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「はぁ、はぁ……」
ブルースに相対したトラ族ノモンは肩で息を整えようとしていた。
重たい体を支える脚は限界に近づき、立っているのがやっとのようだった。
額からは血が滴っている。
ブルースは剣先をノモンへ向けて佇んでいる。
「分かったか、ネコ族。貴様がいかに劣等種族であるか、ドラゴン族がいかに優良種族か」
ノモンは血の混じった唾を吐き捨てた。
「へん、そんなもん分かるか」
ノモンは今一度体を起こし、胸を張った。
後方では心配する同胞が見守っていた。
「ノモン、とりあえず回復するミャ!」
ミャーサの横にいるケージがヒールの準備をしている。
「今、治してやるミャ」
「余計なことをするな!」
ノモンは振り返らずに声を張り上げた。
「これは漢の意地ってもんだ。手出しするな!」
相対するブルースは鼻で笑った。
「くだらない。そんな薄っぺらい大義のために戦うのか」
ノモンは顔を上げた。
「お前だって種族の誇りってものがあるんだろ? オレにだって大将たる腹積もりがあるんだよ」
覚悟を持ったノモンに対しても、ブルースはまるで動じず、剣を構え、重心を下げた。
「それを虚勢と言うのだ、トラよ」
「ぬかせ!」
ノモンはブルースに突進した。
「ぐほっ」
ホイホイは唸るように吐血した。騒然とするヨキ軍の中、ヨキはカナの肩に手を添えた。
「カナ!」
「ヒール!」
カナはカメレオン型を含めてホイホイに魔法を放った。
カメレオン型は善意の力を浴び、雄叫びをあげた。鋭い鉤爪は縮み、ホイホイの体から抜け、カメレオン型は倒れ込んだ。
ホイホイの傷口も塞がり、出血は止まり、彼もまた地面に伏せるように倒れた。
「ふぅ、間に合ったようだ……」
ホイホイは一命を取り留め、ヨキ達は安堵した。
ドラゴン族の副長フジナミは、その光景を刮目し、ヨキに視線を向けた。
「まだいるのか、亜人め。奇妙な術を使いおって」
周りの視線もヨキに向けられ、ヨキはカナと共に前へ出た。ヨキは右手をフジナミへ見せた。
「見て分かった通り、我々には悪意を祓う力がある。これ以上無駄な争いはしたくない」
フジナミはヨキの言葉に眉をピクリと動かした。
「無駄な争い? 無駄な争いだと?」
フジナミは突如、激昂し、叫んだ。
「貴様ら亜人が蒔いた種だろうが!」
フジナミはわなわなと体を震わせた。
「ある日突然、貴様らに攻撃され、蹂躙され、身内は殺された。そして種族間で殺し合うよう亜人は仕向けてきた。なのに、無駄な争いだと?」
フジナミは顔を赤らめて叫んだ。
「我々は無駄に戦っていると言うのか! 殺さなければ殺されてしまうこの世界で、我々は指を咥えて殺されるのを待てと言うのか!」
ヨキはそれでも冷静にフジナミを見据えた。
「もう君たちは殺し合う必要はない」
「必要ない、だと?」
「君の同胞もこの通り悪意から解放されている。君たちからも悪意を取り除けば、もう争わなくて済む」
フジナミは口先で笑った。
「都合の良い建前だな。悪意をばら撒いておきながら、今度は悪意を祓うのに協力しろ、だと?」
「そのために僕はここにいる」
「お前がいたら、死んだ者が蘇るのか?」
「……いや、そんな力は僕にはない」
ヨキは強い意志をフジナミにぶつけた。
「亜人の犯した罪は消えないのは承知だ。謝罪だけでは償えないだろう。だからと言ってそれを蔑ろにはしない」
「それが都合良い建前だと言っているんだ!」
それでもヨキは断固として動じなかった。
「都合良くても構わない!」
強い意志がヨキの足に力を与えて踏ん張らせている。
「君たちから悪意がなくなり、争わなくなるのなら! そしていつの日か君たちが笑える日が来るのなら!」
ヨキは振り返らず大声で叫んだ。
「みんな! 剣を構えろ!」
ヨキ軍は一斉に善意の剣を強く握って身構えた。
「彼らを悪意から解放するぞ!」




