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戦いの準備を整える一同がヨキに群がっている。皆の目的が一致したことで、意気込みが顔を晴れやかにしていた。
「共に頑張りましょう!」
「善意なる世界を!」
雰囲気は良い。戦いを前にしても和やかに談笑している。
悪意の体をしたネコ族の大将ノモンもご機嫌だ。
「感動したぜ。さすがはオレの見込んだ男だ」
ノモンはそう言ってヨキの肩を組んだ。途端に悪意が消えて体が縮んだ。
「あらっ?」
「僕に触るからだろ」
ヨキは笑った。
戦いを控えて、分担して炊き出しを振る舞った。種族ごとに食材の個性が爆発していたが、気を利かせて万人受けしそうな山菜や魚のスープが配られている。
種族は違えど仲は良い。
これが本来の世界、皆が望む世界なのだ。
「過酷な道を選んだね」
カナはスープの入った容器を持ってヨキの横に座った。
「うん、とにかく少しでも多くの人を助けたい」
「うん、わたしも頑張る」
「またたくさん魔法使わせちゃうな」
カナは力こぶを見せるようにしておどけた。
「大丈夫!」
ヨキはそんなカナに微笑んだ。
「ねぇ、ヨキは亜人の国のこと聞いてどう思った?」
カナは不意にヨキに尋ねた。
「どうって?」
カナは容器を膝の上へ力なく乗せた。
「わたしたちもそこ出身なのかな……、って」
「いや、僕は違うよ」
即答するヨキにカナは驚いた。
「記憶戻ったの?」
「あ、いや、戻ったわけじゃないんだけど、そこ出身でないことは明らかなんだ」
ヨキは洞窟で目覚めた時を思い起こした。この世界に来て生活を繰り返していると、その生活が当たり前になり、元の世界のほうが異世界のように思えてきてしまう。
それでも自分がこの世界の住人ではないことは疑いようがない事実であった。
「カナはどう?」
ヨキはカナに尋ねた。
「……何もまだ思い出せない?」
カナは静かに頷いた。
一瞬、何か過去のような映像が痛みと共に頭を過ったことがあったが、それが何であるかは分からなかった。
「そっか。まぁでも魔法が使えるんだから、やっぱり亜人の国にいたんじゃないか?」
「……そうなのかなぁ。なんかイヤだなぁ」
「悪意を撒き散らした国だからな。イメージは良くないな」
「そこで育ってブヒゾウ達の村に悪意を放って。わたしってヒドイよね」
「それも全部悪意のせいなんだ。カナが悪いわけじゃないよ」
「それでも……」
「亜人の国の人だってきっと元々良い人なんだ。楽しく笑って、互いを気遣っていたはずさ」
カナもそんな光景を思い描いた。
「……そうだといいね」
「そうさ。ケージもビョウブもホイホイだって、悪意が取れたらみんな良い人間だった。
悪いのは悪意さ。
だから悪意に屈したくない。その想いが日に日に強くなっていくのが自分でも分かるんだ」
ヨキはカナの目を見つめた。
「そしていつの日かこの世界から悪意をなくしてみせる。それがきっと僕がここにいる理由だ」
ヨキはそう言った途端に戸惑った。
「えっ、どうしたの?」
カナの目から涙が一筋、頬を伝って流れている。カナ本人も驚きながら、その涙を手で拭った。
「あれ、どうしたんだろ、わたし……」




