第98話 王都でお祭り騒ぎ 前編
適度に続けてます。
相変わらず不定期です。
三話構成なので、全部出来上がるまで上げませんでした。
色々突っ込みたい場所が多いと思いますが緩く読んでください
俺は今、死んだ目で両手両足を分厚い鉄球付きの木の枷で拘束された状態で、馬車で運ばれている、もちろん鍵はかかっていないし、すぐに外せるようになっている。
理由は簡単だ、勇者達がクーデターを起こす目途が立った為、王都に乗り込むために拘束された状態で運ばれているだけだ。
死んだ目も演技だ、焦点が合って無いようなボーっとしたような目で遠くの方を見ているだけだ。コランダムから初めて出て、何ヶ所か村や町を巡ったが酷い状態だった。
一言で言うなら『スラムより酷い』だ、エジリンにあった小規模なスラムの方がまだマシだと言える。家も、雨は凌げるけど隙間風が酷そうだ、畑の作物も家畜も痩せている。人々に覇気がない。むしろ生気すらない、子供達は比較的普通そうに見えたが、大人達の目が死んでいる。例えるなら息をする為に生きているような、そんな印象を受ける。
「酷いですよね。大きい町や王都から離れてる村なんか殆どこんなものですよ。重税を課し、私腹を肥やし、食べる物が無くて生きるのにギリギリなんです。魔族との戦争で男手も取られていますので余計ですね……。せめて子供だけは、って考えの親がいる事が救いでしょうか」
目の前の少し硬い印象を受ける、四十路手前の黒髪の男は、独り言のように俺に言った。
「魔族の村の方がまだマシですね、俺の産まれた寒村ですら食べるのに困らず、学校もあり、多少貧しくても皆生き生きしてましたよ。税だって、取れた麦の四分の一以下……下手すれば五分の一以下程度しか持って行かれませんでしたし。皆の為を思って私財を投じ、最前線付近に立派な城を建てて、前線維持に貢献していたお偉いさんもいましたからね。それを知っていると、人族側のお偉いさんは屑に思えます」
「お偉いさんの上も屑ですからね、その皺寄せが一番下の村人になってます。しかも教会の教えで、余計な考えを起こさせない教育がされています。しかもその矛先が魔族に向けられていますので、人族側の大陸で魔族を見る事は殆どありません。精々ガス抜きの為に連れて来られた、戦争奴隷程度でしょうね」
「絶対成功させたいですね」
「そうですね」
◇
話しは少し遡る。
ベリル村での収穫祭が無事終わり、数日嫁達に拘束され、やっと島に戻ったら、今度は島の収穫祭だ。
人数も少ないし畑も少ないので、俺一人が【ウインドカッター】で刈り取り、全員が集めるという方法を取ったが、それでも一日で終わってしまった。
そして、麦を倉庫に仕舞い、ニルスさんに頼んでいた酒を出し、連休を取らせていたコランダムのマスター夫妻と船乗り達、そしてハーピー族や水生系魔族達にも声を掛けて、せめて人数だけは確保して盛大にした。
豚が子供を産んで育っていたので、榎本さんが一匹潰すかと言ったので、男共が嬉々として解体し、鹿や熊と共に振る舞われ、島付近にいる魔族達も肉が食えると大喜びして本当に盛大に行われた。
人魚達が酔った勢いで綺麗な声で歌い始めると、ハーピー族とサハギン系達が踊りだし、人族もそれに混ざるという、想像していたより盛り上がった。
魔族や人族の子供達も狼達と楽しそうにはしゃぎ、段々種族の壁も低くなってきてると思いたい。本当に良い島になって来たな。
◇
それからしばらくしてそろそろ年越祭の準備でも少しずつ始めようかと思っていた頃、夕方にコランダムの店にコーヒー豆を届けると。
「カームさん、今朝いつも通りに店に来たらこんな手紙が」
手紙は、出入口の扉の隙間から店の中に投げ入れられており、共通語で『カームへ』と書いてあり、マスターが俺へ手渡してくれた。
中を見ると文章は日本語で書かれており、門近くの宿屋にいるという事が書いてあった。
「カームさん、それ……なんて書いてあるんですか?」
マスターが不思議そうな顔をして、覗き込んできた。俺宛の手紙を覗くなよ……。
「待ち合わせの手紙です、少し行ってきますね」
そう言って急いで宿屋に向かうと、店の奥のテーブルで入口の方を見ている黒髪の人族が見えたので、そこへ向かった。
黒髪の男は立ち上がり、
「自分は金田と言います。カームさんですね、会田さんから話は伺っております」
四十路手前の硬そうな雰囲気の男は金田と名乗り、どうぞお座りくださいと席を進めて来た。
「祭りの準備が整いました、自分達が着く頃にはいつでも祭りが開催できるようになっていると思います」
祭りと表現したか、さすがに反乱とか、クーデターとは言えないからな。
「はぁー。約束ですからね、同行させていただきます。ですがこちらにも準備がありますし、家族にも祭りに参加する事を伝えないといけないので時間を下さい」
俺はため息をつきながら伝えた。
「では三日後の早朝、コーヒー屋が開く頃に店に伺います」
「やけに急ですね」
「早めに戻らないと、食べ物が腐って危険ですので」
色々濁しているが、食べ物って言うと情報かなにかか? まぁいいか。俺は参加しないでいるだけって約束だし。
「わかりました」
「一応、万全の状態で来て下さい、お待ちしておりますので」
ついにこの時が来ちゃったかか、あーあ、嫌だねぇ。
俺は直接故郷に戻り、スズラン達にどう言おうか考えながら家に入った。
「あ、おかえりー」
「ただいまー」
「今回は戻ってくるの早かったね、どうしたのー?」
「まぁ、全員揃ってから話すよ、子供達は?」
「スズランちゃんとお風呂ー、カーム君も入ってきたらー」
ニヤニヤと言って来るが、色々とやる事があるので、やんわりと断った。
「少しだけ荷造りするから」
そう言いながら、何があるかわからないので、俺はクローゼットから島には無い、最前線基地で使った上下白の服を取り出し、予備の靴も揃え、倉庫の奥に有る、改造リュックに付けるポーチ類をすべて取り出し、中身の点検を始めた。
その頃にはスズランと子供達が風呂から上がり、俺は話を始める事にした。
「まずはただいま、それから皆に言う事がある」
真剣な表情で、普段とは違う少し低い声なので見な真面目にこちらを見て来る。
「父さんは、とある事情で勇者と仲良くなって、島にも少しだけ人族に混ざって勇者が住んでいる。それはまず置いて置こう。先に本題に入るぞ、父さんは勇者達と手を組んで人族の王都を襲撃して反乱を起こす。なんで反乱を起こすのかは、召喚された勇者達の話では『俺達は都合の良い力の有る捨て駒』扱いらしい、だから生き残ってる勇者達が集まって王都を占拠し、勇者達を召喚した奴等に復讐をするらしい。その手伝いをしてほしいと言う事だ」
「ちょっと! なんでカーム君なのよ、他にも誰かいるでしょう?」
「さっき言った『とある事情』って奴だ、これだけは皆にも言えない、もちろん三馬鹿や父さんや母さんにも言った事はない、それが理由で協力する事になっている」
「なんでよ! だからなんでカーム君なのよ!」
「魔族にも、魔王にも優しい奴がいて、魔族と人族が喧嘩せず暮らしている島を領地にしているからだ。もちろんそこにとある事情も含まれてる。だからしばらく留守にする、わかって欲しい」
「カーム。貴方の事だから平気だと思う。けどそれじゃ納得できない。最悪殴ってでも聞き出すか。思い切りぶん殴ってでも止める」
スズランが剃刀のような鋭い殺気を飛ばしてくる。だが俺も引く気はない。
子供達は怯えて泣きそうになっている。
「……正直に話せば納得するのかい? 納得させたら行かせてもらえるのかい?」
出来るだけ優しく、怒っている雰囲気は微塵も出さずに、優しく問いかける。
「さっきの説明じゃ不十分。なぜ勇者に手を貸すのか……。そこがわからない。それだけ明確にしてくれれば私は笑顔で手を振って見送る覚悟もある」
更に殺気が強くなり、肌に刺さる様な威圧感がある。
「ラッテ、悪いんだけど殺気で動けなくなってる子供達を、別の部屋へ連れて行ってくれ。俺も覚悟を決める。出来る事ならスズランに暴力は振るいたくない」
「わかったよ、私も聞いて良いんでしょ?」
「あぁ、聞く権利はある。子供達を部屋に連れて行ったら戻って来てくれ」
そう言うと、ラッテは泣きそうな子供達を部屋まで連れて行き戻って来た。
「ふぅ……。信じる信じないは勝手だけど、絶対に誰にも言わないでほしい。もし約束を破ったら、俺はこの村と四人と島を捨てて、誰も知らないような小さな村で自分を偽って別人として生きる覚悟がある。それか二人を殺して俺も死ぬ。後戻りはできないぞ?」
二人を睨むようにして確認を取る。スズランは直ぐに首を縦に振るが、ラッテは中々返事を出そうとはしない。
「ラッテ、聞きたくないなら子供達の所に行っててくれ。ここから先は本気だ。普段の俺とは思わないでくれ、それくらいの覚悟が今の俺にはある」
「……わかった、私も覚悟を決める。話して――」
俺は短く息を吐き、少しだけ気持ちを落ち着かせてから口を開いた。
「とある事情って言うのは、俺は勇者達と同じ国で育って死んだ奴だからだ」
二人は驚いたような顔になるが、俺の次の言葉を待っている。
「俺はその国で死んで、何故か知らないが、記憶がそのままの状態でこの村……。父さんと母さんの子として産まれた、そしてその記憶を使って、なるべくこの村を豊かにしようと動いた。そして魔王になった。そしたら領地として島を与えられ、俺の事を討伐しに来た勇者が、俺のいた国の奴にそっくりだったんだ。それでもしかしたらって思って、その国の言葉で話しかけた、そしたら当たりだ。俺が産まれる前に住んでいた国の奴だった。それから色々あって、『魔族や魔王にも良い奴がいる事を証明させるために、手を貸してくれ』ってな感じだ」
「……その勇者達の国はどんな国なの?」
「悪いけど言えない、けど証拠になるような物はある」
そう言って首を横に振り、ポケットに突っ込んであった手紙を見せる。
「共通語で俺の名前が書いて有るだろ? けど中身は俺の国の言葉だ」
そう言って手紙を広げて見せる、平仮名と漢字で書いてあるこの世界の共通語とは全く違う形だ。二人は手紙の内容を知ろうと目を走らせているが多分読めないだろう。
「詳しくは言えないけど、門近くの宿屋にいますって内容だ、それを読んで宿屋まで行って、勇者と話してきた。三日後の朝に迎えに来ますってね。だからこうして戻って来て準備をしている」
「……今までカームが少し変な理由にも納得できた。その国で育ったから私達とは考え方自体が違う。そうでしょう?」
「そうだね、それは認める」
「だから子供らしくないって。昔から言われてた。お父さんが『俺よりしっかりしている』って言ってたのにも納得できた」
「じゃあ、私とエッチな事するのを嫌がってたのもそのせい?」
「そうだ、その国では嫁は一人、旦那は一人って決まってた。だからラッテと結ばれるのも抵抗があった」
「むぅ……」
「魔法が上手いのは。その国にも魔法があったから?」
「まったくないよ、まったくないけど、便利な道具であふれてた。だからそれを真似してただけだ」
その後十分ほど質問責めにされ、答えられない物だけははっきりと答えられないと言って二人を納得させた。
その後子供達を呼んで、二人に謝り、安心させベッドをくっ付けて五人で寝る事にした。俺が真ん中で、ベッドの合わさり目で寝心地が最悪だった事を除けば家族の絆が深まった日だった。
◇
次の日の昼まで家族全員でのんびり過ごし、島に戻ってからも島民にも訳を話し、かなりの期間出かける事を伝えた。
そうしたら織田さんがコーヒーの在庫は平気なんでしょうか? 昨日運んだ分で間に合いますか?と聞いて来たが、今までの減り具合からして、三ヶ月以上は平気でしょうと答えて置いた。コーヒーより俺の心配をしてください。
そして島にある改造リュックに荷物を詰められるだけ詰めて、スコップとナイフとマチェットを磨ぎ、準備だけはしておいた。
戦闘に参加しなくても、一応万全で行くのが礼儀だと思ったからだ。
そして約束の朝、金田さんが店まで来て、俺は人族側の王都に向かう事になった。
門の外に出ると、既に馬車が用意して有って、御者も日本人で金田さんと日本語で挨拶をしていたので安心できるだろう。馬車に荷物を載せ、しばらく座っていると金田さんから手紙が渡された。
「会田さんからです」
そう言われ手紙を開くと、コランダムに送った二人は信用できる人物なので、安心してくれと言う内容の手紙だった。もう少し早く渡してほしかったな。
そう思ってたら、足元に分厚くて硬そうな木製の手枷と足枷、鉄球が用意され、金田さんの顔を見ると物凄い笑顔だった。
「今からカームさんは奴隷と言う事にして運びます。なるべく無気力で絶望した感じで座っていて下さい。話しかけられても共通語がわからないといった風な感じで首を横に振ってください。荷物はこの樽に入れて運びますので、武器のスコップはその辺に立てかけておきましょう」
何を言っているんだコイツは?
「もう少し王都に近づいてからじゃ駄目なんですか?」
「はい」
と笑顔で即答して来た。なんか営業マン風だなぁ。
「一応余計な争いを避ける為です、申し訳ありませんが十日ほど我慢して下さい」
王都まで十日かよ、最悪だな。そう思いつつも自分で足枷や手枷を嵌めていく姿は滑稽だ。
そして俺は死んだ魚の様な目で、無気力に過ごした。
「すごいですね、そこまで完璧にすべてにおいて絶望しているような雰囲気を出せるなんて」
余計な御世話だ、こっちは色々子供時代に苦労してるんだよ、主にスズラン絡みだけど。
◇
コランダムから三日後、少し大きな町が見えてきたので、俺は無気力状態になり、食糧を補給するという理由で、町の外に馬車を止め、御者が買い出しに行った。
その間金田さんは俺の事を監視する体で、俺の前に座ってくれていた。
そうしたら門番がこっちに歩いて来た。
「おい、魔族だぜ、憂さ晴らしで少しぶん殴ってやろうぜ」
「いいねぇ、先に血を出させた方が負けな」
とか、何かすごく最悪な事を喋っているが俺は言われた通り、真っ白に燃え尽きたような、死んだ目で座っているだけだ。
「止めて頂けませんかね? こいつは私の主に届ける奴隷なんですよ。傷つけるのは私の主だけと決まっております、不満が有るのでしたら私が相手になりますが、どうしますか?」
俺と話している時とは全く違う感じで殺気を飛ばし、門番を睨みつけ、門番は悪態をつきながら門の方に戻って行った。
御者が戻って来て、馬車が走り出すと金田さんが謝って来た。
「申し訳ありません、人族は魔族を見るとほぼあんな感じですので、自分がしっかりと護衛します」
「お願いします、もしかしたら手枷と足枷が外れてしまうかもしれませんので」
「そうすると、本当に困った事になるので耐えてください、お願いします」
金田さんはそう言うと深々と頭を下げた。
「はい、耐えて見せますよ。けど昨日の村で子供に石を投げられたのは心に来ましたね」
「申し訳ありません」
本当に申し訳なさそうに謝って来るので、こっちも気を使ってしまう。
「金田さんが悪い訳じゃないじゃないですから、悪いのは教会の教育です」
そう言って二人ともやるせない気持ちで王都まで向かうのだった。




