第103話 王都で皆で楽しく食事会をした時の事
なんかあんな終わらせ方したので適度に頑張りました。
相変わらず不定期です。
俺は王都の地下通路の拡張した広場に転移すると、壁際に椅子と机があり、黒髪の男がこちらに近づいて来た。
「お待ちしておりましたカー……スク水さん」
そこまで言ったら、もうカームでも良いと思うんだけどまぁいいか。
「では案内しますので、このマントと布を顔に巻いて下さい」
「砂漠の民っぽいですね」
「はは、面白い事言いますね」
そう言いながら階段を上がり、地上に出たら足早に目的地とされる、この間とは違う家屋に向かった。
目的地に着いたが、第一印象は『デカい』だ。町にいた時の共同住宅より大きいぞ。
「やぁ、お久しぶりですスク水さん」
玄関のドアを開けると会田さんが出迎えてくれた。
「会田さん、仲間内では、もうコードネーム止めません?」
「ははは、すまなかったよ。で、荷物はそれだけなのかい?」
「え? えぇ、着替えと、言われてた暗器だけですよ」
「正装とかないの?」
「今までそんなのとは無縁だった俺にあると思います? しかも手紙に書いてなかったですよ?」
「どうしようかな……この時代じゃ採寸しないと無理だし、ましてや吊り物なんかないし」
「もう少し早く連絡くださいよ。知り合いに借りる訳にもいかないし。それともあれですか? 挑発気味に普段着で行っても良いんですよ? 俺は人族でもないですし」
「ソレだと魔族全体が人族より劣るとか言われちゃうよ?」
「けど何しても無理なんですよね? なら逆に挑発してやりますよ。それにテーブルマナーで差を付ければ良いんです、そもそも俺だって魔王歴一年に成ってないペーペーですし。威厳? そんなもん脱着式で、雰囲気で取り付けますよ」
そんなやり取りをしながら、当日の打ち合わせをするが、やっぱり俺は魔族代表として、座ってるだけだった。
これで旨みがなかったら本当に縁を切るぞ、まったく。
◇
そして、会田さんが手紙を出し、食事会の日が三日後に決まり、当日になったら、外に出れなかった俺は嬉々として、砂漠の民ルックで外に出るが、豪華な四頭立ての四輪馬車が用意されていた。
「コレに乗るんですか?」
「用意された物だから仕方ないさ」
そう言って、良く漫画とかで出て来る貴族みたいな服を着ている会田さんと、その他三名の勇者。この間見た強襲班とは別な人物だ。背も高く筋肉のある体で、それでいて知的な雰囲気のする勇者だ。文武両道と言う言葉が似合いそうだ。
多少狭いが、俺だけがマントを羽織り、顔を布で隠すと言う格好だが、別にどうってことはない、気楽に行けば良いんだからな。景色を楽しむのには苦労するが。
しばらくし、城門前に着き御者が何かを言い、分厚い門をくぐって城の敷地内に入り下ろされる。
そして城て正面の門は、王族貴族以外は通れないので来客用の門をくぐろうとしたが、兵士に止められる。
「なんだそのみすぼらしい恰好は! 貴様のような奴が城には入れると思うなよ!」
「いやいや、この方は今日の食事会で物凄く重要な方でしてね、この方抜きでは話が進まないのですよ」
「なら顔を見せろ、それにそんなマントを羽織っていると武器を所持している可能性もある、脱げ!」
別の入り口の門番は終始高圧的だが、まぁ職務に忠実だと思えば良いさ。そして俺は会田さんを見ると、首を縦に振ったので、脱いでやる事にした。
気分はク○○ンに正体をばらす、大きくなった悟○だな。
「き、貴様は魔族! 敵襲だー!!!」
門番がそう叫ぶと、武装した兵士達が俺等を囲むが、勇者達が俺を囲み、周りの兵士達を睨んでいる。
「いやー先ほども言いましたが、食事会で物凄く重要な方でしてね。今日同席される王様や教会のお偉いさんや、貴族様のサインもあるんですよ」
そう言って懐から紙を出し、ヒラヒラとさせている。
「それとも、首を飛ばされる勇気があるのでしたら、どうぞ、我々に攻撃を仕掛けてください。まぁ、首が飛ぶ前に、素手で貴方達兵士なら殺せる程度の力がある勇者達ですので。しかもこの魔族の御方も、魔法の方が得意なので皆が守っている間に、貴方達を一掃できますが?」
上が許可出してサインしてるのに、下に情報が来てないとかどんな職場なんだよ。本当にもう、国を会田さんに任せた方が良いんじゃないんかこれ?
「それが本物である証拠は!」
書類が本物である証拠って言われても、書類書いた本人呼ぶしかないじゃないか。しかもこいつも引かないなー、あげくに俺の事めっちゃ睨んでるし。
「貴方では話になりません、上の者をお呼びください、貴方達から手を出さなければ、我々は絶対に手を出しません」
「その魔族が何かしない保証は!?」
「お前、頭沸いてんのか? 俺達が会合をわざわざぶち壊すような事すると思うのか? それとも上の命令で俺達を挑発してるのか? 良いから呼んできてくださいよ」
「スク水さん、喧嘩腰はちょっと」
「俺は落ち着いてますし、相手の出方で態度を変えているだけです。物凄く紳士な執事が出て来て対応してくれれば、物凄く丁寧に受け答えしますよ。こいつの育ちが悪いだけです」
「何だと貴様!」
「このような事を言われたくないのでしたら、態度を改め、今自分が話しているように、丁寧に対応して頂ければ自分としては物凄く助かるのですが。皆様はどう思われるのでしょうか? お客様とはいえ、魔族相手には丁寧に出来ない教育でもされてるのでしょうか? 人族とは野蛮な者なのですね、ねぇ勇者様」
「貴様! 俺を愚弄するつもりか!」
「つもりでは無く、すでに愚弄しているのですが。全く話になりません、自分はもう黙りますので、皆様お願いします」
「散々煽って置いてそれはないんじゃないですかね? スク水さん――」
「最初に売って来たのはあちらですが?」
そんなやり取りをしていたら、少し装飾が派手な奴が出て来て、俺達の対応をし始めた。
「申し訳ありません。話は通っておりますので、この者達には良く言い聞かせますのでどうかご容赦ください」
「えぇ、自分としては無駄な争いを避けられたので構いませんよ」
「貴様、ただの魔族なのに何偉そうにしてんだよ! この劣等種が!」
「その劣等種に小馬鹿にされる貴方は、ゴミ虫の糞をかき集めた物より価値のない存在ですね」
「スク水さん? これ以上挑発すると縛りますよ? 上司の貴方もなぜ止めないんですか?」
やばい、会田さんのあの冷たい笑顔はマジでやばい。
「申し訳ありませんでした、あのお方が挑発してこなければ問題はなかったのですが……。もう何を言われても黙ってます」
そう言って俺は黙り、門番は面白くない顔をして軽く武器を所持してないか確認されたが、裾を上げてみろとか、腕をまくれとかはなかった。足にナイフくらいなら隠せるのに、本当にこいつ等は城の兵士かよ。
廊下を歩いている途中で、さっきの奴の上官が謝罪して来た。
「部下が申し訳ありませんでした」
「いえいえ、こちらのスク水も少し頭に血が上っていたみたいで、申し訳ありませんでした」
「申し訳ありませんでした」
一応謝罪だけはしておこう。
そして大きい食堂に案内され、メイドが椅子を引いてくれたので素直に座り、お偉いさんを待つ事にする。
『こういう席では偉い人ほど遅れて来るみたいですので、気長に待ちましょう、それに天井には宇賀神達がいます』
と、日本語で言われたので頷いておいた。
多分メイドも教育された者で、逐一こちらの行動を監視してると思っていいんだろうな。
そしてかなり遅れ、なんか装飾過多な連中が五人入って来たが、見覚えのある奴だけはこちらを見ようともせず、ずっと視線が変な方向を向いていた。
あの王様平気かよ、なんか変な汗かいてるぞ。一応体裁は取り繕うとしてるのか、真ん中の豪華な椅子に座った。
「おいなんだこのみすぼらしい魔族は! こんな奴が重要な魔族だと? こんな奴と一緒に話が出来ると思ってるのか? 時間を無駄にしたな、帰らせてもらうぞ」
なんだろう、見かけだけでしか判断できないのってかなり駄目なんじゃないのか? ここに来る時点で、かなり重要な奴だって気がつないのかね……この貴族っぽい人は。
「いやいやいや、少々お待ちを。スク水さん、もうばらしても良いですかね?」
「え? まぁ構いませんよ。責任は取って下さいね?」
「わかりました、何かあった場合の責任はどうにかして取らせましょう」
とらせる? 会田さんが取るんじゃないのか?
「このスク水と呼ばれた魔族は、魔王と呼ばれる存在です」
「何だと!」「馬鹿な!」「ヒッ」
うむ、それぞれ反応が違って面白いな。後ろからも聞こえたし。王様だけは口を開けて目が飛び出しそうになってるけど。さっきの『とらせる』と言う言葉を考えると、会田さんと何かあったと思うのが妥当か。
「なら証拠を見せて見よ、魔王の証と呼ばれる物があるはずだ!」
「別に構いませんが、立ち上がらないと見せられないので、立ってもよろしいでしょうか?」
「変な動きをするなよ、少しでも怪しいと思ったら叫び、衛兵が駆けつけるからな」
「なら先に言っておきます、足の甲にあり、靴を脱がないと見せられません」
そう言うと、目の前にいた五人と隣にいた四人が変な声を出した。
「ま、まて。私が知っている情報だと。魔王の印とは、手の甲や腕、額や胸にあったと聞いているが」
そう言った一人が狼狽えている。
「あー、刻む場所を選ばせてもらえたので、目立たない場所を選んだんですよ。脱いでも良いですか?」
会田さんは手を額に置き、頭を振っている。なんか色々諦めた感じだ。
まぁいいや、俺は立ち上がり。皮の靴を脱ぎ、靴下代わりに撒いてた布を取って、膝を胸に抱えるようにして証を見せる。
あ、今の俺すげぇ馬鹿みたいだ。
「う、うむ、確かに魔王の証だな」
「そ、そうだな」
「あ、あぁ」
「あの、座ってもよろしいでしょうか?」
「う、うむ」
場に気まずい空気が流れるが、良しとしよう。
「そ、それでだが。ディア殿が持って来た書類なのだが」
ディア? AIDAの最後だけ取ったのか、宇賀神さんと一緒で安直だなー。ってか女性の名前じゃね?
そんな感じで、迷惑料だの、勇者を保護する保障の話し合いが会田さんの高圧的な口調と知識と下調べのおかげでスムーズに進み、俺にも一応話が回って来た。
「スクミズ殿はどのような意見なのだ?」
なら俺は、言いたい事を言うだけだ、事前に打ち合わせがあったからな、多少無茶しても、通させますと笑顔で会田さんが言っていたので平気だろう。
「魔族と人族の壁を取り払いたいですね。前に一度王都まで足を運びましたが、移動中に子供に石を投げられ、門番には殴られそうになり大変不愉快でした。何故人族の方は魔族をこんなにまで毛嫌いをするのでしょうか? 話によれば人族至上主義で、魔族は人族より劣ると教えているらしいじゃないですか?」
俺は聖職者っぽい服を着ている、聖職者に見えない贅肉にまみれたジジイを睨みつける。
「魔族の何が人族より劣っているのか、是非教えていただきたいのですが」
「知能の乏しい馬鹿に何を言っても無駄だろう、それと同じだ。我々の神は我々に素晴らしい知恵を与えてくれた。それに比べ魔族は力に物を言わせる蛮族ではないか」
駄目だ、頭沸いてるわ。
「なら、なぜ自分は怒りに任せ、暴れ回らないのでしょうか? そもそも勇者の知識を借りなければ、文化を発展できなかった奴等が何を言うかと思えば……。魔族を蛮族呼ばわりとは、笑いすぎて腹が痛くなりますよ。先ほども言った通り、自分は子供に石を投げられ、兵士に殴られそうになったと言いましたが、こちらが一切手を出そうとしていないのに、人族から仕掛けてきました。よっぽど人族の方が蛮族だと思うのですが。その辺りについてはどうお考えで?」
「我々より劣る魔族をどう扱おうと、我々人族の勝手ではないか。世迷い事をぬかすな!」
「怒鳴れば俺が怯み、主導権が握れると思うなよ豚が……。せっかく紳士的に喋って、問題を起こさないで最後まで終わらせようとした努力が台なしじゃねぇかよ。貴様等人族の貴族や聖職者共の勝手や位なんぞ知らん、貴様がどのくらい偉いかはわからん。俺や勇者にとっては、全く関係ない地位だと思えよ肉達磨が――」
俺は冷たく、睨みつけながら言葉を選びつつ挑発する。
「き、貴様……。誰でも良い! この魔王を殺せ!」
「良いのか? ここには戦闘系勇者が三人いて、仮にでも魔王と呼ばれる奴が一人いるんだぞ? 誰かが切りかかる前に、ここにいる全員を始末出来ると思うぞ? なぁ落ち着こうぜ、いまさらどうしようもない身体的な事で貶した事は謝罪するけどさ、頭に来たから怒鳴り散らすような短絡的な思考すんなよ。俺からしてみればお前の方が立派な蛮族だぜ?」
そんな事を言うと隣にいた勇者が、少し驚きながらこちらを少し見たが、続けることにする。
「スク水さんも落ち着きましょうね」「スクミズ殿落ち着いて下さい」
会田さんと、あまり発言しない気の弱そうな貴族に注意され、多少は落ち着いたが、まだ発言を止める気はない。
「申し訳ありませんでした、あの方は多少無視して、話を続けさせてもらいますね。とりあえず自分の望みは戦争終結。それが出来ないのならば、試験的な物として、魔族側の大陸の、テフロイト付近にある戦線を一時停戦と言う事にしていただきたい。自分の聞いた話では、人族が領土欲しさに、乗り込んできて始めた戦争と聞いています。
自分も五回前の秋から雪が降るまで戦線近くの最前線基地にいましたが、戦線が行ったり来たり。最前線基地には戦線を突破して来たのか、回り込んで来たのかわからない人族の部隊が偶に来る程度。しかも物資も乏しく、攻城兵器もろくになく、基地の常駐防衛戦力だけで全滅させられる。そう言うのが多かったですね。
このような不毛な事を止めて、民からの税を軽くして、国力を蓄えた方が頭の良いやり方だと思うんですよね。王都に来る途中に寄った寒村は、皆餓えに苦しみ、男手も少なく、もう絶望しかない中、死ぬ事も出来ずに生きてるだけと言う感じでしたね。
もしかしなくても、戦争の為に重税を民に強いて、払えなければ男手を連れて行き、戦争に参加させるように法を作ったとか言いませんよね? どう見ても先細りの非生産的じゃないですか?」
俺が呆れたように発言すると、
「我々人族が勝ち、魔族を奴隷にすれば良い話だ! 何を世迷い事を!」
「あの、自分の話を聞いてました? 貴方達が蛮族と言った魔族の俺が、人族の寒村の心配をしているんですよ? たかが大陸の一部を乗っ取ったくらいで何を言ってるんですか。大陸間を結ぶ物資を運ぶ手間や食料、人員はどうするんです? 明らかに敵側の大陸を占領するのには全然足りませんよ? 頭大丈夫ですか?」
「うるさい! 貴様こそ停戦とか言いながら、その隙を突いて攻めてくるつもりであろう!」
「自分がやってる事は、他人も同じ事をしているに違いないと思うのは止めた方が良いですよ。それともプライドが高くて言った言葉をひっこめる事が出来ないんですか? それとも重税を課して、私腹を肥やすのが目的なんですか?」
「ぐっ……」
「はぁーーっ、図星ですか。どっちが本当かわかりませんし、興味はありませんが、そんな糞みたいなプライドなんかドブ川にでも捨てて税を軽くし、民の事を思った方が良いと思いますがねぇ。その内取れる物も取れなくなって、暴動が起きて、国外に逃げる事になりますよ。この国の他に隣国がある事が前提ですがね。それとも王都の外にいるスラム化した民衆を煽り、蜂起させて、門を破壊し、王都内になだれ込ませても良いのですよ? なに、簡単ですよ、自分の見た感じではこの王都への不満は相当な物と思いますし、火をつけたらあっという間に不満は怒りに変わりますよ。そうですね、貴族は私腹を肥やす為に重税を強いている、戦争に男手が必要だからわざと重税を強いている、この人数なら王都を半壊させられる、見よ! と、言いながら大きな門を破壊すれば……。火種はこんな物でしょうね」
「貴様ぁ!」
「やれやれ、敵は魔族だけじゃないって事を教えてあげましょうか?」
俺は、少し高圧的に言うが、丁度良くドアが開き、食事が運ばれてきてしまった。
「さ、さあさあ、腹が減っては怒りっぽくなりますし、まずは食事でもどうでしょうか? 国王専属のコックに作らせた物です」
「この食事だけで、寒村の何人にパンが配れるんでしょうね。まぁ、出された物はもったいないので処理しますが」
そう言って、前世で大量に出回っていた様な白磁の皿に肉が乗っており、ガラスのグラスが置かれ、後ろに立っていたメイドが果実酒を注いで来る。コレを見ただけで、勇者が持ち込んだ知識だと一発でわかる、魔族側の文化を見ても、木製の食器が多いからだ。
「ささっ、まずは乾杯でもしましょう」
気の弱そうな貴族が、そう言って、全員がワイングラスを持ち、乾杯の挨拶をするが、勇者達は一口もつけずにグラスをテーブルに起き、果実酒を飲もうとはしない。
ここは敵地で、ましてや毒が入ってるかわからないような果実酒を飲むはずもないし、銀製の食器でもない。まぁ、銀はある程度の毒にしか反応しないけどな。
けど俺は行く。会田さんにカードを切らせる為に! 少し多めに報酬下さいね。
俺は果実酒を一気に飲み干す。隣にいる勇者が小さく、あっと声を上げるがもう遅い。食道が熱く、胃の形がはっきりとわかる。目の前の聖職者や貴族たちがニヤついている……。やっぱりな。
【スキル・毒耐性:5】を習得しました。
良いねぇ、やっと子供の頃からの苦労が報われた気がするよ。
俺は平気な顔をして、ワイングラスを置き、後ろのメイドにお代わりを注いでもらった瞬間に瓶を奪い取り、口を開く。
「いやぁ、素晴らしい果実酒でした。このような果実酒は是非とも皆さんに多く味わっていただきたく思い、半分ほど空いたグラスに注がせていただきますね」
俺はいやらしい笑顔をしたまま立ち上がり、あっけにとられている皆を無視し、本来なら制止させられるのだろうが、全員の横に立ち、果実酒を注ぎ、自分の席に戻り手酌でグラスに注ぐ。香りが良く、ナイフで抵抗無く切れるくらい柔らかい肉料理を一切れ食べるが、こちらも毒と言うスパイスが利いている。
そして、もう一度果実酒を飲み干すが、今度はしっかりと味がわかった、確かにこれは美味い果実酒だった。
俺は、目の前にいる奴等を睨みつけながら低い声で話しかける。
「さて、皆様の喉も潤いましたし、会合の続きでもしましょうか……。美味しい果実酒でしたよ。あれ? 皆様はもう飲まないんですか? それとも魔王である私が直々に注いだ物は飲めないとおっしゃるのでしょうか? そんな事ないですよね、後ろに立ってるメイドさんが注いでくれた瓶から、注ぎ足しただけですから問題はないですよね」
目の前でニヤニヤしていた貴族達が、毒殺が失敗したと言うより、毒そのものが効かない俺に対し、どう思っているのかが気になるが、言葉が帰って来ないので続けよう。
「おやおや、毒が効かないからって呆けないで下さいよ――良いか? これでお前達が不利になった事は確かだぞ? これからの言動には注意しろよ糞袋共が」
声を低くし、視線だけ動かして全員を睨み、最悪のカードを切らせた事だけを伝えた。
「ま、まぁ、確かに我々を殺そうとした事は、こちらにとってかなり有利に事が進みます、毒を仕込んでくれてありがとうございます。毒を仕込んでないと言うのであれば、スク水さんが注ぎ足した果実酒を飲むか、我々がまだ口を付けてない果実酒を飲むかして下さいね。そうしないと『毒なんか入れてはおらぬ!』では通じませんからね」
会田さんが王族襲撃の時のような顔になり、冷たい笑みを浮かべている、正直あの笑顔の時は関りたくないな。
「もう良い、こいつ等を殺せ!」
偉そうな貴族が言い放った。まぁ貴族だから偉いんだけどな。
追い詰めすぎたな。そう思った瞬間に、ワインを振り向きながらメイドや近衛兵にぶちまけ、髪と首の裏の襟の所に仕込んだ針を取り出し、先ほど酒を注いで回った時に確認していた、後ろに立っていたフルプレートメイルを着てる奴の兜の隙間を狙って投げ込む。
左手をポケットに突っ込み、ナイフを抜こうとしているメイドさんの手の甲をめがけ、右手で一枚一枚銅貨を投擲し、部屋にいるメイド全員に銅貨をめり込ませる。
椅子を持って思い切り鎧を着こんでいる奴を殴り、毒で変色しているナイフとフォークをテーブルを挟んだ向かいの奴等に適当に投げ、左手で【黒曜石のナイフ】を逆手で生成しながら、手首に巻いてあるリストバンドから針を抜こうとしたら、天井から宇賀神さんと、真っ黒い鎧を着た、体中に武装した自分よりでかい鉄板のような剣を持った奴が落ちて来た。
隣にいた勇者も応戦するのを一瞬だけ止め、降って来た黒い影を目だけで追っていた。
この間見たあいつだ、まさか上にいたとはな、もう会えないかと思ってた。
「伏せろ……」
そんな声が聞こえたので、急いで伏せたら、メイドさんを巻き込み、フルプレートメイルを着こんだ近衛兵を、持っていた鉄板で横一文字に力任せで切り倒し、振った勢いで鉄板を上段に構えてから振り下ろし、今度は別な奴を半分に叩き切った。
貴重なメイドさんが二人ほど巻き込まれたが、ナイフを抜いていた時点で諦めよう、あのメイドさんは敵だ。あとで会田さんに頼んでメイド服を数着貰うか。何に使うのかって? ナニに使うんだよ!
少しだけ思考が明後日の方向に向いていたら、狂戦士さんが胸にある投げナイフを襲い掛かって来るメイドさんに投げ、奥の方では宇賀神さんが鎧と兜の隙間にショートソードみたいなのを差し込み、どんどん処理していた。
後はメイドさんや伏兵に注意してれば問題ないな。そう思いながら逃げようとしていた気が弱そうだった貴族のふくらはぎに、使い損ねた黒曜石のナイフを投擲し、それに気がついた勇者は近衛兵の武器を奪い、ドアの両側に立ち廊下からの援軍を警戒している。後は楽しい楽しい話し合いだな。
問題は、ここが血の臭いがこもるブラッドバスになっちゃったってなだけだね。メイドさん真っ二つだし、鎧は中身ごと真っ二つだし、質量のある物を振り回すって、それだけで凶器だな。
「我々はこうするつもりは一切なかったんですよ? ただ、根気良く話し合いをして、話を詰めて行き、お互い納得いく結果を出したかったのですが……。こうなっては仕方ありませんよね? と言う訳で我々のこの要求を飲んで頂きたいのですが……、別に無茶な事を言っている訳じゃないんですよ、ただ一時停戦をして、税を減らし、私腹を肥やしている貴族や聖職者共から財産の五割を没収し、状態の酷い寒村からある程度分配していくだけですよ。もちろん書類を見たり監査を入れて、地方の貧乏貴族からとれないと判断すれば、もちろんとりませんがね。悪質なら七割持って行きますよ、心配しなくて良いですよ。我々は、我々が住みやすい土地にしようとしているだけですので」
椅子には会田さんと宇賀神さん、狂戦士さんと俺が座り、全員転がっていた武器を持って、血まみれの笑顔で対応している、もちろん三人の勇者は武器を奪えるだけ奪って、廊下に出て、ドアを死守している。
しかも毒殺されそうになり、俺が未然に防ぎ、狂戦士さんや宇賀神さんが下りて来てくれて、俺達や相手はほぼ無傷で生き残ったので、物凄く冷たい笑顔で、こちらが言った要求をすべて相手に押し付ける形を取っている。無慈悲すぎるな。
「慰謝料として貴方達からこの場にいる七人にも多少の金銭も頂きますので覚悟していてください。我々の国には、相手を殺した場合は、その家族に対して、その殺された人が働けなくなるまでに稼げるお金を、渡さなければいけないと言うのがありましてね。例えるなら、我々が季節が一巡するまで働いて、金貨二枚稼げるとしましょう、人族が働けるまでの年齢は七十歳まで現役だとして、我々の年齢が三十だとしましょう、そうすると一人金貨八十枚が妥当ですね、しかもここには七人いますので金貨五百六十枚ですね、あぁ、大金貨と言うのもあるんでしたね。それなら五十六枚で済みますよ。私腹を肥やしている貴方達なら些細なお金ですよね? もちろん財産の五割を取ってからの話になりますので、それはそちらで良くお話し下さい」
さらに酷い事を言い始めた。止めてやれよ、全員涙目じゃないか。
けど一人八千万円程度と考えればラッキーだと思おう、けど会田さんの事だからこの間参加した、勇者達に均等に分配するんだろうな。
「あー、こちらのスク水さんはまだ十五歳ですので、さらに金貨三十枚追加ですね。いやー長寿種と確定してないで良かったですね。しかもこの方はかなり稼いでますので、季節が一巡で金貨二枚って事は絶対ないですので、金貨百枚程度で済んで良かったと思った方が良いですよ」
おいおい、この状況でさらに搾り取ろうとするなよ、俺が恨まれるだろ……。
「では、この書類全部に全員がサインして下さい、命を大金貨五十六枚で買ったと思えば安いでしょ? 一人大金貨十一枚程度と思えばさらに安い!」
ノリノリだな、ノリノリすぎて、あんまり追い詰めると自殺するぞこいつ等。最悪家族や使用人を巻き込んだ無理心中するぞ。
資産の五割持ってかれて、さらに一人一億円を俺等に払うんだろ? 桃太郎が電車に乗って日本を駆け回るゲームでも、一気に資産が半分減るとか泣くぞ。
会合が無事終わり、最初に案内された家に帰り、皆が一息ついた時に会田さんが口を開いた。
「まさか毒入りワインを一気に煽るとは思いませんでしたよ、しかも飲んだ瞬間に相手がニヤニヤしてたので焦りました、なんで平気だったんですか?」
「強いて言うなら毒に強いだけです、ある程度賭けでしたけどね。解析持ってる方がいたら。その方に聞いて下さい、もちろん教えろと言うのであれば――」
「教えてください」
「早いですね……。まぁ隠すような事じゃないんですが、俺には毒耐性5がついてます」
「はぁ?」
会田さんの、こんなマヌケな声を聴いたのは初めてだな。宇賀神さんも一緒の部屋にいた勇者達も驚いている。
「いえ……その……転生が嬉しくて、ゲームみたいに何かできないかな? と思って状態異常耐性付かないかなと思いまして、毒草を食べて抗体を作り、毒に強くなろうと思ってたら、毒耐性が本当についちゃいまして……」
中身がおっさんなので、恥ずかしそうに言った。
「そう言う情報は早めに教えてくださいよー。あの状況で、食事が来て、食器が銀製じゃなければ毒だってわかるだろ! って叫びそうになりましたよ」
「いえ、会田さんに良いカードを出させる為に博打に出ました。なので相手は最悪なカードを出した事になりますね。だって俺には毒が効かない上に、自分達に注ぎ足された酒を飲んで無毒と証明して見せろって言われたら、仕組んだ側は誰も出来ないでしょう?」
「そりゃそうですけど、今度は事前に教えてくださいね」
「この流れだと次はなさそうですけどね」
「まぁ、上手くやります。ある程度の準備が整い次第動き始めて、本格的に決まった項目を書いた手紙を店に届けます。今回のでかなりの借りが出来ましたからね、多少金銭面とかで優遇しても誰も文句は言わないと思いますよ」
「あぁ、あんな事出来るもんじゃないぜ、文句もでねぇだろ」
喋り方もそれっぽいんですね、狂戦士さん。
妖精はいないけど、ハニービーならいます、俺の島に来てください。とも言えないしな。あの戦力は会田さんにもう既に引き抜かれてる気がするから止めておこう。
「んじゃ帰りますね」
そう言って俺は、例の下級層の集合住宅の地下から、家族に無事を知らせる為にベリル村に転移した、メイド服を四着ほど貰って。
やっと毒耐性が役に立ちました。




