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第117話 判子を作った時の事

適度に続けてます。

相変わらず不定期です。

この話の半分は勇者で出来ております。

勇者の名前はあいうえお巡ですが、櫛野と久我で被ったので、久我を剣崎に変えます。

「会田さん! アイテムボックスの術式完成しました!」

 そろそろ暑さが柔らぐだろうという頃に、とある若い魔術師が、ノックも無しに、ドアを破壊する勢いで入ってきた。

「おいおい、そんな慌てる様な事でもないだろ」

 俺は今、膿をある程度排除した城の執務室で、書類の山と戦っていたが、そんな大声で仕事が中断された。

 権力に物を言わせて城の中で働いてた奴が多いが、能力が低い者や、性格に難がありすぎる者を段階的に排除し、性格が良く、やる気の有る若者の雇用を始め、魔術師や軍事関係者にもそれを適応させ、昇進は能力制という事にさせ、努力次第では上に行けると言う事も徹底させた。

 最後にある程度残っていた、指導を任せられそうな膿を排除したら、思いの外城内が快適になり、今では、能力は有ったが権力が無かったり、気が弱く、上に行きづらい者が教師役として、ごく少数が残っているだけだ。

 良く国が成り立っていたものだ。

 国王に関しては食事会以降大人しくなり、しばらくは政治や国外の歴史に詳しい、知識系勇者の傀儡として動いていたが、思いの外内政が良くなり、国民の不満も減り、付き物が落ちた様に大人しくなった。

 今では家族と和解したのか、のんびりとテラスでお茶を飲んでいる事も多くなり、自分から学ぶ姿勢も見せ始めている。

 第三王女は例外だが。


 そして、ファンタジーやRPGが好きな勇者が発した一言で、大きなプロジェクトが計画された。

 その名も『大きな袋作戦』だ。なんでも、アイテムが多く入る物から取った名前らしい。まぁ、俺もやった事は有るけど、現実味が無かったので立案しなかったが、なぜか意見が多かったので本気で取り掛かる事になってしまった。

 そして出された案が、国庫に有った魔石を使おうとなり、有力な案が『四次元式』と『体積軽減』だ。

 四次元は、縦と横と高さに時間をかけて時間と共に空間を広げる方法だと、事前の会議で聞いている。

 体積軽減は、その空間に在る物を小さくして収納する物だ。余り興味が無いのでほとんど聞き流していたが。

 どっちが出来たのかはわからないが……


 俺は言われた通り、城の中庭の角に木の板だけで作った、二メートル四方の粗末な作りの小屋に一緒に向かう。この小屋の中には、小さな箱が四隅と真ん中に置かれている実験室だ。

「剣崎さん、お疲れさまです」

「あ、お疲れさまです」

 この剣崎さんは、俺と同じ教師で理系の男だ。

 実験以外には興味が無く、特に着る物には無頓着で、特注で白衣を作ってもらい、年中サンダルで過ごしている。

「魔術師に教えて頂いた術式を私なりに理解し、私の持ってる知識を教え。使えそうな術式を幾重にも重ねた物にしてもらい。魔力を込めれば空間が広がるよう術式を組んでもらった」

「ほー」

 実は理系はあまり得意じゃないので、聞き流す事にした。

「いやー、先ほど台座に乗せた魔石に魔力を込めたら、やっと成功しましてね。呼びにいってもらったんですよ」

 剣崎さんは頭をポリポリと掻きながら報告してくる。

「どうぞ」

 そう言ってドアを開けると、どこまでも広がる真っ白な空間と、粗末な床が広がっている。

「おー、こいつはすごい。大成功じゃないですか!」

「んー、いや。たぶん失敗ですね」

「どうしてです?」

「入って右手側に置いた台座が有りません」

「と言うと?」

「ドアと、台座の隙間が広がり、この壁沿いのどこかに有りますね」

 そう言って指を指す方向を見ると、右手側には、どこまでも上と奥に続く壁と、左側には床の地平線が続いている。

「このまま荷物を入れたらどうなります?」

「魔石に込めた魔力が切れたら元に戻るんで、この小屋が吹き飛んで、荷物が破壊される可能性も有りますね」

「この出入り口付近に、一時的に荷物を置いて取り出せば良いのでは?」

「君を呼びに行っている間に、一服していただけで、台座が地平の彼方に行ってしまったのにかい? それに台座が無いから、本当に一時的だ」

「ドアを開けっ放しか、中に人を入れた状態では?」

「安全上、機能しない。機能させても良いが、時空が歪むかもしれないし、この空間で迷子になるね。試してないからわからないがね。壁を伝ってくれば理論上はドアにたどり着けると思うけど、広がり続ける速度の方が早いね、簡単に言えば雪だるま式で広がってるし」

 心底楽しそうに言っている。

「ある意味失敗ですかね?」

「物置としては失敗だけど、個人的には成功かな」

 この人の頭がある意味失敗だ。



 翌日、昨日と同じ時間帯に呼ばれ行ってみると、手にエメラルドのような色をした透明な鉱石を持った剣崎さんが、紙巻きタバコを吸いながら立っていた。

「いや、何度もすまないね。昨日の魔石は回収出来たんだけどさ……」

 何かばつの悪そうな雰囲気で話しかけてくる。

「体積軽減の方を試したんだが……」

 そう言ってドアを開けると、見事に何もない。小屋の狭さは見たままだが……

「時間と共に小さくなっちゃってね。魔石に魔力を込めてくれた子も小さくなっちゃってね。この狭い空間で遭難中だ。今はドアが開いてるから、体積軽減は止まってると思うけど。言い訳にしか聞こえないけど、タバコを取りに行っている間に同僚の子がふざけてドアを閉めちゃってね」

「申し訳有りません」

 隣にいた、魔術師らしき男が深く頭を下げている。

「すぐ開けてくると思ったけど、ぜんぜん開かないから、開けてみたらこの有様だ。こちらとしては、危険性を証明できたから良いんだけど、流石に監督不行届だって事は重々承知している」

 そう言って剣崎さんは両手を広げて、首を振っている。全然反省している様に見えない。

「救い出す方法は?」

「砂漠で落とした銅貨を探すより難しいかもねぇ。それか海の底。それに入ったりすると、踏みつぶす可能性もあるから、入れないね。中の子は昨日の会田君みたいな感じになってると思うよ」

「生存の可能性は?」

「中にいる子が、定期的に魔石に魔力を流さなければ、早くて昼には。効果はフル充電で一日だから、そのくらいかな」

「小屋を破壊して効果を無くすのは?」

「ここら辺一帯に何かしら影響が出る可能性が高い」

「中の子が自棄を起こさない事を祈りましょう……」

「一応、事故が起こった場合の対処法はしっかり教育してあるから。それとふざけた子の処罰だけど」

 そう言うと、隣にいた男の顔がどんどん青くなっていく。

「一ヶ月間給料を二割減給、その減った分を被害者に渡すのが適当でしょう。まあ、無事に戻ってきたらって事が前提だけど」

 そう言うと、青かった顔が直ぐに戻り安心している。もう少し重いと思ってたのか? けど事故は事故だから反省して欲しい。

 ちなみに体制が変わる前は、場合によっては、顔に焼き印の可能性も有ったらしい。重すぎだろ……


「で、結果的に言うけど。大きな袋作戦は、このままだと難しいね。魔力を込めた魔石を袋や部屋に入れて封をした場合、手が物にたどり着けないか、拾えないかだね。都合良く丁度良い大きさで止まったり出来ないもんかなー」

 そう言いながら、口から煙草の煙をため息と一緒に出している。

「とりあえず一時凍結ですかね?」

「その方が無難だね。もう少し面白い物が有れば言ってくれ、実験するから」

 その言葉に俺は絶句した。

 因みに、小屋で遭難した魔術師は、昼前に小屋から元の大きさで出てきて、抱きついてきた同僚をぶん殴っていたと、昼食時に聞いた。

「んー、本当便利な世の中にするにはほど遠いか」



「お願いしますカームさん! 面倒くさがらずに印を作って下さい! 最近手広くやってるから、色々不都合も出てくるんですよ!」

 麦酒やサトウキビから汁を搾り、その絞りカスから蒸留酒を作って、アクアマリン製のウイスキーやホワイトラムとして売りだそうとしたら、とうとうニルスさんから泣きが入り、仕方がないのでこちらも動くことにする。

 とりあえず他の取引先の印を見せてもらい、大体の大きさを調べ、印を押すハンドルと平均的な大きさのスタンプを買い、元日本人としての血が騒ぎ、法人実印的な物と、法人角印的な物を作ってやろうと決めた。

 島に戻り、買ってきたスタンプを紙に当てて外枠の大きさを写し、そこに細かく、丸印には『株式会社アクアマリン事業』と円状に書き、真ん中には無難に『代表取締役之印』と書いた。

 角印は『株式会社藍玉事業』と、それらしい文字を記憶を頼りに、なんて言う書体かは忘れたけどカクカクに書き、ゴチャゴチャした印にしてやった。

 すべてはニルスさんが悪いんですよ……

 出来上がった物を家具職人のバードさんの工房に持ち込む。

「バートさん、コレを掘って下さい。浮かし掘りで! 文字なので立体感は要らないので深さは均一で!」

 と言って下書きを見せる。

「細かっ!」

 と、声を上げたが、細工の腕が上がるだろう。

 俺にも【細工】は有ったが、専門家に任せた方が良いと判断した。

 因みにものすごく細い針と彫刻刀をピエトロさんに頼んでいた。

 んー悪い事したかな?



 後日、バートさんが目をショボショボシパシパさせながら印を届けてくれたので、試しに溶かした蝋を垂らして、そこにゆっくり押しつけ、十数秒待ってからゆっくりと離す。

 文字が潰れたり、離す時に蝋が折れると思ったが、そんな事は無く、バートさんにお礼を言っておいた。

 これで夕方、ニルスさんの所に嫌がらせに行こうと思う。店長にアポ取っとってもらおう。


「ばんわーっす、言われたとおり印を作ってきましたー」

「うっす。この間頂いた酒ですけど、辛みの中に甘みが有って俺は好きっすよ。言われた通り水で薄め、オレンジやらレモンの絞り汁入れて飲むとさらに飲みやすいのが良いっす。これから、あの酒が出回るんすよね? ありゃ人気でますよ、だからボスがさっさと印を作れて騒いでたんすよ」

 見慣れた従業員と軽い会話をして執務室に行き、ノックをして、返事を待ってから入った。

「やっとですか。好きな子に恋文を書いて、それの返事待つ子供のような心境でしたよ」

 なかなか詩人的な事を言うが、俺の印待ちなので、青春って文字は出てこないなー。奥さんいるんかな? まぁ、いなさそうだよな。仕事と金が恋人っぽいし。

「では早速お披露目ですね、いやー長かった」

 そう言うと、ニルスさんはホワイトラムや蒸留酒の書類を出して、赤い蝋の欠片をスプーンの上で暖めだして書類の上に垂らし、俺が印を入れてある袋の紐を解いて、ゆっくりと上から押さえ、ゆっくりと離して隣にサインを入れる。

「いやーこれで面倒が半分以下に……な……る? なんですかこれ? こんな細かくて複雑なの王族や貴族並ですよ?」

「言われてた島の印ですが?」

 そう言うとニルスさんは、マジマジと印を見て手で目を押さえながら頭を振っている。

「どの辺が、どうカームさんの印なのか詳しくお願いします」

 心なしか、声に覇気がない。

「アクアマリン事業代表取締役です」

 そう言いながら、自分を指さす。

「まぁ、アクアマリンは島の名前、それの色々な物事に決定権を持つ代表って意味です。前の文字は営利目的の為に動く商会って意味です。つまり島全体の事業の代表って意味です」

 本当は文字数を増やしゴチャゴチャにして、複製防止目的にさせただけだ。そう説明すると、ニルスさんは今度は頭を抱えだした。

「サインだけの方がまだマシだった……。つまりさっきの説明を、取引先全員に説明するのかよ……普通シンボル的な物に簡単な名前だろう……、前に他の印を見せてって言ったのはなんだったんだよ……」

 作ったら作ったで泣きが入った。正直半分嫌がらせです。元日本人の細かさを舐めないで欲しい。

「あのですね、見た感じで、一発でわかる感じにならなかったんですか?」

「細かすぎて一発でわかりますよ?」

「――もう良いです、カームさんにそういう事を説いても無駄だったんですよね」

 そう言いながら大きなため息を吐いた。

「ちなみに重要性の低い書類用のも作りましたよ、樽に付ける焼き印にもしたいですね」

 そう言ってもう一つの印を出した。こちらはバートさんが安心したようなため息を出した奴だ。

 円の縁の右に椰子の木、左にハイビスカスの様な花、中央に山。あの島を象徴するような物で、文字は一文字も無い。コレを適当な紙に蝋を垂らし、押す。

「コレですよコレ、こういうのを言ってたんですよ。なんで最初にこっちを出さないんですか」

「ソレが重要書類っぽかったから?」

「……そうですね、えぇ、私が悪かったです」

「船乗り達に普段の買い物とか、名前が書けない人に頼むならコレを渡しますが、さすがに今後取引にかかわる事になる様な書類なら断然こっちですよ」

 ちなみに三文判の様な扱いで作らせた。

 そんなやり取りをしながら、石鹸事業の話になり、かなり儲けさせてもらっていると言っていたので、書類を見せてもらい、島に入る利益分を見て、特に問題無さそうと判断した。相手が売り上げを誤魔化して無ければだけどね。そこは信用だろうな。

「いやー細工師を雇って、石鹸を色々な形にしてもらったら、もう富裕層や貴族のご婦人達に飛ぶように売れましてね、前に話してた香り付き石鹸を売っている商会も真似し始めましたよ。今ではお互い技術向上を目指し、質の良い物を作る努力をしてますよ」

 この間持って来た、ラム酒を飲みながら上機嫌に話してくれている。本当に儲かっているようだ。

「あとは錬金術師に相談しに行って、傷が早く治るポーションを売って貰ったり、良い香りの花を聞いたりして、それを混ぜて売り出して、色々周りの反応を聞いたりしてるんですよ」

 本当上機嫌で話してくれている。商談が終わった後に飲みながら話すのは初めてだが、酔っているニルスさんを見のは始めてだ。

 うん、この酒も軌道に乗れば一気に広がるな、定期的に入る収益と酒や嗜好品を売った儲けと相談して、島の畑や施設の拡張予定しておくか。

 本当、ある程度の利益だけもらうようにしてして一任して良かった、面倒な事や販売ルートはニルスさん任せだし。今度コーヒー豆を漬けこんだ酒でも売り出すか。アレは好みでお湯で割ったり、砂糖を入れたりして飲めば美味しかったし。

「あ、鉄や木を加工して、そこに石鹸の元を流せば、その形になって出て来るんじゃないですか? 簡単な物なら抜きやすいですし、コストも下がりませんか? 鋳物やってる人に依頼すれば早いのでは?」

 そう言うと、ニルスさんの酔いが一気に醒め、即メモを取り、分厚い資料を捲り、名前を書き出している。

 多分鋳物職人か指輪の台座を彫る職人の名前か何かだろう。

 俺は邪魔をしない様に、一声だけかけてから帰る事にした。

焼酎にコーヒー豆を入れて5日くらいで焦げ茶色になり、コーヒーの香りが付くので、お好みでストレートやロックやお湯で割って美味しくいただけます。

個人的には砂糖とお湯割りで。


おまけSSの方に、11月8日の「いいおっぱいの日」にスズランのSSを書きました。

そして「自分のキャラクターへの100の質問」と言う物を発見したので、カームにやらせました。

http://ncode.syosetu.com/n4699cq/

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作者が書いている別作品です。


おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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