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この異世界は悪意しかない!  作者: 浅見青松
第5章 アルージ国編
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『人を生き返らせる魔法はないのか?』


かつてヨキはビョウブに尋ねたことがあった。

ドラゴン族の惨劇を目の当たりにし、つい漏らした問いだった。


ビョウブは書物を読みながら淡々と答えた。


『あるわよ』


『あるのか?』


ビョウブは分厚い書物をパタンと閉じた。


『だけど、わたしは使えないし、使えるのは超上級魔法使いだけ』


『そうか……』


『人の命を(よみがえ)らせるというのは、運命をねじ曲げる途轍(とてつ)もないことよ』


『そうだよな……』


『だから蘇生というのは、それなりの対価が必要となる』


『対価?』


『そ。自分の命と引き替えに』


『自分の命……か』


『命っていうのは有限で、その期限を延ばすんだから当然の代償よね』


『そういうものなのか』


『だから、もしわたしがそうなって、超上級魔法使いに出会ったとして、その魔法が使えたとしても、わたしを生き返らせようなんて思わないでね』


『縁起でもないこと言うなよ』


『もしもよ。周りをご覧なさい』


ヨキは言われたままに周囲を見渡した。


『たくさんの人が亡くなった人を(いた)んでる。生き返らせてほしいってみんなが願ってるでしょう』


ビョウブは扇子を広げてあおいだ。


『彼らを差し置いて、わたしが生き返っても嬉しくないの。命は等価値なんだから、順番抜かしはいけないわ』


そしてビョウブは遠い地平線を見渡した。


『ヨキちゃんには他にやるべきことがある』


ビョウブはヨキへと目を向けた。


『起きてしまったことを振り返らないでね』




そんなことをビョウブは言っていた。なんともビョウブらしい言葉だ。


常に冷静で、世の中を達観したような落ち着きがあった。


ヨキを励まし、ヨキを導いてくれた。



そして今もヨキの前へ立って導いている。手招きして先導している。


「……ああ、分かってるよ」


ヨキは(うつむ)いていた顔を上げた。


「君はいつでも前を向いていたんだな」


ヨキ以上にビョウブは平和を願っていたのかもしれない。悪意に侵された状態で、自らの悪意を取り除いてほしいと言った。ゲームに勝つためだと言っていたが、それ以上に希望を持っていたのではないだろうか。


こんな悪意まみれの世界を変えたい、と。




ヨキは背筋を正した。表情にもう陰はない。


「君がいないことを僕はいつまでも悲しむよ。

けれど……、君がいたならばと思うことはもうやめにする」


ヨキの目に決意の灯火が(とも)った。


「僕は進むよ。後は任せてくれ。そしてゆっくり休んでくれ、友よ……」


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