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アルージ国へ緩やかな坂を越えると細い道が北へ続いていた。道の両端は小麦畑が一面に広がり、金色の穂が風に揺れている。
周りを見渡しながらその間の道を歩いた。所々に大きな風車が建てられ、ゆっくりと羽根を回している。
「思ったより荒れていないな」
他国では戦禍に見舞われ、かなり荒廃していたが、この地は随分と穏やかである。
「内紛は起きてないってことか?」
ヨキが尋ねると、ビョウブは扇子を広げた。
「亜人は階級を重んじるからね。悪意に侵されてもしっかりと縦社会を築いて統率が取れていたわ」
「悪意の中で秩序があるのか。亜人らしい」
ヨキはそう皮肉を込めて呟いた。
小麦畑を過ぎると今度は土畑が広がっていた。蔓が地面をくねくねと這っている。
「イモが植わってるべ!」
ブヒタロウは脇目も振らずに駆け出した。
「こら、ブヒタロウ! 勝手に取るんじゃないぞ」
ブヒタロウはその声に「少しくらいならいいでげすよ」と好物のイモを掘ろうとした瞬間、ブヒタロウの体が宙に浮いた。
「うぎゃ!」
ブヒタロウの体は縄で組まれた網に閉じ込められ、木の枝に吊るされた。
「それはイノシシを捕まえる罠よ」
ヨキは罠にかかったブヒタロウの姿を見てため息をついた。
「ほら、言わんこっちゃない。食い意地を張るからだ」
ブヒタロウは網の中でもがいた。
「ヨキ様ぁ、助けてくださいでげすよぉ!」
仕方なくヨキは振り返った。
「ブヒゾウ、助けてやってくれ」
ブヒゾウも重いため息をつきながら、腰に備えたナイフを抜き、ジャンプして吊るされた縄を切った。
ブヒタロウの体はドサッと地面へ落ちた。
「あぎゃ!」
ブヒタロウは腰を痛打した。
「痛たた。もっと優しく降ろしてほしかったべ」
「贅沢を言うな」
ヨキ達はその光景に笑っていたが、ビョウブが突然険しい表情になった。
「しっ!」
不穏な気配を感じ、一同は黙った。
既に遅く、ヨキ達の周りを亜人が囲んでいた。
悪意に染まった亜人達は鍬や鎌を手に持ち、ヨキ達を威嚇する。
「なんだ、お前ら、イモ泥棒か?」
ブヒタロウは慌てて両手を挙げた。
「オ、オイラ達は別に怪しいもんじゃないべ!」
ブヒタロウ以外は皆、心で思った。
(いや、イモ盗もうとしただろ!)
10人ほどの亜人に囲まれたが、ヨキ達は(ブヒタロウ以外は)誰も怯えてはいなかった。
彼らの格好からして、どう見ても魔法使いではないし、腕の立つ剣士のような凄みもなかったからである。
おそらくこの畑を所有する農民達であるだろうと思われる。
ヨキはそっとカナの肩に触れ、ビョウブやケージは善意の剣を携えながら、一斉に魔法を唱えた。
「ヒール!」
農民達は魔法を受けて、唸り声をあげながら悶えた。
「ぐあああ!」
そしてバタリと地面へ倒れた。
この光景はヨキ達にとって見慣れた光景である。悪意に侵された者が善意の力を受けて倒れる姿は何百回と見た展開であった。
しかしヨキ達は唖然とその光景を見つめていた。驚いて言葉を失いかけた。
「どういうことだ!?」
「なんですか、これは!?」
目の前の光景が信じられなかった。
倒れた亜人達が、亜人ではなかったからである。




