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六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
43.剥離
442/952

『オルデク』身勝手③



 昼間は、準備中のお店が多いみたいです。飲食店くらいは、と見渡してみましたが……そちらも開いていません。観光案内には何故か、関連記事にゾルゲが含まれていました。飲食はそちらで、という事なのでしょうか。


「お兄さーん。子連れ? こんなとこに来ちゃ駄目よ」

「冷やかしは感心しないわよー」

「仕事の一環だ。こいつらとはそういう関係じゃねぇ!」

「そうなの? じゃあ夜おいでよー。お兄さん格好良いから張り切っちゃうからー」


 昼間から入場するお客も少ないですし、ただでさえ目立つ一団だけにレイメイさんが茶化されています。あれも、客引きの一種なのでしょうか。


「人気者ですネ。鼻の下伸びてますヨ」

「そんなわけねぇだろ…………」


 さり気なく自身の顔を触りながら、鼻の下が伸びていないか確認しているレイメイさんを横目に――私は、冷やかしという部分に引っ掛かりを覚えました。いくら私達とレイメイさんの間に三〇センチ近い身長差があるとはいえ、子連れの「子」にリッカさまと私も含まれるでしょうか。


 それに子連れだからといって、冷やかしと言われるとは思えません。船上から託児所も見えていました。子連れのお客も、少なからず居るのです。ならば、冷やかしとは――「彼女連れ」で来るなという意味なのではないでしょうか。


「何でこいつも俺に殺気飛ばしてんだ……」


 私のこれは殺気ではありません。怒りです。レイメイさんの()()そう思われた事に、私は嫉妬しています。しかしどうしましょう。レイメイさんに気付かれるくらいの怒気を放ってしまった理由を、そのまま言いたくありません。


(リッカさまに剣を向けるような人が――)

「レイメイさんが私に剣を向けた時の事を思い出しているんです。絶対に、天地がひっくり返ろうとも嫉妬ではございません。勘違いしないで下さい」

「何でそうなった? つーか手前ぇも殺気を飛ばすんじゃねぇよ……そんなの思ってねぇから止めろ」

「リツカお姉さんの思考の九十九パーセントは巫女さんですシ」


 客引きの女性がすぐに意見を変えた辺り、本当に()()思っている訳ではないのでしょう。客引きの常套句という物かもしれません。それに……()()思うのが、普通なのです。だから――レイメイさんとは少し距離を空け、お役目にだけ集中します。


「中心はこの辺りですね」

「じゃあちょっとだけ」

「ちょっとだけですよ?」

「十秒くらいかな」

「分かりました……」


 十秒は長いですけれど、今の調子を考えると……個人を詳細に感知せずに、”悪意”の所在だけに注意して時間を掛けた方が負担は少ないはずです。


『……? 見逃した……? いや、そんなはずは……』

「…………ない?」


 町の広さからして、広域感知でも町の端まで見る事が出来た訳ではありません。しかし中央から人が多い場所を重点的に見て、無かったという事は……この町には一つもないのでしょう。


「無いなら無いで良いじゃねぇか」

「魔王の力になってると言ってモ、イェラ程ではないでしょうしネ」


 リッカさまが気にしているのは、「何もない場所」だからという訳ではなく――偶にある、一つか二つ残っている”悪意”の方です。ここではありませんが、”悪意”が残っている場所では何かしら問題が起きていました。私達にそれを確認させるために魔王が残しているという可能性を、捨てきれません。


(”悪意”が無いという事は、事件は起きていないのでしょうか)


 しかし、事件は起きています。人を強くするという信念の下に動いている学者は、悪事と思っていません。故に人本来の悪意すらないのでしょう。それでも事件なのですから、”悪意”を残していてもおかしくはありません。この違いにリッカさまと私は、引っ掛かりを覚えているのです。


(魔王の欠片とマクゼルトとの戦闘を終えて、魔王側の作戦は一先ず終わったという事でしょうか……)

「そんじゃ、ただの見回りでいいか」

「神隠し被害者だけは見つけておいて下さい」

「あぁ」


 早く離れたかったのか、レイメイさんは足早に自分の持ち場である町の奥へと進んでいきました。”悪意”と悪意の有無関係なく、学者の悪事は止めます。情報収集に努めましょう。


「うん? お兄さんはお楽しみ?」


 話しかけられるのはレイメイさんだけと思っていましたけれど――女性が一人、私達に声をかけてくれました。レイメイさんが大声で任務と言っていましたし、興味があるだけなのかもしれませんが。


「仕事ですヨ。神隠しっていう事件の調査でス」

「あぁ……カミラの事?」


 神隠しなんて、有名にならない方がおかしいです。町の人全員が知っていると思うべきでしょう。オルデクの被害者情報は持っていなかったので、すぐに名前が分かって安堵しています。


「預かり所から忽然と消えた子とお聞きしてまス」

「えぇ。その子よ。えっと、兵士さんには見えないけど」

「こういう者でス」

「あら、冒険者? 可愛い子達なのに……強いのね」


 王都からのお客さんも多いでしょうし、選任冒険者の証も身分証として働くようです。


「つかぬ事をお聞きしますけド、”巫女”ってどう思いまス?」

「うん? すごく美人って話ね。商売敵にはならないでしょうし、頑張ってって感じかしら」

「ふム」


 目の前に居る人の話をするとは思わなかったのか、私達がそうだとは気付かれませんでした。神隠しの話題ですし、”巫女”について尋ねるのは間違いではないのかもしれません。聞き込みは慎重に、そして時に大胆にとはシーアさんの言葉です。


「王都から来る客は、絶対に巫女の話をするわね。一生触れる事はないだろうけど、是非お相手をーとか」

「……」

「あ。ごめんなさいね? 子供に話す事じゃなかったわね」

「いエ」


 私達を庇う為に頬を膨らませ、子供っぽい仕草を見せてくれたシーアさんでしたが――本当に子供扱いされた上に頭を撫でられるのは、不本意だったのでしょう。本当に頬を膨らませています。


「すごく美人ってどんな子なのかしらね。後ろの子達みたいな?」

「まァ、そんな感じじゃないですかネ。噂では天使らしいですヨ」

「じゃあ貴女達皆巫女ね」


 お話をするだけでも楽しいものと、お母様が言っていましたが……確かに、どんな話でも楽し気に話してくれるこちらの女性を見ていると、そんな気がしてきました。


「カミラの話だっけ?」

「はイ。どちらにいらっしゃいまス?」

「塞ぎ込んじゃって、家に篭りっきり。案内してあげるわ」

「ありがとうございまス」


 案内してくれるようなので、ついて行きます。


「そうそう。暇があればあのお兄さん、お店に呼んで欲しいわ。あの手の子、中々お目にかかれないから」

「夜まで滞在するかは分かりませんけド、その時はお店に突っ込み入れまス」

「あはは。ありがとね」


 あの人は、顔だけは良いそうです。シーアさんは言葉通りに実行すると思いますから、期待していて良いと思います。ただ、アーデさんの事を考えると――少し、ため息が出そうです。シーアさんの場合、結婚後の事を心配しているのでしょう。誘惑に負けないかどうか、今の内に確かめておきたいのかもしれません。


「お姉さんは、カミラさんに起きた神隠しについて何か知りませんか?」

「あら……声も綺麗ね。どう? うちで働かない?」

「私達は未成年なので、遠慮しておきます」

「未成年だったの? 見えないわね……」

「良く言われてまス」


 少しだけ声に、不機嫌さが乗ってしまいました。歌劇場でもそうでしたが、リッカさまをお誘いするのは辞めて頂けると嬉しいです。リッカさまの魅力を皆が知ってくれるのは嬉しいですし、リッカさまも色々な職業に興味を持っている事は分かっているのですが……私の、黒い独占欲が首をもたげてしまいます。


『この人なら、打ち明けても良い気がする。隠したままよりも、色々と話が聴けそう』

「もしお二人が”巫女”だったらどうしまス?」

「んー? どうもしないわ、よっ……て、まさか?」

「余り、言いふらさない方向でお願いします」

「それは、構わないけど……へぇ、確かに……男が放っておかないわね」


 全員がこちらの女性みたいに、受け入れてくれる訳ではありません。そう、痛感してしまっています。ですがやはり、私達は”巫女”なのです。”巫女”だからこそ出来る事を、全うしたいと思っています。


「”巫女”アルレスィアです」

「同じく、リツカです」

「ただのレティシアでス」

「私はドリスよ」


 自己紹介をすると、ドリスさんが名刺をくれました。割引券にもなるようです。


「身分を明かしてくれたお礼? って事で。お店にきたらサービスしてあげるわ」

「行くかは分かりませんけど……ありがとうございます」

「女の子も結構来るわよ? 家事とか、だらしない旦那の愚痴とかね」


 お母様からも、そう聞いています。どうしてお母様がそんな事を知っているのかですが――先代司祭様の護衛役でもあったお母様は、司祭様一行と一緒に行動する事が多かったのです。先代司祭様はお母様が尊敬していた方ですから、多分……遊びに来ていた訳ではないと、思います。


「王都からのお客さんが、巫女様はお店のお手伝いとかもしてたって聞いたんだけど、うちで少し働かない?」

「申し訳ございません……。今はそれ、出来ないのです」

「そっか……残念。カミラの神隠し解決の方が優先だもんね」


 もしも選任冒険者として来ていても、その依頼を受ける事は出来なかったでしょう。ただの接客なら出来ると思いますけど、楽しませる会話をして欲しいとかは……無理です。


「巫女様が神隠し解決に動いてるって事は、神隠しじゃないのよね……?」

「はい。それは、保障します。その代わり、人による犯罪となります。ですから、安心は出来ません……」

「そう、よね……。私からも、お願いするわ。どうか、クラウちゃんを見つけてあげて?」

「はい。全力を尽くします」


 攫われた子と母親の名前は分かりました。後は写真で確認を取って、状況を聞きましょう。ここだけ状況が違うそうなので、もしかしたら……他の神隠しとは違うのかもしれません。解決出来るようなら、解決するまで活動するつもりです。中途半端に関わる事だけはしないと、誓っていますから。


「この写真の中に、居たりしませんか?」


 ドリスさんはカミラさんとクラウさんについて詳しいみたいです。顔も知っているでしょうし、先に確認をしましょう。


「どれどれ? それにしても、巫女様ってもっと話しかけ辛いって思ってたわ」

「普通の人と変わりませんヨ」

「そうみたいね?」


 カラッとした笑みを浮かべたドリスさんを見ると――どことなく、ロミーさんを思い出してしまいます。私は”巫女”で在る為に生きていたので、それが普通と思っていたはずですが……久しぶりに、肩の力が抜けた気がしました。


 ”巫女”を隠さなければいけないというのは、私にとっては在り方を否定するようなものです。どこか、自然体になりきれていなかったのでしょう。


「えっと……居ないわね。この子達は?」

「ゾルゲとブフォルムの間にある岩山に、この子達が隠されていました」

「この子達も被害者って事かしら」

「はい」

「そう……クラウちゃんは居ないわね……」


 岩山に居た子達と、同じくらいの時期に連れ去れた子のはずです。なのに居ないとなると――やはり、誘拐方法の違いが関係しているのでしょう。


「身代金とかじゃ、ないのよね?」

「はい。その……これはまだ確定というわけではないのですけど」

「どうやら子供達は、魔力と魂を抜かれているようなのです」

「魂……」

「人を人たらしめている要素、と思ってください」

「これを抜かれるという事は、自我の消失……つまり、意識があるのに反応を見せないといった変化が見られます」

「死んではないのね?」

「はい。魂さえ戻せれば、意識は戻るでしょう」

「そう……」


 見つけるのに時間が掛かってしまうと、それだけで危険です。ですが別の案件となると……生死すら分かりません。


「カミラには、言わないであげて?」

「分かりました」


 説明義務が私達にはあります。ですが――ただでさえ追い詰められているカミラさんに真実を告げる事は……カミラさんの死にも、繋がるでしょう。時として話さない事も優しさとなります。


「今のカミラに話を聞くのは難しいでしょうから、私が答えられたら良いんだけど……」

「それでしたら、誘拐の時に預かっていたという方にお会い出来ませんか?」

「エーフィの事も知ってたのね」

「はい」


 元元老院のコランタンさんが言っていました。町で話題になっていたでしょうから、小耳に挟んだのでしょう。


「あの子も、目の前でクラウちゃんを連れ去られちゃって……責任を感じて、預かり所の仕事まで辞めちゃったの」

「町から出たりは……」

「それはしてないから安心して頂戴? カミラよりは、話せると思うわ。それに……解決してくれるのなら、何でも答えてくれるはずよ」


 進路を変更し、エーフィさんの方に向かって貰います。私達が聴いた限りでは、獣の咆哮を聞いて外に出た後に連れ去れたそうです。他では見られない違いである、獣の咆哮。そこに答えがあるはずです。


「ここよ」

「ありがとうございます」

「最後まで付き合いたいけど、私もそろそろお店に戻らないと」

「いえ、ここまで連れて来て貰えただけでも助かりました」

「ありがとうございました。後ほど、レイメイさんを連れて行きます」

「あははっ。忙しいでしょうし、本当に暇があったらで良いわよ?」


 離れていくドリスさんに頭を下げます。カミラさんの事やエーフィさんの事、現在の町の状況を素早く手に入れられたのは僥倖でした。


「久しぶりニ、ゆったりと交流出来た気がしまス」

「ドリスさんが親切な方で良かったです」

「そうだねぇ。ドリスさんもクラウちゃんの事を心配してたし、解決に向けて頑張ろう」

「はいっ」


 ドリスさんのお陰で活動しやすくなりましたから、すぐに行動しましょう。まずは――神隠しか別件か、それを確定させたいです。


「ごめんください。神隠し事件の調査に参りました。お話を――」


 ノックをすると、中から大きな音が響いた後――どたどたと近づいて来る音がしました。慌てているのか、物を倒す音が響いています。


「調査!? やっと来てくれ、た……の?」


 バンッと扉を開けて出てきたエーフィさんが、私達を見て固まりました。その目には落胆と諦めが見えています。


「……はぁ……そう、よね。こんな所まで、王国兵とか、来ないもんね……」


 兵士や屈強な冒険者がやって来ると思っていたのでしょう。女の子三人という事でガッカリしたようで、エーフィさんが家の中に戻っていこうとしています。


「あのー、こんな見た目でも、選任冒険者なんです」

「話だけでも聞かせてくれませんか」

「もっと言えばお二人は”巫女”でス」


 神隠しと思い込んでしまっている方に打ち明けるのは躊躇してしまいますが、このままでは話にも応じてくれません。ドリスさんがくれた機会を無下にする訳にはいかないので、誠実に対処します。


「み、巫女……」

「神隠しと呼ばれている事件は、人による誘拐事件です。神隠しではないので、解決する事が出来ます」

「どうか、話を聞かせてください」


 情報にも鮮度があるのです。人を経由する度に劣化するので――正しい情報を、目撃者から聞きたいと思っています。


「わ、分かりました……。この際神頼みでも何でも……クラウちゃんを、助けてくださいッ!」


 家に入れて貰えました。まずはこちらが聴いた情報と合っているかどうかの確認からさせてください。


「獣の咆哮が聞こえて、その隙にクラウちゃんが居なくなったとお聞きしたのですけど」

「はい……その通りです……」

「その時、どんな状況だったんですか?」

「預かり所の中で、クラウちゃんの帰宅準備をしていたんです。そしたら、獣? 何か、すごく怖い叫び声がしまして……」


 夜のお仕事なので、預り所に預ける必要があります。子供が居る方は育児休暇が多く貰えるようで、三日に一度預けられるそうです。クラウちゃんもその一人でした。それにしても、怖い咆哮ですか。どんな獣であっても、咆哮は恐ろしいですが――。


『クラウちゃんを狙ったって訳じゃなさそう?』

(計画的には見えます。しかし個人を狙ってかどうかは、判断に困りますね……)


 子供ならば誰でも良かったのかどうかですが……魔力と魂が目的である魔王の仕業だった場合、優秀な個人を狙うはずです。それ以外の場合は……動機次第でしょう。


「獣の種類が分かったりは?」

「それが、この辺に獣らしい獣は居ないんです……。ヤギやドルラームは居ますけど……あんな声出せる獣なんて……」


 獣ではないのなら、マリスタザリアで確定です。エーフィさんが咆哮を聞いて怖いと言っているようですから、間違いないでしょう。本能的に恐怖を感じる咆哮こそ、マリスタザリアの特徴の一つです。


「叫び声を聞いて、周りの人と避難経路とかの話をしてたんです……。そして、物見台から帰って来た人から、安全を伝えられて……預かり所に戻ったら……」

「クラウちゃんは、居なくなっていたと」

「はい……扉が開いていたから、叫び声が怖くなって一人でどこかに行ったんだと思って、すぐに町に放送を流してもらって……」


 探しても見つからない以上、誘拐か神隠しと思うのは当然だと思います。ただ、状況的に……誰でも連れ去る事が出来たはずです。まだ、神隠しとは言えません。


「扉が開いてたって話ですけど、エーフぃさんが咆哮を聞いて出て行った時は閉めたんですよね」

「はい……」

『人の犯行って感じがするね』

(魔王の犯行と思われる、他の所とは違う気がします)


 計画的な犯行で間違いないと思います。しかし扉を開けたままにしたり、証拠が多いです。魔王の犯行とは思えません。


「見つけられなかった後ハ、どうしたんでス?」

「近場の駐屯所に連絡して……すぐに捜索隊を組んでもらったんですけど……見つからなかったんです……」

「初動は完璧ですネ。それでも見つからなかったとなるト、それなりに計画していた事なのではないでしょうカ」

「そう、だね。クラウちゃん個人を狙った訳じゃなくて、預かり所に居た子を誘拐するっていうのだけは決めてた?」

「そんな感じに思えまス」


 不定期な仕事です。クラウさんが預けられるかどうかは、カミラさんに掛かっています。そんな中でマリスタザリアの咆哮を利用しての偶発的な犯行ですか。偶然が多いと感じます。何か情報が足りていないのでしょう。決めるのはまだ早いです。


「カミラさんは、私は悪くないって言ってくれたけど……私がちゃんとしてれば……。カミラさんに申し訳なくて……私……」

「責任を感じテ、仕事を辞めてしまったのですネ」

「はい……」


 子供達を守る為にエーフィさんは最善の行動をしたと、私達は思っています。カミラさんもそう思ったから責めなかったのでしょう。善人が追い詰められるべきではありません。罪あっての、罰です。


「クラウちゃんの特徴とか教えてもらえませんか? 写真とかあれば、それが一番なのですけど」

「そうですね……。カミラさんと一緒で、少し薄い黄色の髪で……目は薄花色で、笑うとえくぼが可愛くて……」


 涙を流しながら、エーフィさんが特徴を教えてくれました。思い入れのある子だったようです。


「クラウちゃん……お腹に大きな傷があって……その所為で体が弱いんです……今頃、苦しんでないかしら……薬もってないのに……」

「お腹に、傷ですか」

「何でも、ヤギに頭突きをされた時に出来たと……。その事が劣等感になってて、暑い日でも厚着で……カミラさんと私達くらいしか、知らないんです……。だから、”転写”されるのもあまり好きじゃないので……」


 写真はないようですが、瞳の色とお腹の傷で分かると思います。薬が必要な病に侵されているようですから、見つけたらすぐに処置する必要もあるでしょう。エーフィさんとカミラさんがここまで落ち込んでいるのは、連れ去れたこともそうですが……病の事が気になっているようです。


「そういえば、その日はクラウちゃんだけだったんですか?」

「はい……あの日は、クラウちゃんだけでした」

「そういった日は月にどれくらいなんでス?」

「そうですね……。皆さん不定休ですから……月に一回あったり、なかったり……」


 魔王の神隠しならば、一人の日を選んだりしません。少しずつ、魔王の仕業という線が消えていきます。そうなると、預り所の状況を知らない人の可能性が高くなるのではないでしょうか。


「個人ではなく、本当は子供達全員が狙いだったのではないでしょうか」

「なるほど。一人の日を狙った訳じゃなくて、偶々一人だった?」

「はい」


 あくまでも、考えの一つとして置いておきましょう。クラウさん一人狙いだったという線は消えていません。


「獣の咆哮をどうやって流したかが鍵かな」

「事ここに至って、偶然ではないはずです。録音された物でしょうか」

「特級ならば本物に近しい物を用意出来ますネ」


 北部後半ですから、マリスタザリアの出現を待つというのは難しいでしょう。というより、マリスタザリアが出現したら……誘拐どころではありません。まずは自分の命を守る行動をしなければいけないでしょう。


(それが無いという事は、録音か……自分で呼べたか、です)


 瓶はありえないとして、魔王の仕業もないですね。叫ぶだけのマリスタザリアを用意する必要がありません。


「他の神隠し事件とは別件かな」

「私もそう思います。無差別での子供誘拐となると、クラウちゃんの安否が気になります。急ぎましょう」


 似ているのは、身代金要求がない事です。連れ去った子供自体に用があるのでしょう。命の危機です。事態は急を要します。


「どういった捜査がされていたんですか?」

「クラウちゃんを狙ったんだと思っていたので……カミラさんに対しての怨恨とか、クラウちゃんにちょっかいをかけていた人とかを……」


 個人的な恨みや動機がない以上、身近な人だけを調べていては見つかりません。その時も観光客が居たでしょうから、捜索範囲を広げるべきです。


「とりあえズ、預かり所に行ってみますカ」

「うん」

「エーフィさん、預かり所は何処にありますか?」

「あ、案内します……!」


 兎にも角にも現場です。魔法の残滓は……流石に、残っていないでしょう。それでも、何か残っていないか確かめるべきです。初めから諦めて事に当たると、目が曇ります。隅々まで確かめましょう。



ブクマ評価誤字報告ありがとうございます!

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