第205話 雑談した時の事
牛を番で50組くらい欲しいと表記してましたが、ご指摘がありオス5:メス45に変更します。
亜麻を麻に変更します。なので本文を少し改稿します。
「カーム、アイダが頼まれたもの手に入ったってー」
「はいはい、すぐに行きますと伝えてください」
夕方、第四村の開拓を終わらせ、執務室にあるお茶菓子をつまみ食いしてたら、フルールさんにそんな事を言われたので、外に出て手で土埃を払ってからアピスさんの研究室に移動する。
一応ドアは開いているが、ノックをして反応があってから入る。
「あら、珍しい。暗くないけど夜這いにでも来たの? 見られるのは抵抗があるから、ドアは閉めてよね」
「あーはいはい、そうですよー。ちょっと干して貰ってた煙草持ってきますねー」
研究室には、壁から壁に紐がかかっており、なぜか増えてる窓とかドアのおかげで、風通しの良い半日陰になってる。そして色々な草とか根っ子が球状になってるものまで干してあった。あ、ニンニクまで干してあるし……。
そして、干して良い感じに乾燥してある煙草をとって、軽く挨拶をしてから転移する。
もうアピスさんのあしらい方が、だんだん適当になってきてるが、いつもあんな調子だとあんな扱いにもなる。
「例のブツが手に入ったぜ……」
「こいつは上物じゃねぇか。支払いは、いつもの場所に少し色を付けて隠しておくぞ……。それとコレは煙草だ。根本に紐が結ってある奴は、品種改良で弱くなってる奴だ。この世界にはフィルターがないからな。剣崎に言っておいてくれ」
いつものノリのいい勇者さんと、密輸系売人ごっこを即興ではじめ、会田さんに白い目で見られながら、テーブルの上の種を手にとって、それっぽい事を言う。
袋の中に入ってたのは、白いカビのはえたような見た目の麦と、七味に入ってるカリッとする奴と、瓶に入ってるのは、ものすごく細長くて黒い物だ。
「頼まれてた、綿花と麻の種を袋で、そしてバニラビーンズです。繊維系は、産地の町で簡単に手には入りましたし、バニラの方は普通に香辛料を売ってる露店で、見つけたと言ってました」
会田さんは、鞘のまま入ってるバニラビーンズの瓶の蓋を開けて、香りを嗅いでいる。煙草に関しては無視ですか……。吸ってませんからね。
「へー、ある所にはあるもんですねー。んじゃ、お支払いは米と味噌醤油で?」
「えぇ、それでお願いします。それと、このあと少しお時間いただけますか? 報告というか、お互い夕食を食べながら近状を話しません?」
会田さんはいきなり夕食の提案をしてきた。
「かまいませんけど……。そちらの勇者さんは?」
「このボウルが、後二回沈んだら交代してから食堂っすよ」
「そうですか……。なんかすみません」
「いえいえ、問題ねぇっすよ。最近日本食も増えたんで。カームさん様々ですよ」
とりあえず、勇者さんに気を使いつつそれに了承した。
どこで食べるんだろうか? 俺魔族だけど……。
地下道を通って談話室に出ると。既に準備が整っており、なんかコース料理を食べるような雰囲気になっている。
「どうぞ、お座りください」
メイドさんがイスを引いてくれ、テーブルに着くと、ほんのちょっとお高い? って雰囲気の店くらいの食事が出てきた。
「俺に対して、かなり食費を下げろと言っても聞いてくれなくてね、許してくれ」
「あの時の食事会に比べればマシじゃないですか?」
「そうですね。本当に、パンとベーコンと生野菜程度でも良いんですが、認めてくれないんですよ」
「粗食かもしれませんが、全粒紛の方が栄養も高いんですけどね」
「栄養価、食物繊維、ミネラル、ビタミン。理解させるのには骨が折れますよ?」
「美味いって言って、白米ばかり食べていた殿様みたいな話ですね」
お互いが苦笑いしつつ、丁寧に食事をしながら近状を話し合った。
「酒蔵……王都にも作るかなー。けど、老舗ワイン工房や貴族が、ベリル酒をみとめねぇーんですよ。香りが粗野っぽい、きつすぎるとか言って。肯定派もいますけどね」
会田さんは少し酔っているのか、言っている事が愚痴っぽくなっている。
「調合師を育成して、ムラのない酒を造りつつ、芳醇な香りに仕上がるように、樽の木材や酒の原料を選べば良いんじゃないんですか?」
「上手くいったらいったで、今度は格式がどうのこうのって始まりますよ」
そう言いいきり、果実酒の入ったグラスを一気に空にしグラスを置いた。
「飲み過ぎですよ」
「たまには必要さ」
俺も王室用とまでは行かないが、少し高そうな果実酒を飲み、肉料理を口に運ぶ。
こういうのはこういうので美味いんだけど、俺のとは別方向で美味いな。俺は本当に家庭料理や食堂向けな感じだし。
そして夕食が終わり、食後にコーヒーが出てきた。
「王都でも、じんわり流行始めてますよ。愛好家も出て来てます」
「へー。そいつは素敵だ……。コーヒーを運ぶ名目で、王都までの道を整備して、シルクロードならぬ、コーヒーロードを造る口実はどうです?」
俺は少し冗談混じりに言い、悪い笑顔で砂糖とミルクをたっぷり入れ、コーヒーを啜る。
「とても残念だ。インフラ整備はもう着手してる。道がいいから商人の往来も増えて、極々少数だけど利益も増えている。そして国王の支持率も増え、国を良くした王、寒村にまで気配りができる王として、近隣の国まで名前が知れ渡ってる」
「それはそれは……。細かい事まで気を配れるお国柄と言うことで……」
「やってるの、俺達勇者全員ですけどね!」
会田さんが笑ったので、俺は苦笑いをしておいた。本当にストレスが貯まっているらしい。
その後は北川の話になり、嫁の事や村長補佐っぽい事をしつつ、力業で開墾をがんばってくれている事を話した。
「木の根を力でですか……。彼、そこまで脳筋じゃなかった気もしますが……」
「木の周りを掘って根を切ってから起こすより、無理なくできるならやっちまえっていう、単純な効率重視だと思いますよ。第四村の開墾に一番力を入れてるのは北川ですし」
「まぁ。元気になって良かったです。二人の事は本当に心配してましたし」
会田さんは静かに、コーヒーの入ったカップを置いた。少しだけ酔いは醒めてきたらしい。
「今のところは問題はなさそうですね」
「ですね、ボクシング祭りで魔族と人族のガス抜きもできましたし。むしろ、同族同士での争いの方が、ある意味凄かったですけどね、唐揚げレモン戦争とか」
「こっちでもその戦争があるんですか……。食で考える事は似るんですかね?」
「ですかね……。では、夕食ごちそうさまでした」
「いえいえ、何かあったらまた言ってください。王都の市場なら結構人が集まるようになってますので」
俺は暖炉に入り、地下の広間から島に転移した。
◇
「ふっふーんっふーふーふーん」
俺はノリノリで鼻歌なんかを歌いつつ、雑に作った小さめのプランターに、綿花の種を植えている。
コレが発芽したら、とりあえず第四村に持って行き、プランターの底を外して地植え栽培をし、島でも綿を収穫できるかの軽い実験だ。テーラーさんの妹達が機織りできるみたいだし。
麻は種まき時期が遅かったらしく、春の頃に撒かないと駄目とフルールさんに怒られた。
けど、今からでも間に合いそう。常夏だし。今度試そう。アピスさんの畑で!
綿花の種を植え終わらせ、【水球】で優しく水をたっぷりと与え、土が湿ったのを見てニヤニヤする。
種を植えて、たっぷりと水を与える瞬間が、なんだかんだで好きなんだよな……。育ってきたら育ってきたで楽しいけどね。
「あ、そうだ。フルールさん、この種は死んでると思いますが、もし生きてたとして、種を植えて、収穫できるまでの期間を早めるか、似たような香りを出す植物ってないですかね?」
そう言って、バニラビーンズを見せる。
「んー。ないわねー。香りも独特すぎるし、かなり難しいわね。早くても倍が限度ね」
「そうですか」
たしかバニラって、花が咲くまではある程度大きいのが前提で、苗を買ってきても一定の環境下で育てて。大きくなるまで五年から十年だからなぁ。植えておいて、忘れた頃に収穫できるようにしつつ、バニラビーンズとして買うか。
苗は手には入らないかな? 香辛料と一緒に売ってたし、どこからか運んできてるんだろうし……。気候区分的には問題なさそうなんだけどなぁ……。あきらめるかなぁ……。
あと牛も増やして、牛乳が取れるようにしたい。暑いから雑菌とか怖いけど!
馬もそろそろ必要だし、第四村の放牧のために羊も欲しい。暑くてダレてるけど!
アルパカも標高が高くて、涼しい地域なら可能っぽいけど、この島の山は活火山だしな……。毛の取れそうな、暑い場所にいる野生生物でも探すか? ってかアルパカいるの? ってなるけど。
ならコーヒーと、綿花や麻で繊維系を生産したほうがいいな。嵐が来たら綿花全滅しそうで怖いけど!
水に強くしても、結局綿が水を吸って、種がカビるしな。日向の土にピルツさんを出させるのは酷だしなぁ……。
俺は気が付いたら執務室に戻り、第四村の今後の方針をまとめた、計画書案を作っていた。
「んーこんなもんかー」
「何を書いていたんですか?」
「んー? はい」
軽く返事をしつつ、書いてる物が気になっていたのか、ウルレさんに地図付きの草案を渡す。
「まぁ、まずはコーヒーの木の剪定と、余計な木の伐採、そしてこの辺りに綿花を植えつつ、こっちに麻の種植え。家畜系は暑くてバテそうだから、考え中。後は陸の移動のために馬かな。戦争中に、魔族の大陸に馬とか運んでた、馬の管理人と船を操舵してた人が見つかれば最高だね。そのあとは織田さんに、馬車や農耕具の設計図を描いてもらって、大工さんに依頼かな。技術力を上げたいから、なるべく半人前の修行中の人にやらせたいな」
簡単な地図を指さして説明しつつ、さっさと清書を済ませる事にする。
「まずはお金になる、綿花とコーヒーの剪定が優先。次の春までには放牧地も作りたいね。予定は未定だけど。ってか常夏だから羊がかわいそうだよなぁ……」
少しだけ笑い、第四村開拓案として書いた物を綴る。
「よくこんなに、スラスラと色々出ますね……」
「んー。魔王になる前から故郷で、村長の補佐しつつ雑務をしてたからね、その合間に畑を作ったり、灌漑用の水路を引く簡単な図面を引いたり……。便利屋、何でも屋みたいな事をしてたから、ついなんとなくで、それっぽくやっちゃうんだよね」
俺は常温になってるお茶を飲み、適当にクッキーを口に運ぶ。
「最悪修正も利くし、戸籍と家を建てる時の土地や道路だけしっかりしてれば、ごちゃごちゃした感じにはならない。衛星都市にするつもりはないけど、拡張性も考えて作れば似たような事の繰り返しだよ。第二村で言うなら、家と畑、オリーブの木と製油所。これが一個の固まりで作られてて、それが何個もある。そして道路。家から働く場所がもの凄く遠いと、色々嫌になる。そして理想を言うなら、その真ん中辺りに教会と病院、それに学校も作りたい。もう少し人口が増えたらだけど、ジワジワ着手していきたいね」
カップのお茶を飲み干し、引き出しから乾燥させたミントを取り出し、ティーポットに【熱湯】と一緒に入れる。
「そうなると、必要になってくるのは足だ。だから馬やロバは欲しいね。だから草案に馬が入ってるし、書いてないけど職人の育成も例に挙げた。あとは島に店を作って、いい加減さっさと通貨を普及させたい。離島ってところがネックだよね。あー、道の整備もしないと……」
俺は十分に蒸れたハーブティーをウルレさんに注いであげてから、自分のカップにも注ぐ。
「カームさんは、いつもこのような事を考えてるのですか?」
ウルレさんは、変な人を見るような目でこっちを見ている。
「いつもじゃないさ、こういう事をやる時だけ。ずっと考えてたらさすがに嫌になってくる。そしてたまに息抜きさ」
俺は裏口から出て蒸留所に行き、出来立ての蒸留酒を瓶で持ってきた。
「何でベリル酒を持ってきてるんですか? 息抜きってお酒ですか!?」
「ん? お菓子作りに必要な物作りかな。それと俺はどっかの貴族様と違って、仕事中にはあまり酒を飲まないよ。強いから少しくらいじゃ酔えないしね」
早速会田さんから貰ったバニラビーンズを無造作に漬けていく。ってかこれで終わりだ。
「はい終わり。これで九十日くらい漬けておけば完成」
「果物酒みたいな物なんですか?」
「ん? 香りを嗅げばわかるよ」
バニラビーンズが半分以上残っている瓶を、ウルレさんに渡した。
「んー。凄く良い香りです。このお酒は女性に人気が出そうですね」
確かに甘い香りのお酒は多かったけど、そろそろ色々漬けてもいいかもしれないな。
「コレを香り付けに少しお菓子の材料に入れるんだ、そうすると、甘くて良い香りが辺りに漂うし、口の中にも広がる。少しくらいしか入れないから酔う事もないし、焼いてるうちにお酒は蒸発しちゃう。だから辺りに漂う。子供でも安心して食べられる」
俺は笑顔で瓶をシャパシャパと振り、机の足下の奥に置く。暗所保存で……。ここなら漬かり具合が一目でわかる。
「さて、そろそろ本当にお茶の時間だ。今日のパーラーさんのお菓子は何だろう。バターも牛の乳もないから、ある程度決まっちゃうんだけどね。あー牛欲しー。お菓子の基本は牛の乳を使う事が多いから、五十頭ぐらい欲しい。メス四十五頭のオス五頭くらいで」
愚痴を吐きながら、ルッシュさんが来るまで清書をとりあえずしておく事にした。




