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この異世界は悪意しかない!  作者: 浅見青松
第4章 ディーカイト・カゲ国編
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34


「はぁ、はぁ……」


ブルースに相対したトラ族ノモンは肩で息を整えようとしていた。

重たい体を支える脚は限界に近づき、立っているのがやっとのようだった。

額からは血が(したた)っている。


ブルースは剣先をノモンへ向けて(たたず)んでいる。


「分かったか、ネコ族。貴様がいかに劣等種族であるか、ドラゴン族がいかに優良種族か」


ノモンは血の混じった(つば)を吐き捨てた。


「へん、そんなもん分かるか」


ノモンは今一度体を起こし、胸を張った。

後方では心配する同胞が見守っていた。


「ノモン、とりあえず回復するミャ!」


ミャーサの横にいるケージがヒールの準備をしている。


「今、治してやるミャ」


「余計なことをするな!」


ノモンは振り返らずに声を張り上げた。


「これは(おとこ)の意地ってもんだ。手出しするな!」


相対するブルースは鼻で笑った。


「くだらない。そんな薄っぺらい大義のために戦うのか」


ノモンは顔を上げた。


「お前だって種族の誇りってものがあるんだろ? オレにだって大将たる腹積もりがあるんだよ」


覚悟を持ったノモンに対しても、ブルースはまるで動じず、剣を構え、重心を下げた。


「それを虚勢と言うのだ、トラよ」


「ぬかせ!」


ノモンはブルースに突進した。





「ぐほっ」


ホイホイは(うな)るように吐血した。騒然とするヨキ軍の中、ヨキはカナの肩に手を添えた。


「カナ!」


「ヒール!」


カナはカメレオン型を含めてホイホイに魔法を放った。

カメレオン型は善意の力を浴び、雄叫びをあげた。鋭い鉤爪(かぎづめ)は縮み、ホイホイの体から抜け、カメレオン型は倒れ込んだ。


ホイホイの傷口も(ふさ)がり、出血は止まり、彼もまた地面に伏せるように倒れた。


「ふぅ、間に合ったようだ……」


ホイホイは一命を取り留め、ヨキ達は安堵(あんど)した。


ドラゴン族の副長フジナミは、その光景を刮目(かつもく)し、ヨキに視線を向けた。


「まだいるのか、亜人め。奇妙な術を使いおって」


周りの視線もヨキに向けられ、ヨキはカナと共に前へ出た。ヨキは右手をフジナミへ見せた。


「見て分かった通り、我々には悪意を(はら)う力がある。これ以上無駄な争いはしたくない」


フジナミはヨキの言葉に眉をピクリと動かした。


「無駄な争い? 無駄な争いだと?」


フジナミは突如、激昂し、叫んだ。


「貴様ら亜人が()いた種だろうが!」


フジナミはわなわなと体を震わせた。


「ある日突然、貴様らに攻撃され、蹂躙(じゅうりん)され、身内は殺された。そして種族間で殺し合うよう亜人は仕向けてきた。なのに、無駄な争いだと?」


フジナミは顔を赤らめて叫んだ。


「我々は無駄に戦っていると言うのか! 殺さなければ殺されてしまうこの世界で、我々は指を(くわ)えて殺されるのを待てと言うのか!」


ヨキはそれでも冷静にフジナミを見据(みす)えた。


「もう君たちは殺し合う必要はない」


「必要ない、だと?」


「君の同胞もこの通り悪意から解放されている。君たちからも悪意を取り除けば、もう争わなくて済む」


フジナミは口先で笑った。


「都合の良い建前だな。悪意をばら()いておきながら、今度は悪意を祓うのに協力しろ、だと?」


「そのために僕はここにいる」


「お前がいたら、死んだ者が(よみがえ)るのか?」


「……いや、そんな力は僕にはない」


ヨキは強い意志をフジナミにぶつけた。


「亜人の犯した罪は消えないのは承知だ。謝罪だけでは償えないだろう。だからと言ってそれを(ないがし)ろにはしない」


「それが都合良い建前だと言っているんだ!」


それでもヨキは断固として動じなかった。


「都合良くても構わない!」


強い意志がヨキの足に力を与えて踏ん張らせている。


「君たちから悪意がなくなり、争わなくなるのなら! そしていつの日か君たちが笑える日が来るのなら!」


ヨキは振り返らず大声で叫んだ。


「みんな! 剣を構えろ!」


ヨキ軍は一斉に善意の剣を強く握って身構えた。


「彼らを悪意から解放するぞ!」


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