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第188話 説明して回った時の事

 今日は、第四村の疎水を見てから、改築案を持ってオルソさんの所にいく事にする。

 んー、まだまだ濁ってるな。三日くらいあればどうにかなるか? ってか、水浴び場の周りに、杭を立て始めている。仕事が早いな。

「あ、ゴブルグさんお疲れさまです」

「おう。そっちこそお疲れさん。うっかりで忘れてたからって、急いで水路引いてくれたんだな」

「えぇ、間に合って良かったです」

「こいつを建て終わる頃には、水は綺麗になってると思うから心配しねぇで、自分の仕事してろ。こっちはこっちで勝手にやらせてもらうからよ。全部お前が指揮してたら、島がなかなか発展しねぇだろ? いつも通り任せとけ」

「うっす。お願いします」

 俺はゴブルグさんにお礼を言い、セレナイトの貸倉庫に転移した。


 転移して小さなドアから通りに出ると、織田さんが殴った奴二人は消えていた。個人的には生きていて欲しい。

 その辺の隅の方に邪魔だからって転がってねぇよな? うん、ないね。

 俺は一応確認だけ済ませ、オルソさんの店に向かう。

「お疲れさまです。オルソさんいますか?」

 いつものように、事務処理をしていた弟さんに声をかける。

「申し訳ございません、オルソはただいま出ておりまして。もしよろしければ伝言を預かりますが?」

「いえ、直接じゃないといけませんので、待たせていただきます」

「そうですか、ではこちらでお待ち下さい。今お茶を淹れてきますので」

「ありがとうございます」

 倉庫の隅の、作業員の休憩所に案内され、ゆっくりとお茶を飲ませてもらう。


「おう、鍛冶屋に依頼されてた件、話が付いたぞ。これが書類だ。少し疲れたから、お茶飲んでるぞ」

 しばらくして、オルソさんが戻ってきて、弟さんに書類を渡していた。

「お疲れさまです」

「げっ! またお前か。今度は何だよ」

「ちょっと大きな仕事を持ってきました。こちらを読んで下さい」

 俺は綴ってある書類を、オルソさんの前に置いた。

 少しだけ目の辺りがひくついてるが、また面倒な仕事だと思っているんだろうか? 正解です。けど図面の写しを渡すだけだから平気ですよー。ふふーふ。

 オルソさんが、ヤカンに溜めてあった冷めてるお茶を飲みつつ、パラパラと計画書をめくっている。

 読んでるんだろうか?

「手短に説明を頼む」

 読んでなかった……。

「島じゃなく、こっちに新しい酒を作る場所を建てるので、大工と鍛冶屋を紹介して下さい」

「その一言で済むのに、この分厚い紙の束は何だ?」

「図面と予算、治安回復案と防犯対策とか色々です」

「その一言で頭痛くなるわ。ついてこい、そういうのはそっちで話をつけろ」

 丸投げ出来なかったわー。


 俺は紹介された大工の所にオルソさんと一緒に出向き、簡単に話を付け、図面の写しを渡す。

「おい、なんだこのクソ丁寧な図面はよ! 俺達を馬鹿にしてんのか? これがあれば、そこにいる見習いでもできらぁ!」

 そんな事を言って、簡単な確認を済ませると、仕事を引き受けてくれた。

 次に、釘を発注してる鍛冶屋とは別な場所を紹介してもらい、図面を渡す。

「……使う銅の量がどのくらいかわからねぇが、どうにかなるだろう。オタクのお抱えドワーフも口と手を出しに来るんだろ? 俺達の技術力向上の為にぜひやらせてくれ」

 鍛冶屋も、簡単な確認だけすませる。これでこっちでの職人の確保は済んだ。

「もういいか?」

 事務所に戻る前に、オルソさんにそんな事を聞かれた。

 後は必要悪の確保だけど……。酒盛りする話くらい教えておくか。

「ビゾンの居場所の情報って売ってます?」

 悪い笑顔をしながら聞いてみた。ビゾンっていうのは、トローと対立してたリーダーだ。面倒だけど、あれからやっぱり聞きに言ったさ。

「ウチはそういうのはやってねぇし、情報屋も所属してねぇよ! 馬鹿かてめぇ!」

「聞いてみただけです、後はこっちでやっておきますので、後日の酒盛りで会いましょう。一応蒸留所はオルソさんの商工会議所に所属させてもらいますので、その代表を呼ぶと言う名目です。弟さんと職員さんも連れてきて下さいね」

「お、おう。で、蜂蜜酒はあるか?」

 あちゃー、蜂蜜酒で来たか。さすが熊の獣人族。

「蜂蜜はあるので、当日までに作っておきます」

「ならいい、んじゃ俺は帰るからな。殺すなよ」

 そこは、殺されるなよって言って欲しかったなぁ。本当に俺の事どう思ってるんだろうか? 魔王ってもしかして、普通は怖いの?


 俺は昼前の、あまり人のいない時間帯のスラムの酒場に行き、カウンターに座って、いつものと言う。今度は果実酒が出てきた。

「お前が来ると暇をしなくて済む、今度は何をするんだ?」

「ビゾンに話を付けに来ました」

「お? 追い打ちで組織の壊滅か? この間の件で、この辺一帯で噂になってるぜ?」

 頼むから、面白そうに話さないでくれ。

「いやいや、本当に話をするだけですので。で、そいつの住んでる場所知ってます?」

「お前が言うと、殺しに行くから場所教えてくれって、言ってるように聞こえるぞ?」

「ははは、なんでそう見えるんでしょうね……」

「残念だがそういうのは知らねぇな。けどあそこの隅で飲んでる奴が、きっと知ってるぜ?」

 急に小声になり、顎で教えてくれた。

「感謝します。あいつと同じ酒を一杯、後で持ってきて下さい」

 俺も小声で、ニヤニヤしながらお礼を言う。

 そして果実酒を持って、隅のテーブルに向かう。

「相席いいですかね?」

「あん? 昼前だから他にも席は空いてんだろ――」

 テーブルに視線を落としながら、酒を飲んでいた奴に声をかけると顔を上げ、俺に気がつくと表情が凍り付いた。

「お、おま! お前!」

 表情と反応を見る限り、この間怪我させたやつだな。

「はいはーい。ちょーっと静かにしましょうねー」

 俺はそのまま向かいに座り、果実酒を一口飲んでから続ける。

「話があります。単刀直入と、回りくどいの。どっちがいいですか?」

 向かいの男は喋らなくなったので、こっちから話す事にした。

「なら単刀直入に聞くが、お前等のボスのねぐらを教えろ。別にどうこうするつもりは一切ない。話し合いをするだけだし、お前にも迷惑はかけない」

 声を落とし、少しだけ脅すように言ってみたが、歯噛みした表情で睨んでくるだけだった。

「そういう態度じゃ仕方ない。他を当たる。この間はすまなかったな」

 俺はテーブルに、銀貨一枚を置いて席を立とうとしたら、ソレを止められた。

「本当に話し合いだけなんだろうな?」

 銀貨一枚でボスを売る。大きくない組織ならこんなもんか。

「えぇ、ちょっと用事が出来まして。どうしてもビゾンさんと話し合いをする必要が出来まして」

「その言葉、信じていいんだろうな?」

「えぇ、もちろん。向こうが手を出してこない限り、こちらからは一切手出ししません。貴方の事も言いません。えーっと何に誓うかな……。あぁ、この果実酒に誓います」

 多少小馬鹿にしつつ情報を聞き出し、酒を飲み干してから酒場を出た。


 そして俺は、教えてもらった廃墟の裏口から入り、手作りの梯子を上って屋根裏に向かった。

「どーもー、アクアマリン商会でーす! お届けの品をお持ちしましたー」

 申し訳程度のドアをノックなしで開け、笑顔で進入した。

 しまった。てっきり一人だと思ったのに、ソファーの両隣に女性を座らせながら、笑顔で酒を飲んでいた。

 せめてもの救いは、男女の営み中じゃなかった事だな!

「貴様は!? どうやってここを知った! 何しに来やがった!」

「まぁまぁまぁ。ちょーっとお仕事のお話をしにきただけですよ。そんなに構えないで下さい」

 ビゾンはテーブルに刺してあった、肉やチーズを切っていたと思われるナイフを取って、こちらに向けてきた。武器は……あぁ、壁に立てかけてあるのね。

「ここでお話ししますので、そんなに構えないで下さいよ。えーっとですね、この間のあの倉庫。酒を造る場所にするんですけど、色々する前に関係者に酒を振る舞うんで、来て欲しいんですよ」

「てめぇ、何を企んでやがる」

「そうですねぇ……。護衛みたい(・・・)な物でしょうか? 貴方のチームに所属してない奴等が、この間の倉庫にいたずらしないようにして欲しいんですよ。早い話が今まで通りです。簡単な事です」

 話し終えると同時くらいに、両隣にいた片方の女性が、氷の矢を数本作って俺に放ってきた。

 俺は急いで【石壁】を作り、特に避ける事もなくやりすごし、石壁を解除すると、砕け散った氷がその辺に散っていた。んーこの女性欲しいな。

「おい止めろ! あいつがこの間言ってた島の魔王(・・)だ!」

 ビゾンの言葉に、魔法を放った女性がこの世の終わりみたいな顔になった。ひでぇな。

「――次やったら怒りますからね? 警告はしましたよ? それと貴女、島に来ません? 魔法使いが不足してるんですよね」

 普通に勧誘したつもりが、今度は顔を真っ青にして、恐がり始めてしまった。んー、俺の噂がもの凄く気になるし、島が想像でどういう風になってるのか、聞きたくなってきた。

 トローさんを引き抜いたから、頭の中では世紀末か、荒野のウエスタン(むほうちたい)みたいな感じになってるのか?

「てめぇ! 俺の女に何を言ってやがる!」

「あぁ、すみません。ちょっと氷が出せる人材が欲しかったので。割と本気で――」

 ぜひカクテル作りに欲しい人材だけど。まぁ仕方ない。

「まぁあれです。近日中に倉庫内で関係者を集め、近所の人達に酒や料理、子供達用にお菓子も配ったりしますので、興味があれば来て下さい」

 話をとりあえず元に戻した。

「てめぇ、本当に何を考えてるんだ?」

 俺は手に持っていた資料のタイトルを、見えるように前に突き出した。

「酒を作る施設の、近隣の防犯及び住民への理解と治安回復。現場付近の悪人を使った、よそ者への警戒。簡単に言うなら、あの辺を縄張りにしてた貴方が、大きい顔をしてれば余計な犯罪は減ります。そして、俺が貴方に警告をする事で、余計なトラブルも減る」

「おい、俺達に旨みがねぇぞ?」

「ははは、何言ってるんですか。俺からみかじめ料を取るつもりですか? 立場の違いをまだ理解してないみたいですね。まぁ別にやらなくても良いです。あの倉庫に何かあったらって約束はまだ生きてますので、何かあったら全部貴方の責任です。精々仲間に強く言い聞かせて下さい。日雇いも雇うつもりですので、軽犯罪をしてその辺で働けない人でも大歓迎です。では失礼しますね」

 俺は言いたい事だけを言い、隠れ家的屋根裏から外に出た。

 んー屋根裏部屋。子供の頃は憧れたけど、結構暑いんだよね。熱がこもるし。あー、だからあの女性は氷の魔法が使えたんだな。

 氷の魔法ねぇ、ゲーム的には嫌いじゃないんだけど、強度がなぁ……。

 それにしても、こんな常夏っぽい場所でも氷の魔法か、出身地は寒くなる場所だったのかな?


「ただいま戻りました。とりあえず職人の確保はできましたし、話を付けてきました」

「お疲れさまです。で、準備する物は増えましたか?」

「オルソさんが、蜂蜜酒を希望です。ちょっと壷に蜂蜜と水入れてきますね」

「わかりました。そういえば、蜂蜜の生産量どのくらいだったかしら?」

 ルッシュさんは独り言のようにつぶやき、書類を見始めた。

 巣箱も順調に増えてるし、結構増えたと思うんだよね。ハニービーも頻繁に村の中で見るようになったしなぁ。

 蜜蝋も余り気味だしカヌレ食べたい。作るかなぁ。けどバニラビーンズないんだよなぁ……。

 会田さんに頼もう。

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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