論を楽しみたいだけの集まりです。それと似た様な事やってます。あー、マヨネーズ派が一勝か」

 説明をしていたら歓声が上がり、リングの方を見てみるとマヨネーズ派がレフリーに腕を上げられていて、勝利宣言をしていた。

 去年に比べリングの質も上がったし、ロープも第四村の麻で作ってるし、皮なめし職人が多少裁縫の心得があったので、グローブに合う革を作って作成してくれたので、物凄く勝手も良くなっているらしい。


「さて、二対二で大将戦になったから揚げ戦争! 勝敗はどうなるか!」

 レフリーが良い感じで叫んでいるが、正直どうでも良い。俺は点数の付け方とか良くわからないけど、勝敗が付かなかった時の為に、どっちが優位っぽかったを見てるだけだし。

 そしてお互いにクロスカウンターが入り、二人がリングに沈み、先に立った方が勝ちみたいなアニメ展開になったが、二人とも白目をむいてて立ち上がれないので結局勝負はつかなかった。

「また次の春に同じ戦いを見るのか……」

 俺は盛大にため息を吐き、隣に座っていた村長もため息を吐いていた。多分同じ事を思っているんだろう。



 翌日の本祭、俺は去年の勝者がいる第二村にスズランとラッテを連れて転移すると、なんか物凄く盛り上がっていた。

 あちこちで食べ物を作っている場所があり、樽で持ち込んだ酒がその辺に置いてあり、だれでも自由に飲めるようになっていて、ハーピー族は屋根の上に乗っていて、水生系魔族は波打ち際に沢山集まっていた。

「どうしてこうなった……。いや。多分勇者の入れ知恵だな」

 日本の祭り風な雰囲気だし。

「ベリル村の祭りじゃこんな熱狂はないわね」「うわー。なんかすごい事になってる」

 スズランとラッテも驚いている。

「魔王よ、今回から我々も参加させてもらうぞ」

「いや、それは構いませんけど。陸で戦えます?」

 水生系魔族の代表、ルカンさん(※1)が言って来た。

「ふん、見て見ろ。陸でも平気な奴を集めた」

 そして指を指した方を見ると、ガウリさんを始めとした、首から下がほぼ人っぽい奴から、母さんみたいな七から八割人っぽい奴が五人揃っている。

「うわ――」

 思わず声に出てしまった。だってなんか見てて綺麗な肉体美の男性が、出来の良い馬の被り物をかぶっているような感じで、首から上が魚の頭っぽい奴が三人。母さんみたいな比率の水生系魔族の二人だし。

「だ、大丈夫そうですね……」

 俺は物凄い笑顔で言っておいた。


 そして大会が始まるが、各村の村長だけだと偶数になるので、やっぱり俺が五人目の審査員として座らされる。そして隣にはスズランとラッテが……。

「最初は野蛮なお祭りかと思ったけど、凄く細かく決まり事があるんだね」

「そうだね。じゃないと怪我しちゃうし。この手にはめる籠手みたいなものだって中に綿が入ってるしね」

 ラッテは多少荒事には慣れているのか、別に殴り合いを見るのには抵抗はないらしい。それに昨日なんか鍛えられた肉体の上半身を見て、顎に手を当てて、なんか首を縦に振ってから俺の胸筋辺りを突いてたし。

「昨日のから揚げで、別に美味しく食べられればどっちでもいい派で、出ようと思ったら凄く止められた。なんでだと思う?」

「女性対男性だからじゃないかなー?」

 毎日丸太を運んだり、スレッジハンマーや巨大な斧を持って歩きまわってるスズランが出たら、気が付いたらマットで寝てたって事がありそうだからだと思うけどね。誰だって力の差に気が付いてるよ。

「私は気にしない」

「男の方が気にするんじゃないかな? 余程の事がない限り女性を殴れない人っているし」

 なんとなく誤魔化しておいた。

「なら女性同士のに出ても良かったかも」

「スズランちゃんって恨まれてて、喧嘩売られるって性格じゃないし、まずないんじゃない? 女性から嫌われる要素って少ないし。私は夢魔族だから多少あるかもしれないけど、そういうの物凄く気を使ってるし」

 あー。女性から嫌われる女性のタイプって確かあったな。そう考えるとかなり当てはまらない気がする。むしろ姉御肌風だから同性から好かれるのか? どうなんだろう。

 そんな事を考えてたら試合が始まり、辺りは熱狂に包まれ、スズランとラッテはホットドックを食べながら麦酒を飲んで観戦している。本当に祭りになってきたな。俺も食べたい……。


「本大会の一番の見どころ! 第二村の副神父と、第四村の獣人系魔族の因縁の対決です。ひとつ前の春では、なんと一ラウンドで決着がついたが、今回はどうなるか!」

 北川は相変わらずノリノリで実況をし、多分作らせたと思われる、ハンマーで叩くタイプのゴングが鳴った。

「てめぇを倒す為に、俺は季節が一巡する間、キタガワに稽古をつけてもらったんだ。絶対に勝ってやる!」

 そんな台詞を吐きながら右腕を伸ばし、副神父様に啖呵を切っている。

「口だけではない事を証明してみなさい」

 副神父も胸を貸す感じで返し、試合が始まるが二ラウンド目であっさりと獣人系の魔族がマットに沈んだ。

「今回も、第二村が優勝だぁ!」

 北川が大声で叫ぶと、周りで観戦していた人達が大声で叫びながら酒の入ったカップを掲げたり、両手を上げて盛り上がっている。 

 水生系魔族? 実は泳ぎに特化した筋肉で、殴りに適してなくて一回戦目で負けたよ……。次はクジラ系のを連れてくるとか言っていたので、来年はモンスターをハントするっぽい戦いになりそうだ。

 そんな事を思っていたら、リングにピンク色の髪の女性が人混みをかき分けながら上がってきた。

「スズランちゃーん。ちょっといらっしゃーい」

 姐さんは笑顔で審査員席側のロープにもたれかかり、笑顔でスズランを呼んだ。

「スズラン行くな! 姐さん止めてくれ!」

 俺はスズランにしがみつくが、いないかのように無言で立ち上がり、ズルズルと引きずられて一緒にリングに上がってしまった。

「はーい、カームちゃんは外ねー」

 姐さんに軽く胸を押され、ロープまで無理矢理下げられると、北川に止められた。

「言いたい事はわかるが、止めておけ。下手に怒らせるとヤバイ。動向を見守ろう」

 そう北川に小声で言われてしまった。

「この手の平に思い切り拳を叩き込みなさい。安心しなさい、それだけよ」

 まるでこの騒がしい中で、会話が聞こえてたかの様に姐さんは言ってきた。

 そしてスズランが左足を前に出しながら腰を捻り、全力で右ストレートを繰り出した。それを姐さんの軽く前に出した手に叩き込むと、手が弾かれるとか、その場で払われるとかではなく、凄い音を出しながらピタりと止まった。

「ふーん。鬼神族(・・・)でもこんなものなのね。けど女の子だからなぁ……。ふんふん。ありがとう。参考になったわー。あとでお礼をあげるわね」

 パンチを受け止めた凄い音で周りは静かになり、はっきりと聞き取れた。姐さん、なんで種族名まで知ってるんだ? 長生きなだけだからか? それとも若い時に殺り合ったか?

「またねー。カームちゃんとちゃんと仲良くするのよ」

 そう言って左手で持っていた、酒の入ったカップを飲み干してからリングから下りて行った。マジで助かったわ……。

「痛い……」

 そしてスズランは、右手首をブラブラとさせながら少し悲しそうな目で俺を見ていた。

 副神父様? 何もできずにリングの隅でずっと見てるだけだったよ……。


 あの後は北川が色々頑張って場を収めながら副神父の表彰式をして、後片付けをして終わりになったが、自宅に戻ってきてからスズランが俺に抱き着いて来た。

「ごめん。少しだけ甘えさせて。すごく悔しかった……」

 俺は特に何も言わず、スズランの背中を優しく撫で、ラッテは気を利かせて微笑みながらテーブルでお茶を飲んでいた。

「拳や手首は痛くなかった?」

「もう痛くない。けど、絶対に動かないお父さんを思い切り殴った感じだった」

 例えが凄いが、弾力のある物凄く重くて詰まった物を殴った感じだろうか?

 トラックとかバスのタイヤみたいな物だろうか?

 けど肘を曲げた、いかにも衝撃を吸収して、ある程度の強さを知ろうとしていたっぽい見た目だったのに。全く動かないって凄い事だよな?

 マジで姐さんやべぇわ……。


 ちなみにその夜、なんか憂さ晴らしと言わんばかりにスズランが激しかった。

 何がって? ナニがだよ!

※1

ルカン 漁班長と仲が良かったシーラさんの父親

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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