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「ここにいるのか?」
「さっきからそう言ってるでげす! まったくもう!」
「どうして体が消えてるんだ?」
耳がピョコピョコ動く。
「オイラも分かんないでげす。急に誰もオイラが見えなくなって」
「これって、まさか擬態?」
ビョウブも驚きを隠せない。
「そんなこと出来たのか?」
ヨキは信じられない思いで尋ねた。
「出来ないでげす。突然こうなったでげすよ」
擬態といえば、先ほど正体を現したカメレオン型のドラゴン族である。
ヨキは倒れているドラゴン族を指差した。
「ブヒタロウ、あいつのこと知ってるか?」
肌色の耳がドラゴン族のほうへと向いた。
ブヒタロウは目を凝らして眺めているようだ。
「うーん、あのドラゴン族かどうか分からねぇでげすけど、数日前から変なものが見えてたでげす」
「変なもの?」
「景色の中にボーッと浮かんでる人の形みたいなものでげす。他の人は見えないみたいで、オイラも見間違えかなって思ってたでげす」
国境付近では、戦いを終えてブヒゾウとカナが腰を下ろして体を休めていた。
「しかし驚いちゃった。ブヒタロウが姿まで消せるなんて」
「おそらくドラゴン族にそのような能力の持ち主がいるのでしょう。昔ブタ族の行商に聞いたことがあることを思い出しました」
「ブヒタロウにはそれが見えたってこと?」
「剣戟訓練の時も、何度も目を擦って遠くを見てましたし、参謀会議の時もずっとよそ見していてヨキ様に怒られてました。
あの時からブヒタロウには見えていたんでしょう」
「すごいね、ブヒタロウって。やっぱり見た能力が出来るようになっちゃうんだ」
「魔法が使えるようになったのも、カナ殿が村で使ったのを見てたからでしょう。まさか魔法まで盗むとは思いませんでしたが」
ブヒゾウはため息をついた。
「そのくせ、畑の耕し方や魚の捕り方は全然上手くならない。魔法も失敗ばかり。能力を盗むのは得意でも、うまくそれを活かせないみたいです」
「ふふっ、そこらへんはブヒタロウらしいね」
未だに驚いているヨキとビョウブ。
「じゃあ、お前がクックル王を担いだのか?」
「はい。なんか危なそうだったんで」
サントーリオはそれを聞きつけて涙ぐんだ。
「ありがとうございます! ブヒタロウ殿!」
「どういたしましてだべ」
サントーリオはブヒタロウと握手したがっていたが、姿が見えないので、とりあえず耳を掴んだ。
「い、痛いでげす!」
「おっと、これはすみません!」
サントーリオなりの感謝の意だったが、恩を仇で返すような形になってヨキは笑った。
しかしヨキはそんなブヒタロウの耳をまじまじと見つめた。
「お前はホント、凄い才能の持ち主かもしれないな」
「ホントでげすか!?」
姿は見えないが、どうやら褒められて嬉しいらしい。
「ところで……」
ヨキはピクピク動いている物体を見つめた。
「なんで耳だけ見えるんだ?」
「えっ? ……そうなんでげすか?」
自分の耳を触れて確かめるブヒタロウ。
「そんなんじゃ敵にバレるぞ」
「そんなこと言われても……」
「バレて耳だけ喰われるぞ」
「えっ、そんなのイヤでげす!」
ブヒタロウは手で必死に耳を隠そうとジタバタしていた。
「全然隠れてないな。それにもう、姿を現していいんだぞ」
耳は力なく項垂れた。
「それが……戻り方が分からねぇでげす」
ヨキは思わず苦笑した。
「また中途半端な能力だこと……」




