第106話 臨時講師として招かれた時の事
適度に続けてます
相変わらず不定期です
あれから少し経ち、村の雪が無くなり少し暖かくなった頃、子供達が学校に通い始めた。そして数日が経ち、子供達から言われた事が有る。
「お父さん、校長先生から頼まれた事が有るんだけど『魔法の特別講師として、学校に来て下さい』って言われたんだ」
「本当かよ、なんで俺が!?」
「パパが魔王さんだからって言ってたよ」
「んーそうか、なら直ぐは無理だからってちょっと言ってくるよ、この時間なら酒場だろうからね、ちょっと酒場まで行って来るよ」
「いってらっしゃい。あまり飲まされない様にね」
「絡まれなければそのまま帰って来るよ、多分無理だろうけど」
◇
「ってな訳で、前々から話してた故郷の特別講師として呼ばれたので、今日の夜中からいませんのでよろしくお願いします」
「そりゃ俺等は別に構いませんけど……」
そんな会話を夕食前にしながら転移魔法で故郷に転移し、夕食はスズランの作ったから揚げを食べ、夫婦仲良く寝る事にした。
今日はありませんでしたよ? けど左右にピッタリとくっ付いて来ますけどね。
翌日、いつもの様に朝食を作りつつ、皆が起きるのを待ってから、食事をし、子供達と一緒に学校に登校した。大体五年ぶりくらいか。
「やーカーム君、学校では久しぶりじゃのう」
職員室みたいな、教師だけが集まる小部屋に通され、お茶を出される。三学年しかないので、三人の先生が交代でそれぞれの授業を出ていると言う感じだ。
もちろんお茶を出してくれたのはトリャープカさんだ。
「そうですね、蒸留所ではしょっちゅう会ってますけどね。で、今日は一応子供達から聞いてますが、どのような理由で俺を呼んだんでしょうか?」
「カーム君の子供達が折角入学したんじゃから、子供達に伝えてもらった通りじゃよ」
「そうですか、出来る限りの事はしますけどね。読み書きはフィグ先生が出来るとして、魔法ですか? 魔法はビルケ先生がいるじゃないですか?」
「それでも、魔王であるカーム君が来れば子供達のやる気に繋がると思ってるからの」
「そうですか……俺のやり方で良ければですけどね。もう最初の授業が終わって少し経ってますから、基礎くらいはやっているんでしょう?」
「そうじゃのう、一年生はイメージを成功させて、手から火が出せる程度と聞いておる」
「とりあえずビルケ先生の補佐と言う事で良いんですかね?」
「それで頼むよ」
「わかりました」
そんな事を話してると、横からモーア先生が話しかけて来た
「良ければ俺の生徒も見てくれ、まさかスコップと言う異色の武器で、魔王にまで上り詰めるとは思ってもいなかったからな、戦闘訓練にも出てほしい」
「いやいや、俺が魔王になったのはどちらかと言うと、魔法の方だと思いますけど」
「けどスコップでのハイゴブリンの討伐は噂になってるぞ」
「……じゃぁビルケ先生の後の授業で二年、三年生に教えれば良いと言う事で?」
「それでかまわん」
「では、用具室からスコップとバールだけを、用意しておいてください」
「了解した」
「カームさんは卒業しても、父になっても、魔王になってもあまり変わりませんね」
「はは、これでもいっぱいいっぱいですけどね。けどシュペックを見れば、俺はあまり変わってないような気がしますね。あいつも少し落ち着いたような気はしますよ。あの頃に比べてみんな大人になったんでしょうね」
「子供が産まれれば、男も女も心構えが変わる物ですよ」
「確かにそんな気はしますが……」
そんな、あまり話した事のないトリャープカさんと無駄話をしているうちに、授業開始時刻になり、俺は一年生の教室前にやってきた。
いつものように、窓際に有る鉢がフワリと浮くと教卓の上に乗り、白樺っぽい木がフルールさんのように変化して喋り出す。
「今日は、リリーちゃんとミエル君のお父さんでもあり、魔王のカーム君を特別講師として呼ばせてもらいました。カーム君はここの卒業生で、先生の教え子です。そして村を大きく、住みやすくしてくれた方なのです。どうぞ」
なんかすげぇ入り辛い、そこまで持ち上げないでくれよ先生、確かに年の差は埋まらないからいつまでも『君』でも良いけど、いつも無い威厳がさらになくなるじゃないか……、別に構わないけど。
しかも教室の中がザワザワしてるし、余計に入り辛い。いつもの調子で良いか。
「どうも。紹介に預かりましたカームです。ここの卒業生という事もあり、今日は特別講師として呼ばれました。魔王だからっと言って特別厳しくするわけじゃありませんので、気楽にお願いします」
「カーム君、言葉が硬いですよ、もう一回」
「え? あー……。魔王のカームです。今日は卒業生って事で、みんなに魔法のコツを教えに来ましたー、厳しくしないんで気楽に行きましょー」
初めて学校に来て、自己紹介してるフィグ先生を思い出したわー。あんな違和感が今の俺には漂っている。
けど俺が子供のころに比べて、生徒の数が増えてるな。これは増築して二組に別ける必要が出てくるかもしれない。一応校長と、元村長に進言してみるか。
しかも、さらにザワザワし始める教室内。
「先生に君って呼ばれてるし、硬いって言われてたぜ? 本当に魔王なのかな?」
「けどお父さんとかお母さんは、魔王って言ってるよ?」
「先生に言い返せないって事は、先生のほうが偉いのかな?」
散々言われてるけど別に良いか。
「はーいそこ、魔王って言うのは本当です、あと先生は年上なので、俺が魔王でも君付けでも問題ないですし、年上の言うことはちゃんと聞く良い魔王なんですよ。硬いのは自己紹介だから丁寧に言っただけです、みんなも季節が三回巡ればわかりますよ。あと魔王って称号は余り好きじゃないので絶対に『様』って付けないように。ってな訳で先生、どうしましょう?」
なんかもう、気怠そうな教師風な喋り方になってるけど良いか。
「んーそうですねー、皆に基礎となるイメージを教えてあげてください。種族的に魔法が苦手なヴルスト君……。ゴブリンに魔法を一日で使わせたくらい上手いんですから!」
なんで先生が教卓の上で偉そうにしてるかはわからないけど、ちょっと可愛いから良いか。
「んじゃー、水魔法がまだ使えない子、手を上げてー」
ちらほらと手が挙がるので、その子供達を教卓の前まで呼び、石で作り出したボウルみたいなのに水を張り、手で掬わせ、いつものように教える。そうすると使えない子供達が一斉に魔法を使い出し、喜びの声が上がる。そして水を窓から捨てて、石のボウルだけを教卓の上に置き、続ける。
「えー、なぜ水を捨てたかというと、魔法で作り出した物は消えてしまいます」
「魔法で作り出した水は何で捨てちゃったんですか?」
「はい、いい質問ですね。何もない場所から作った、石のボウルは時間が経つと魔力切れで消えてしまいます。ですが、水というのは目に見えないだけで、この周りにたくさんあるからです。お湯を沸かすと白い湯気が出ますよね? その湯気はものすごく小さい水なんです」
俺は指先に【熱湯の水球】を作り出し、モヤモヤと湯気が上がるのを見せる。
「えー、この白いのも水です、上のほうに行くと空気の中に混じって消えてしまいますが、上に手をかざすと、手の平に水滴がつきまーす。空気に混じった水だけをいっぱい集めるイメージをすると、何もないところから水を作るので消えません」
そして、ボウルを左手で持ち、右手に石を出して、その石でボウルを半分に叩き割り、放置しておくとすぐに消えた。
「このように消えてしまいますので、水だけは捨てたんです。床や机が濡れちゃいますからね」
そう説明すると、教室中から「わかりやすいね」とか「言ってる事が少し難しい」とか「私も知りませんでした」とか聞こえた、先生は知ってようぜ?
「じゃあ、火の方も簡単な説明お願いします」
「え? 火くらい出せると聞いてるんですけど?」
「まだ出せない子もいるんですよ」
「あーはい……もういいです、全部基礎っぽい事を俺なりに教えますよ」
そう言って、イメージしやすい物を、どんどん教え、簡単そうな物を実際に目の前で見せる。
火のイメージなんか、自分の指を枝か蝋燭と思い、そこから少し離れて火がついてるようなイメージって教えて、指先からライター程度の火を出すだけだし。
「えー、こう見えて、自分も最初は魔力が低く、直ぐに疲れましたが、使っている内にどんどん魔力が増えるみたいなので、時間を見つけて倒れない程度に練習しましょう」
「「「「はーい」」」」
「何か最後に質問がある子ー、なんでも答えるよー」
「得意な攻撃魔法は何ですか?」
「砂です」
「え?」
「ん?」
「砂って攻撃に使えるんですか?」
「えぇ、目潰しに使えます」
そう言いながら手の平に粒子の細かい【砂】を発生させ、サラサラと教卓に落として行く。
石弾や散弾やフラッシュバンモドキとかは言えないしな。
「目潰しって卑怯じゃないんですか?」
「結果的に自分が生きてればいいんですよ、負けそうでも逃げきれば結果的に生きてるので勝ちでも負けでもありません。卑怯でも良いので、生きる努力をしましょう。はい、次の質問は?」
「じゃあ、一番強力な攻撃魔法は何ですか?」
この手の質問も来るか、核爆発的な物でも良いんだけど、エネルギーとか中性子が広がるとかイメージできないからな。爆発の瞬間とかなら動画で見たけど。
「お湯です」
「え? もっとこう、ドカーンてやつとか、ゴゴゴゴゴって奴はないんですかー?」
「お湯は強いですよ? フルプレート着てる兵士にカップ一杯だけぶっ掛けても、相手を動けなく出来ますし。派手なのは個人的にあまり好きでは無いのでやってません。出来なくはないと思いますが、怖いので試してません」
「それはどんな奴なんですか?」
「この村の中心で発動させると、村が全て消し飛び全員が死ぬ程度です。物凄く大きい火が燃えると思ってくれていいですよ、ちなみに間違えば俺も死にます」
「「「ヒィッ!」」」
「大丈夫ですよ、多分やったら魔力切れで倒れるのでやりません。むしろ命を奪うような事は大嫌いなので、豚も鶏もあまり殺したくない優しい魔王ですよ」
ニッコリと優しく微笑んだつもりだったが、なんか余計に怖がられてしまった。なんでだろうか?
「カーム君、子供を怖がらせないで下さい」
「あ、ごめんなさい」
「けど先生も少しだけ気になりますね」
「小さい物でも皆の耳がしばらく聞こえなくなって、学校のガラスが全部割れるし、飛び散った小石が当たっただけでも死ぬので駄目です」
衝撃波とか、爆発に巻き込まれた小石で。
「けど魔法は派手なら強いと思ったら大間違いです。単純な物ほど強かったりしますので憧れるのは良くわかりますが、取りあえず何が強いのか皆も考えてみましょう。そろそろ終わりですね、それでは皆さんありがとうございました。また機会があればよろしくお願いします」
今は小休止中なのだが、俺は窓際の鉢植えの前で、ビルケ先生に怒られている。
「カーム君、確かに君になら出来るかもしれないけど、不用意に不安がらせるのは良くない事ですよ」
「はい、申し訳ありませんでした」
「ビルケ、何をそんなに怒ってるんだ?」
「カーム君が子供の質問に対して、魔法一発で村中を消し飛ばせるって言って怖がらせちゃったんですよ」
「ほう、興味深いな」
「あ、いえ、本当に出来るかどうかわかりませんけど、絶対やりませんので、興味を持たないで下さい」
グラウンドをグラウンド・ゼロにしたくないし。
「まぁ、出来るかもと言うだけだろう。次は俺の授業だ、頼むぞ」
「わかりました」
「という訳で、この学校の卒業生の魔王のカームだ」
「よろしくお願いします」
「こいつは、武器ではない物を武器として使う事に長けた奴だ、よく話を聞くように、良いぞ」
そう合図を送られ、なんとなく説明する事にする。
「俺の持論としては、その辺にある物は何でも武器になると思え、です。木の棒や枝、砂、小石、想像力や柔軟な発想で何でも武器になると思いましょう。ってな訳で自分の武器はスコップとバールとマチェットです、マチェットは無いので今回は刃が潰してあるナイフを使用します」
「魔王クラスの近接格闘を見せてもらえ。言っておくが、こいつは魔法の方が得意だ、左側から前に出ろ」
そう言われ一番端にいた、槍を持った生徒が前に出て来る。
「魔王様よろしくお願いします」
「さん」
「はい?」
「魔王さん……はい、繰り返して。ま・お・う・さ・ん」
「ま、魔王さん」
「カームさんでも良いですよ、あまり魔王って称号が好きでは無いんですよねー、魔王になったのも半分無理矢理でしたし、村の為に色々やりましたが絶対に崇拝はさせませんからね。ちなみにこんな大人にならないように」
「は、はい」
「カーム、早く始めろ、言って置くが模擬戦では魔法はなしだぞ」
「はい、わかりました。では、いつでもどうぞ。大丈夫ですよ、怪我はさせませんので」
そう言って俺はスコップを軽く構え、合図を出した。
最初に出て来た槍を持った子は、ちょっと前のリリーみたいな突進しかしてこないので、手に持っていたスコップを放し、右腰に刺していたナイフを抜き、ナイフの背で槍を体の外に払いつつ、足を掛けて転ばせてから顔面の近くを踏みつけた。
「はーい、手に持っている武器を手放さないと思ったら大間違いですよー、不利だと思ったら俺はいつでも武器を手放します。はい次ー」
今度は、ロングソードと小丸盾を持った子が前に出て来た。俺はスコップを拾わず合図を出した。
「まさかナイフ一本で、この装備と戦うんですか?」
「まだ腰にバールが刺さってるよ? ほらほら、まだまだ後が残ってるんだから早くね」
そう言うと、剣を持った子が切りかかって来るが、左手でバールを抜き、剣を受け止め、今度はナイフを手放し、思い切り右手を引っ張りながら捻りつつ足を掛けて転ばし、腰を軽く踏んだ。
「だから言ったでしょう? 相手が持ってる武器を使って来るとは限らないって。言っておくけど、俺にとってバールは攻撃を防げる武器って考えです。柔軟な発想と、相手がどう動くかもしれないって事を頭にいれようね。はい次ー」
今度は武器を持たず、刃物を防ぐ程度の小さい小手と、拳に布を巻いた子が出て来た。ショートレンジか……。俺は持っていたバールをその辺に投げ捨て、同じ素手になった。
「素手での戦闘はあまり経験がないけど、君に合わせるよ。良いよー」
相変わらず、緩い声で合図を送るが、低姿勢で近づいて来て、直ぐにぴったりくっつくような間合いになり、素早く拳を繰り出して来る。
特に大技とかもなく、安定した打撃だが、俺も防御に徹しているので切り崩せず、しびれを切らしたのか、大技の上段蹴りを狙って来た。
俺が一歩前に出てしまえばそれで終わりだ。
そのまま腋の下でふくらはぎ辺りを挟み、そのまま足を払えばおしまい。足首を持ってそのまま捻り、腱をねじ切る事も出来るが、少し痛みが出る程度で止めておいた。
「打撃が軽い。決め技が少ない。これじゃ守りの硬い相手に、カウンターを狙われたら終わりです。だからその辺は気をつけましょう、普段は拳に何かを付けるんだと思いますが、打撃だけでは厳しいかもしれません、ナイフくらいは腰に下げた方がいいかもしれませんね。一回だけ面白い技を教えてあげますので右手でパンチする様な格好になって下さい」
そう説明すると、生徒は言われた通りの格好になり、俺は相手の外側にそれる様な体勢になり、右手で相手の手を掴みそのまま引っ張る様にして体に近づけ、左手でこめかみと顎に掌底を軽くあてた。
「この後は右膝をそのまま勢いよく上げて、みぞおち」
そう言って膝を上げる。
「この後は膝を横から蹴りながら右手を捻るだけで転ばせ、転んだところを踵で鼻を潰せば無力化できます。止めを刺したいなら腰にナイフでも身に付けるか、頭を思い切り蹴るか、喉を踏みつぶせば多分殺せる。このような技術も身に付けましょう。ナイフを持った相手くらいまでなら対処可能です。はい次ー」
俺はバールとナイフを拾ってベルトに挿し、スコップを拾いながら地面の砂も一緒に握って置いた。
「うおぉぉ!」
気合を入る為に、叫びながらロングソードを振りかぶって来た生徒に、右手で先ほど一緒に握った砂を顔面に投げつけ、怯んでいる所を突き飛ばし、脇腹に軽くつま先を当てた。
「注意力が足りません、俺がただ武器を拾うだけだと思ったんですか? 俺の持論は? 言ってみてください、最初に教えましたよ」
「その辺にある物は何でも武器になる」
「はい、正解。対魔物ならそれでも良いですが、対魔族や人族なら相手が何をしてくるかわかりません。絶対に覚えておきましょう」
そう言いながら【水球】を浮遊させ、目を洗わせ次の子を呼ぶ。
今度はスコップで打ち合い、わざとスコップを弾き飛ばさせ「あっ」と声を出し、相手が目で落ちたスコップを追っている間に、素早く近づきナイフの背を首元に押し付けた。
「相手に武器を意識させて、武器を落としたと思い込ませ、自分が優位になったと油断させる方法もあります。最後まで気を抜かないようにしましょう。けど集団戦じゃほぼ意味がないので、使える場合は限られますので注意しましょう。はい次ー」
俺は次々と、卑怯と思われるようなやり方や、スコップの持ち手に、突きを出してきた剣を絡めとったり、盾を借りて打撃に使用したりと、様々な方法で生徒を相手にしていく。
「全員終わったな、俺も見ていて考えさせられる事は多かった。なのでお前達もカームの事を参考にして、柔軟な発想で戦うようにし、自分のスタイルを確立さろ。以上だ、解散」
「いやーカームの発想には驚かされる。魔法で作物の収穫をしたと思ったら、戦い方まで特殊だ」
「そんなに変なんですか?」
「変と言うよりは特殊過ぎる、その辺にある物は、何でも武器になるって考えがあるから、戦闘でもあんな戦い方が出来るんだろうな」
「自分としては、これの使い方はこれじゃなきゃダメ、って言うのがあまり好きではないので、持っている武器を手放したり、投げたりできるんですよ。バールなんてものは、曲がった鉄の棒です、剣で剣を受け止めると刃こぼれとかが気になりますが、バールならソレの心配はないですからね」
「そう言われればそうだな、今日はいきなり無茶を言ってすまなかったな」
「いえいえ、一日だけなら楽しい物ですよ、毎日となると嫌ですけどね。前に『教鞭を振るったらどうだ?』とか知り合いに言われましたが、俺なんかが教鞭なんか振るったらダメな大人が増えますからね」
そんな話をしながら、トリャープカさんの淹れてくれたお茶を飲み、先生達と昔話に花を咲かせた。
ちなみに校長は酒蔵に顔を出しに行っていなかった。
□
「おーいミエル、お前の父ちゃんって、魔王らしくないな」
「僕もそう思うよ、パパも良く言ってるし」
「けど魔王の証って奴が有るんだろ? 見える場所になかったぞ?」
「一緒にお風呂に入った時に、足の甲に変な模様があったよ」
「何で足なんだ?」
「僕も聞いたけど『目立たないから』だって。パパはあんまりそう言うのが、好きじゃないみたいなんだ」
「魔王ってかっこいいと思うんだけどなー、強くなければなれないんだろ?」
「そうみたいだけど、一回も強そうな所を見せてくれた事ないんだ。しかも僕の魔法を見て、一回本気で逃げて、朝まで戻って来なかったよ」
「なんだそれ」
「わからないけど、物凄く怖かったらしいよ。発見された時は全身泥だらけで体中に草を張り付けてて、森の草が茂ってる場所で発見されたって、レーィカちゃんのパパが言ってたらしいよ。なんでも泥で体の臭いを消して、森と一体化してたって。それからその魔法は幻覚だってわかったら安心したみたいだけど」
「不思議な父ちゃんだな」
「お姉ちゃんとの稽古でも全然本気を出さないし、それにさっきのお湯だって、僕は出せない」
「魔法が得意なミエルでも出せないのか」
「うん……それに僕が見た事がある攻撃魔法は、黒いナイフと火とは違う爆発って奴だったし。稽古の時は水球くらいしか使わないし、お姉ちゃんの攻撃が当たりそうな時に、土壁をたまに使う程度だよ?」
「本当に村を滅ぼすくらいの魔法があるのかな?」
「前に見せてもらった爆発って奴を物凄く大きくすれば出来るんじゃないかな? 僕にもイメージできないよ」
「そっか、けど魔王は魔王って事で、本気を出せば強いって事だな」
「そうだね、パパは優しすぎるんだよ」
「ねぇリリー? 貴女のお父さんって面白い人ね」
「なんで?」
「得意な魔法が砂とお湯って」
「んーそうかな? よく稽古をしてもらってくれてるけど、砂や光での目潰しの怖さを嫌って程思い知らされたし、いつも使って来る水球がお湯だったら、私は火傷で死んでるわよ? お母さん達に聞いた話だと、最前線基地で人族相手の軍隊にお湯を使って沢山の兵士を倒したって聞いたわ。攻城戦で梯子を上って来る敵に、熱々の油やお湯をかけるって良く聞くから、お湯って本当は強力よ? 鎧の隙間からも入って来るし」
「じゃあ砂は?」
「もう一度言うけど、戦闘中に目が見えなくなるって本当に怖い事よ? ゴブリンと戦ってる最中にもし目が見えなくなったらって考えてみて? タダの木の棒でも思い切り殴られたら最悪よ? それが武器を持った人族や魔族なら?」
「そ、そうね。目が見えなくなる事は確かに怖いわね」
「でしょ? けどお父さんって優しすぎて本当は魔王になりたくなかったって、いつもため息出してるわ。しかも人族の奴隷にも優しいし、村に人族の職人を連れて来るし、お父さんの考えは良くわからないわ。けど優しい事だけは確かよ」
疲れたおっさん勇者達のドキドキグデグデ温泉話って需要有りますかね?
あるならおまけSS辺りに乗せるか本編に少し入れます。




