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この異世界は悪意しかない!  作者: 浅見青松
第5章 アルージ国編
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宮殿に来れば亜人の王を治せると思っていた者にとっては意気消沈する出来事だった。


「申し訳ない。私が半端な目撃情報を与えてしまって」

キツネ族のナンキチは耳を垂れさせてしょんぼりした。


ヨキはナンキチを(なだ)めた。


「気にすることじゃない。どちらにしても確認しなければならなかったことだから」


ヨキはビョウブに尋ねた。

「レイチョウの容姿はそっくりなんだな?」


ビョウブは(うなず)いた。

「瓜二つよ」


「なら、それを知れただけでも収穫だ」


ただ本物のレイチョウはいなかった。


各国を襲撃している亜人を早急に治したいが、その手立ては失った。目的は振り出しに戻った。そう簡単に解決はさせてくれない。一筋縄ではいかないようだ。

国を守る彼らは大丈夫だろうか。


「しかしたとえバッカス国や他国にレイチョウがいたとしても、それもまた偽物かもしれない」


それは(かすみ)を追うような果てしない絶望のように思える。


「どうやって本物かどうか見分けたらいいんですか?」

ブヒゾウは困った表情を浮かべた。


「簡単よ」とビョウブは答えた。


「姿形がいくらそっくりだろうと、能力までは真似できない。タヌキ族は変わらず魔法は使えないわ」


「なるほど」と一同は納得した。


「魔法使いには感じるのよ、あのレイチョウは立ち振舞いはそっくりだったけど、上級魔法使いの威圧がまるでなかった」


「だから偽物と分かったのか」


「それに……」


ビョウブは何かを言おうとして、その言葉を呑んだ。


「まぁ一応、偽物なりに情報を聞き出そうとしてみたけど、漏らしそうになかったわね」




レイチョウに化けていたタヌキ族のタンタンは目を覚ました。ヨキ達が取り囲んでその様子を(うかが)っていた。


「はっ!」


タンタンはヨキ達に目を向けて慌てて身を正した。


「あっしはとんでもねぇことを!」


ヨキ達はなるべく萎縮しないよう優しく尋ねた。


「君は別に何もしなかったよ」


タンタンはそれでも申し訳なさそうにした。


「本物の王はどこにいるか知ってるかい?」

ヨキは柔らかい口調で尋ねた。


「それが……存じ上げません」

タンタンは首を振って答えた。


「そうか……」

ちょっとでも情報を聞き出せるかもしれないと思っていたが、何も得られないことでヨキの語気は明らかに弱まった。


「すみません、お力になれなくて」

タンタンは自分の過失のように謝った。


「いや、いいんだ。君は、王に会ったのだな? なぜ王に化けていたんだ?」


タンタンは今度は変わって、はきはきと答えた。自分にも答えられることがあって喜んでいるようだ。


「レイチョウ氏に会い、直々に(めい)を受けました。あっしが一番気品があるそうで、適任だと言われてつい有頂天になって引き受けてしまいました」


「なるほど……」


「確かにあっしは他のタヌキ族より毛並みも整ってますし、ホリも深いですし……」


ヨキは咄嗟(とっさ)にチャガマとタンタンを見比べた。


「なる……ほど……」


違いが分からないのだが……。


「あと、バッカス国のリーダー的な亜人はどうした?」


ヨキが気分を変えて尋ねると、タンタンは軽快に答えた。


「センバ様のことでございますね。センバ様はバッカス国におられると思いますが」


その名前を聞いて、ビョウブは繰り返すように(つぶや)いた。


「センバ……」


ヨキはその呟きが気になった。

「どうした、ビョウブ? 何か思い当たることがあるのか?」


ビョウブは扇子で口を隠して笑った。


「思い当たるっていうか、まぁ、知り合いっていうか」


「知り合い? あぁ、同じ魔法使いってことか」


「……うん、まぁ、そうね……」


ビョウブには珍しく歯切れの悪い返答だった。


ヨキは気に掛かったが、あまり喋りたくなさそうなので、話をタンタンへと戻した。


「その人は皆がこの国に来てしまって、どうしてるんだ?」


タンタンの自称ホリの深い眼窩(がんか)に力がこもる。


「さて、現状は何をされてるやら。国の乱れを正そうともしませんでしたし、あまり勝ちたい欲がないようでございました。ただ情勢を見守るといった感じでしょうか」


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