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アルージ国は他国と比べて気候風土が穏やかで、肥沃な大地が人々の生活を潤している。
手先の器用さが特徴である亜人は農具や工具を作るのが巧く、何より効率的に作物を育てることが得意なため、豊醸なるこの地を与えられたとされる。
そして非力な亜人の助けとして力仕事を手伝い、運搬を担ったのがブタ族であった。
亜人とブタ族は足りないものを補い合う相利共生の関係としてかつてから相性が良かった。
「だからオイラとヨキ様は相性バッチシなんだべなぁ」
ブヒタロウは小高い丘に腰を下ろして、モグモグとクルミを貪りながら納得した。
ブヒゾウは鍛練の汗を腕で拭った。
「ブタ族は忠誠心が強く、相手に尽くすことを好む。自分の国をそっちのけで各国に出向いた結果、ブタ族は国を持たなくなった」
「そもそも国なんて必要ないべ」
ブヒゾウは笑った。
「そうだな。ブタ族はそんな区切りを好まないかもしれんな」
ブヒタロウは仰向けに寝そべって青々とした空を見上げた。
「オイラはヨキ様やカナ様やみんなと一緒に暮らせればそれで幸せだべ」
ゆっくりと流れる綿色の雲がふわふわと風に急かされて飛んでゆく。
「なぁ、ブヒゾウ」
「ん?」
「オイラ、たまに不思議な感覚になるべ」
「何がだ?」
「オイラたち、本当に小さい頃があったべか?」
「は?」
ブヒタロウは見上げた空の色が滲むように思いに耽っていた。
「オイラとブヒゾウは昔から兄弟のように仲良かったってのは間違いないけんど、オイラ、その記憶があんまりなくて……」
「昔のことだから忘れてるんだろ」
ブヒタロウは流れてゆく雲をじっと見つめた。
「そうだべかなぁ」
ブヒゾウは刀を拭い、腰巻きに挟み込んだ。
「悪意に侵されると、以前の記憶が曖昧になるようだ。オイラ達も悪意に侵されてたんだ。記憶が途切れてしまうのは無理もない」
「そもそも何でこの世界は悪意に侵されてるんだべか?」
ブヒタロウが随分と哲学的な問答をし出してブヒゾウは驚いた。
「そりゃ、悪意を持つ者がばら撒いたからだろ。そう皆言ってたじゃないか。聞いてなかったのか?」
「じゃあ、オイラ達は元々善意だったんべか?」
「そりゃ、そうだろ」
ブヒタロウは口を尖らせてネコジャラシの茎を咥えた。
「本当にそんな頃があったんだべか……」




