表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/324

第187話 疎水を作った時の事

 あれから数日後。俺は織田さんから図面を受け取り、ソレを書類に挟んで話し合いに行こうとしたが、しばらく第四村建設予定地からの連絡がフルールさんからないので、一応様子を見に行ってみる。

 最西端の海岸に転移するが、特に問題なさそうに思える。

 ジュコーブさんもゴブルグさんも、第二第三村から集めた人員で集合住宅を造ってるし。むしろそろそろ完成間近に見える。

「おー、カームじゃないか。どうしたんだ?」

 ジュコーブさんが俺に気が付いたのか、作業を中断して近寄ってきた。

「別に何かあるって訳じゃないんですが、問題が起きてないかの確認です。連絡がなかったので、何もないと思ってても少し心配になっちゃいまして」

「気持ちはわからんでもないが、心配すんな。きっちり作ってる。後は中の床を張ったりするだけだからな。それより湖から水を引いてくれ。第二村の事は聞いてるぜ? 水路を引き忘れたんだってな」

 ジュコーブさんの言葉で、俺は一気に冷や汗が出た。すっかり忘れてた。

「……えぇ。今すぐアタリつけて引っ張ってきます」

 超笑顔で、親指を立てて返事をした。

「忘れてたんかよ……」

「えぇ、すっかり忘れてました!」

 一応井戸は掘って、飲み水や体を拭く事は出来るようにはしてあったが、まだいいやって気持ちが……ね?

 俺は脳内の地図を思いだし、山の北西か南の湖、どっちが近いかを思い出す。

 どっちも似たようなもんだな。けどギリギリ北西からかな?

 放牧とかを考えるなら、木の枝みたいに南側の湖からも疎水引きたいな。けどそんな暇はない! まずは一本主要の疎水を引いて、そこから用水路って感じだな。

「あ、この廃材もらいますね」

 木の枝ではなく、削ってある木の方が見分けが付くからな。

「好きにしてくれ……。忙しいのはわかるが、うっかりだけは少なくしてくれよ」

「はい、気をつけます」

 ジュコーブさんに笑われつつ、俺は少し多めに廃材を脇に抱え、集合住宅の中を通るように廃材を折りながら刺していく。そして高低差を見て、水が溜まらないようにしつつ、木のないなだらかな丘の方を選んで進んで行った。


「そろそろ昼か……。戻りたいけど、ここに転移でもどってこられる自信がない……」

 野営道具もない。なんで思いつきで行動しちゃったんだろう……。

 まぁ、第二村の時は、ほぼ湖まで一直線だったからどうにかなったけど……。

「フルールさんいます?」

「いるわよー」

「この近くに野ウサギか蛇いませんか?」

 結果、その辺の野生生物を狩る事にした。

「カームの見てる方向に二百歩程度の所に一羽いるわね」

「ありがとうございます」

 俺はお礼をしつつ、教えてくれた花に【水球】で水を与え、手頃な石を拾ってゆっくりとそっちに向かう。

 少し歩くと、立ち上がって鼻をひくひくとさせているウサギを見つけたので、思い切り石を投げ、顔面に命中させた。

 もの凄く可愛いんだけどなぁ。まぁ仕方ない。

 あと、道具が無いならどうにかするしかない。枯れ木を集めて火を起こし、近くに【水】で洗った平らな石を置き熱する。

 そして、俺はウサギを調理してたおばちゃんのやり方を、試してみる。

 ウサギの首を持って、少し左右に振って内臓を下げてから、膝の上に乗せて一気に絞る。そうすると、肛門から内臓が全部出てくる。

 初めて見た時は、かなりショッキングな光景だったが、すごく効率的だった。

 という訳でいざ実践。


 ……うん、もう二度とやらない。


 肝臓だけ切り離して熱した石の上に乗せ、ウサギの処理に入る。

 首と両足を切り落とし、胴体に軽く切り込みをいれ、左右に思い切り引っ張る。そうすると、綺麗に皮が剥ける。今回は革にしないから、内臓と一緒に放置。野鳥とか狼が食べるだろう。

「新鮮すぎて美味い!」

 石の上に置いた肝臓を食べ、部位事に切り分けて水で洗った肉を乗せて焼き始める。

「さっきまで生きてた肝臓だからなー」

 その辺で折った枝をナイフで削り、皮を取った枝で肉をひっくり返して、焼けた物から食べる。

「最低限塩が欲しいな……。塩が足らんのです」

 料理長的な事をつぶやき、残りの大きめの肉を口に運ぼうとしたら、空からファーシルが降りてきた。

「おーっす、こんな所で珍しいな。何してるんだー?」

「おー、湖から水を引かないといけないから、目印を立ててたんだ」

 んーなんか急に成長した感じだなー。成長期だろうか? ファーシルの母親や他のハーピー族っぽい、スレンダーな感じだ。

「おー、二番目と三番目の村作ってた時のアレか!」

「そうそう、アレ」

 ファーシルは俺と話しているが、石の上の肉しか見ていない。

「食べる?」

 一応聞いてみた。

「おう!」

 俺は枝で残りの肉を刺して、ファーシルに渡してあげた。

「んー、うめー」

 見た目が成長しても、性格は変わらないよなー。

 ウサギも増えたら森に放したり、ハーピー族に豚肉とかと一緒定期的に渡している。

 コーヒーの実も、こっちが収穫してるのとは別に持ってきてくれている。

 友好関係は、今のところ問題ないと思いたい。

「お肉は皆で食べてる?」

「んー? うん」

 ファーシルは少しだけ考えたが、問題はなさそうだ。

「海に住んでる魔族と喧嘩は?」

「ない」

 こっちは即答だった。俺が仲裁に入るまで、水生魔族は捕食の対象っぽかったし。

「私も手伝うか?」

 意外な事を提案してきた。湖まで直線じゃないし木も多いからな、手伝ってもらっても良いかもしれない。

「ならお願いしていいかな? むこうの方にある、大きな水たまりから水を持ってきたいんだ。この場所から大きな水たまりの方に少し進んで、空で止まっててくれる? ファーシルを目印に水の道を造るから」

 俺は北西側の湖を指さし、簡単な言葉で説明をした。

「おー、あっちな」

 速攻で飛び立とうとしたので、俺は足をつかんで止めた。

「なんだよー」

「火を消してない。火事になったら大変だ、待っててくれ」

 俺は急いで火に【水】をかけて消し、足で燃えカスを散らした。

「いいよー」

 そう言ったら、三回ほど羽ばたいてからもの凄い早さで北西に飛んでいった。

「見えねぇ……」

 この場所に戻ってこられる気がしないので、四十五度ほど左に回り、地面に水路を造りながら歩くが、しばらくしたらファーシルが戻ってきた。

「大きな水たまりと、カームの場所をまっすぐ飛んだけど、山にぶつからなかったぞ。このまま真っ直ぐでいいぞー」

 そう言って、少し先に進んで低空でホバリングしている。

 ハーピー族が本気で飛んだら、どれだけ速いんだろうか? そんな事を考えながら、ファーシルを目印に地面をへこませながら進む。


 そして夕方になり、ここに転移で戻ってこられる目印がなかったので、どうしようかと考えていた。

「カームー、腹減ったから飯作ってくれー」

「道具と肉がねぇよ。村に戻って作っても良いけど、魔法でここに戻ってこられねぇ」

「ならここで、火をおこしててくれ」

 ファーシルはそう言って、返事を待たずに東の方に飛んで行ってしまった。

 仕方がないので、その辺の枯れ木を多めに持ってきて火を起こす事にした。

 火が落ち着いた頃に、ファーシルが俺のリュックを片足で掴んで、もう片方にはウサギが二羽掴まれてた。

「皆に話して荷物もってきたぞー」

 リュックを開くと調理道具一式と、オリーブオイルとパン、調味料が入っていた。

「おーけーおーけー。これで前に作ってやった料理が作れる」

 今度はウサギを普通に(・・・)捌き、内臓を処理しようと思ったら、ファーシルに肝臓を取られ、生で食べだした。

「んー。コレはいつ食べてもうめー。最近食べさせてもらえるようになったんだぞー」

「別に生で食べられなくないけど、食中りには気をつけろよ」

「平気平気、いままでなった事ねーから」

「そうっすか……」

「そうっす」

 会話中もウサギを捌きつつ、二羽めの肝臓も取られた。なんとなくニラレバ食べたくなってきた。榎本さんのところの醤油とか出来たら、甘しょっぱく炒めるか。

 そんな事を思いつつ、肉に塩コショウをなじませ、多めのオリーブオイルにニンニクを入れて、香りをつけて焼いていく。

 付け合わせはいいや。ハーピー族って何となく肉食寄りだし。

「あいよー、自分のは今焼くから、冷める前に先食べてて」

「わかった」

 ファーシルは短い返事をすませると、さっそく肉にかぶりついている。

「うめー」

 俺は少し微笑み、フライパンを振って自分の分の肉を焼く。

「なーカーム」

「んー」

「親になるってどんな感じだ?」

「なんでそんな事をいきなり聞いてくるんだ?」

 暗くなった森の中で、たき火の明かりが揺れる中、本当にいきなりそんな事を聞かれた。

「とーちゃんかーちゃんに、そろそろ子供が産めるから、仲間の中で一番強い男と(つがい)になれとか言われた」

「そうか……。親になる……か。――俺の考えだけど、いつもとあんまり変わらないかなー。いつもの中に、嫁と子供が増えて、その嫁と子供のために少しだけ頑張れるようになる。そんな感じだ。旦那の方も、似たような思いになってると思うぞ」

 肉が焼けたので皿に移し、ナイフで食べやすいように細かく切って続ける。

「最初は子供の面倒を見るのが大変だけど、産んだ方も、旦那になった方も、子供が産まれた瞬間に、自分の中で何かが変わると思う。俺も、俺の嫁もそうだった。だからいつも通りにしてればいい。なにかあれば旦那と太陽の出る方の村に来い、わからない事は色々教えてやる」

「そっか……。ちょっと難しいけど、なんとなくわかった」

 最近肝臓を食べさせてもらえるようになったのは、子供を産む為かもしれない。

「少しずつ理解してけばいいさ。ほら、少し肉を分けてやるから、栄養付けとけ」

 俺はフォークで、大きそうな肉を選んで、ファーシルの皿に移してやった。

「うおー。カームはやっぱり良い奴だな!」

「良い奴だろ? だから困ったら頼ってこいよな」

「わかった! うめー」

 最初に会った小さかった頃を思い出しつつ、月日が経って子供がどうこう言われると感慨深くなるな。俺の子供達も、いつかはこうなるんだろうか?

 皿に残った油をパンで拭き取り、土を付けて【ぬるま湯】で洗い流し、フライパンも【熱湯】に付けてから油を浮かせ、同じようにして洗った。

 食事が終わり、一時的にファーシルは帰り、俺は土のかまくらを作って、たき火に枝を足してから寝る事にした。



 んおー、久しぶりの野宿は堪えるなー。

 かまくらから這い出てのびをして、体中をボキボキと鳴らす。

 そして顔を洗い、燻ってる焚火跡に枝を足し弱火にする。リュックをあさり、バナナの葉っぱに包まれてるベーコンをフライパンに乗せ、弱火でじっくりと焼き、パンに挟んで食べた。

 俺は、ベーコンはカリカリではなく、しんなり派です! カリカリ党が島には多いが、俺はしんなりを貫き通す! ちなみにスズランはしんなり、リリーがカリカリ。ラッテはカリカリ、ミエルがしんなり。ベーコンの焼き加減は遺伝しないようだ。

「おーっす。手伝いに来たぞー」

「助かるよ」

 昨日のような雰囲気はなく、いつも通りのファーシルだった。

 その後は、ファーシルの先導に従い疎水を作り、湖の百メートル手前で止めておいた。

「終わったなー。残りはどうするんだー?」

「わかりやすいように木を刺してたから、太陽が沈む村から地面をへこませてくるだけだよ。手伝ってくれてありがとう」

「平気だぞー。カームと一緒なら美味い飯が食えるからなー」

 そうだった、ハーピー族は、働くイコール食事だった。

「何かあったらまた手伝ってくれよー」

「おうよ!」

 ファーシルは、短い返事をして帰って行った。俺も第四村から、また水路造ってこないと。

「戻りましたー」

 俺は第四村に転移し、軽く挨拶をしてから作業に戻る。今は昼近くだから、夜まで歩けば水路が繋がるだろう。

 水浴び場用に、すり鉢状に地面を窪ませ、そこから目印に沿って地面をへこませていく。

 なんだかんだで、これくらいの作業量なら、気だるくならないので、魔力の最大値も上がってると思いたい。


 地面をへこませながら歩くという単純作業をしつつ、夕方には昨日の場所に着いた。

 水路が四十五度曲がってると、水流で土が削られる可能性があるので、ここに少し大きめの人工池でも作っちまえ。

 調子に乗り、市長になって街を作ったり、巨人が地形作ったりするゲーム風に、辺りをへこませる。

「ぬぁっはははは! ここを人工池にしてやろうか!」

 一万年以上生きてる悪魔っぽい口調になったが、誰もいないので気にせず続ける。

 腕を振ってその辺を凍らせる映画っぽく、その場でクルクルと踊ったりして地面をへこませた。

「フッフー! 気分は魔法使いだぜぇー!」

「何してるの?」

「あ、いや。ちょっと気分が高揚しちゃいまして。はい、調子に乗ってました……」

「見ててすごく馬鹿っぽくて面白かったし、見てるこっちが恥ずかしかったわよ?」

「あ、はい……。すみませんでした。ぜひ家族や島の皆様にはご内密にお願いします……」

「口止め料はこの子にお水ね」

「……うっす」

 フルールさんにつっこまれ、そして神様に録画されてる事を思いだし、すごくへこんだ。

 テンションが下がったまま、フルールさんに【水】を与え、島の北西の湖まで転移し、残りの百メートルを無言でへこませて水路を開通させる。

「はぁ……。帰って飯食って寝よう……ちくしょう……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ