第二死 倒せないよ。あのレグルス。何回やっても倒せない。 後編
私の心は折れたままだ。
レグルスに対する怖さは少し薄らいだけど。
やっぱりどうしたらいいかわからない。
そんな私の気持ちを、何も知らないハダル神父が現れる。
今回は黒い色のついた眼鏡でニットの帽子を被り、円盤が2個ついた机みたいのを用意してきた。円盤を回すとチュクチュクと音がする。
王都で流行ってる新しい音楽らしいけど、やたらにドンツクドンツクうるさい。
「HeyYou!女神の祈り♪君に届く♪これが音学♪願い満額♪ YO!HOHOHOHO♪ 少女の願いまたいつか♪何を祈るか♪願うのは君か♪神官はスピカ♪」
おーい。私、結構凹んでるんですけど。
まったく……ハダル神父ってなんでそんなにいつも全力なのよ。
もぅ……
ふ、ふふふ。
「HeyMan♪私の願い♪アナタと違い♪いつも勘違い♪それは神官以外♪YO!HO!HO!HO! Hey♪私願う♪それは【盗賊】♪心奪う♪願い叶う♪」
「えっ?【盗賊】それはだめですよ」
「急に真面目に?」
「だって盗賊って犯罪者じゃんYO!」
神父の発言に大聖堂がガヤガヤしだす。
た、確かに魔法学校の高等部で、【盗賊】を願う子なんている訳ないよね。
生徒達が一斉に財布を確認しだす。
「盗人のスピカ」「優等生だったのになんで?こんな……ヒドイ……信じてたのに!」「このヒラタムネ!」と騒ぎ出す。
まだ盗んでないし、ヒドイ事もしてない。最後の奴……こいつ絶対前と同じ奴だろ。
「スピカさん。なんで【盗賊】なんて選ぶんですか? あなたはこの学園の期待の星(神官)なのに」
「ああ、うん説明してわかるかわかんないけど。すばやさ上げたいから」
「???」
「わかんないよね。うん。ともかく私の願いは【盗賊】わかったらさっさと祈るんだYO!」
「はぁ。わかりました。ただし私の財布は盗まないで下さいよ。大事な妻と娘の写真が入っているんですから。スピカ・プラーエ。あなたの願いは【盗賊】!」
ん? 確か奥さんからは無視されているし、娘からは嫌われていたはずじゃ……ま、いっか。
守護女神トレミー様の像の方から真冬の様な冷たい風が吹き、女神の像は財布があるか確認していた。様な気がする。
私の今回の願いは【盗賊】。
理由は簡単、見えない程早い攻撃なら、見えるまですばやさを上げればいい。
例え倒せなくても、どんな攻撃か見る事さえ出来れば、次回に繋がる。
私はどこに逃げてもリゲルと運命共同体。
じゃあ、逃げてたってだめだよね。
私は魔王軍を甘く見ていた。一回死んだくらいで解決できる様な相手じゃないんだ。
ヴェガもエメラダも私達を子供だと思って手加減してた。
だから私……もしかしたら倒せるんじゃないかと勘違いしてたよ。
そもそも私や見習い勇者のリゲルじゃ練習相手にもならない。四天岩に本気で来られたら一瞬で殺されるんだ。
本当にごめんリゲル。今回は助けられそうもない。
でも、活路は探して絶対前に進んで見せるから許して。
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があああああああああ糞エロジジイがああああああああああああああああ。
私は下ろされたスカートをイソイソと元に戻す。
「ほう。今日はピンクか。こりゃリゲルも喜ぶわい」
ハッとしてリゲルを見ると赤面しながら横を向いていた。絶対見たでしょ。
どーもスピカ18歳えっと何年だっけ? 布団の中の日々も数えるのかな?(気になる人は計算してみてね)
リゲルが剣聖に剣の稽古を頼んで了承されていたから、私も一緒に修行をと申し込んでみたらあっさり承諾。
ただし、一つ条件あり。
それは、ちゃんと『合同演習』を終わらせること。
なんで私だけそんな試練をって……ただセクハラしたかっただけなのね。
いやー本当に辛い毎日だったよ。
いつか絶対殺してやる。シリウス校長もきっと同じ気持ちだったはず。
その合同演習は終わったのかって?
ふふふ。これを見なさい。ピラピラ~~~~~『合同演習終了証』。
これを取るのに3年かかりましたがね。
やっと剣聖の動きを目で追う位は出来る様になった。
「なんと、ワシがスカートを下すときに、パンティーまで下げてしまわんように、スカートのホックを外す瞬間を狙って盗みよったか」
なにその優しさ……一応お礼を言っておくわ。
「じゃあ早速修行を、と言いたいところじゃが。お主らは明日卒業じゃのう。残念ながらここまでのようじゃ。後は各々努力するんじゃな」
満足そうに長い髭を撫でる剣聖。
「あ、あの校長。いえアルケナル剣聖さま」
「あらたまってなんじゃい。サインなら受け付けておらんよ」
「実はこの後、魔王軍四天岩がこの学校にやってきます。何故知っているかは言えませんが……」
「なんと、では相手をしてやらんとな」
え?
なになに? 相手をしてくれるの?
マジカ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あんなに悩んだのに。
これ、解決しちゃうんじゃない?
自分の力じゃないけど。
ううん。私が頼んで協力してもらえるんだから私の手柄よね。
「ふんふふ~~ん♪ ちょっと最強の剣持ってくるから先行っとけ。どこじゃったかのう」
楽しそうに鼻歌を歌いながら、倉庫をガサゴソしだすアルケナル剣聖。
「スピカ。先に行こうか。来るんだろう魔王軍の四天岩がとかいう奴らが……」
真剣な顔で私の手を握ると、正門へ向けてぐんぐん歩き出す。
「で、でも剣聖の準備を待たないと……」
「ああ、剣聖の準備が終わるまでの間だけでも、学校の生徒達を守らないと」
「そ、そうじゃなくて……」
「怖がるなんてスピカらしくないな。何かあったのか?」
「う……」
ど、どうしよう。
怖がってるんじゃなくて、行けばリゲルが死ぬのを知ってるからなのに。
もういっそ「あんた死ぬわよ」って言うべき?
止まってうつむき、目を閉じて悩む私。
廊下の窓から差し込む明かりが、瞼越しにスッと暗くなる。
やがて、ゆっくりと暖かい両腕が私を包みこんだ。
そっか私……今……リゲルに抱きしめられているんだ。
そっと優しい手が私の頭をなでる。
「これからも危険な事や怖い事が沢山あるかもしれない。だけどスピカ。……君の勇者の俺が必ず守る。卒業したら一緒に世界を平和にする旅に出よう」
「えっ!?卒業し……」
んっ……
リゲルが突然私の唇を奪ったので驚いたけど……
……そのまま身を任せた。
パラリラパラリラっ♪
長い口付けを引き裂く悪魔の様な音。
暴竜族が正門に来たんだ。
「……プッ。君の勇者ってなによ」
リゲルの変な台詞廻しを思い出し、つい吹き出してしまった。
「い、いいだろ。苦手なんだよ。そういうの……」
顔を赤くして、両手を振り振りしながら照れているリゲル。
「まぁいいわ。行きましょう私の勇者さま」
「う、うるせー馬鹿にしてんのか」
「とりあえず、卒業した後の話の返事は生き残ったらね。私の勇者さま♪」
「~~~~~~~!!」
私達は手を繋いだま、5階の廊下の窓から飛び降りて、『浮遊』で着地し正門まで走る。
手を繋いだまま走る私達を見て、生徒達が「やっと告白したの?」「付き合うのが遅くてイライラした」「このヒラタムネ!」なんて言って来る。
へいへい悪かったですね。でも付き合った訳じゃないですし。こんのおおおお最後の奴!!!!
誤解しないで頂きたいが、私の胸は隠密を使っているだけで……嘘です。
正門前に到着すると、丁度爆龍奮迅のレグルスが車輪付きの王座から降りるところだった。
私とリゲルは、集まって来ていた野次馬の生徒達を避難させると、手を繋いだまま前に出る。
危険察知の反応がすごい。
もし、恐怖耐性のスキルが上がってなかったら立ってられないかもしれない。
手を繋いだまま『雷神降臨』を発動し、顔を見合わせて頷く。
3mはある筋骨隆々な大男が、武器も持たずにゆっくりこちらに歩いてくる。
「俺は魔王軍四天岩、爆龍奮迅のレグルス。ここにリゲルとかいう奴がいると聞いた」
私はリゲルの手を離し、隠密の効果を発動させる。
「俺になんかようか?」
呼ばれたリゲルが一歩だけ前にでる。
「お前がリゲルか……では死ね」
修行と『雷神降臨』のおかげで、一瞬の時がスローモーションの様に流れる。
剣聖の動きを見れる様になった今の私なら、必ずレグルスが何をしているか見えるはず。
………へっ?
ま、まさか。
ただのパンチだって言うの!?
仁王立ちのポーズからゆっくり拳を突き出すレグルス。
ガツンッ!!!!
私は突き出されようとする拳を、ジャンプしながら杖をブン回してカチ上げる。パンチの角度が上向きに変わって、恐ろしい威力の拳圧によって、上空の雲に巨大な穴を開けた。
「やった!!」
思わず喜びの声を上げ、見上げてレグルスと目が合う。マズイ!!
「女。俺の拳が見えたのか?」
「えっと、ぎりぎり……」
冷汗がたらりと垂れる。そろりそろりと脇の下から離れる。
「ふ、ふははははははははははは。俺の『爆龍拳』を防いだのは魔王様以来だぞ」
突然腹を抱えて笑い出すレグルス。
「面白い。俺の嫁にしてやろう。いい子を孕めよ」
「はっ!?はら……じょ、冗談じゃないわよ」
「見えていたのはスピカだけじゃないみたいだが?」
リゲルがそう言うと16回の斬撃音が聞こえて、レグルスの脇腹から血しぶきが上がる。
音速剣だ!!!
手を繋いだまま『雷神降臨』を使った事により、リゲルのすばやさも2倍になったのだ。
「俺に傷を付けただと……」
脇の傷から出た血をペロリと舐めてこちらを睨みつけるレグルス。
リゲルが私の横で小声で呟く。
「……まさか同じ所を16回切ってやっと血が出るだけとはな。剣だって折れちまったぜ」
「私だって腕をぶち折るくらいの本気で殴ったんだけどね」
「こいつは……」
「うん。やばいね」
確かにやばい……やばいけど。
なんだろう。圧倒的な力の差があるのに負ける気がしない。
この安心感、いつ以来なんだろう。
……あの時だ。
性獣魔狂ヴェガとの後、イーワ・セネーヨと戦った時。
あの時は、リゲルを信頼し、全てを任せて一緒に戦えた。
そうか!!!
そういう事だったんだ!!
私……勘違いしてた。
リゲルを守るだけじゃだめなんだ。
リゲルと一緒に戦わなきゃだめなんだ!!!!!!
「プロキオンが言う通り、俺に傷をつける面白い男と、俺の子を孕むはずだった面白い女か……今殺すには勿体ねぇな。あぁ勿体ねぇ」
再び腕組みをして舌なめずりをするレグルス。もう一度爆龍拳を放つつもり?
ヨシッ!『雷神降臨』はまだ効果が残ってる。
リゲルは……剣は折れたけど無傷。
あと一発ならなんとか防げるはず。
「今から使うのは俺の必殺技の『爆龍奮迅拳』。俺の二つ名にもなっている技だ」
あ、なんか説明しだした。以外に口達者なのね。
こ・れ・は……私のターンか。
「この技はとんでもなく強いが、使うと俺の両腕の骨が粉々になっちまう。それがまた痛てーんだ」
「じゃあやめといたら!!絶対痛いよ!粉々だよ!」
「お前らにそれだけの価値があるって事だ。冥土で泣きながら喜べ!!はぁあああああああ」
「で、でもほら痛いんでしょ? めちゃめちゃ痛いよ~? いいのかなぁ私達みたいな見習い勇者と小娘如きに大事な両手の腕の骨が粉々になっちゃっても」
「ま、まぁな、確かにめちゃめちゃ痛い。正直使った後はしばらく痛くて全然寝れん」
「でしょー? あ、トイレとか大丈夫?」
「別に催してないが……」
「違う違う。お・し・り、拭けなくなっちゃうよ? あ、その人達に拭いてもらう?」
黄色の走竜に乗った瘦せっぽちの人と、赤い走竜に乗った太った人を指さす。
巻き込まれない様に遠くでみてた手下達が、私に尻を拭けと言われて必死に首を横に振っている。
「お、お前ら……」
「ね。困るよね」
「ふはははははは、ますます気に入った。殺すのは今度にしといてやる。この俺とまともに喋れる度胸のある女はエメラダくらいかと思っていたが、女、貴様名前はなんと言う」
「スピカ・プラーエ」
「プ、プラーエ? まさかプラーエ男爵の? こいつは驚いた。あー確かに面影あるわー。世間て意外と狭いわー」
なんか世間話みたいになってますけど……危険察知の反応も消えてるし。
いやナニコレ。
「じゃあ、奥様もお元気で?」
「あ、ママなら元気ですけど……」
「あああそうですかー。いやーエルフィン城にいた若い時に、大分世話になりましてな。よく見ると胸以外…失礼。まったくもってそっくりですな」
「はっ? なんの話ですか?」
「え!? ご存じなかった?……これは申し訳ない。聞かなかったという事で……お前達。帰るぞ」
「ちょ、ちょっと!?」
慌てて車輪付きの王座に乗り込み、仁王立ちするレグルス。
「ゴホン。命拾いしたな貴様ら。次に会った時が貴様らの最後だ。ふははははははははは」
パラリラパラリラっ♪
蛇行し、うるさい音を鳴らしながら帰っていく爆龍奮迅のレグルス達。最後は親せきのおじさんみたいな感じだった。
はぁああああああああああああ。緊張したあああああああああ。
これで、一応、死の危険から回避出来たって事だよね。
良かった。無事に卒業式が……
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああ」
「こ、校長が剣を振り回して暴走してるぞ!!」
生徒達が騒ぎながら正門へ逃げてくる。
また呪われたんかあの校長は……
「さ、行こっかリゲル。エロジジイを倒しに」
「おうよ!」
私達は手を繋いで騒ぎの方へと走り出した。




