第112話 ヴァンさんと買い物に行った時の事
適度に続けてます。
相変わらず不定期です。
またタイトル詐欺です。
あの後、ある程度の事をヴァンさんと話し合い、簡単な設計図をジュコーブさんとゴブルグさんと話し合い、方針が決まってから夕方にコランダムに飛ぶ事になった。鋼材を仕入れる為だ。
今度は事前に、コーヒー店にいるフルールさんと連絡を取り、マスターに行く事を伝えてある。だから今回は急な訪問ではない。
「こんばんわー、大口の御客でーす」
「ちょっとカームさん、自分から何言ってるんですか?」
「まぁ、ちょっと……。裏にいるドワーフが島に来てくれる事になって、多少鋼材が入用なんですよ」
「それは大口なのですか?」
「この倉庫の一角を使う程度の巨大な釜みたいな物を銅で作りますからね、それと、島の鉄の備蓄も乏しいので、そちらもです。で、ヴァンさん。故郷ではどのくらい使ってました?」
「んー適当だ、叩いて伸ばして型にはめて組み立ててってやってたからな。管理はある意味してなかったな。その辺に有った銅をとりあえず使っちまえ! ってなったからなぁー」
「ってな訳で、ある程度の量が必要です、んじゃ、奥に行きますねー」
「ってな訳なんですけど、何かツテはありませんか?」
「そうですね、多少恩を返すつもりで、こちらも色々と駆け回ってたんですよ」
ニルスさんの話で、鉱山の視察とそこの山を管理している貴族と交渉し、運営商会から安く鋼材を仕入れられるようになった事を聞いた。
「なんか鉄が出無さそうって言ってたじゃないですか、小川の底が茶色っぽくないとか言って」
「確かに言ってた気がします」
「なので多少入用になると思い、交渉にはこの間のチョコレートを利用させていただきました。まぁ、そこの鉱山のある街に酒を下ろせば需要はかなりあると思いますよ、なにせ鉱山の酒場は賑わってますからね。そこからさらに値段交渉にねじ込む事も可能ですよ」
ニルスさんがニヤニヤしている、酒代安くするから鋼材少し安くしろってな流れか? まぁその辺は突っ込まないようにするか。
そこからは具体的な話し合いになり、この箱で言うとどのくらい使ってました? とか梱包用の箱を手で叩きながらある程度の量を決め、少し多めに銅材を仕入れ、それとは別に鉄材も仕入れた。
見本にインゴットをヴァンさんが見ていたが、こんなもんか……と呟いていたので、及第点なんだろう。ドワーフからしてみれば、人族の鋼材ってどうなんだ?
それからは値段交渉に入るが、ヴァンさんは「コーヒー店の路地に入る角の酒場で飲んでる」と言って出て行った。多少は商売っ気もあって良い気がするんだが。
正直この値段は島の資金では足りないし、借金も好ましくない。なので何回使うかわからない最終手段を使う事にする。
「値段なんですけど、島の共有財産では全く足りなさそうなので。俺の私財から支払いますね。とりあえず酒に関しての売り上げから少しづつ俺に返してもらえれば良いと思ってるので。その事に関してはニルスさんも証人になって貰う為に一筆書いて下さい」
そう言って、この間王都で手に入れた金を使って、大量の鋼材を手に入れる事にした。
「では前金で半分、あとは島に届いたら半分と経費分を支払います。仕入れ金が足りないと言うのなら元値がわからないように、大雑把に言ってくれれば出しますよ」
「いえいえ、そこは信用しますよ」
「ありがとうございます。ではそのような流れで」
「わかりました、この量の鋼材を送れば良いと言う事ですね、多少多いので少し時間がかかると思いますけど、よろしいですか?」
「まずはその蒸留器って奴が入る建物を建てないと話にならないので、多少遅れても平気ですよ」
「わかりました、では売れる物を用意して置けば、こちらで買い取りますよ。買い取り金額はこの前の書類通りで?」
「そうですね、人手が増えて効率が上がったから、多少下げても良いと思いますけど、取りあえずは様子見でお願いします、どうしてもだめな場合は事前に値上げの報告をしますので」
「わかりました、伺う場合はコーヒー店のマスターに言えば良いですかね?」
「それでお願いします」
そんなやり取りをしつつ商談も終わり、ヴァンさんを迎えに行き、島に戻る事にした。
◇
翌日からは蒸留所建設が始まり、保存庫を作りつつ酒樽も並行して作った。気温が高いので、地下を掘って、そこに保管する案を出したが、そこまで運ぶ労力や今の技術力を考えて廃案にした。
出すのにも苦労しそうだし。
そんな事を考えても仕方が無いので、ヴァンさんを監督にして骨組みが仕上がった頃に、ニルスさんの船が島に着き、物資の搬入を行い、多少会話をする事にする。
「あそこにある大きな建物が、蒸留酒を作る工房ですか」
「そうですね、どうしても液体は重いので港の近間にしようと思いましてね。油はここでは取れないので別な場所ですけどね」
両手を広げ、やれやれと言うような表情をして言っておく。
「まだまだ搬送技術は船か牛車ですからね、そろそろ馬を考えてますよ」
「探しておきます?」
「臆病な生き物ですからね、船で搬送するか転移魔法使うか本当に迷ってるんですよ。転移だと子馬の方が安全な気がしますが、親と離して良いのかも不明です。そうすると訓練された軍馬ですかね? そこから増やして行きたいです。なんだかんだ言って動物を搬送するのって手間ですからね」
「軍馬ですか……」
「魔族と人族が休戦条約を結んで。多少の規模縮小を見込んで、手放された軍馬とかツテでないですか?」
「いやいや、いくら何でもそんなの無理ですよ。自分は只の商人ですよ?」
「やり手だからそう言うのもあると思いましたが。無理ですか……王都の勇者に頼るか」
「カームさん、貴方の噂は色々聞きますけどね、なんで勇者と接点を持っているのかわかりません」
「まぁ、港で百人相手に挨拶してれば一発でばれますよね。まぁ意気投合して知り合いになったって事にしておいて下さい」
「しかも肌の色が特徴過ぎますから色々噂も入って来るんですよ、本当かどうか眉唾物ですが、停戦条約の時に会議にいたとか。王都の城内で見かけたとか」
「あーアレですか。停戦条約は勇者の知り合いとして魔族側の魔王として出席してますよ。王都の城内は、勇者の知り合いって事で魔王として一緒に出席してます」
なにも隠す事はないので、正直に言う。
「……はぁ。もう良いです。なんかすごい魔族に贔屓にしていただいてる商会と言う事にしておきます」
そう言って頭を押さえている。
「お気遣い感謝します。とりあえずお客様用の宿泊施設がありますがどうでしょうか? 気分が悪いのであれば一泊くらい問題ないと思いますけど」
「ありがたいのですが、久しぶりに魔族側の大陸にも行きますので、今日は搬入と挨拶だけにしておきます」
「そうですか、なら仕方ないですね。自分も後で魔族側の大陸の港町にも行かないと行かないとって思ってるんですよ……」
「ついて来ます?」
「いやいや、今は蒸留器作るのに忙しいので、農閑期になったら船長に打診してみますよ」
「お互い多忙と言う事で」
「ですね」
そう言ってお互い別れ、俺も作業に戻る事する。
◇
そうして、夏の熱くなり始める頃には、ベリルに修行に行かせていた大工が島に戻って来て、施設の外壁を作る作業効率がさらに上がった。しかも話に聞いていたお腹の大きな魔族の奥さんを連れて。
その時は島で盛大に祝い、今度の収穫で食糧事情が安定しそうなので、この際だから子作りも解禁させるかな。少しだけ古い小麦も手に入ったし。
そうして、その頃には蒸留施設が出来上がった。
「よし、俺一人じゃある意味手間がかかったが、まぁまぁの出来だな、早速麦酒でやってみようぜ! カーム、この島じゃ炭も焼いてんだろ? こっちに都合してくれ」
「えぇ、薪の在庫は多めにありますし、掘り起こした木の根とかそのまま炭にしてますからね、そう言うのを持ってきますよ」
そうしてドワーフが信仰している酒の神の為に、最初に蒸留器に大量の酒をぶっかけて、なにか祝詞みたいな物を言ってから作業を始め。二樽分の酒を造り、蒸留したての酒を島の南の村にも運んだ。
「どうもお久しぶりです、この島の特産品を一つ増やしました、かなり強い酒なので、取りあえず一樽分を持って来ました、皆さんでお楽しみください。本当に物凄く強いので、果物で作ったジュースとかで割った方が良いかもしれません。子供達は飲めないので、チョコレートを持って来ましたよ」
そう言って、まだあまり馴染めていない村人との接触は極力少なくするが、手土産は多めにする。この島に来た頃にどんな物を生産して出荷しているかの説明もしているので。子供達は喜んでくれた。
米の収穫時期に、大活躍すれば多少認めてくれる事を祈ろう。
そう思いつつ入り江のある所に戻ると、既に酒盛りの準備が始まっており、俺の仕事は皿を並べる事くらいだった。
そして夕方少し前に酒盛りが始まる。
「おいカーム。お前の金で銅とか買ったんだ。お前が音頭を取れ」
「え゛? あぁはい。 えー。この蒸留器の銅を購入するにあたり、自分の私財から調達しました。それはこの島の運営資金が足りなかったので島に貸しただけです。この酒を売ったお金から少しづつ返してもらうので、その辺は間違えないようにお願いします。堅い話はここまでだー! お前等! 今日は今まで飲んだ事のないくらい強い酒だ! 年越祭みたいに朝まで飲めると思うんじゃねぇぞ! カンパーイ!」
「「「「乾杯!!!」」」」
そんな合図と主に酒盛りが始まる。
強い酒を今まで飲んだ事がないのか、果実を絞って入れて水で薄めたり、ココナッツウオーターで薄めたりして飲んでいる。
スポーツドリンクで酒を割って飲むみたいに、なんか吸収率が良くなって、更に酔いそうな気がするが、内緒にしておこう。
しばらくして、夕日も完全に落ち、暗くなって来た頃に、見かけた事のない女性を端の方にあるテーブルで見かけた。
狭い島だ、あんな女性は見た事がないので多少気になり。話しかける事にした。
「初めまして、ですよね?」
「えぇ、つい強いお酒の香りに誘われて来てしまいました。ご迷惑だったでしょうか?」
やんわりとした笑顔の似合う、物凄く物腰の柔らかい女性だ。腰のあたりまであるロングヘアの両髪をシニョンにし、目立たないが頭の裏の方にも校長の頭に生えてる感じの小さな角が見える。しかもチャイナドレスの様な服を着ている。
もしかしなくても竜族の可能性が高い。
ファーシルが話していた、ばーちゃんが見たって言っていた火口の竜なのかもしれない。
しかも子供の頃に校長から、似たような台詞を聞いた気がする。
「貴方が、この島を任される事になった次の魔王かな?」
いきなり確信を突いて来たな。
「え、えぇ。魔王をやらせていただいています」
「硬くならなくてもいいわよー。かなり前からどういう事しているかはわかっていたから」
見られてたって事か。フルールさんパルマさんみたいに何か眷属的な物がいるんだろうか? 考えても仕方がないので止めておこう。
「そうですか、なら少しだけ評価が気になる所ですが……」
「こんなお酒作った時点でもう最高!」
そう言って、ホワホワした様な雰囲気で近所の優しいお姉さん的な感じがする。
「基準はそれだけですか……」
「他に何があるの?」
「いえ、竜族ってなだけでそれだけで俺の評価は十分だと思います。あぁ、自己紹介がまだでしたね、自分はカームと言いますよろしくお願いします」
「クラーテルよー」
のほほんとしながら蒸留したての、蒸留酒を飲みながら自己紹介して来た。
「私の事は気にしないで良いから、カームちゃんも楽しんできなさーい。そうそう、偶に火口付近にお酒を置いてくれたら、お姉さんカームちゃんの味方しちゃうわよー」
「……わかりました、取りあえず定期的に中樽で一つで良いですかね? 飲み終わったらその辺に転がしておいてもらえれば回収しに行きますので」
「そんなにもらえるの? お姉さん頑張っちゃうぞー」
そう言ってもっていたカップを掲げさらに上機嫌になっている。なんか可愛いな。けど、いざって時に火口に住んでると言われてる、ドラゴンが味方に付いてくれるならありがたい事だ。みかじめ料と言うか用心棒代と言う名目で酒を定期的に渡せば良いんだから、島の防衛は更に厚くなったと思えば良い。
まだ海賊に二回しか襲われてないけどな。
けど校長が村一番の年齢であの見た目だろ? このクラーテルさんはどのくらいなんだろうか?
「カームちゃん、なんか少し悪い笑顔が出てるわよー」
「あ、申し訳ありません。少し考え事が顔に出ちゃいましたね」
「私をいいように使う算段でもしていたのかしら? ふふふ」
そう言いながらも、ニコニコと蒸留酒を飲んでいる。
「えぇ、もしかしたらこの島に馬鹿が乗り込んでくるかもしれないので、もしかしたら用心棒として出てもらう事もあるかもしれません」
「あらー、物事はっきりと言うのね、けどあんまり私の戦力を過信しちゃ駄目よ?」
「火口の中に住んでるのに何を言ってるんですか、もしかして溶岩の中にいるんじゃないんでしょうね?」
「竜化したまま溶岩の中にいる事が多いわよ、この姿の場合は火口の中の横穴にいる事が多いから、遊びに来てね」
「そんな熱い所行けませんから。けど溶岩の中に入れるくらいすごいなら期待もしちゃいますよ?」
「期待しないで待っててね、本当は何もないのが一番なんだけどね」
「そうですね。それが一番なんですけどね」
そんな会話をしていると、ヴァンさんが乱入して来て、
「このお酒を造ったカームちゃんは偉い!」
「そしてこのお酒を作り出す蒸留器を作ったヴァンちゃんも偉い!」
とか言い出し、明け方まで酒の強い種族に絡まれながら、胃がチャポチャポ音が鳴るまで酒を飲むハメになった。
正直これ以上のんべぇが増えるのは勘弁してほしい。
校長を呼んできて、少し話を付けてもらうのも良いかもしれない。




