第97話 故郷での収穫祭の時の事
適度に続けたいです。
相変わらず不定期です。
なんか無理矢理詰め込みました。少しおかしい所が有るかもしれませんが、お許しください。
牛を連れて来てから、だいぶ暑さが弱まって来た頃、榎本さんが大切に牛の世話をし、織田さんが牛に付ける農耕具を大工達と作り、畑仕事の大切なパートナーになり、島の子供達も喜んでいる。
榎本さんは、水浴び場の下流側に牛用の水浴び場を一つ作ってくれと言って来たので、言われた通りに作る事にした。
榎本さんは、毎回畑仕事で汚れた牛を麦藁を纏めた物で綺麗に洗いながら、今日もよく頑張ったなディーンと話しかけているのを見た。
随分ハイカラな名前を付けたな、ちなみに雌の名前を聞いたらモニカじゃ、別嬪さんの名前だろうとか言っていたので深く突っ込まない事にした。俺が狼に付けたヴォルフよりかっこいいじゃねぇかよ、しかも残りの一組の牛もなんかかっこいい名前だった。いや、太郎と花子よりは良いけどさ、俺よりセンスが良くて本当びっくりした。八十近い人間のセンスじゃないので命名した理由を聞いてみた。
前に住んでた村の美人さんとその旦那の名前だと言われ俺は安心した。島に同じ名前の人族がいない事を祈ろう。
コーヒー豆の売り上げも順調に増えて、あれから二回ほどニルスさんの船が来て出荷している。
チョコも上流階級に受けが良いらしく、ニルスさんからちょこちょこ注文が入っているし。香り付きの石鹸の売り上げの一部も入って来るので、島の資金には少し余裕が出て来ている。なので島での収穫祭用に今度島に来る時に、酒も持って来てもらう様に頼んでおいた。
◇
さて、今度は故郷の収穫祭の話だが、前回村に帰った時に、そろそろ麦の収穫だから、早めに帰って来てねーと、ラッテに言われたので、なるべく早く帰る事にする。
「ってな訳で故郷の収穫の方がかなり早いので、申し訳ありませんが数日留守にします。その間事故のないようにお願いしますね。おっさん達も戻ります? しばらく村に戻ってないですよね?」
「村にはカームがいたからベリルに住んでただけだ、今はこっちが拠点みたいな物だろう? なら俺達はこっちにいる事に決めてる。俺達は魔法が使えないから行ってもあまり戦力にならんからな」
「そう言うならこれ以上は無理は言いませんけど」
「こっちの収穫は手伝うから、いつでもこき使ってくれ」
「わかりました。なら頼りにしてますから、よろしくお願いします」
そう言って俺は故郷に転移した。
「あ、パパお帰りー」
「はいただいまー」
そう言って頭を撫でてやる。
「お姉ちゃんは?」
「スズランママと稽古中」
「そうか……五歳になる頃には俺が危ないな」
「パパは魔王だもん、平気だよ」
物凄い笑顔で言って来るが、こっちはほぼ攻撃魔法を押さえてるし、実子に本気で傷をつけられるはずないだろうに。
あー、俺の父さんが平気で武器振るって来たわ。俺もそれくらいやった方が良いのかな。今度スズランとラッテに相談してみよう。
「ペルナ君とか、プリムナちゃんとか、レーィカちゃんは? パパやママから何か教わってるの?」
「ペルナ君は短剣と弓を教わってて、プリムナちゃんはママから槍と大丸盾をおそわってて、レーィカちゃんは短剣と小丸盾とその辺にある物は何でも武器にする方法」
ってかトリャープカさんその辺の物武器にするのかよ。考え方が俺と一緒だな、それとも用務員だからか? 鋸とかで切りかかられた瞬間俺だって怖くて泣くぞ。
「……あーうん。それぞれパパやママの武器を教わってるんだね。ミエルも前に言った何か小さい奴でもいいから武器を持てって言ったの覚えてる?」
「うん、ラッテママからナイフを貰ったよ」
「そっか……パパはあまりナイフは得意じゃないけど少し稽古しようか?」
「うん!」
「んーどうしようか? 接近された時の時間稼ぎか、本格的にナイフを使えるようになるか。どっちが良い?」
「お姉ちゃんがいるから、時間稼ぎが良いな」
「んーなら盾も持った方が良いかな。それで隙が出来たら少しだけ切りかかるように、それか盾で攻撃を防ぎなら明確に魔法を使えるイメージをするか、かな」
俺が四歳の頃はこんな事一切していなかったけど、なんか村中の子供達は学校に行く前に、ある程度鍛える流行でも出来たのだろうか?
「攻撃を受けながら魔法なんて無理だよ」
「受けなくても避けても良いんだぞー」
「パパ、そっちの方が難しいよ」
「冷静になりながら、集中して相手までの歩幅を考えて発動させるか、盾があるから自分も巻き込む様に使うとかね、盾越しに発動とか」
「えー難しいよ」
「んー俺の家には盾がないし、シュペックとかクチナシから借りるわけにもいかないからな。あーフライパンで良いか」
「フライパンで何するの?」
「丸い、鉄、持ち手がついてる、完璧に盾じゃないか! 少し待ってろ」
そう言って俺はキッチンからフライパンを取って来るが、戻ってきたらミエルの目は冷たかった。フライパンだって立派な鈍器兼盾だと思うんだけどな。
「じゃぁ、これを盾だと思ってその棒で攻撃して見ろ」
「え、でも。攻撃したら魔法で反撃するんでしょ?」
「まぁな」
「えー」
ミエルは心底嫌そうな顔をしている。
「じゃぁ、フライパンから魔法を出すだけにするか」
相変わらず子供に、どう稽古を付けていいかわからない、甘いのか優しいのかはわからないが、親子でキャッチボール感覚で出来ないのが原因なのかもしれない。
俺はフライパンを盾のように左手で構え、顔面を隠すようにフライパンの底から【小爆発】を発動させ、顔面を守りながら多少の熱気は我慢した。
「なんか火とは違うよね、なんかボウッって直ぐに燃えたよ」
「これは爆発って言って、細かい物が辺り一面に広がった時に燃えると爆発って言うのになるんだ」
「んー、わからないよ」
「じゃぁ、ちょっと待ってろ」
俺は再びキッチンに行って小麦粉を持って戻ってきた。
「小麦粉ってサラサラしてるだろ?」
「うん」
「けどこのまま火を付けても燃えない」
そう言って手の平に乗せた混む小麦粉に指先から出した【火】を当てる。
「けど小麦粉って言うのは、物凄く小さな物の塊なんだ」
今度は指で摘まんで、擦りながら手の平にサラサラと落とす。
「この細かくなった粉の一つ一つが一気に燃えるとイメージするんだ、一回やってみせるぞ」
俺は指先から少し強めの【火】を出して、手の平に乗っている小麦粉を勢いよく指先の火に向かって吹き飛ばす。
そうすると粉塵爆発を起こし、小さな炎が出来上がる。
「な?」
「んー、ちょっとイメージ出来ないよ」
「はは、少しだけイメージし辛かったか。今度は絵に描くぞ」
そう言って地面になるべくわかりやすく図を描き、丁寧に説明する。小さな丸を沢山書いて山の様な図や隙間が開いている図だ。
「この爆発って言うのは、爆発した火が逃げる場所がないと威力が高い。だから小麦粉を保存してある倉庫で火を使ったら、爆発するかもしれないから注意しろよ」
「どのくらい強いの?」
「んー」
俺は考え込み、まずは地面で【小爆発】を起こす。
「これが、火が逃げる場所が物凄く多い場所での爆発、次が逃げ場の無い爆発」
そしてフライパンを寝かせ大きい石を魔法出して乗せ【小爆発】を発動させる。
バオァン! と大きな音と共に大きな石とフライパンが空中に舞い、ドスン! カランカランと石とフライパンが落ちて来る。んーエネルギーの逃げ場所がないとこんなにもすごいのか。
「すごーい! 爆発ってすごいんだね!」
「ん? あぁすごいな」
やった俺自身も驚いている。そして大きな音に気がついてスズランとリリーが棒を持って走ってやって来た。物凄く嫌な予感しかしない。
「説明して」
物凄く冷たい殺気を放ちながら、穴の開いたフライパンを左手で拾い、棒を地面に着いて俺を睨みつける。
「ミ、ミエルに魔法を教えてたんだ」
「なんでフライパンに穴が開いているのか説明して」
「爆発の……魔法のイメージの説明をですね……」
「フライパンでやる必要ある?」
「……ないです」
「今夜は覚悟してて」
「……はい」
「ついでだからリリーにも稽古付けてあげて。それが終わったら新しいフライパンも買ってきて」
「……はい」
「パパ、本当に魔王なの?」
「優しくて、暴力が好きじゃない魔王なんだよ。よく覚えて置いて。優しくても、強ければ魔王になれちゃうんだよ、女の子にいじわるするような男になっちゃ駄目だぞ」
「う、うん」
「ああ言われたけど、先にフライパン買って来るから、リリーと稽古の準備してて」
「リリー。今日はお父さんをゴブリンだと思って稽古しないさい」
「はい」
んー、フライパン買ったらそのまま島に帰りたくなったな。
そう思いつつ、重い足取りで道具屋のおっちゃんの所でフライパンを買い、家に帰るとリコリスさんから代々受け継がれている、多分鉄心の入った槍を持ってリリーが待っていた。
「お父さん逃げて良いかな?」
「お母さんに言いつけるよ」
「はいはい、木の棒じゃ無理だから倉庫からスコップとバール持って来るよ。お父さんの武器は全部島だし」
そして家の裏手にある小さな物置に行き、壁にかかっているスコップとバールを取り、家の前に戻る。
「お気に入りじゃないから、少し振らせてもらうね」
そう言ってスコップの握り部分を持って遠心力を使ってブンブン振り回したり、両手で持って思い切り振り下ろし、地面スレスレで止めたり。バールを手の平で回転させ重心を確認し、心底嫌そうにスコップを構え、リリーと対峙する。
「もういいよ、いつも通り魔法も使うからその辺考えておいで」
スズランがああ言ってるんだ、多分いつも以上に本気で来るだろう。俺はなるべく反撃しないように受ける事に徹しよう。
そう思っていたら、いつも通り前傾姿勢で突っ込んで来るが、予備動作ありの左から右への大振りの横薙ぎが胴体めがけてすごい速さで迫って来たので、スコップの握り柄部分で受け止めるが、武器の重量が増えているのですごい衝撃で吹き飛ばされる。
その後追撃をかけるように、槍を長く持って振り下ろしてきたので全力で転がり、土を握り顔をめがけ投げつけ、怯んでいる隙に立ち上り、体勢を立て直す。
「ミエル! その辺に有る物は何でも武器として使えるって言ったのがこれだ。よく覚えて置け! リリーはさっきの目潰しで反撃されてるかもしれないから気をつけろ」
自分の子供相手に卑怯だって? あのままなら確実に俺は気絶してたから仕方ない。
その後リリーが物凄く睨んできたが、スズランより怖くないので、冷静に相手の動きを見る。
リリーも、俺の様子をうかがっているのか、中々攻めてこないのでこちらから攻めさせてもらう。
挑発するように大股で近寄り、リリーが槍で突いてきたのでそれを右手で掴み、思い切り引っ張り足を掛けようとしたら、直ぐに武器を放し、体術に切り替えて来た。
俺はスコップを押すようにして距離を取ろうとするが握り柄を掴まれ、蹴りが飛んで来たので、膝でガードしたらリリーは痛そうに少し顔を歪ませ、右手で殴りかかって来た。
俺もスコップを放し、両手で右手を掴み引っ張りながら外側に捻るようにして軽く転がし、そのまま頭の近くを思い切り足で踏み、詰んでいる事を教えた。
「ふう……、強くなったなー。リリー」
掴んでいた右手を放して起き上がらせ、体中に着いている土埃を掃って【水球】を作って顔を洗わせてやった。
「お父さんは卑怯だ! 顔に土を投げて来た」
かなり怒っている、まぁ当たり前か。
「そうだね、お父さんは卑怯だよ。けどね、死にたくなかったら何でもする事を覚えた方が良いね。それこそさっき吹き飛ばされた時に土を使おうって柔軟な考えもそれこそ必要だと思うんだ。お爺ちゃんにも言った事あるけど。正々堂々って言葉はお城とかにいる騎士達にやらせてれば良いさ。だから涙を拭いて、ね?」
俺はリリーの頭を撫でながら諭していたら、泣き出して俺に抱き付いて来て、俺の服で涙を拭いて来た。その後、落ち着くまで頭を撫で続けた。
「ミエルはどうする? お姉ちゃんと一緒に戦うかい? それとも一人で来るかい?」
「一人でやってみる」
「偉いぞ。リリー、悪いんだけど離れてもらえるかな? ミエルが魔法を使えない」
「やだ、まだこうしてる」
そう言いながら、まだ俺の胸に頭をグリグリしてくる。正直角が痛いけどまだまだ子供なんだよな。仕方が無いのでミエルの稽古は明日にして、今はリリーの頭を撫で続けた。
あの後子供達と風呂に入り、戦いでどんな時はどうすれば良いのかと、色々な事を聞かれ、それに答えつつゆったりと過ごした。その後夕食になるのだが。
「って事があってお父さん卑怯なの!」
リリーがさっきの稽古の事を事細かに話し、皆を味方に付けようとしていた。
「あちゃー、子供相手に目潰しは駄目だよー」
「いやいやいや、あの攻撃はどう考えても当たってたら骨折ものだったよ!? しかも重いから受け切るなんて絶対無理。次までに対策を練らないと、本気で俺がやばい」
「カームは昔から目潰しが得意。だからリリーもミエルも次からは気をつけなさい」
「「はい」」
そう言えばほとんど目潰ししか使ってないわ。
「そう言えばさー、フライパンが新しくなってるんだけど、なんで?」
「それは、パパが僕に新しい魔法を教えてくれたからだよ」
「ほうほう、その結果が新しいフライパンですかー。少し焦げ付きやすくなってたから助かったよー。で? なんで魔法とフライパンが関係してるの?」
「俺がミエルに魔法のイメーシを教えるのに、穴を開けた」
どんな魔法かを教えずに、簡潔に言ったらあーと言い、ラッテは右上の方を見ながら、目を合そうとしない。
そして食事が終わり、恐怖の時間がやってくる。
「二人とも。明日は麦の収穫だから早く寝なさい。お父さんにはフライパンの事で話があるから」
冷たい殺気を子供達に放ちながら、部屋に行くように促している。そして気まずい雰囲気が部屋を支配するが、スズランがお茶を飲み干すとゆっくりとカップを置いて、俺の方に歩いて来て俺の胸倉を掴む。
「ラッテ。先に部屋に行ってるから洗い物おねがい」
そう言って俺は部屋まで引きずられ、息の荒いスズランにキスをされ唇を塞がれベッドに押し倒された。このパターンは初めてだ。
洗い物を終えたラッテが恐る恐る様子を見に来たが、俺達の事を見ると物凄い笑顔で無言で乱入し、明日が麦の刈り取りだと言うのに、長い長い激しい夜を過ごす事になった。
◇
「体拭きたい……」
寝たのが遅いのにいつもの時間に目が覚め、風呂場に行き、軽く汗を流してから簡単な朝食の準備を始める。
どうしてフライパンに穴を開けただけでこうなったのかは知らないが、理由なんかどうでも良い事になんとなく気がつき、昨日少しだけ恐怖した事を後悔した。
スズランは昔っから素直じゃ無いんだよなー。
そう思っているとラッテが起きて来て、朝食の準備をしている俺に抱き付いて来た。
「ふふふー、昨日は久しぶりに激しかったねー」
「あんな誘い方二度として欲しくないね。最近落ち着いて来てあんな事なかったのに、これじゃ子供の頃の収穫祭の時と変わらないよ」
「ふーん、スズランちゃんあんまり昔の事とか話さないけど、そんな事があったんだー。お姉さんに話してみない?」
ニヤニヤと下着とシャツだけの格好でまだ抱き付いて来ているので、子供達が起きる前に風呂場で汗を流すように言って、戻ってきたら少しだけ昔の事を話してやった。
「ふーん、酔った勢いで胸倉を掴まれてキスねぇ。スズランちゃんらしいと言えばスズランちゃんらしいよね」
「まぁね、あの時はイチイさんもいたから殺されるかと思ったよ」
そして子供達が起きて来たので、この話は終わりになる。そして俺はまだ寝ているスズランを起こしに行き、居間に出る前に風呂場で汗を拭いてからなと言って無理矢理上半身を引っ張って起こした。
◇
そして、魔王になってからの初めての収穫が始まる。
まぁ、やる事は変わらない。相変わらず【ウインドカッター】を地面スレスレで発動させ、魔法を使えない者が回収する。
ただ、毎年のように村人が増えているらしく、畑もその分広がっているので、魔法が使える者の負担が増える訳だ。むしろ、倉庫もどんどん増えている。
ミエルも頑張って【ウインドカッター】を覚えたらしいが、安定しないし、波打っている。
リリーは魔法を使っている所を見た事がないので、刈り終わった麦を拾い集め、馬車の荷台に乗せている。
村長にこれ以上増やさないように言うか、魔法を使える者の育成をさせないと本当につらい、確実に麦は減っているが、まだまだ黄金色に広がる畑が辺り一面に広がっている。物凄く億劫だ……。
◇
数年前は、数日で終わったのを覚えているが、今年は一週間かかったぞ、こいつは村長に言うしかないな。今日は祭りの席なので言わないけど。
「今年は畑が増えてしまったので、少し時間がかかってしまいましたが、無事に収穫が終わりました。例年と同じで、こういうのは長いと嫌われるので乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
そして、俺は腐れ縁の奴と嫁達九人でテーブルを囲み、酒を飲みながら子供の事を話す。
そして子供達は子供達でテーブルを囲んでいる。
「リリーちゃんてさ、スズランに似て結構力あるよね」
「俺は種族的な物だと思ってるけど、お義母さんに力があるのか未だにわからないから何とも言えないなー」
ヴルストが酒を一気に飲み干してから、リリーの話をし始めた。
リリーの事が話題に上がったのに、スズランは肉類を黙々と食べている。ここ数年、口の周りを汚さなくなったのは、子供を産んで少し落ち着いたからだと思っている。
「ミエル君はカームに似て魔法を頑張ってるだろう」
シンケンもそれに乗り、ミエルの話もし始める。
「そうだなー、一応魔法は得意だけど、ラッテが魔法を使ってるところを見た事がないなー、なぁ?」
「私は種族的に固有の魔法とかあるけどー、皆に使った事ないし、見せた事はないよー。けどこっそりミエルには教えてるよー」
酒を飲み、ほろ酔いになり頬を少し赤くさせながら何かすごい事を曝露したぞ。
「プリムラちゃんはどうなんだ? クチナシから槍と盾を教わってるって話だけど」
なので、俺も流れに乗って、三馬鹿達の子供の話題をする事にした。
「普通だよ、盾で相手がしびれを切らした隙を狙うだけって教えてるよ、それに常に皆より五歩前に出るように教えてる」
恐ろしい事を平気で言うな、盾が前に出る事は当たり前だけど、それを実施すのには勇気が必要だ。
「そんな事言ったら、ペルナ君だってすごいじゃん。短剣も弓も使えて、しかも皆の纏め役、将来有望じゃん。今の内から娘に粉かけるように言っておこうかなー」
クチナシもニコニコとすごい事を言い出した。
「まぁ、その辺りはペルナの意志を尊重しましょう。けどそんな事言ったらレーィカちゃんだってすごいと思いますわ。シュペック譲りの素早い動きでの短剣捌き、私も短剣も使えますが、あんな風には使えません」
「旦那譲りの足と身長ですからね、素早く低くを教えています。後はどこまでやれるか次第だと思っていますよ」
なんだろう、女性組の子育てが明後日の方向に向いているぞ。俺なんか元気に育ってくれればいいやって思ってるのに。
「僕は、何でも武器にさせる考えはあまり乗り気じゃないんだよね」
トリャープカさんに抱き付かれながら、シュペックも話に参加する。
「いや、よそ様の子供の教育にあまり口出しするのは良くないとわかってても言わせてもらうよ。俺もリリーとミエルに教えてる。どんな手を使ってでも貪欲に生きろってね。まぁ、稽古付けてあげてって言われなければ絶対教えてないけど」
そう言って二人の嫁を見る。
「最低限生きる為の力は必要。カームの考え方は少し間違ってる。自分を守る力がないと殺されちゃう」
「そーそー。ある程度の力は必要だよ」
「俺としては、なるべく平和に過ごしてほしいんだけどな。変に力を付けて冒険者とかになられて、どこかで死なれちゃ悲しいだろ」
「子供達の生き方だから。最低限の事は教えて好きにさせるべき。それに冒険者になりたがってるから尊重すべき」
この世界の教育がわかりません、子供達に平和に安全に過ごしてほしいって願いは通じないのでしょうか?
□
「大人達は大人達で飲んでるから、私達は私達で飲もう!」
そう言ってリリーは、カップに麦酒をもらって来て飲もうとしている。
「駄目だよリリーちゃん、まだ早いよ。せめて学校に行ってからじゃないと」
ペルナが一応止めに入る。
「私のお父さんは、見た目が大人なら飲んでも良いって言ってたよ?」
プリムラがヴルストの言っていた事を周りに言いっている。
「私は小さいから無理……かな」
レーィカが、自分の見た目を言って飲めない事を残念そうにしている。
「僕のママは無理矢理勧めて来るから……。それにお酒は好きじゃ無いし、お姉ちゃんだけで楽しんでよ」
ミエルが、姉だけに飲むように進めた。
「わかったわよ、私だけ飲むからね」
そう言って一人だけお酒で乾杯をして、子供達の会話が始まる。
「私のお父さんって魔王でしょ? だからお母さん達が稽古付けてもらいなさいって言って、稽古付けてもらってるんだけど、優しすぎてあんまり稽古って感じがしないんだよね」
「いつも勝てないけどね」
ミエルが補足をしながら、果実水を飲みつつ不満そうな顔をする。
「カームさんってどのくらい強いの? 聞いた話だとスコップと魔法でハイゴブリンを倒したってよく聞くけど、ハイゴブリンがどのくらい強いかわからないけどね」
「それは本当らしいけど、なんでパパはスコップを使うのかがわからないんだよ、パパくらいなら魔法だけでも良いと思うのに」
「私のお母さんが言ってたよ。学校に行ってた頃にゴブリン狩りで的確なサポートして来たって。カームさんは周りが良く見える中衛的な考えをしてるんじゃないの?」
「僕のお父さんの話だと、弓が下手過ぎて、物を投げる練習を沢山してたって聞いたよ。あと魔法を教えるのが上手いって」
「たしかに物を投げるのは上手いと思う、あと今日はなんか爆発ってやつを小麦粉で教えてもらったよ」
そうして、教わった粉塵爆発の事を皆に教えた。
「小麦粉って燃えるんだ、気をつけないとね」
「あ、お父さんがお酒で火を吹いてたって言ってたの思い出した。その時の説明と似てる」
「うん、お爺ちゃん達も言ってた。お父さんは頭が良いけど馬鹿だって」
「なにそれ、どっちなの?」
「言葉通りだと思うわよ、だって色々思いつかないような事を簡単に思い浮かぶし、この村が大きくなったのもお父さんのおかげだって皆言ってる。けど、たまに物凄く子供っぽい事してるってお母さんが言ってた、火を吹いたのも酒場でだし」
リリーは少し目を座らせながら言った。
「お姉ちゃん、まだ大人じゃないんだからそろそろお酒は止めておこうよ」
「……そうね、けど本気になったお父さんと一回やってみたいわね、お爺ちゃんにも勝ってるって言ってたし。あーあ、もっと強くなりたいなー。どのくらい持つんだろう。魔法だって水球くらいしか使って来ないし」
そう言って少し拗ねたように片方の頬を膨らませている。
「カームさんとスズランさんってどっちが強いの?」
「お母さん」「スズランママ」
「なのにスズランさんは魔王じゃないんだよね?」
「パパは優しすぎるから、逆らわないだけだと思うよ」
「けど今日は平気で顔に土投げて来た。この前はナイフ代わりの棒を顔に投げられて棒で弾いたらわからない内に組み伏せられた……」
「戦いで勝つために何でもやっちゃうって本当みたいだね、僕はお母さんになるべく武器を手放すなって言われてる」
「私も」
「私は何でも武器にしなさいって言われてるから何とも言えないかな」
□
「って言ってるけど、本当のところどうなんだ?」
「さっきも言ったけど稽古付けてっていわれてるからしてるけど、本当はやりたくない。けどリリーは本気で来るからどんどん手加減できなくなってきてる。だからやり口も卑怯な手を使って勝ちにいってるよ、それでどんどんこんなやり方もあるんだって覚えてくれれば良いと思ってるよ。ミエルも隣で見てるから学んでほしい」
そう言いながら、軽く蒸留酒を飲みつつ話す。
「そもそも子供に卑怯な手を教えるってどうよ?」
「死ぬよりは良い、だから俺は卑怯な手を使ってでも勝ってる」
「カームって本当考えてる事がわからないわ。自分の子供、しかも女の子の顔に土投げるとか考えられないわよ?」
「武器を持って対峙した時点で稽古でも敵だと思ってるよ。皆は子供達にどんな教え方してるかはわからないけど、俺は俺で教えるさ。アレが知りたいコレが知りたいって言われたら知ってる限りの事を教える。俺が知ってればだけどね」
酒を入れながらの、子供の教育話しはあまりしない方が良いと思った。
□
収穫祭の準備をしている頃、王都では。
王都の、露店の串焼きを買って、食べ歩きをしている黒髪の男が二人、とある家の壁に張ってある張り紙に気が付いた。
「おい、これ、日本語だぞ?」
「あん? 本当だ、なになに『王族が勇者を捨て駒発言』だとよ」
「本当だ『詳細が知りたい場合、下級区の○○地区の○○宿前ボロ屋にて口頭説明』ってあるな」
「どうするよ?」
「聞くだけ聞いて見るか、周りの反応も気になる、俺達だけじゃ決められないな」
「とりあえず行ってみるか」
そして二人の勇者は、書いて有る建物に付くと堂々と日本語で勇者歓迎と書いてあった。
「うわ、なんかやる気のない感じがムンムンしてる」
「この世界だからこその文面だよな」
そして、ドアをノックをすると日本語で『日本人ならあと三・三・七拍子でノックをしてくれ』と言われ、言われた通りにノックをする。
「いらっしゃい」
そう言われながら、ドアを開けられ四十近い男が出て来た。
「やあ、日本人の若者よ、取りあえず話だけでも聞いて欲しい、中に入ってくれ」
目の前の男はそう言うと、中に俺達を招き入れ、なんとコーヒーを出してくれた。最近噂になってはいたが、こっちの世界にも有ったのかと思いながら手を付ける。
「さて、少しだけ長いけどいいかな?」
そう言うと視線だけをこちらに向けて、同意を求めて来る。
なので俺は首を縦に振ると、近い年齢のこちらで出来た友人も首を縦に振った。
「まずは張り紙にもあった、捨て駒発言だ、メモは取らないでくれよ。全部記憶してくれ」
そう言うと、知り合いが城に忍び込み、王様がそんな事を確かに言っていた事。
我々を召喚した王女は、王位継承権が低いので、地方の貴族の嫁入りが決まっていたが、相手が物凄く醜く、必死で召喚を繰り返し、好みの勇者を囲い、そいつをお気に入りとして、戦場での指揮権や、ある程度の地位を与えられ、かなりやりたい放題と言う事。
魔王の一人に日本人の転生者がいて、魔王イコール悪ではないと言う事が判明した事。
その魔王が、人族の奴隷達と仲良くし、その島の中で人族と魔族との垣根をなくす努力をしている事。
その魔王が領地としている場所で生産されているコーヒーや、チョコや、ココアが、下手をすると魔族や魔王と言う事だけで、蹂躙され、多大な被害が出る可能性がある事を心配しているという事。
その魔王が、戦力の低い召喚された常識の有る技術者を引き取ってくれるという事。
そして、王族に対して、かなり怒っている召喚者が多いと言う事。
を話してくれた。
「これ以上は、聞いたら後に戻れない、その覚悟はある?」
俺達二人はお互いを見て、首を縦に振った。
「わかった、話そう。以上の理由から、我々召喚された日本人はクーデターを起こし、城を乗っ取る計画でいる。このままだと、召喚され、何も知らない日本人が魔族と戦い、異国で死んでいく数が増えるばかりだ。地球に戻す儀式もまだ確認できていない、だから召喚を止めさせ、魔族は絶対悪ではないと言う事をわからせ、腐敗した考えを辞めさせるつもりでいる」
「テレビの向こうの話しかと思ってましたが、俺達が本当にこんな事をするんだって考えはありませんでした」
「そうだね、平和ボケしているってよく国外から言われるくらい平和だからね。けどここは地球でも日本でもない、なら行動を起こさないと、搾取されるだけだ、自分が一番偉いって馬鹿みたいな考えを辞めさせないとね」
そう言った目の前の男は物凄く冷たい笑みを浮かべている。
「具体的に何をするんですか?」
「簡単に言うと、同時に城と教会本部の制圧、その後早急に上層部のリストを洗い出し、不正をしている輩への制裁か幽閉か監視、最悪死刑を考えている。ある程度の戦力がないと厳しいが、幸い戦闘系勇者のかなりの数を説得している。まさかその勇者に手を噛まれるとは思ってもいないだろうがね。その後は、政治関係に少し口を出し、私腹を肥やす事しか頭にない馬鹿どもから、金を巻き上げ、税金を下げようと思ってる」
「俺は、戦闘系なので、政治とかそっち方面の話しは難しいんで無理ですよ」
「それは知識系勇者でどうにかしよう。まずは税の見直しと、寒村への資金か物資援助辺りから入ろうと思ってる。おっと、話が逸れたね、君たち戦闘系勇者にしてもらいたい事は、映画や、ゲームなんかで良く見る、特殊部隊や潜入ミッションみたいな事と、もしばれた時の為の強襲部隊。その場合、なるべく殺しは避けて、制圧する事が条件だね。もし潜入がばれた場合に備え、実行日の夜は、城の近くで待機してもらう事になる」
「予定が決まった場合はどうするんですか? 連絡手段なんかほとんど無いですよ、携帯なんかも有りませんし」
「多めに見て、二ヶ月前から王都に入る門をくぐった、メイン通りの右手側に有る最初の宿屋に、日本語で『作業員募集中六十日まで』って張り紙を貼らせてもらおうと思っている、もちろん数字は毎日減っていく。幸いにも、この国だか世界の諜報活動する連中は馬鹿だからね、まだ嗅ぎつかれてはいない。大国故の慢心なのか、灯台下暗しなのかはわからないけど。最悪ばれた時の場合、人数が足りなくても、実行に入るけどね」
「まだ、荒が目立ちますね、本当に平気なんですか?」
「口頭での説明もあるけど、まだ計画してから日が浅いからね、大体しか決まってないんだよ。だって勇者がこの王都に大勢集まったら怪しまれるからね、なるべく固まらないようにしてもらうし、ソレの対策や、この広い王都での連絡手段の確立だね。あと数日前から騎士団辺りには食中毒になってもらう予定だ。部隊はそれぞれ兵舎が違うから、異物混入が出来ない場合も有るけどね、それじゃなるべくこの王都に足を運ぶようにしてほしい、以上だ」
俺は、聞いて後悔したが、少しだけワクワクしていた。




