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『人を生き返らせる魔法はないのか?』
かつてヨキはビョウブに尋ねたことがあった。
ドラゴン族の惨劇を目の当たりにし、つい漏らした問いだった。
ビョウブは書物を読みながら淡々と答えた。
『あるわよ』
『あるのか?』
ビョウブは分厚い書物をパタンと閉じた。
『だけど、わたしは使えないし、使えるのは超上級魔法使いだけ』
『そうか……』
『人の命を蘇らせるというのは、運命をねじ曲げる途轍もないことよ』
『そうだよな……』
『だから蘇生というのは、それなりの対価が必要となる』
『対価?』
『そ。自分の命と引き替えに』
『自分の命……か』
『命っていうのは有限で、その期限を延ばすんだから当然の代償よね』
『そういうものなのか』
『だから、もしわたしがそうなって、超上級魔法使いに出会ったとして、その魔法が使えたとしても、わたしを生き返らせようなんて思わないでね』
『縁起でもないこと言うなよ』
『もしもよ。周りをご覧なさい』
ヨキは言われたままに周囲を見渡した。
『たくさんの人が亡くなった人を悼んでる。生き返らせてほしいってみんなが願ってるでしょう』
ビョウブは扇子を広げてあおいだ。
『彼らを差し置いて、わたしが生き返っても嬉しくないの。命は等価値なんだから、順番抜かしはいけないわ』
そしてビョウブは遠い地平線を見渡した。
『ヨキちゃんには他にやるべきことがある』
ビョウブはヨキへと目を向けた。
『起きてしまったことを振り返らないでね』
そんなことをビョウブは言っていた。なんともビョウブらしい言葉だ。
常に冷静で、世の中を達観したような落ち着きがあった。
ヨキを励まし、ヨキを導いてくれた。
そして今もヨキの前へ立って導いている。手招きして先導している。
「……ああ、分かってるよ」
ヨキは俯いていた顔を上げた。
「君はいつでも前を向いていたんだな」
ヨキ以上にビョウブは平和を願っていたのかもしれない。悪意に侵された状態で、自らの悪意を取り除いてほしいと言った。ゲームに勝つためだと言っていたが、それ以上に希望を持っていたのではないだろうか。
こんな悪意まみれの世界を変えたい、と。
ヨキは背筋を正した。表情にもう陰はない。
「君がいないことを僕はいつまでも悲しむよ。
けれど……、君がいたならばと思うことはもうやめにする」
ヨキの目に決意の灯火が点った。
「僕は進むよ。後は任せてくれ。そしてゆっくり休んでくれ、友よ……」




