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ビョウブは足の力を奪われ、俯せに倒れ込んだ。
荒い息を整え、自らヒールを放とうとした。
しかしビョウブから魔法が放たれることはなかった。放つことが出来なかった。
ヒールは放つ前に掻き消された。
頭上でケージの甲高い声が響いた。
「ざぁんねん! 魔法封じの魔法サイレント掛けたの。これも“超”上級魔法だよぉ」
ケージはビョウブの背中に携えられた善意の剣に目を向けた。
「護身用に持ってきたんだねぇ。信用ないなぁ」
ケージはその剣を抜き取って、まじまじと見つめた。
「でも、この剣はね、善意の力が入ってないやつぅ」
肩に攀じ登ったイワンニコフの頭を撫でた。
「さっきこの子がじゃれて剣にヒビを入れてくれたのぉ」
イワンニコフは褒められて喉を鳴らした。
「だから善意の力は外に漏れちゃいましたぁ。魔法を無効化できませーん」
ケージは口を押さえて笑いをこらえた。そして倒れるビョウブの顔に耳を寄せた。
「えっ、なんであたしが攻撃魔法を使えるのかって?」
ケージはひとりで尋ね、ひとりで答えた。
「不思議だよねぇ。善意に侵されると回復魔法しか使えないもんねぇ」
ケージはくるくると回った。
「それはねぇ……」
ケージはそう言ってひらひらと体を踊らせた。くるくると回り、そしてピタリと体を止めた。
「教えてあげなぁい!」
ケージはこらえきれずに笑い出した。
「ねぇ、レイチョウがどこにいるか教えてあげようかぁ?」
ケージはしゃがみ込んでビョウブの耳に口を寄せた。
「レイチョウはね……」
ビョウブはその耳打ちに、虚ろだった目を思わず開かせた。
ケージはビョウブに背を向けて手を振った。
「じゃあねぇ、ビョウブ」
ケージはそう言うと、イワンニコフを肩に乗せ、宙に浮いた。
そして墨汁を溢したような真っ黒な湖を越えて飛んでいった。




