第99話 王都でお祭り騒ぎ 中編
適度に続けてます。
相変わらず不定期です
三話構成の二話目ですので98話を先にお読みください。
馬車で移動してると、物凄く大きな城壁が見えて来た。
正直エジリンの防壁より数倍高いし、分厚いと思う。遠くから見てこれだ、門まで近づいたらどうなるんだろうか?
「でかいですね」
「えぇ、一応王都ですからね」
「どうやって中に入るんですか? この樽の中に入れって言いませんよね?」
冗談でニヤニヤしながら言ってみた。
「はい、この樽に入ってください」
と言われ、俺は今日からエスパーカームにならないといけないのか……。
「冗談です、王都と言う事で、荷物のチェックはかなり厳しいんですよ。城壁から外に生ごみを捨てる小窓がありますので、夜中に宇賀神さんが回収しに来てくれます」
この金田さんって冗談も言えたのか、ずっと馬車で一緒だったが、そんなそぶり一切見せなかったのに。人ってわからないもんだな。
「装備を身に着け、その上からこのフード付きローブを身に付けてください、城壁の周りはスラム化していて、難民がかなりいますので、目立たないようにしましょう。誰かが叫べば一瞬で周りに広がり、兵士が出てきますので」
そう言われたので、俺は装備を身に着け、薄汚れたフード付きローブを羽織り、城壁の外側を伝う様に周る。御者は一人で王都に入っていった。なんでも連絡する都合が有るらしい。
「スラムより酷いですね、まるで掃き溜め場だ――」
「仕方がないです。重税が原因で食べる物がなく、すがる思いでこの王都に来て、炊き出しを期待しているんですよ」
「炊き出しとかあるんですか?」
「信仰を集めようと、薄いポリッジを恩着せがましく配ってますよ、元々農民から取り立てた麦なんですけどね」
「皮肉なもんですね」
「そうですね、あぁ、あそこです。そこから兵士達が生ごみを捨てます。なのであの周りには沢山人が集まっていますが、気にしないで待機しましょう。カームさんは絶対に喋ったり顔を出したりしないで下さいね」
「わかりました」
「難民に紛れて夜まで待機です」
俺は生ごみ臭い中、金田さんと目立たないように木の根元に、身を寄せ合いながら夜になるのを待った。
その間に、近くで喧嘩が始まったり、小さい事で言い争いが始まったりして、人族の心はかなり荒れているようだ。
中には兵士に捕まり、囚人兵として最前線送りにされる者までいた。金田さんの話では、処刑の方がまだマシらしい、なぜならその場で死ねるからだそうだ。
囚人兵は生き残っても次の戦場に送られるし、食事も少ないらしい。そんな事を聞かされたら、確かにその場で処刑の方がマシに思える。むしろ魔族の囚人兵の方がまだマシな扱いだったな。
そして夜になり、多分日付が変わり夜中の二時くらいだろうか? そしたら、ゴミ捨て窓が意味もなくバタバタと開閉した。
「合図です、行きましょう」
そう言って、足音を立てずにゴミ捨て窓に近づき、金田さんが小石を投げると縄梯子が下りて来た。
金田さんは縄梯子を上って行き、俺にも合図を送って来る。これは上れって事だよな。縄梯子なんか上った事はないが、何とか闇にまぎれ、音を立てずに進入する事が出来た。
上りきると宇賀神さんがいて、唇に人差し指を当てて、静かにしろと言うジェスチャーをしてきたので一切喋る事もなく、宇賀神さんの後に着いて行く。
見回りの兵士や酒を飲んでフラフラになっている兵士もいたが、スニーキングミッションのように見つからずに城壁から王都内に入る事が出来た。出入り口になってる小さな部屋の兵士は全員気絶してたけど……。多分宇賀神さんだろう。
そう思っていたら宇賀神さんが口を開いた。
「お久しぶりです、カームさん」
「お久しぶりです」
そしてやっと挨拶が出来た。
「詳しい話は会田さんの所でしましょう」
「わかりました」
そう言って、三人は足早に明りの少ない路地を選び、目的地まで向かった。
宇賀神さんがノックを三三七拍子ですると鍵が開き、二人は滑り込むように家の中に入ったので、俺も便乗して滑り込む。
二人がふーっと息を吐きながらフードを取ったので、俺も取らせてもらう。そうすると周りには見た事の無い顔が十名ほど見える。これだけしかいないって訳じゃ無いよな。
「やぁ、久しぶりだねカーム君」
日本語で会田さんが話してきたので、こちらも日本語で話そう。
「お久しぶりです会田さん、あの後どうなったのか少しだけ心配してたんですよ」
「少しだけって、酷いなぁ……」
少しだけ笑いが室内に響く。
「さて、状況を簡単に説明しよう。集まった勇者は百数十名、うち戦闘系が百人近い数が集まっており、実行まで残り十日だ」
「そんな少人数で勝てるんですか?」
「勝つ負けるじゃなくて、王族を拉致したあとに尋問し、今後の安全の保障をしてもらうだけだ。必要なのは勝利ではなく、今後の安全の保障と日本に戻る召喚魔法の存在の確認だ」
「そうっすか……で、俺は何をすればいいんですか?」
「襲撃犯と共に行動し――」
「はいストップ、俺は自分の安全だけ確保して、何もしなくていいんですよね?」
「えぇ、ですが魔王の証を見せる必要がある場合が必要かもしれないので同行して下さい」
「……来なけりゃ良かった」
「おい、全身スク水野郎。折角だから楽しもうぜ」
奥にいた二十歳くらいの好青年風な男が発言し、場の空気が氷る。
「全身スク水? 俺の事か?」
早速酷いあだ名がついたぞ。
「他に誰がいるんだ? お前だけだぞ? 魔族なのは」
「おいおい喧嘩は止めてくれよ?」
「喧嘩じゃねぇっすよ……。一言言わせろスク水」
「……良いだろう、言って見ろよ」
俺は少し威圧する様に言い返す。
「なんでそんな肌の色してるのに女じゃねぇんだよ! なんで可愛い女の子に転生しなかったんだよ! 魔物娘とか萌えるだろうが! なんで蝙蝠っぽい翼がないんだよ! なんで羊みたいな角がないんだよぉぉぉ!」
そう言いながら男は頭を抱え慟哭している。
「……あー」
そう言いながら周りを見るが、全員首を振っている。事前に魔王の協力者が来るって話くらいはあったんだろうが、こんな状態だ、察しよう。
「まぁ、癖は強いが腕は確かだから」
「そうっすか……」
俺は男に近づき、肩に手を置いて優しく言葉を掛ける。
「全員夢魔族の娼館を知ってるから、後で紹介するぞ。肌が薄い紺色だったり、羊っぽい角があったり、蝙蝠の羽が生えてたり沢山いるぞ」
「本当か? 嘘じゃないんだな!?」
「あぁ、昔住んでた共同住宅のお隣さんがそこに務めてたから、数回付き合い程度で行ってるから確かだ。好みの女性を見つけろ」
そう言ったらダメ勇者は立ち上がり、俺の手を取り、上下に激しく振った。
「本当か! 嘘つかないな! この作戦が全部終わったら連れてけよ!」
と、さっきまで騒いでたのがうそのように静かになった。
作戦前からすごく疲れそうだ。
「話を戻すよ? ここにいるのは襲撃班の隊長で、今日はカーム君との顔合わせと言う事で集まって貰った。一部隊五人で十部隊が城の中に乗り込み、残りの勇者は城の外で待機だ。部隊名はアルファから始まってジュリエットの十部隊で、それぞれ役割が決まってる。王様と王妃をとらえるアルファ部隊を戦力の高い五人で構成し、二人を確保してもらう、その他はサポートや第一王女夫婦と第三王女の確保を予定、これが宇賀神に描いてもらった見取り図だ。各部隊の班長が確実に頭に地図を記憶してるから問題はない。カーム君は本当について行くだけだ、問題があった場合のみ、各自の判断で王都に魔王が降臨してもらう事になる」
「そうですか……。抜け道から目的地までの通路の幅や障害物、死角の有無や兵士の巡回パターンはどうなっています?」
とりあえず最後の言葉は無視した。
「抜け道は二人がすれ違えるくらいで、城内の通路の幅は三人が横に並んで歩ける程度、障害物は所々に鎧や壷があるね。死角は曲がり角や障害物の陰くらいしかない。だからほぼないと思ってくれ。しかも等間隔にランプがあるから廊下は明るいと思ってくれ、兵士の巡回パターンはないね、二人一組でその辺ウロウロしているだけだ、行き当たりばったりで動いている」
「最悪ですね、部屋の前にいる常駐している兵士とかは?」
「各部屋の前に交代で二人。隣の部屋に、何か有った場合即駆けつける事が出来る様に十五人ほど交代制で待機、それが六部屋分、さすがにその辺りの廊下は広いし見通しも良いから覚悟が必要だね」
「んー……。各部屋の制圧に六部隊で、残り四部隊が遊撃的なポジションでサポートですか?」
「そうだね。無線機のような通信機器や、それに似た魔法がないから作戦が始まったらお互いが役割を果たしてもらう事になる」
確かに一方的に声を届ける風魔法が有るけど、通信機の様な便利さとは言えない。
「そう言えば色々集めるのに説明したんですよね? 密告とかなかったんですか?」
「あったよ」
会田さんは、それがどうしたの? ってな感じで返してきた。
「……なんでまだここが存在しているんですか? 王都の兵士も馬鹿じゃないでしょう?」
「宇賀神には少し汚れ仕事をしてもらった。謁見の間で裏切り勇者が密告しようとしたら、宇賀神の判断で毒付きの細い針で死んでもらったよ。俺の話を聞いた後、すぐに謁見しようとして『報告があります、勇者達が』って言えば次にどんな言葉が来るか簡単に想像できるでしょう? 即効性の幻覚、混乱、興奮作用の毒を塗った針が首に刺されば、痛みで慌てて払いのけるだろ? その間に少しだけいい感じにキまって城から放り出されるか、ベッド行きさ」
流石忍者だな。
「次の言葉が安易に想像できます、三つくらい」
それにしてもよくも、まぁそんな毒を見つけたな。
俺は周りを見渡すと、全員が頷いている。全員似たような考えなんだな。
「じゃぁ、未然に防いで、詳細は伝わっていないと仮定しましょうか。王族連中を確保して、翌朝全員いなかったら騒ぎになるんじゃないんですか?」
「ある程度尋問して、書類を書いてもらったら帰って貰うよ。もちろん目隠しして馬車で送り出すけどね。その後数日したら書類を見せに行き、王族は俺等の傀儡さ、ある程度口出しするから傀儡政権? まぁ良いや、穴だらけで、行き当たりばったりだけどどうにかするしかないんだ。最悪王様と召喚をしてる第三王女の確保だけは絶対条件だね。拉致が難しいならその場で死んでもらうけど」
涼しい顔をして随分恐ろしいことを言うな。
「尋問は、隠し通路のあるぼろい共同住宅の地下を広げたから、そこで執行するつもりだ。もちろん共同住宅の管理人には作戦実行後最初に死んでもらう」
そう言いながら少しだけ笑みを見せる。有名な演説を素で言えそうな勢いだな。
「皆さんはそれには同意しているんですか?」
俺は周りを見渡すと、全員が首を縦に振りながら短い肯定の返事をしている。
「ってか、俺はその地下で待機でいいんじゃないんですか?」
「申し訳ないが、岩本君からカーム君の戦力は聞いている。何もしなくて良いけど、襲われた場合の身の安全は自分で守るって言って来てもらったけど、もし戦闘になったら自分の身を守るのに参加してもらうって事だ」
「……ひでぇ話だ」
「んじゃコードネームを決めようぜ、俺はスク水を推すね」
「はぁ!? 何言ってんの? 頭沸いてるのか?」
「いや、スク水で良いと思うぞ」
「これ以上ないコードネームだな」
「まぁ、ここにいる人達は殆どお互いの名前を知らないから、おい。とか、なぁ。って言ってるし」
「俺、名前割れてるんですけど……」
「平気だよ、俺も宇賀神も割れてるから」
そう言って会田さんは笑顔になる。本当にこの作戦大丈夫なのか?
「じゃぁ、お前はモンムススキーな」
そう言うと、俺にスク水と名前を付けた奴は、まんざらでもなさそうな顔になった、なんなんだよこいつは。
「ここにいる勇者の方々は戦力的にどのくらいなんですか?」
「この国の騎士団長クラスなら片手で勝てるくらい、王様の近衛兵でも十人くらいなら素手で相手しても怪我もないと思うよ、さすがに大隊クラスの数で襲われたらわからないけど」
「一人で?」
「一人で」
「勇者舐めてたわ、俺の所に武君が来てくれて本当に助かった。ここにいる誰かが俺の所に来てたら確実に死んでたわ」
「武君も、君の前任の魔王をほぼ一人で倒してるから、近衛兵十人位なら相手に出来るよ」
「あれ? もしかしなくても俺ってそれなりに強いの?」
「馬鹿じゃねえの? 魔王になれる時点で強いに決まってんだろ! 頭の中にスク水でも詰まってんのかよ」
「娼館……連れて行きませんよ?」
「すんません、許して下さい。もう馬鹿にしません」
「けど、もうコードネームはスク水だからね」
会田さんがニコニコしながら俺に言い、俺は絶望した。
◇
そして、俺は作戦結構の日まで出歩く事が出来ないので案内されたボロ家で勇者達と、他愛のない話をしながら時間を潰した。
「魔族と人族の魔法の違いって興味深いな、俺も詠唱なしでイメージ出来ないかな、試したいのが多いんだ」
「確かに便利過ぎだよなー。俺も柔軟性の高い何にでも応用が出来る魔法が使いたいよ」
「けど面倒そうだぞ? 金属をイメージして出したら鉱石としての金属だから使い勝手が悪いみたいだし。剣を出しても、魔力が切れたら消えるから怖くて打ち合いも出来ない」
「そう考えるとスク水さんの黒曜石系は投擲武器としては優秀だな」
「けど銃っぽい何かも絶対作ってますよね」
「だろうなぁ、教えてくれないだけで……。俺も魔法は魔族系の方が良かったな」
「ですねー」
とか話しているが、本人を目の前にして話さないでほしいな、こっちをチラチラ見ながら。
切り札を教えろって事か? 作戦行動をするのに戦力を教えておいた方が良いかもしれないが、さすがに勘弁してほしい。
そして俺は、思い出したかのように声をかける。
「あ、城の見取り図とか話を聞いて、長物の使用が絶望的なので盾が欲しいんですけど、誰か買って来てくれません? 俺出歩けないんで。全部鉄製の小丸盾なんですけど取っ手付きで前腕部でベルトで止めるタイプの」
「あ、これっすか」
と、一人の勇者が見せてくれる。
「そうです、そんな感じです。安いのでも良いんで、買って来てくれませんか? 値段は知りませんがね」
「ミスリルとかじゃなければ結構安いっすよ。むしろコレ、少しヘタってきたんで買い替える積りだったんで差し上げますよ」
「良いんですか? ありがとうございます、コレで室内戦で立ち回れます」
そう言って俺は盾を手に入れた。
「本当はタワーシールドが良かったんですけど、通路幅と視認性と取り回しの問題からこれが妥当ですよね」
「ライオットシールドがあれば良かったんですか?」
「そうそう、あの防弾の透明な奴です。ゲームじゃ盾使いだったんですよ」
「あー盾使い同士変に仲良くなるFPSですか」
「それですよ」
そんな会話をしていたら後ろの方で声がした。
「俺は攻撃を行う!」
「「了解!」」「了解!」
「俺は防衛を行う!」
「了「「了解!」」
とか聞こえ始めた。
「敵の潜水艦を発見!」
なので俺はそう言ってみた。
「「「駄目だ!」」」
と返され、一人が狭い室内でジャンプしながら高速回転を始めたので、俺も立ち上がりその場でくるくると回り始め、盾をくれた人は匍匐前進を始め、訳のわからない空間になった。
そして食べ物の差し入れを持って来た勇者の一人が、ドアを開けた瞬間にそっとドアを閉めはじめたのでジャンプしていた勇者がそれを止めた。
「まってくれ! これはある意味仲間意識を高める行動だから!」
と言ってドアノブを持って抵抗しながら説得しはじめ、俺を含め、その場にいた全員が説得した。
知らない人が見たら変な行動にしか見えないからな。むしろ俺が死んでからゲーム事情はどのくらい進んだのかわからないが、未だ似たような事はされているみたいだ。




