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第104話 娼館へ行った時の事

適度に続けてます。

相変わらず不定期です。

二話の前後編に別けようと思いましたが、中途半端な文字数になってしまったので、一話にしました。文字数を管理できずに申し訳ありません。

 夜も更け、子供達が寝た頃に子供抜き会議が始まった。テーブルの上には、広げられた露出の少ないメイド服、黒をメインとしたもので、中には白いシャツを着て襟が見えるようになっており、赤い紐ネクタイと、フリルの沢山ついた白と黒のボンネット、白のエプロンドレスが並べられている。

 そして俺は今、持ち帰ったメイド服の事で、嫁達に軽い尋問をされている。

「なんでこんな女物の服を持ち帰って来たのか。それを教えて欲しい」

「私も気になるなー、なんでこんな使用人服を持ち帰って来たのか。トリャープカちゃんにでも渡そうと思ったの?」

「いや、そんな訳じゃ……」

「じゃあ。なんで王都から持ち帰ったのを黙っていたのか教えて」

「言い出すタイミングを逃しただけだ、これは本当だ!」

「なんで言わなかったのかなー?」

 嫁の一人は睨むようなジト目で、もう一人は物凄く笑顔だが妙な威圧感がある。

「二人に着てほしかったんだ、これも本当だ」

 あ、言っておいて、自分でも言い訳にしか聞こえない。

「じゃあ。なんで洗濯物と一緒に出さなかったの?」

「こう。出すタイミングがね?」

「ほほーう、出すタイミングですかー? ぜひ聞きたい物ですねー、スズランさん」

「そうね……」

「あ、いえ、夜にでもと思いまして」

「なんで使用人服と。夜が関係あるの? 私に教えて?」

「あー、私わかったー。カーム君は、コレを私達に着せて楽しみたかったんだよ」

「どういう意味?」

 スズランは、本当にわからないという感じで首を軽くひねっている。

「あのね『この服を着てほしい』って、前の職場で色々私物の持ち込みのお客様がいたんだよ。それでね、こういう使用人服を着せられた子がね、こう……」

 ラッテは事を細かに話だし、スズランに説明している。そして俺は恥ずかしさのあまり、変な声を出しながらテーブルに両肘を付き、頭を抱えている。

「つまり偉い人になった気分で。正妻がいるのにも関わらず。雇っている好みの給仕に手を出す。雇い主役をやりたかった?」

「そーそー、大体合ってるよー。男ってーもんはそう言うのに憧れるもんだよー。使用人さんは、逆玉の輿を狙えるか、脅されてイヤイヤのどっちかになるんじゃない? どっちも良い物だよー成り切ってするのは。まー、カーム君の事だから給仕さんとイチャイチャしたいだけなんじゃないのー? 成りきってするのも良い物だよー」

 鋭い……。恐ろしい子! けど二回も言わなくても良いじゃないか。

「はい、イチャイチャしたいだけです。ですが多少差違があります。正妻はなしで、雇ってる使用人とちょっと良い関係でお互い身分の違いから踏ん切りがつかず、今日にでもいい感じになってベッドインってのがしたいです……」

「ちょっと細かいなー。つまり、そう言う設定でー、私達二人を相手にしたいって事?」

「はい……」

 そう言うとスズランはいきなり立ち上がり、服を持って、ラッテを連れて部屋の方に行ってしまった。行動力ありすぎるな。少し聞き耳でも立ててみようかね……。

「こういう服は着た事が無い。教えて」

「まずは私が着るから、見て覚えて」

「何で背中にボタンがあるのかが、理解できない」

「装飾とかの理由じゃない? こっちは前にボタンあるし、デザインも違うよー?」

 俺も知らんな、なんでだろう。


「じゃーん、こんな感じでどーよー!」

「……足がスースーする」

 相変わらずスズランは恥ずかしそうにしている。ナイスだスカートを考えた奴! かなり前から布を撒くだけの習慣はあった気がするけどね。

 けど下着の上に筒状の布を巻いてるだけで、色々本当に風とか困りそうだ。どこかの国の正装で、男のスカートがあったが、局部のムレを防いで衛生的にとか聞いた事あったな。ノーパンらしいし。

 民族衣装だからいいけど、日本でやったら、青い服を着た人達に、鎖付きのシルバーブレスレットをプレゼントされてしまう。

「で、なんて呼べばいーのかなー? ご主人様? 旦那様? それとも(あるじ)殿?」

「スズランが旦那様、ラッテがご主人様で」

「なんで違うの?」

「雰囲気や喋り方で」

 スズランは和風なイメージが強いしな。

「ね? これが男って奴だよースズランちゃん」

「別にカームだから良い」

 そんな事を言われながら寝室に行くが、二人が目を合わせて、お互いに一度だけ頷いた瞬間に、二人のメイドに組み伏せられた。

「ご主人様、今晩こそは観念して、私達に種を! 私達に全てを任せ、寝転がっているだけでいいのです!」

「旦那様が、私達に中々手を出さないのが悪い」

 そう言われ。足はスズランが、手はラッテが抑える形になり。ダボダボの上着やズボンを脱がされ、主人と使用人の立場が逆になってる。ってかノリノリだな! ノリノリすぎていささかびっくりしたわ。

「まって、なんでこうなってるの!?」

「旦那様はこういうもの好きと。話を聞きましたので」

 それは君が、町で俺を襲った時に出来た噂だね。

「私はスズランさんからお聞きしましたので」

 君は面白がってノってるだけだよね?

「私達を散々心配させた罰だよー」

「私達に襲われて――」

 なんか最後の方は本音だったし。言葉使いも戻ってた。やるなら最後まで徹底してくれ。



 はい、もう朝です。俺の両脇には幸せそうに寝ている妻達。昔から散々心配させて戻ってくると、いつもこうです……。まぁ、気持ちはわからなくはないですが……。

 ベッドの周りには、脱ぎ棄てられたメイド服と俺の服。

 どこから持って来たのか、俺の両手首を縛ってベッドに括られた紐。俺にそんな趣味はないのにな。多分スズラン辺りが相談して、ラッテが案を出したに違いない。

 しかも、跡が残らないように緩めに縛ってきたのもラッテなので、色々わかっている気がする、あまり妻同士の策略は知りたくないが、多分雰囲気重視なんだろうな。なんか二人がいつも以上に興奮していた気がするけど。

 メイド二人に襲われる俺。まさか異世界で経験するとは思わなかった。

 軽い気持ちで貰って来る物じゃないな……

 まぁ、凄く良かったけどな……


 その日の洗濯物に、メイド服が追加され、村中に噂が広がったのは、良く考えなくてもわかる話だった。

 そして三馬鹿に酒場で今後も散々ネタにされるんだろう。



 それから季節が暖かくなり、店にコーヒーを届けに行くと、また手紙があった。

 でかでかと、スク水へと書いてあり、モンムススキーと書いてあった。仕方がないので手紙を読み、門前酒場にいるらしいので急いで向かう。ってかアイツ字が綺麗だな、かなり意外だわ。

 あいつがいると言う事は、つまりそう言う事である。ある程度方が付いたと言う事だろう。

「おう、来たかスク水」

「カームです、今更名乗るのはおかしいですけどね」

「北川だ、これが会田さんから預かった手紙と金だ。今手紙を読んで、中身を確認してくれ」

 そう言われて、手紙を流し読みして、金銭の所だけを確認して叫びそうになった。

 今十五歳で、金貨三十枚を足してとか言ってたお金がそのままで、さらに手に入ったお金を、参加した勇者の頭数で割った金額が書かれていた。

 この金額を運んでくるとか。幾ら勇者でも怖くてできないぞ。そして俺は大金貨と金貨、大銀貨が入ってる袋をあけ、書かれてた金額が揃っている事を確認した。

「おい、ちゃんとあったんだろう? 今度は約束を守れよ」

「あー、あぁー、大金を持ち歩くのは怖いから、この金をさっさとギルドに預けたいんですけど、ギルドカード持ってないので、一回自宅に行って良いですかね?」

「構わないぜ」

「じゃぁ、俺の店に行きましょうか」

「その前にこいつを受け取ってくれ、会田さんから別の手紙だ、後で読んでおいてくれ。今後の事らしい」

「わかりました」

 そう言って立ち上がり、店に向かうが、途中で質問が飛んで来た。

「なんで店なんだ?」

「色々転移には制限がありますし、なにせ目立ちます。発動させる俺も目立つので。あと、俺はある意味この町ではちょっとした有名人なんですよ? サンドイッチマンになって大声で宣伝活動してましたし」

「そうか」

 俺は店の鍵を開けて、注意事項を説明してから故郷に転移した。


「ここが俺の育った村で、アレが俺の家です。話を付けて来るので少しだけ待っててください。北川さんの琴線に触れないとは思いますし、お茶を出したいんですが、色々な意味で妻達を見せるのには少し抵抗があるので」

「妻がいるのか! しかも達だと!」

「子供もいますよ」

「なん……だと……」

「はいはい、そんな昔のネタは良いですから、少し待っててくださいよ」

 そう言いつつ、客かどうか微妙な立ち位置の男を放置して、家の中に入り妻達に説明する。


「ってな訳で、当面の生活費として両替した銀貨とか持ち帰ってくるよ」

 酒場での大金貨とか金貨の話をサラッとしたら、ラッテだけが食いついた。

「私さー、金貨は見た事あるんだけどさ、大金貨はないんだよねー。見せてよ」

「構わないけど、あーそうだ。子供達にも後学の為に少し見せておくか」

 そう言って、子供達にも大金貨と金貨を見せて持たせてやる。

「なんかずっしり重いし、綺麗」

「なんか細かい装飾があるね」

 コメント一つで、考え方の違いがはっきりわかる発言をありがとう子供達よ――

「ってな訳で、外に勇者を待たせてるからちょっと、男同士の約束でスイートメモリーを紹介して来る。なんかセレッソさんに伝える事とかある?」

「私はすごく幸せです、だけかなー。ってか買って来るの?」

 笑いながら物凄くジト目で見られるが、はっきりと言う事にする。

「向こうで知り合った勇者が、魔族の女性に興味がありすぎて、全員夢魔族の店を知ってるよって言ったら物凄く食いつかれてね。今から紹介に行くだけ」

「スイートメモリーって?」

「そうだねー、綺麗なお姉さんがいっぱいいてー、お酒を飲む所かな。男の人が行くところ」 

「お父さんも行ったの?」

 リリーが興味深く聞いて来る。ここは誤魔化すべきか? まぁラッテとの出会いの場だし、話しておくか。

「行ったよ、町でお仕事してた頃に先輩や偉い人に連れられてね。そこでラッテお母さんと出会ってね。それから猛アタックされたんだ」

 ラッテを見ると、笑顔で親指を立てている。上手く誤魔化してくれてありがとうってところだろうな。

「私は行く事に反対はしないけど。買わなければ良い」

 スズランさん、空気読んで!

「買うってなーに?」

 そしてミエルが反応する。正直に言うか、誤魔化すか。そろそろ五歳だしな、どうするかな。そう考えてると、裏の方でラッテが頭の上で大きくバツ印を手で作っていた。

「綺麗なお姉さんがいる所は、お酒や料理が高いんだよ。だから買っちゃ駄目って事だね」

 俺! 物凄く上手い誤魔化し方をしたと思う! ラッテも腕を組みながらうんうんと頭を縦に振っているし。今度スズランには空気を読む事を教えよう。

「勇者を紹介して、セレッソさんと少し話したら、前に住んでた共同集宅に足を運んで、そこで少し挨拶してくるだけだよ。んじゃギルドにお金を預けてくる、こんなのあっても村じゃ使えないだろう?」

「そうだねー、大銀貨でも嫌がられるのに。けど醸造蔵なら使えるかも」

「そんなにお酒は買いません。けど両替だったら出来るかなー。けどこの村にベリル酒を商人が大量に買いに来たら金貨が動くかもね。まぁ勇者を待たせるのも悪いからそろそろ行くよ」

「楽しんできてねー」

 俺は軽く返事をして家を出た。

「すみません、おまたせしました、この時間ならまだ門が開いてるから急ぎましょう」

 そうして話を切り上げ、勇者と共にエジリンに転移した。

 門から少し離れた所に転移し、町の方に歩き出す。


「なぁ? なんで町中に転移しないんだ?」

「通行料、魔法処理されてる証明書。これがないと出る時に困るでしょう? 俺は持っているので、そのまま出れるので関係ありませんが……」

「おいおい、俺を送り返してくれないのかよ」

「目標が有って、海を渡ってここまで来たと思えば良いじゃないですか、あんな事もあったんで、旅してもいいんじゃないんですか? ギルドカードくらいありますよね?」

「そりゃあるけどよ」

 そんな会話をしていたら門に着き、懐かしい顔が俺を出迎えてくれた。

「おー、カームじゃねぇか、どうしたこんな時間に」

「お久しぶりです。知り合った人族が、どうしても夢魔族の娼館に行きたいって言うから連れて来ただけですよ。人族だからって警戒しないで下さいよね」

「わかってるよ、こんな町でも数人だけ人族がいるからな。大陸の中の方まで来てる人族は、喧嘩なんか吹っ掛けてこねぇよ。で、名前でも聞こうか」

「北川だ」

「出身は?」

「人族の王都の、ラズライト」

 初めて知ったわ。会田さんはいまさらそんな説明はしないし、俺も地名とか必要ないとか思ってたし、興味すらなかったからな。

「滞在目的はもう聞いたから良いな」

 そして、俺が初めて来た時のように、スラスラと何かを書き始め、判を押し、紙を出して来る。

「聞いてると思うが、通行料は大銅貨五枚だ、なければ隣のカームに出してもらえ」

「相変わらずひでぇな」

 そんな事をしていたら、俺と北川さんが大銅貨を出し、どうでも良いような懐かしいやり取りは終わった。

「問題を起こさないように。あ、一応これは形式上全員に言ってるから、カームの知り合いの人族なら問題ないだろうな、んじゃ良い娼館廻りを」

「いちいち一言多いぞ、んな事だから上司に怒られんだよ!」

「その上司が上に行ってもうここにはいないし、そこに俺が収まってんだ。文句言うな」

「偉くなったもんだなー」

「うっせ、さっさと通れ、後がつっかえてるだろ」

「誰もいねぇだろ」

 そんなやり取りをしつつ、一年間ほぼ毎日お世話になった門を潜ると、三年前と全く変わらない風景がそこにはあり、懐かしさも覚える。なんだかんだで町には用事がなかったからな。

「あそこが門の直ぐの所にある宿屋です。娼館で夜を過ごすなら必要無いですけど。まぁ、他にも沢山有るから娼館の女性にでも聞いて下さい」

「おう、早く案内しろよ」

 なんかもうソワソワし過ぎだよ、初めて遊園地に来た子供かよ。

「ギルドが先です。小心者なので、こんな大金持ち歩けませんよ」

 俺はギルドに寄り、久しぶりに会うウサミミの受付のお姉さんにギルドカードを見せ、大金を出したら物凄く慌てだし、預けるだけなのにすごく時間がかかった。

 そして村であまり使わないお金を、予備程度の生活費分だけ両替してもらい、ギルドから出た。

 なんだかんだ言って村は物価が安いし、目の前の畑で麦を育ててるから買う必要ないし、スズランが鶏を育てて卵や肉を売ってるし、自分達でも食べるし。

 ラッテは農場で働いてて、たまに牛乳とか貰って来るからなー。本当に油とか薪とか買うくらいだから、間に合っちゃうんだよな。


 娼館近くになると、露出の高い女性達や、かっこいい男性が呼び込みをしている。

「ケモ耳も良いな……」

「本命があるんですから、目移りしないように。召喚前は魔法使いでも目指してたんですか?」

「初めてなんか高校の夏休みに捨てたよ」

「なら落ち着きましょうよ」

「でもなぁ……」

 モテるのにオタクとか、色々すげぇよな。

「いらっしゃいませー」

 前々から入口にいたナイスバディーなお姉さんじゃなくなっているし、内装が少し変わってるくらいの変化だったが、中にはしっかりと、頭に羊っぽい角が生えた子とか蝙蝠の翼が有る子がいた。いてくれて助かった。

 北川さんは、うおーとか言っちゃってるし。

 俺達は、適当な席に案内され、それぞれの脇に女性が座る。

「どの子が良いですか? それともご指名有りますか?」

 そう言ってきた。

「セレッソさんをお願いします、こちらの方は、見て選ぶので少し待っててあげて下さい」

 そう言うと、隣に座った女性が少しおどろいたような顔に一瞬なったが、見なかった事にした。

「申し訳ありません、セレッソはただいま接客中ですので、少々お待ちください」

「はい」

「それまで私がお相手させて頂きますね」

「いえ、申し訳ありませんが妻子がいますし、前に座っている方の付き添いですので。自分はセレッソさんと少し話したら帰ります、なので適当にお酒とお摘みを下さい」

「誰だよセレッソって」

「前に共同住宅に住んでた頃のお隣さんです。この時間ならこっちかな? って思いまして」

「そうか。あの肌が少し薄い藍色で、角が生えた子を呼んでください」

「わかりましたー」

「早速青肌に角持ちですか、悪墜ちや悪魔っ娘とか好きでした?」

「大好きです!」

「……そうですか」

 あの時あんなに取り乱した理由が、なんとなくじゃなくてもわかり過ぎる。

「ご指名ありがとうございます、お酒は何にしますか?」

「君の飲みたいの二つと、何か摘みを適当に」

 なんか慣れてるな、こういう店は何回か経験があるんだろうか?

「わかりました、少しお待ちください」

「いや、良いね」

 なんか物凄く良い笑顔で言われても困るな。

 しばらくしたら、珍しいガラスのグラスに、琥珀色の酒が半分くらい入ったお酒が二つ運ばれて来て、チーズやナッツ類や肉料理が運ばれて来た。

「ベリル酒です」

 あちゃー、強い酒で落としに来たか。まぁ、多分平気だろう。召喚される前だったらコンビニにも売ってたし。ただし加水されてない原酒を樽にぶち込んだだけなんだよな……。

「んー、まだ角が立ってるな。水入れるか――」

「お、お酒お強いんですね」

「散々飲まされたからな、多少は強いよ」

 そんな事を話していると、セレッソさんの接客が終わったのか、俺の隣に挨拶をしながら座って来た。

「お久しぶり、こんな所に来るなんて珍しいわね」

「えぇ、目の前にいる人族の方と知り合いになりまして『魔族なんだから、知り合いにこういう子いないの?』と言われましてね、ここを紹介しに来ただけで、俺は買いませんよ。ですよね?」

「ん? あぁ、大満足だ、そちらのお姉さんもお綺麗ですね」

「ありがと」

 ふふっと笑みを返すセレッソさん。まぁ、魔族らしい特徴はあまりないので多分守備範囲外だろうな。まぁ良いや、ラッテの事だけ伝えてクリノクロアに行くか。

「セレッソさん、ラッテから言伝です。『私はすごく幸せです』だそうです」

「そう……それなら良いわ。ありがとう。あの子を幸せにしてくれて」

「いえ、普通の家族をしてるだけですので」

「あの子は普通じゃなかったから――」

「あ、その。それ以上は言わないで下さい、なんとなく察してますが、聞きたくないので」

「そうね、湿っぽいのはここでは厳禁よね」

「では自分は失礼しますね、お会計お願いします」

「おう、ありがとな。しばらく滞在して楽しませてもらうぞ」

「散財して、ケツの毛までむしり取られないようにして下さいね、魔力も生気も吸われるのでその辺も注意ですよ」

「おうよ」

「はい、ありがとうございました。では、お会計までご一緒しますね」

 そう言われ、会計まで付き添われ、いつか言われていた、多少の利益が出る程度までおまけをしてくれたみたいだ。

「あの子が幸せなら私は満足よ、それじゃ、そのまま幸せに暮らしなさい、と伝えてちょうだい。あの子が不幸になって戻ってきたら、店を無理矢理臨時休業にさせて、全員で殴りに行くから覚悟しておいてね」

「わかりました。怖いので、そんな事にはならないように努力します」

「また機会があったら来て頂戴、サービスするから」

「ありがとうございます、本当に気が向いたらですけどね」

「それで十分よ」

 そう言って、セレッソさんは手をヒラヒラさせながら店内に戻って行った。


 それから俺は、通い慣れた道を進み、クリノクロアに足を運ぶ。

「ここも五年ぶりか……。俺の住んでた部屋に明かりがないな」

 そう呟きつつ、もう入居者じゃないので一応大家さんに声を掛ける事にした。

 ノックをして返事を待つ。

「お久しぶりです、前に二号室に住んでいたカームです、近くまで来たので皆に会いに来たんですが」

 そう言うと大家さんが部屋から出て来た。

 「入居じゃないのね。丁度六十日前に二号室に空きが出来ちゃってね」

 そう寂しそうに言った。

 この人も見かけが変わらないなー。

「この時間なら、キッチンには誰かしらいると思うから入っていいわよ」

 そう言われキッチンに足を運ぶと、フォリさんとフレーシュさんが甘い物を食べていた。フレーシュさんは長寿種だから変わらないとして、フォリさんも変わらないなー。少し筋肉がついたくらいかな。

「どうもお久しぶりです」

「カームじゃないか!」「おぉ、久しいな」

「近くに来たものですから寄らせていただきました、皆さんお変りありませんか?」

 俺は、住んでいた時に良く座っていた椅子に腰かけ、話をする事にした。

「ジョンソンは割の良い出稼ぎに行ってる。トレーネには彼氏が出来て、この時間にいないと言う事は泊まりだな。駄馬はどこかに愛を囁きに行ってるし、セレッソは仕事中だ。茶を淹れよう」

「まぁ、ヘングストさんはいつも通りとして、ジョンソンさんはまだ追い出されてませんでしたか……。あの方は初めて会った俺にも、金を借りようとしてるくらいカツカツでしたからね。トレーネさんはお目出度い事ですね、ヘングストさんが少しは静かになったんじゃないんですか? セレッソさんは事情があり、知人をスイートメモリーに届けて来たので、軽く挨拶はしてますよ」

「カームは変わりないか?」

「まぁ、あれから子供達には稽古付けながらのんびり暮らしてますよ。魔王になった事以外はですが」

 そう言った瞬間、二人は『ガタッ』と、椅子を鳴らしながら中腰になり、驚いたような顔でこちらを見ている。

「カ、カームにしては随分大袈裟な冗談だな。お前は冗談を言うような奴だとは思わなかったぞ」

「私もそう思ってたぞ」

「あまり冗談は言いませんよ?」

 俺が真顔で答えると、二人はお互い視線を交え何かを確認するように頷き、フレーシュさんがお茶を淹れる為にそのまま立ち上がり、フォリさんは席に座った。

「魔王の証と言う物があるはずだが、見せてもらえないか? 実は見た事がないのだ」

「私も見た事がないから気になるな」

「ははは、夕食がまだなんです、材料を分けてもらえればお見せしますよ」

「昨日買って来た生パスタがある、悪くなる前に消費してくれ!」

「私はベーコンと卵があるぞ!」

「フレーシュ、キースカさんからミルクを別けてもらってこい!」

「わかった」

 早いな、なんか妙に連携が良いなおい。もうカルボナーラ決定じゃないか。


 そして俺は全員分作ろうとしたが、二人はもう食事が終わり、甘い物を食べていたらしいので、俺だけカルボナーラを食べ、洗い物を開始する。

「うむー、相変わらず見事な腕前だな」

「てっきり故郷で定食屋でもやってるのかと思ったぞ」

「はは、そっちの方が気が楽でしたね。さてと、約束を守らないといけませんね。少々失礼な場所に証があるのですが、靴を脱いでも良いですか?」

「構わんが、そんな場所にあるのか?」

「目立たない所に付けてもらいました。本来は、腕や手の甲、胸に刻むのが多いらしいですがね」

 そう言いながら、王都と同じようにして証をみせる。

「ほう、これが魔王の証と言う奴か」

「もう少し凝ってると思ったが、案外単純だな」

「十字に羽の生えた蛇が絡みついてるだけですからね。けど、消して別な場所に再刻印が不可能なので、一生このままですね」

「で、魔王になって何をやってるんだ? 領地が与えられるんだろう? この辺か?」

「魔族と人族の大陸を繋ぐ海路にある島です。前任の魔王が討伐された後釜に選ばれ、人族の奴隷五十人と共に開拓してますよ」

「なんというか。すごい事になってるな……」

「あぁ、てっきり最前線基地から戻って来て故郷でのんびりしてるのかと思ったぞ――」

「一回前の春までのんびりしてましたよ。今年で魔王二巡目のまだまだペーペーですよ」

「けどギルドカードランク4の魔王とかある意味すごいんじゃないか?」

「フォリさんが俺を大量発生に誘わなければ、3のまま魔王でしたよ。今まで倒した事の有る一番強い魔物はハイゴブリンだけです。魔王になってからは、勇者と一戦交えて説得して和解に持ち込みましたけど、殺されるかと思いましたよ。それから勇者達と仲良くなって、人族の王都に行って勇者達と魔王代表として王族を脅し、勇者達の召喚を止めさせました。この間は王族と貴族、俺と勇者で話し合いをして、食事に毒を盛られましたけど、俺の体は毒に強いみたいで、死にませんでしたね。それで貴族が毒殺できないなら殺してやるってなって、兵士を使って攻撃されました。まぁ、こっちは勇者と魔王ですから、全員無傷で相手を殲滅、正式な書類はまだですが、魔族側の大陸で戦争してる人族の停戦を勝ち取りました。勇者……と言うより王族貴族から報酬として大金貨五枚以上貰いましたよ」

 俺はここ一年にあった出来事を、ある程度纏めて言って、淹れてもらったお茶をゆっくりと飲む。

「「……」」

「あれ? なんで黙っちゃうんですか? 一応何やってるんだって聞かれたから言ったのに」

「カーム、お前は色々規格外すぎだ、戦う事が嫌とか本当は嘘だろ!」

「本当だよ。私からすれば、最初の勇者の時点でもう死んでるわよ!?」

「しかも殺しに来た相手と仲良くなるとかどうやったんだ?」

「全員無力化ですが? あの草だらけの格好になって森に逃げ込み、挑発しながら一方的に殺さないように攻撃して、恐怖と混乱と怒りを与え、仲間を分散させ、各個撃破して縛り上げて、一緒に生活してた奴隷達に説得してもらいました。俺は悪い魔王じゃないって事を証明ですね」

 多少嘘も混じってるけど、大体合ってるから平気だよな。

「……もう良い。お前の話は参考にならん」

「私には縁のない話だわ」

 二人は俺の話に呆れて一緒にお茶を飲んでいる。


「お二人はどうなんですか?」

 気まずくなったので、話題を振ってみる。

「俺はギルドで討伐依頼をこなしてる、お前を頼って臨時パーティーを組んだ奴等がいただろう、お前を訪ねて来て、故郷に帰った事を伝えたら縁が出来てな、そいつらと良く組む様になったな」

「私は狩りとフォリの手伝いだな、遠距離が欲しい時に呼ばれる」

「で、お二人は良い感じに成ってないんですか?」

 そんな冗談を言った瞬間に、二人がお茶を噴き出し、俺に二人同時に物凄い剣幕で抗議して来た。

「いやいや、誰がこんな長寿種を好きになるか。身が持たん」「いやいや、せめて同じような長寿種じゃないとだな、生涯のパートナーとしてだな」

「まぁ、一線は超えてないけど信頼はしあっていると、そしてそのままズルズルと一緒に行動する時間が増えて行き、そろそろもしかしたら――」

「「んなわけあるか」」

「息があってますね、故郷にオークとエルフのハーフがいますけど、幸せそうですよ、特例もありますし――」

「「ないない」」

 さっきから息が合いすぎだし、お互いチラチラ見過ぎ。まぁ、子供が学校を卒業する頃にもう一度遊びに来ても良いかもしれないな。

「まぁ、自分はこの辺で失礼しますよ、今いない人達にもよろしくとお伝えください。それとプリン作り溜め出来なくて申し訳ありませんでした、とも」

「わかった、なんかすごい生活してるみたいだから死ぬなよな」

「そうだ、機会があれば遊びに行ってやる」

「はい、ありがとうございます。島の名前は、アクアマリンと言います、では失礼しますね」

「おい、門はもう閉まってるだろ。キースカさんに言えば、前住んでた二号室に泊めてもらえるんじゃないのか?」

「いえいえ、魔王になってから転移魔法を教わったので、裏庭を使わせてもらえれば十分ですよ、では」

 そう言ってキッチンから裏庭に出て、俺は転移魔法を使い自宅に戻った。



「まさかあいつが魔王になるとは思いもしなかったよ」

「俺もだ。魔王になって敵国の王都に行って、王族脅して来るとか考えられんぞ、なんか馬鹿らしくなった。俺はもう寝るわ」

「私もだ、少し頭痛い。馬鹿らしい話を聞くと頭が痛くなるって本当なんだな」

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おっさんがゲーム中に異世界に行く話です。
強化外骨格を体に纏い、ライオットシールドを装備し、銃で色々倒していく話です。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)

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