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12話 VSチート転生者ジャック 妄想を具現化する者

変態集いし場所には変態しか訪れない。

そして、それに引き寄せられるのは転生者だ。


それなる者は、きちんとしたチート転生者。

先ほどの紛い物とは全く異なる強者だ。


「やれやれ……通報の内容は本当だったのか」


心底気怠そうに姿を現したのは黒髪に茶の瞳を持つ少年。

器量は可もなく不可も無く、服装も至って平均的な冒険者の服装。

所持している武器も安物のロングソードだ。


しかし、そんな彼には美少女の取り巻きが三名も。

戦士で赤髪の少女。魔術師で金髪の少女。薬師で青髪の少女となる。

いずれも、規格外のレジェンダリーアイテムを所持しており、それらは彼女らが慕う極々平凡に見える少年が作り出した品々。


「ジャック! あそこっ!」

「うん、分かってる。でも、ちょっと遅かったか……誘拐犯め」


赤髪の少女がタカアキたちに憎悪の眼差しを向ける。

この少女は過去に暴行を受け、生きる気力もなかった頃にジャックなるチート転生者と出会い救われた経緯があった。

だからこそ、この状況を見過ごすわけにはいかない。


無論、事実無根であるが、この状況、どう言い訳しても信じてはもらえないだろう。


「おや? お客さんですか?」

「そのようですね。ですが、今は立て込んでおりますので、後程という事にしてもらいましょう」


状況が把握できていないタカアキたちは、ジャック率いる一団にお引き取り願おう、と近付く。


「大変申し訳ありませんが、今は立て込んでおりますので、お引き取り願いますか?」

「それは出来ないかな。誘拐された少女を救出するよう頼まれているんでね」

「おやおや、ここには誘拐された少女なんておりませんよ? 全員男です」


自室に放り込まれたエルトロッテの姿は無い。

なので、実質、ここにいる者たちは全員が男性である。


しかし、事情を知るタカアキたちはともかく、ジャックたちは事情を知らない。

だから、少女がテーブルの上で開脚させられ、中年男性に隅々を調べられている光景を目の当たりにしたら、どう見たって強姦されているようにしか見えないだろう。


「しらばっくれるのか……止めて欲しいなぁ。もう、うんざりだよ、こういう展開」

「ふむ? おや、それは―――」


ジャックが懐から何かを取り出した。

ノートサイズの大きさの板だ。

それはアイピット・プロという電子機器だ。


これは、インターネットのように情報を開示したり、情報を記録したり、イラストを描く機能も持ち合わせている優秀な道具。

もちろん、神が与えしチートアイテムだ。


ジャックは、それに素早く絵を描き込む。


「来いっ! レトロ・ガーディアンっ!」


ジャックのアイピット・プロの画面が輝き、そこからレトロ風の鉄巨人が飛び出してきた。

大きさは巨漢であるタカアキの二倍。

5メートルに届くであろう、どこかで見たようなデザインの巨人だ。


それは出て来るなり、タカアキを巨大な拳で殴り付け、ふっ飛ばしてしまう。

ダッチ荘を囲うお粗末な壁に激突し壁を粉砕。

砂煙を巻き上げる。


タカアキはその見た目から、ぐへへ筆頭、と思われても仕方がないだろう。

だから、といって問答無用は許されるものではない。


「タ、タカアキさんっ!?」

「野郎っ! 何しやがるっ!」


これにセドックは仰天し、ローランドは怒りを露わにした。


「僕じゃ手加減できないし……こいつで十分だろう」

「手加減って……あれで生きてるの?」

「……あれ? また、やっちゃった?」


ジャックは仲間の少女たちに、てへへ、と苦笑いを見せる。

だが実際は、こういった展開に飽き飽きしていて、もう帰りたい、という気持ちでいっぱいだ。


転生チート能力【妄想創成】という、妄想を現実化できる能力を授かってから、ジャックは考え付く限りの【俺、また何かやっちゃいました】を現実の物とする。

しかし、彼はその果てに気付いた。


勝利し続けるのは酷く退屈で飽きる、と。


しかし、彼にも慕う者ができ、上流階級との交友関係も構築されている今、敗北による喪失がどれほどのものか分からない、という恐怖が生まれている。

だから、ジャックは心のどこかで敗北を望みつつ、今だ勝利を重ねていた。


「(また、勝利か……でも、これは見過ごせないから仕方がないよな)」


ジャックは標的をセドックとローランドに向ける。

少女を凌辱する賊を逃す気など無かった。


「で、まだやる?」

「こんの糞ガキャぁっ! 舐めんじゃねぇぞっ!」


激怒したローランドの鉄拳がレトロ・ガーディアンの寸胴のようなボディに突き刺さる。

巨人はくの字に折れ、宙を舞た後に頭から地面に突き刺さり機能を停止した。

そして、光の粒子に解け霧散する。


「引退したとはいえ、この【鉄拳ローランド】に喧嘩を売るたぁ、どこの馬の骨だ! あぁ!?」

「レ、レトロ・ガーディアンが一撃っ!?」


ジャックは想定外の出来事に驚愕した。


レトロ・ガーディアンはその見た目とは裏腹に機敏でパワーも高く、何より頑強。

そこら辺の盗賊では相手にならないし、騎士相手であっても圧倒する実力を持っている。

それが、たったの一撃で破壊されてしまったのだ。


「う、嘘……レトロ・ガーディアンちゃんがっ!」


鉄の巨人の実力を良く知る少女たちは委縮してしまう。

高性能の装備を身に着けていようとも、三人がかりでようやくレトロ・ガーディアンと互角の彼女らでは、ローランドには手も足も出ないであろうことを理解してしまったがためだ。


「へぇ……やってくれるじゃないか、おっさん」

「おっさんだぁ? このクソガキ」


彼は気付けなかった。

ここダッチ荘が奇人変人の巣窟であることを。


ローランドは怒りで頭の血管が浮き出ていたが、急にスッと冷静になった。

だが、本来は冷静になった時の彼が一番危険となる。

それを知らなかったジャックは幸運であっただろうか。


「だがまぁ……俺も大人だ。五パーセントの力で相手をしてやる」


ローランドが身体に力を籠める。

バリバリ、と筋肉が膨張、白衣と上着はそれに耐えられず弾け飛ぶ。


「ははっ、何それ? 脅し?」


ただの筋肉の膨張だけなら、ジャックたちも驚きはしない。

そのような威嚇をしてくる賊は大勢いたから。

単なる虚仮脅し、そう一笑に伏せただろう。


だが―――。


「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


ローランドから放たれる金色に包まれたドス黒い気。

それが竜巻のように荒れ狂う。


「ひっ……!? な、何っ!? あの戦闘力バトルオーラ!?」

「あっ、あっあ―――ぶくぶく」


尋常ではない敵意。

獣を超えた何かの、おぞましいほどの殺気。

それは攻撃そのものだ。


生命を脅かすであろう威嚇を受け、ジャックの取り巻きたちは口から泡を吹いて失神。

これまでにない異常事態にチート転生者は危機感を覚える、と同時に高揚感も覚えた。


「ローランドさん、いけませんよ。あなたが暴れたら、ここら一帯が吹き飛びます」

「あぁ!? だったらどうすんだ! こいつを見逃せってかぁ!?」


めりめり、バキバキ、と地面がひび割れ砕けてゆく。

ローランドの怒りは大地にすら悲鳴を上げさせた。


「まぁ、私がやります。どんな生物でも―――」


セドックは穏やかな微笑を浮かべたまま、右手をかざす。

その人差し指には極小の魔法陣。

パッと見は青白い小さな輝きにしか見えない。


「?―――がっ!?」

「呼吸ができなければ生きてはいけません」


ローランドもヤバいが、セドックは更にイカれている。


彼はジャックの周りの空気を除外した。

つまり、今ジャックの周囲は真空状態。

助けを呼ぶことも、動く事もままならない。

そして、危機的状況は魔法を発動させる集中力さえ奪う。


何もできない、完全なる敗北、濃厚な死―――。


「(な、なんだこいつらはっ!? 強いなんてレベルじゃ―――)」


世の中には上がいる。

生きてゆく過程でそんな常識は知っている、はずだった。


だが、ジャックは忘れていたのだ。

勝利という美酒に酔いしれ、飽きて、退屈していたところに、理不尽という最凶のハンマーでプライドを粉々に粉砕された。


ここダッチ荘には変態だけが集まる。

世に知られていない変態たち。

知られていても表の顔だけ。

それは裏の顔を見た者を生かして帰さなかった結果。


だからこそ彼らは、ただの変態、と認識されてしまった。


「エゲツねぇな、おめぇも」

「亡骸は有効活用しますので安心してお逝きなさい」


にっこりと微笑むセドックにジャックは恐怖を感じた。

しかし、彼も曲りなりともチート転生者。

どうにもならない状況でも、一筋の活路を見出す。


「(う、動けっ! さ、酸素生成っ!)」


ジャックはアイピット・プロを使用し酸素を生成。

辛うじて窒息死を免れる。


身体が動けるようになると同時に魔法を行使。

前方に魔力による防護壁を二十枚重ね、ドームにて自分を囲って状展開した。


「ほう……多重魔法障壁ですか。あの若さでやりますねぇ」

「おいおい、あいつ死ぬわ」


ジャックの使用した多重魔法障壁は、地球の戦車の砲撃にも耐える強度を誇っている。

だというのにセドック、ローランドは余裕を見せた。


「(余裕を見せちゃって……でも、今はその余裕がありがたい!)」


久しぶりに感じる緊張感。

この二人になら全力をぶつけても文句は言われないだろう。

その結果、他がどうなっても。


ジャックはニヤリと笑みを浮かべ、アイピット・プロにとある物を描く。


「来い! 水素ばく―――」

「はい、どっこいしょー!」

「ぶべっ!?」


爆音とともに突撃してきた肉の塊。

それの分厚い手にど突かれるチート転生者。

しかも、二十枚もの魔法障壁ごとだ。


「ほらな? 不用意にそんな物を展開するから」


ローランドは既に、タカアキが攻撃の機会を伺っていたことに気付いていた。

そして、自分もタカアキと同じような決着を付ける気でいたからこそ、動く気が無かった。


「まぁ、若いうちはそんなものですよ。ガードする時にだけ必要な枚数を、最小限で展開するだなんて、普通に生きていたら身に付くものではありませんし」


はっはっはっ、と愉快そうに笑うこの両名。

実は大きな戦争の最前線で戦い続け、当たり前のように生き残った変態である。

だからこそ、タカアキの実力を深く理解していた。


そんな彼らを以って【怪物】と言わしめるタカアキ。


「いけませんよ。そんな物騒な物を呼び出しては」


しかし、ジャックは自分が生み出した多重魔法障壁に押し潰され口から魂を放出していた。

タカアキたちの完全勝利である。


「セドックさんたちも、大人げないですよ。少し【砂塗れ】になっただけだというのに」

「おめぇの心が寛容すぎるだけだ」


このタカアキ、砂塗れではあるが傷ひとつ負っていない。

それは、レトロ・ガーディアンの攻撃に【信念】が籠っていないから。

拳に【覚悟】がまったく籠ってなかったからだ。


それでは、この変態ゆうしゃにダメージを与える事など永遠に叶わないだろう。


「ふむ、私が彼らを介抱するので、セドックさんたちは引き続き、ゼステル君をお願いします」

「えぇ、分かりました」

「やれやれだな……ったく」


チート転生者を超えるのは、いつだって変態だけ。

即ち、チートスレイヤーは変態ゆうしゃということになる。


勇者に対する風評被害であるが、私は謝らない。

全部、ここの変態たちが悪いから。


こうしてチート転生者を退けた勇者タカアキ。

しかし、これが切っ掛けで彼はチート転生者たちに目を付けられ始める。


戦え、変態ゆうしゃタカアキ!

特に意味の無い戦いにその身を投じ、勝利あすを掴むのだ!


あと、この大騒ぎでも目を覚まさないゼステルも大概である。


いつから原住民がチート転生者に勝てないと錯覚していた……?(要は戦い方)

ローランド「人は思いっきり殴れば死ぬ」(脳筋)

セドック「殺すだけならそこまで魔力は必要ないです」(暗殺得意)

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― 新着の感想 ―
[良い点] う〜んなんというか また犠牲者が増えた (いいぞもっとやれ) [気になる点] 常識を超えた変態に勝つには たかがチート転生者程度ではなんの役にも立たない 幼女チート転生者くらい持ってこなけ…
[一言] こ、こいつ…!取り巻きごと、助けようとした対象ごと吹っ飛ばす気になりやがった…!こいつはクセェー!ゲロ以下の臭いがプンプンするぜぇー!
[一言] 変態は、常識を越えるのか…?
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