第204話 予定を早めた時の事
会話多めです。
翌日、俺は酒樽とともに山頂に転移し、いつもの場所に樽を置いてから故郷に転移した。
まぁ知ってるのか知らないのかわからないが、オリハルコンが手に入ったからそのお礼みたいなものだ。
姐さんの事だから、知ってたのかもしれないし、もしかしたら手前から無造作に持ってきたかのどちらかだと思うが……。まぁ感謝だ。
鍛冶関係の二人も喜んでたし、どう加工するかわからないけど。持ってるだけで満足かもしれないしな。最悪もう少し高温まで対応できる、耐熱レンガを要求してくるかもしれないけど。
最悪は単語だけ聞いた魔力炉かな?
「ただいまー」
「おかえり、今回は帰ってくるのが早いね」
「そうだね、蒸留所が完成したからね。だからちょっとだけ早く帰ってきた。一回様子も見てきたけど、問題なさそうだったから安心したよ。問題があった場合は、フルールさんが教えてくれる」
「そう。それと簡単な報告……。カームがいない間にリリーが、偶然ヘイルさんから一本取ったから」
「はぁー……。ついに偶然でも一本取っちゃったか。なんかお祝いした方が良いのか、嘆いた方がいいのか……」
「お祝いしてあげたら?」
スズランは俺の前に麦茶を置いてくれ、イスに座って飲みかけの麦茶を飲んでいる。
「うーんそうだな。年越祭過ぎに渡すつもりだったけど、仕方ないか……」
「カームが渡したいと思うなら、それで良いと思う」
スズランはお茶を飲みながら、目をつぶってコクコクとうなずいている。
「そうだよな……。少し早いけどプレゼントでも送るか」
「カームに強さを認めて欲しくてがんばってるんだから、そうしてあげて。二人ともきっと喜ぶ」
柔らかい笑顔で、そんな事を言ってきた。この笑顔には勝てないな。ってか別に、十分強いんだから認める認めない関係なしに、自分の子供としては誇らしい。
けど、冒険者になるのに反対はしてるけど、意志を尊重したいだけだし、俺が魔王だから強くないとって考えが根底にあるんだと思う。自衛できる強さは既にあるんだから、ってか父さんに魔法なしで、偶然一本取れる時点で、近接は十分俺より強い。
何だろう、これからの稽古を考えると涙が出る。
「あ、カーム君だー。おかえりー」
「ラッテもおかえりー」
ラッテが帰ってきて、多分子供達もそろそろだと思うので、昼食の配膳を始める。
そして昼食をたべ終わらせ、お茶を飲んでいる時に話を切りだす。
「スズランからヘイルおじいちゃんの事は聞いた。本当は年越祭過ぎに渡すつもりだった物を、今日二人に渡そうと思う。今日は稽古じゃなくて一緒に島に来てもらう。リリーは槍を持ってこい」
「え? あ、はい!」
「僕は勝ってないけどいいの?」
ミエルはお茶を飲みながら、本当にいいのかと聞いてきた。
「遅かれ早かれ渡すつもりだった物だ。気にするな。逆に考えろ、もらったからには強くならないと。ってな」
「おー、カーム君らしくない言葉が出てきたぞー」
「まぁ、たまには父親をやらせてくれ」
「無茶をするとボロが出る。いつも通りで良いと思う」
「ちょっとー二人ともー。せっかく決めてるんだからそう言うのは止めてよ」
「そのくらいで丁度良い」
「そーそー。それくらいがカーム君らしいよ」
俺は盛大にため息を吐き、冷めたお茶を飲んだ。まったく素晴らしい嫁達だよ……。
俺は昼食後、子供達を連れて島まで戻った。
「あれ、カームさん。今日は休みを取ったはずじゃ?」
「あぁ、ちょっと用事ができてね、戻ってきた。気にせず仕事をしててくれ」
「はい。それとお二方はどちら様で?」
ウルレさんは不思議に思ったのか、そんな事を聞いてきた。
「娘と息子だ。似てないだろ」
俺は笑顔で言った。目の色くらいしか似てないしな。
「初めまして、リリーといいます」
「ミエルです」
「はい、初めまして。お父様にはお世話になりっぱなしで――」
「いえ、父がご迷惑をかけていないか心配で……」
なんだその挨拶は……。俺はそんなに信用がないのか?
「うわー、かなり変わってる」
「本当だ、昔は殆ど何もなかったのに」
妙な挨拶を終わらせ、裏口から外に出ると、子供達は驚きの声を上げている。
「あれから季節は四巡はしてる。変わってなかったら困るだろ? まぁ家まで付いてこい」
そう言って、執務室から第一村の自宅まで向かう。
「あ、リリーちゃんひさしぶりー」
「あ! ひさしぶりー」
「やっぱり魔族は成長が早いねー。もう大人と変わらないじゃない」
「そうなのよ。そういうのは困るわよねー」
「じゃあ、そっちはミエル君?」
「やぁ、久しぶり。覚えてくれてて嬉しいよ」
「わーかっこいいー。このくらいかっこいい男の人と結婚したいわー」
「はは、僕は半分夢魔族だからね。そういう人を探せば良いと思うよ」
「んー。けど夢魔族って美男美女が多いから、競争率高そう。あ、ちょっと髪の毛さわらせて。あの時は短かったよね」
そう言って、この前話題になった一番年上の女の子が、子供達と仲良く話している。あの頃は、見た目も同じくらいだったのになー。
「うわ、サラサラ。島の女性でもこんなに髪が長い女性はいないよ? いいーなー。私もこんなにサラサラだったらなぁー」
「雨の日とかは結構ひどいよ? そのくらいが洗いやすいし丁度良いと思う。そのくらいの長さが、健康的に焼けた肌に似合ってるよ」
「そ、そうかな?」
「うん、綺麗だよ」
ミエルは微笑みながら、恥ずかしがる素振りを見せることなく女の子の髪を誉めている。自覚しているんだろうか? 天然のたらし? 親の前で口説くのだけは止めてくれよ……。ってか自覚してないな。これが夢魔族……なんて恐ろしい。
「ミエル、私注意したわよね? あんたが言うとしゃれにならないから止めなさいって。どれだけクラスの女子を勘違いさせたと思ってるのよ」
「あぁ、ごめん姉さん」
父さんそれ初耳です……。スズランにラッテ、あとでじっくり話し合いましょう。
「あ、この薬草、蜂のお姉さんの所に持って行くんだった、またね」
「またね」「またねー」
色々な意味で頭痛くなってきた……。
家に着いたので、子供達をイスに座らせ、戸棚の奥から布にくるまった物を取り出してテーブルに置いた。
「プレゼントだ、開けて見ろ」
そう言って、二人は布を取った。
「これ、槍の穂先とナイフ――」
「僕のは盾とナイフだね」
二人は不思議そうに、渡された物を見ている。
「ミスリルだ。結構前に手に入った残り物で作ってもらった。本当はさっきも言ったが、今度の年越祭過ぎてから渡すつもりだったんだが、お前達はお爺ちゃんから偶然でも一本取れるくらいまでになった。だから渡しても良いかなと思ってな」
二人は、ミスリルと聞いて驚いている。
「身の丈に合わない物を持っていると、強くなったと錯覚して、そこで進歩しなくなると思ってたが、お前達のやる気からそういう事はないだろうと思った」
「でも、これってものすごく高いんじゃ……」
「おいおい、親から貰う物に対して値段を気にするな。ろくに家に帰れなかった俺の罪滅ぼしだと思え。それは売っても良いし、使わなくてもいい。好きにしていいぞ」
「まぁ、好きにさせて貰うけどさ……。コレを僕達に渡してきたって事は、これからの稽古はもっと激しくなるの?」
ミエルは、稽古の心配をしているらしい。いきなりミスリル製の物を渡されたら、そうも取れるか。
「いや、今まで通りじわじわ強くしていく。ただ、その盾に対してはある程度本気で行かせて貰う」
「はぁ……。稽古の時は、鉄製の盾を使うよ。父さんのある程度の本気がわからないし」
ひどいな、ちょっと傷ついたぞ。
「傷つくから、本人がいない時にグチってくれ」
「よし、鍛冶をやってくれる所に行って、穂先だけ変えて貰おう」
「え? 平気なの? コレって元はおばあちゃんのって聞いたけど?」
「スズランお母さんが穂先を折ってから、今の物になったって昔聞いた。だから、平気だと思う。駄目だったら、留め金を取って戻せばいい」
駄目だったら、俺が怒られよう……。
「おう、どうした。見かけねぇ奴を連れて……。あーたしかリリーとミエルだったな。でかくなったな」
「おっちゃん久しぶり」
「どうも、お久しぶりです」
「おーおー。両方母親に似やがって。で、今日はどうしたんだ?」
ヴァンさんが二人と軽く挨拶をし、久しぶりに会ったのか再会を懐かしんでいる。ベリル村にいた時に、少し交流があったのかな?
「リリーの持ってる穂先を、コレに替えて貰おうと思いまして」
そう言ってリリーに、菱形を細長くしたような穂先をヴァンさんに渡してもらう。
「あぁ、俺が島に来た頃に作った穂先か。つまり、コレを付けられるくらいには成長したって事か」
「えぇ、俺の父さんから偶然一本取ったらしいので」
そして俺はヴァンさんの耳元で、スコップをミスリルにした事を黙ってて貰うことにした。
「よく道具屋の鍛冶場に来て、火花が散ってるのを覗いてたっけなぁ。ほら、槍を貸してみろ」
ヴァンさんが槍を預かり、丁寧に留め金を外し、穂先を付け替えてくれている。
「ずいぶん年期がはいってんな。木の事にはあまり詳しくねぇが、こんな高密度で硬い木なんて、聞いた事はあったけど、さわったのは初めてだ。たまにあるんだよなぁ~。水に浮かない木ってのが」
聞いた事はあるな。比重が水より重くて浮かないって木があるらしく、詳しくは覚えてないけど結構需要があったって。
ヴァンさんは留め金の両端をつぶし、穂先が抜けないかを試していた。
「うん。重心もわるくねぇ。ってか鉄心入りか。よくこんなの振れるな。スコップが歪んだり折れたりするのにも納得だ、ほら。手荒に扱っても良いが、大切にしろよ」
「ありがとう。おっちゃん」
「おう、それでこいつをボコボコにしてやるんだな」
「いや、それ洒落にならねぇっす……。腕に当たったら、そのままの衝撃で腕とあばらが折れそうで怖いんですから」
「っは! 魔王なんだから、娘の攻撃くらいどうにかしてみろよ。でミエルはどうするんだ?」
今度は、ミエルに何かあるのかを聞いていた。
「ないですね、強いて言うならこのグリップが少し握りづらいので、後で自分で直します」
結構前に作ったからな、手も大きくなったんだろう。ってか大振りのナイフのグリップは、自分で直してたのか。
「良い心がけだ。リリーは?」
「ミエルに手伝って貰って、細かいところは自分で修正ね」
「胸張って言う事じゃねぇぞ? 自分の得物の手入れくらい自分でどうにかしろよ。自分の命が乗ってんだぞ?」
「は、はい」
「少しはオヤジを見習え、包丁とかの研ぎはうめぇぞ? まぁ、そいつはミスリルだからな。何かあったら余所の鍛冶屋に持ち込め」
「はい……」
リリーの教育は、ヴァンさんみたいな性格がいいのか……。イチイさんに任せれば素直になるかもしれない。俺は丁寧すぎるんだろうか?
少し荒々しい系か……。無理だな。なら力で示さないと。
「んじゃ俺は仕事に戻るぞ?」
「はい、ありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
そして太陽を見るが、もう少しでお茶の時間なので、第四村まで転移した。
おー、相変わらず開墾がんばってんなー。北川なんか、力業で根っ子抜いてるし。
「おーどうしたカーム」
俺に気が付いたのか、北川は汗を拭いながらこちらに近寄ってきた。
「娘と息子だ、ちょっと参考程度に勇者の力を見せてやってくれ」
そう言ったら、無言の腹パンを軽めに食らった。
「お前の娘なんか、殴れるかって前に言っただろうが」
「俺は殴れるのにな……」
俺は腹をさすりながら、少しだけ睨みつける。
「お前はいいんだよ、俺との仲だからな。しかもこんなかわいい女の子だぞ? いや綺麗か? 絶妙な所だな。こんな女の子を殴れるはずがねぇ!」
「なになに? どうしたの?」
俺と北川が言い合ってたら、フォルマさんがお茶をもってやってきた。
そしたら北川が今までの経緯を話している。
「ふーん、そっちの綺麗な男の子は?」
「カームと同じで魔法系、畑が違う」
「少しつきあってあげたら? なんかやりたそうよ?」
リリーはうずうずしていたのか、フォルマさんにそんなことを言われている。
「でもなぁ……、やっぱり女の子を殴るのには抵抗がある」
「いやーたすけてーおかされるー」
フォルマさんはミエルにすり寄り、そんな事を棒読みで言っている。
「あの、離れてもらえます?」
「あら、この子夢魔族? 軽い魅了が効かないわ?」
軽い魅了であの程度なのか……。ってか棒読みでも体を近づければいいだけじゃね?
「あぁ、息子のほうは母が夢魔族なので。多分全裸でも魅了は無理だと思います」
「全裸で寄ってきた時点で、軽く引くか、警戒しますけどね」
「ふつうの男なら、虜にする自信があるんだけれど?」
「おいおい、ほかの男に色目使うのは止めてくれよ」
「いやー、あの子に襲われれば、殴り合いになって、女の子も乱入すると思ったんだけど。まさか夢魔族を嫁にするとは……。勇者と魔王、恐るべし……」
「いや、そっちは折れただけ、俺は惚れられたから応えた。かなり違うから……」
俺はため息を付きながら、頭を押さえる。
「お前等ある意味似たもの夫婦だよ……。ぶっ飛んでる思考とかが」
「そんなに誉めるなよ」
「誉めてねぇよ……。リリー、諦めてお茶でも飲んで帰ろう。多分こいつは最悪な状況が来ないと女性を殴れない」
「はーい」
そして、挨拶をしてから執務室に戻り、ルッシュさんやパーラーさんに挨拶をし、お茶をゆっくり飲みながら雑談し、家に帰った。
「男性は少しくらい渋い方が……」
「もう少し野性味があった方が……」
ミエルを見て二人はそう言った。残念だなミエル、女性の好みは十人十色だぞ。
親として、姐さんは色々な意味で紹介はできませんね。
自分より強いからとか、頭が上がらないとか……そう言う色々な理由で……。




