第196話 春の祭りを説明した時の事
翌日。俺はメモを預かり、一応木の数が合ってる事をパルマさんに確認し、罰の終了を告げた。
けど、まだわだかまりがあることは確かだ。言い争いがあれから三回あったし。
村も四つに増えたし、コレを期に春の祭りを開催させても良いかもしれない。明日の朝食後にでも村長会議を開くか……。
◇
翌日の昼過ぎ、応接室で四人の村長と俺、ルッシュさんと北川が同席している。北川はオブザーバーとして呼んだ。
「取り合えず村が四つになったので、春の祭りの話し合いをしたいと思います。前からちょこちょこ村長会議をしてましたが、これからが本番です。議題は、わだかまりをなくしたい。ですね」
「具体的にはどうするんですか?」
第一村の村長が聞いてきた。
「前に少し決めましたが、もういっその事、殴り合いの祭りにしましょう」
「かなり暴力的ですね」
第二村の神父兼村長が少し嫌そうに発言をした。
「第四村の状況が状況ですので、ガス抜きさせようかな? と思いまして。決まり事を作って、その中でやらせればいいんです」
「ボクシングか……。グローブはどうするんだ?」
「革で綿詰めればいいだろ。えーっとですね。拳に革の分厚い籠手を付けて、上半身裸での殴り合いですね。一応四つ角に杭を立てて、ロープを張ってその中での殴り合いです。これが大体のルールです」
島独特の変則的な物になってるけど、大体は前世と同じ感じだ。体重での階級分けはないけど。
「かなりこまけぇな。ようは殴って立てない時は追撃なし、三回倒れたら負け、時間が来たら休憩。最後まで勝負がつかなかったら。公平に審査。でいいんだろ?」
「そうですね。要約すれば、純粋に殴り合いだけで勝負つけようぜ! ですし」
トローさんが確認をして、俺が要約した。
「その一言で済みますが、ルールを決めておかないと揉めますからね」
「だな。倒せばいいってわけでもないからな。場所はどうするんだ? ここか?」
北川が気を利かせたのか、真っ先に第一村をあげた。
「第四村ですかね? 今のところ問題が多いですし。各村で代表十人くらい決めて、村毎に争うって事で。ついでに気にくわない奴を指名して、余興にしてもいいですし。ってか今回はその余興の方が盛り上がりそうですが……」
「私は出ないので問題ありませんが、ほかの方々はどうでしょうか?」
「特にねぇな」
「私もです」「俺もです」
まさか第二村の村長がこういう事に賛成とは思わなかったな。村長会議だと、神父様の発言がやっぱり強めだな。
「んじゃカーム。手本見せてくれ?」
「はぁ? なんで俺なんだ?」
「考えた奴が見せるもんだろ?」
頭が痛くなったが、殴られてさらに頭痛くなりそう。
「全員外に出てください。北川、拳に布巻いておいてくれ」
俺は準備をして外にでるが、北川がムキムキの上半身裸で、ニヤニヤしながら、浜の上で拳同士を叩いていた。
あ……、これ脳震盪フラグだわ――
そしてなぜかいる、第一村の住人達。
「やる気満々だな」
「おう、こういうの結構好きだったからな」
やる前から不安しかない。
「基本は正面と側面のみ、背中や頭の裏は禁止。あとはへその下くらいまで。で、拳のみで攻げ――ウボッ!」
俺は説明しながら緩くパンチを繰り出したら、北川に避けられて、鳩尾に左手でカウンターを入れられた。
「こ、これ、説明。お前立ってろ……よ」
砂浜に膝を付いてから、鳩尾を押さえるようにして倒れる。息できないし、痛いで最悪だ。
「コレがダウンだ。三回で、まだ戦う意志があっても負けだ。そして、この状態の時は本来ある四隅の木の柱まで引く事」
代わりに説明された。そして何とかして立ち上がった。
「おい、ファイティングポーズをとらねぇと攻撃できねぇよ」
そう言われたので、拳を握って気力で顔の前辺りに拳を持ってきたら。北川が素早いステップで近づいてきて、こめかみ、顎、鳩尾と全て寸止めで拳を振るってきた。クソ怖い。
「「「おーー」」」
村人が驚きの声を上げている。
「この辺が有効打だ。鼻は折れやすいから、禁止にした方がいいだろう。まぁ、必死にやってたらどうしても当たると思うけどな。それと足を使った攻撃や、相手の首や体につかまって攻撃を防御するのは、あまりしない方がいいな。審判に注意される。この時に振り下ろしの拳や、肘を使うと反則だ」
北川が俺の胴体にしがみ付いて全部説明してくれた。ってか勇者怖い。
「細かいルールもあるけど、こんなもんだ。ってかカームよえぇ」
「魔法系なめんなよ勇者が!」
「おっし、俺は一歩も動かねぇ。殴ってこい」
北川が両手でクイクイとニヤニヤしてたので、俺はストレートやフック、アッパーカットを繰り出したら、砂浜の上なのに、ぬるぬる避ける。こいつ気持ち悪い。
「これが避け、そして足運びだ」
足運びと言ったら、今度は足も使って俺の周りを回りながら避け始めた。全く当てられる気がしない。
「おいカーム、しっかりしろよ」
キースも参加して、檄を飛ばしてきた。いや、無理だから。最悪お前の放った矢もこいつは避けるぞ?
「無理だよ!」
「ある程度時間が経ったら、少しだけ休憩が入る。どうやって時間計るよ?」
「水に穴の空いたボウルだ」
俺は息を切らしながら答える。全く当たらない。当てられる気がしない。戦闘系勇者すげぇ! ってか打撃って、基本外す方がスタミナの損耗が激しいってっ聞いてたけど本当だな。外した方が疲れる。
「これが基本だ。見た事を伝えておいてくれ。あぁ。仮にでも紳士のスポーツだ。暴言や卑怯な事はダメな。裏拳とかもダメだったような? だから正々堂々と殴り合いだな!」
最終的に北川が仕切ってたが、特に気にしないで解散にした。
「カームさんって純粋な殴り合いって弱いんですか?」
執務室で作業をしていたら、ある程度貯まった書類を持ってルッシュさんがやってきた。
「えぇ、基本的には正々堂々って奴は苦手です。奇襲や不意打ち、分断や各個撃破が得意ですね。あのような状況ならまず砂を蹴り上げるか、逃げて俺が戦いやすい場所まで引きます」
「なら喧嘩祭りは不参加で?」
なんで名称が喧嘩祭りになってんだよ……。
「えぇ、参加しません。魔法系魔王ですし、純粋な殴り合いならトローさんにも負けます。あんな筋肉の固まり、武器か魔法を使わないと絶対に倒せませんよ」
「そうですか。一応第四村の事は先日聞きましたが、純粋な殴り合いならガス抜きはできそうですね。では失礼します」
ルッシュさんが少しだけ微笑んで退室していった。キースに参加させるなよ? 近接にもちこませた事がないのが自慢らしいからな。
午後はいつも通り第四村の開墾に行くが、昼休み中に村長と北川から説明があったのか、砂浜にリングが出来ていたし、基本的な構えとか、殴り方を教えていた。
本格的だな……。テーラーさんって、革の裁縫も出来るかな? 夕方にでも出向くか。
夕方になり、帰ろうと思ったら十数名がまた砂浜に集まり、北川の指導の下訓練を受けていた。
「どうせお前らは村の代表じゃなくて、余興の殴り合いに興味があるんだろ? 異種族間の遺恨の残らない一時的な戦争みたいなもんだ。今のうちに訓練して、せいぜい面白い試合にしろ。んじゃまずは腹筋二十回を五セットだ。筋肉があれば殴られてもいたくねぇからな。その後は攻撃力をあげるのに、腕立てと背筋だ!」
おいおい、やる気満々じゃないかよ……。最悪しばらくは第四村が一強か?
「おいカーム、ちょっと手を貸してくれ。手本を見せたい」
「嫌だよ。なんで俺なんだよ」
「まともに戦えそうだからだよ」
「俺は武器とか魔法がないと戦えないの。狭い場所で対面しての戦闘はかなり苦手だ! まだその辺の獣人族の方がタフだぞ?」
「俺とお前の仲だ。殴りやすい」
「ひでぇ!」
「お前は総合でもいいぞ?」
「嫌だね。ここで俺が足技とか使って、変な影響与えたらどうするんだよ」
「総合に発展させればいい。面白いぞ?」
そして北川が俺に近寄ってきて、耳元で囁いた。
「なんだかんだで、基本的な肉体強化と軍事練習に繋がる。重装歩兵じゃ島の中は動きにくい……。最低でも抑止力として、俺達以外の兵力は必要だ。フルールさんを通して、会田には通達済みだ。最低でも自警団くらいは後々必要だろ?」
「……そうだな。いずれは必要と思ってた。それで行こう」
俺は、その意見をすんなり受け入れた。そういうのは北川に一任しよう。
「お前がボクシングを祭りにしてくれて助かったぜ」
そう言って北川が離れた。
「よーし、俺は拳だけ。カームは魔法以外は好きにしろ」
「手加減しろよ」
「お前もな」
俺は上着と靴を脱いで半裸になり、ポケットのメモ帳や木炭、腰のナイフを置いてリングに入り、ロープにかけてあった細長い布をそれっぽく拳に巻き付けた。
「おーし、誰か合図を頼む」
北川が合図を頼む頃には、リングの周りに人だかりが出来ていた。
「んじゃ、はじめ!」
人族がボウルを木で叩き、鈍い音がした瞬間北川が、ものすごい勢いで距離を詰めてきたので、上半身を両手で守りながらローキックで牽制し、常に一定距離を保つ。
「やるじゃん」
「後悔しかねぇよ、止めておけばよかった」
軽く話しを挟み、お互いニヤニヤしながら対峙し、俺は左足を軸にし、右足を軽くつま先立ち気味ですぐに蹴れるようにして圧力をかけ、北川がどう攻めようか迷っているようだった。
北川がトントンと軽く飛んだかと思ったら、また距離を詰めてきたので、つま先蹴りで牽制しようと思ったら、足の外側に避けられ、右フックが来たので腕で防御するが、攻撃が重くそのまま吹き飛ばされた。
「おい、このまま寝転がったままの牽制ってありか?」
顔だけ上げ、膝を腹の方に持ってきて、いつでも蹴れる体制で聞いた。
「馬乗りで顔面を殴られたくなければ起きろ、それかお前の太腿にローキックを入れる」
「オーケーオーケー。今立ち上がるから、ダウンにしておいてくれ」
俺は立ち上がり、もう一度軽く手を広げながらファイティングポーズを取る。
「おいおい、腕を取りに来る気満々じゃねぇかよ」
「うるせぇ、関節決めるくらいしか俺に勝ち目はねぇよ。魔法系だぞ? 後で娘連れてくるからそっちとやれ!」
「てめぇの娘なんか殴れるかよ!」
北川がそう言った瞬間に、さっきより素早い動きで距離を詰めて来たので蹴りが間に合わず、腕を取ろうと思ったらそのまま顎を殴り飛ばされ、なんとか腕を掴んで足を絡めて関節を決めようと思ったら、片腕だけで俺を持ち上げていた。
「無理、勝てねぇ」
それだけ言って、顎を殴られた時に目が回ってたので、そのまま手と足を離して砂浜に自ら落ちた。
「勇者つえ~~。殴り合いじゃ勝てねぇよー」
「で、お前の魔法ってどのくらいすごいん? このままだと勇者が魔王を倒せるとか言って、暴動が起きるかもしれねぇから、なんかやっとけ」
しばらくそのまま倒れていたが、北川がそんな事を聞いてきた。
「あー? 目が回ってるから少し待ってくれー」
しばらくしてから立ち上がり、回りに【黒曜石の苦無】を浮遊させ、四方のリングの柱に一気に飛ばして全て命中させた。
そして右腕を軽く上げるようにしながら手の平を突き出し、久しぶりに【散弾】を発動させて、柱を真ん中から吹き飛ばした。そしてすぐに指を軽く鳴らして北川の回りに【石壁】を作り出し、流れるように巨大な【水球】を上空に発動させて北川の上に落とした。
それらしい動きとかしないと、かっこうが付かないからね。
うん、ストレス発散終了。そして石壁を解除して、流れ出た水と共に北川が流されてきた。
「ここまでやる必要ねぇだろ!」
「いや、これくらいは楽にできますよーってな感じで、ちょっと魔法を見せただけだ。ちなみにこの水の魔法は、お湯にもできる」
そう言って、指先に【熱湯】を作り出す。
「このお湯で、戦争地帯での防衛戦の時は鎧を着てる奴らを無力化してたね」
「魔王こえぇ……」
「ってな訳で畑が違うんだから、格闘系は任せる。もっと俺の事を聞きたいなら喋るぞ?」
「いや、いいわ。けっこうエグイ事したって会田から聞いてるからよ」
「そうか、んじゃ俺は戻るわ」
第四村の人達が驚いていたが、涼しい顔で転移した。ドヤ顔したかったけどね。
「ってなわけで、革製品とか出来ます?」
俺は第一村に戻ってから、テーラーさんの工房に行って、グローブの説明をしてから、簡単なスケッチと一緒に依頼をしてみた。
「そうねぇ……。膝とか肘、肩に革を当てる事はするけど、革だけねぇ……。縫えなくはないわよ?」
「ならお願いします」
「はいはい。後で革職人も雇ってくれるとうれしいわね。できれば結婚したいのよね、同族とまでは言わないから魔族で」
「う、うっす……」
ワーウルフの革職人いねぇかな。いたら面白そうなのに……。
「姉妹で結婚したいから三人ね」
「うぇ!?」
「冗談よ」
テーラーさんは、ハサミをジョキジョキしながらニヤニヤしていた。
テーラーさんの冗談はわかりにくいわー。
※147話で色々会議してました。
活動報告に三巻の情報を載せました。
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/428528/blogkey/1727168/




