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この異世界は悪意しかない!  作者: 浅見青松
第4章 ディーカイト・カゲ国編
123/161

27


陽が傾き、野営の篝火(かがりび)が灯る頃、一同の耳に声が届いた。


「ふははは、俺様だ。貴様ら愚民に速報を伝えてやろう」


ビョウブは声の響く頭を手で押さえて、顔をしかめた。

「なに、この不快な言い回し!」


ヨキはビョウブを(なだ)めた。


「まぁまぁ、本人は悪意はない……はず」


「ったく、帰ってきたら往復ビンタしてやろうかしら」


ホイホイの饒舌(じょうぜつ)が皆の頭に伝わってくる。


「調査の結果、ドラゴン族の(おさ)イデヨはやはり死亡しているようだ。しかも遺体は骨だけになっていた模様」


「骨だけ?」

「どういうこと!?」


不可解な状況に理解が追い付かなかった。


「おそらくムシ族の仕業であろうと推測され、ドラゴン族はムシ族の行方を追っている」


「ムシ族が?」

「でも壊滅状態のはずでは?」


「ムシ族の残党が、部屋の格子窓から大量のムシを潜入させて、イデヨを食い尽くさせたようだ」


「うわっ、考えるだけでエグい! キモい!」

ヨキは嫌いなムシの話に身を震わせた。


「これは鳥肌ものですねぇ!」

「いや、元々やがな!」

サントーリオと次男サントリーオが端のほうで叫んでいたが、誰も気に()めていない。


ビョウブは扇子をあおいで語る。


「どんな巨大な生き物でも大量のムシに襲われたらひとたまりもないわね。しかしまさかムシ族だとは想像してなかったわ」


「情報は以上だ。オレ達は凱旋(がいせん)する。せいぜい盛大に出迎える準備をしていろ。ふははは」


プツッ。


通信は途切れた。


「うむ、なかなか大変なことが起こっているみたいだ」


ヨキは腕を組んで今後の対策に頭を悩ませた。


「ドラゴン族に聞いてみましょう」

ビョウブは提案した。


「……そうだな。ホイホイを待っても、あまりこれ以上の情報は得られなさそうだし」


「頭良いはずなんだけど……。自己顕示欲が出過ぎなのよ、あの子」




ヨキはドラゴン族が待機する陣営まで足を運んだ。ドラゴン族は一様にしてイデヨの死を受け止めきれず、互いに慰め合い、涙する者も少なくなかった。


まったく面識がないため、ムシのことしか頭を(よぎ)らなかった自分をヨキは恥じた。

トリ族も王を失っているではないか。

こうしてまた悲しむ人が出来てしまった。


「誰にだって大切な人がいるんだよな……」


ヨキはイデヨの死を(いた)みつつ、ドラゴン族に話し掛けた。


「ヨキ様、すみません、湿っぽくなりまして」


ドラゴン族の兵長ゲキリンは涙を拭って応対した。ヨキは心中を察した。


「当然だよ、君たちにとって大きな存在だったろうから」


「ええ、見た目だけでなく、偉大な方でした」


「すまない、こんな時に。君はどう思う、ムシ族の仕業というのは?」


ゲキリンは毅然(きぜん)とした兵長らしい態度に戻した。


「あり得ない話ではないですね。ムシ族を壊滅させたのは我々ですから。そして我々もまた彼らの心の支えであろう皇帝レニビーの命を奪ったのですから」


亜人の()れ事であるゲームだとしても、それに巻き込まれた各種族は命を()した戦いを()いられている。そして命を奪い合い、こうして悲しむ人がいる。


ヨキに再び亜人への怒りがこみ上げていた。


ゲキリンは(うつむ)いて後悔の念を表した。


「我々も他種族の心情など考えず、他人を傷つけることしか考えていなかった。ムシ族の怒りを買うのも無理はない」


ヨキはそんなゲキリンを慰めた。

「悪意に(おか)されていたから仕方がないよ」


ゲキリンは深いため息と共に首を振った。


「悪意とは、互いに恨みを塗り合うものなのですね……」


血で血を洗う復讐の連鎖、それはいつまでも繰り返し、その先に安寧はやって来ない。

ゲキリンの言葉がヨキの心に重くのしかかった。


ゲキリンはヨキに頭を下げた。


「我らはヨキ様に忠義を誓います。我々と対峙(たいじ)しても我々を傷つけようとせず、おかげで誰ひとり失うことはなかった。こんな戦い方があるなどと考えたこともなかった。感謝いたします」


戦いを交えた相手にそう言われると、ヨキは自分の能力の使い方と誰も傷つけたくないという意志に少しばかり誇りが持てた。


誰も失いたくないし、失わせたくない。


それはみんなの等しい願いなのだ。


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