第二死 繰り返す2年
私は戻ってきた。というか時間を遡った。間違いない。
ママの作ったクリームシチューにマルコの家のパンを浸しながら確信した。コレマエモヤッタYOね!
2年前に戻って来ている。
私が1年前に勝手に付けて、あげく失くしてしまったはずのブローチをママが胸に付けているし。
パパはなんだか髪の毛が多い……大事にしてね。
なんて思いながらパパの顔を見てたら、心配してパパが話かけてきた。
「なんだ、まだお祈りの事を気にしているのか?パパなんて村長になりたいって祈ったぞ。まぁあんなものはおまじないさ。なぁママ」
「おまじないだなんて、守護女神トレミー様はちゃんと叶えて下さるのよ。私は叶いましたもの。素敵なお嫁さん」
「ママァ……」
「あなた……」
見つめ合う二人。はいはい。このシーン前も見ましたよっと。
「どうしたスピカ。止めてくれないと色々と、その……困るんだが……そっ、そう言えば、隣村の子で勇者になるって祈った子がいたみたいだな」
「まぁ。将来有望ね。スピカちゃんお嫁に行っちゃいなYO!」
無言で二人を見つめる。ごめんねそういう明るい気分じゃないの。
「どうしたのかしら……」
「ふむ、例え勇者だろうが、どこの馬の骨かわからん奴に娘はやらんぞワハハハハ」
なんだか聞いたことある会話を楽し気に話す二人だけど、私が暗い顔をしているので、励まそうと前より明るく振舞っている気はする。
「パパ、ママ、あのね……ううん、やっぱりいい。……疲れたから寝るね」
自分の身に起きていることを伝えようかと考えたが、何しろ訳がわからなすぎる不思議な事なので相談するのはやめた。
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それから2年。
私は前の2年間とほとんど同じ2年間を過ごした。
一昨日の晩御飯がなかなか思い出せない様に、2年も前の事はあーそうだったな。こんな会話あったな~程度しか覚えていないから。
ふと覚えているような場合でも、会話は初めて聞いたかの様に合わせる様にしている。
あ、初級学校の授業はさすがに2回目だからちょっと成績が良くなったよ。
……ちょっとね。
平凡な毎日を過ごす間に、私はあの2年間を予知夢的な何かと思うようになった。あれは夢だったんじゃないかなって。
細部までに拘った、やけにリアルな夢だったんだなと。
そしてその日が来た。
小麦の収穫の日だ。
2年前と同じく私もママも小麦の収穫を手伝っていた。
収穫は順調に進み、やがてお昼の時間。
すっかり太っちょになったパン屋のマルコが汗をながしながら、自慢げに焼き立てのパンを持って走って来た。
「親父にはまだまだ敵わないけど、一生懸命焼いたんだ」
マルコのパンを見てはっきり思い出した。今日があの日なんだって。だって歪なハート型なんだもの。
これは迂闊だったね。月日の経つのはホントに早い。まだまだ先だと思ってたもん。
「はい!こっ…これ!スピカちゃんのために特別に焼いたんだ」
「ありがとう……お腹ペコペコなんだ……」
ドキドキしながら怪しい歪なハートのいやらしいピンクのパンを受け取る。
「こんなに平穏に暮らせるなんてスピカちゃんの【世界平和】の祈りのおかげかな?隣の村が魔物に襲われたって僕は聞いたよ」
「……そうなんだ」
最早、マルコの言葉は耳に入らない。空返事で答えながら歪なハート型のパンを見つめ、裏返し、確認する。
うーん。どうみても普通のパン。
何かすさまじい下心を感じる様な気もするけど、まったく怪しさはない。
Resultは夢よ……夢。
もう一回2年前に戻るなんてありえないわ。
ゴクリ……
私は意を決する。
「……いっただきまーす」
ハムリ。スカッ!
ブツンッ……
一瞬意識が途切れると、辺りは暗闇に包まれていた。
私の手からパンが消えた!!!2年前のあの時とまったく同じ状況だ!!!
派手なファンファーレ音と共に、白い光の文字がドン!ドン!と鳴らしながら浮かび上がってきた。
『 Result 』
0P
報酬 なし
力 12+2
魔力 0+0
体力 12+2
すぱやさ 12+2
女神の祝福
【世界平和】Lv002
『 残り時間30秒 』
「やっぱり。夢じゃなかったんだ!!」
誰が居るわけでもないけど、つい口に出してしまった。
Result…0P、報酬なし、力や体力の数字が10+2から12+2に増えた?私の力や体力が増えたって事かしら……
そんなものが数字で表現されるなんて聞いたことがないし、12がどのくらいなのかも全然わからないけど。
女神の祝福【世界平和】はLv002になっていた。
守護女神トレミー様に【世界平和】を2回お祈りしたからなのは間違いない。
うーん……でもなんでResultになっているのか、ホントにわっかんないわよっ!!
アレやコレやを考えて、頭が爆発しそうになっている内に、残り時間が0になり眩しい光に包まれた。
やがて眩しい光は和らいで行き、目の前に突然教会のハダル神父が現れた。
「さぁ村長の娘スピカよ。守護女神トレミー様へ君は何を祈り、何を目指す」
……はい。戻ってきました。ハダル神父さんチッーーーーッス。2年ぶりでーす。
そういえばこのハダル神父、色々な村々を廻って1年毎に私の村にやってくる。
つまり、ハダル神父には基本10歳になる子供達しか会えない。
村に存在する唯一のよそ者。
これって祝福じゃなくて呪いなんじゃないーの?
……ぶっちゃけハダル神父怪しい。怪しくない?
「どうしましたか?あなたの番ですよ。スピカ」
「あっ、はい!せ、【世界平和】を祈ります」
Resultで変化していたのは、女神の祝福の【世界平和】Lvだけだった。だから私はもう一度世界平和を祈ってみた。
この2年がなぜ繰り返すのか、わからない以上、変化があったものをもう一度試すしかないと思ったから。
「ほう……【世界平和】ですか。それはそれは素晴らしい祈りですね」
守護女神トレミー様の像の方から暖かい風が吹いた気がした。にっこり笑っている気がした。
ふう、何がなんだかわからない。だってヒントも何もないんだもの。
突然目の前が暗くなってResultって。
私が何か悪いことでもしたの?
「ああああああああもぅ!!わっかんないわよおおおおおおおおおおお!!」
自分の部屋で一人叫ぶ。転がり。足をバタつかせる。
当然助けをくれる人は現れないし、ヒントをくれる妖精みたいなのももちろんいない。
もうResultにならず、2年間を繰り返さないかもしれない。
でももしかしたら、2年後にあのパンを食べて、またResultかもしれない。
はっ……パン!そういえばパン!一番怪しいのは、やっぱりマルコのパンよね。
うん。絶対パンよ。その日がきたら投げ捨ててやるんだから。
何よ。太っちょのくせに。今度会ったら試食しすぎって文句言ってやる!
ふと窓から外を見れば、パパが庭の木の下で一生懸命頭皮マッサージをしている。
あーあ、そんなにいじくるから未来でハゲるのよ。
「もう!!パパったらそんなに頭をいじくるからハゲるのよ!!」
「」
なんだかイライラして、窓を開けて大声で叫んでしまった。
口をポカーン開けてこちらを見るパパ。ご、ごめん言いすぎた。
2回もこの2年を過ごしているのだ。体は10歳でも、心は14歳。
もしかしたら反抗期ってやつなのかもしれない。やたらにイライラするし。
布団に包まって泣きながら考える。私は又同じ2年を過ごし、パンを食べて、また祈りの日に戻るんだ。
……どうしよう。
なにか抜け出す方法があるのかしら……何かヒントは……
……負けない!絶対抜け出してやるんだから。
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……結論から言うと、やっぱり駄目だったよ。
目の前には『 Result 』の文字。派手なファンファーレがイライラさせる。
まったく無駄な2年だった。3回目だと言うのに……ぴえん。
変わった事と言えば、マルコは太らなかった。私が試食のし過ぎって注意したから。
それと私は他の他の子より、ちょっとだけ足が速くなったり、力が強くなった。腕相撲はなんと学校で一番強くなった。
見せかけの筋肉なんて無駄なことが分かったかしら?ジェミー君?
あ、まぁ本気の大人には負けるし、本当にちょっとだけよ。
勉強の方は流石に100点。……3回目ですから。さーせん!
そのせいもあってか、いつの間にか優秀な子ってイメージがついてきてしまったのは失敗だったかな。
天才だとか秀才だとか筋肉お化けだとか噂されちゃって、随分困った事になったし。
次は隠そう。すべてを普通レベルに収めよう。
変わらなかった事と言えば、パパの頭。いじるなって注意したのに。……運命なのだ。無駄なのだ。
解決の努力はした……したはず。神父を怪しんでストーカーになったり(結果的には神父は普通の神父だったけど)
例の小麦の日には、マルコの歪なハートのパンを食べずに投げ捨てたわ。
絶対犯人はパンだと思ってたし。犯人は君だ!!ビシッ!!
もうね。モジモジしてるマルコにツカツカ~って走り寄って、無理やり奪って無言で投げ捨ててやったのよ。
「えぇぇぇぇぇ~スピカちゃんそんなぁああああ」
いやー飛んだ飛んだ。うん、川の方まで飛んだよね。あれ投げたのはフリスビーだっけ?って位飛んだね。
ああ、当たったね~当たった。
川沿いをフラフラ歩く知らない男の子に。
うーん。落ちたよね~落ちた。
男の子が川に。
いやいや沈んだよね~沈んだ。
水の底に……
ブツンッ……
『 Result 』
0P
報酬 なし
力 14+3
魔力 0+0
体力 14+3
すばやさ 14+3
女神の祝福
【世界平和】Lv003
キルペナルティ:運-50
『 残り時間30秒 』
いや、ファンファーレうるさいっつーの。最後の残り時間が出るときのジャキーン!!って音がやたらカッコイイし。
パンじゃない!!神父じゃない!!!ぐああああああああ。ま、た、も、ど、さ、れ、るぅうううううううう。
て、いうかあああああ!!今の子だれえええええええええ。