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六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
41.成長と変化
422/952

『メルク』因縁⑦



「?」


 ルイースヒェンさんが首を傾げています。私達が突然緊張感を高めたからでしょう。つまりルイースヒェンさんにはアレが見えていません。余りの存在感に、誰にでも見える物と思ってしまいましたが……アレは、魔力か”悪意”の塊です。


(直視する事さえ、体力の全てをもっていかれそうな――)

「――っ!!」

「リッカ、さまっ!」


 駆け出し、先手を取ろうとしたリッカさまを――私は、呼びました。普段であれば、攻撃を合わせるために呼んだでしょう。ですが……今回は、止める為です……っ!


(即座に攻撃しようとするか。良い反応だな。だが――今回ばかりは巫女が正しい)


 攻撃ではなく防御を……それでも足りないなら撤退を、と……本能が、叫んでいます。リッカさまも、そのはずですが――リッカさまは、止まらずに突進しました。その判断も正しいのでしょう。先手必勝……相手が何をするのか分からないのであれば、先に倒すのは正攻法です。


『成程。マクゼルトの言うとおりだ。だが……一瞬遅かったようだな』

「っ!?」


 脳に直接響く……アルツィアさまと同質の、天上の声が、黒い塊から発せられました。リッカさまを嘲る、低い声に……リッカさまの第六感が天を衝かんばかりの警鐘を、私の能力がどす黒い感情の激流を受け取ったのです。


「リッカさまっ!」


 瞬間的に、私は動き出しました。あれが”悪意”ならば、私の”拒絶の光”が有効です。物理的な攻撃を行うマクゼルトよりも対処出来ます。


(その為に、まずは体勢を……っ!)

「何よアンタ達、何して――」

「アリスさん!!」

「っ」


 リッカさまを守る為に動こうとした私を――今度はリッカさまが止めました。ルイースヒェンさんを守る為に、動いて欲しいと……しかし、ですが、これでは……プレマフェの時と、同じ――。


「――――っ私の領域を守る(【シルテ=ドム】)強き盾よ(・オルイグナス)!」


 私の”領域”が張られた瞬間、闇の激流が……全てを冒さんと、黒い人形から溢れ出しました。


 黒い闇が牧場を覆いつくしていきます。私の目は、闇しか映していません。何も、見えないのです。私の、視界に、リッカさまが……いないのです。震える手で杖を支え……いえ、私が、支えられ……見えないのなら感じるしかないと、目をぎゅっと閉じて周囲を探りました。


「リッカさまっ! リッカさま……っ!!」

「落ち着きなさいアルレスィア。アンタなら分かるでしょ」

「分かるからといって……! 心配しない理由にはなりませんっ!!!」


 どんなに遠く、感知外に居ようとも……リッカさまだけは感じています。ですが、リッカさまが絶望を感じているのです。


 恐らく”疾風”で空へと逃げたのでしょう。ですが広範囲に広がった”悪意”に、逃げ場を失ってしまったのです。”疾風”が再び使えるようになるまでに、”悪意”がリッカさまを襲います。


 この”悪意”はプレマフェの時の比ではありません。いくらリッカさまでも、耐えられないでしょう。純度が高いです。針のような鋭さがあります。私の”領域”を叩く”悪意”が、私の魔力を軋ませ……浸食しているのです。これが、リッカさまを襲うと考えただけで……絶望に体を引き裂かれそうになります。


「そんなに心配だったんなら……あの子の方に」

「そんな事をしたら……リッカさまが悲しみますっ!!」

「はぁ……?」

(いや、あんたがこんな風になってる事の方が悲しむでしょ……)

「リッカさま……あぁ……今日は私の我侭が……でも、この我侭はリッカさまに……早く行かないと……でも……リッカ……あぁ……あぁっ……」


 だんだんとリッカさまが感じられなくなってきました。視界の揺れと一緒に、心が、魂が揺れているようです。そうです、浄化をすれば――いえ、ここは外です。”箱”がなければ、この範囲を、濃度を浄化する事は出来ません。ならば”アン・ギルィ・トァ・マシュ”を――それも、あの人形(ひとがた)が居る以上、軽々に使う訳には――。


(リッカさま……リッカさま……リッカさま……っリッカ――)

「アル――」

「っ!! リッカ!!」


 突如移動したリッカさまの気配に、慌てて後ろを向くと――リッカさまが、レイメイさんに掴まれて、”領域”内に飛び込んできました。


「クッ……!」

「助かりました……レイメイさん……」


 見開かれた私の目から、涙が零れています。視界がぼやけていきますが――リッカさまの、『恐怖』が滲んだ顔が見えて……私は正気を取り戻しました。


「アリスさん、ごめん……。レイメイさんを……」

「はい……はいっ……」


 ”光”を纏っていたリッカさまは、無事です。


(それでも、紙一重ですけれど……っ……)


 纏っている”光”が……剥がれかけています。闇が滲んでいるのです。無事だったのは、レイメイさんのお陰で接触が最小限だったからだと思います。その代わり……レイメイさんは、今にも『感染』しそうです。急いで浄化します。


(リッカさまも、また…………)

「何が、あったのかしら」

「悪意を見て、上に逃げたんですけど……。その時”疾風”を使っちゃって……。後は飲まれるだけって時にレイメイさんが、私の手を掴んで」

「まぁ……良く分からねぇが、コイツが情けねぇ顔をしてたんでな」

「ありがとうございます……っ」


 空中に居るリッカさまを見て、その表情から状況を読んだレイメイさんが跳んでくれたようです。着地が無茶だったからでしょう。レイメイさんは骨折もしていました。感謝しても、しきれません。牧場の外が、”悪意”の奔流外だった事も幸運でした。本当に、良かった……良かった……っ。


「ありがとうございます……っ。ありがとう、ございます……っ」

「おい、もう……止めろ。こいつが居らんと、俺も困るってだけだ」

「ありがとうございます……っ」


 理由とか、建前とか、関係ないのです。


(リッカさまが無事だったというだけで、私は……っ……)


 背中に感じた、柔らかさに……びくりと、肩を震わせてしまいます。リッカさまが、私に覆い被さってくれたようです。私の、悲しみを包み込むように――。


「リッカさま……」

「ごめん。結局、私の我侭で……」

「構いませんっ……。生きてさえ、居てくれたら……!」


 私の選択次第で、死者が出ていました。プレマフェの時もそうです。私達はいつだって、ギリギリの選択を強いられます。その中で私が間違えずにいられるのは、リッカさまのお陰なのです。だから……リッカさまさえ無事なら、私は……乗り越え、られますから……生きて、ください……っ。


 貴女さまが生きてくれているだけで……私は、幸せですから――。



 涙が収まるまで、リッカさまは私に覆い被さっていてくれました。お互いの体温を確かめ合った私達は……状況を、開始します。


「アリスさん……」


 まずは、再確認をしましょう。レイメイさんは牧場に入る直前、”疾風”で空に居るリッカさまの傍に行ったそうです。つまりこの”悪意”は……牧場だけで吹き荒れている事になります。未だに視界は闇ですが……この”悪意”が町の人を襲っていない事に、安堵しましょう。


(安堵出来る一方で……”悪意”に指向性を持たせられる者は、”洗脳”を持った者か或るいは――)

「はい。あの、声ですね……」

「あれは、そうなの?」

「多分、魔王です」


 ”悪意”を放出する前に、マクゼルトの名を親し気に呼んでいました。まず、マクゼルトを知っている時点で……数える程しかいないでしょう。


「レイメイさん。いけますか」

「問題ねぇ」


 ”治癒”も終わりましたし、浄化も出来ました。後はレイメイさんのやる気次第です。私達のやる事は――決まっています。


「戦いたいでしょうけど、魔王は私がやります。ただ、ここは牧場です」

「全部言わんでいい。化け物は俺がやる」

「頼みました」


 ドルラームが数十頭居ました。それらが全部、魔王産のマリスタザリアになっていたら……一体でも逃せば、国が滅びます。レイメイさんの責任は重大と思ってください。


「アリスさん。一緒に」

「はい。恐らくあれは……魔王本体ではないでしょう。しかし」

「うん。一端であっても、見ておきたい」


 あれだけの絶望を受けながら……リッカさまの”蓋”は強固で、私達を鼓舞してくれています。プレマフェの経験でしょうか。”悪意”を受けてからの立ち直りが、早いです。その頼もしさに、覚悟に、抱えられるだけではいけません。


 あの黒い人形は、未だ居ます。だからこそ……あれが”悪意”の塊なればこそ、私は戦わなければいけません。魔王の欠片程度に苦戦するようでは……本体の浄化など、出来ないのですから。


「ルイースヒぇンさんはこの盾の中に」

「説明くらいして欲しいけど、後で良いわ」


 杖を地面に差し、ブレスレットに魔力を通します。大丈夫です。ブレスレットがあれば、全ての魔法を使えます。私も……成長、しているのです。


「レイメイさん。気をつけて下さい。全部、魔王産です」

「魔法と体術使いか。上等だ」


 ”悪意”の質も、変質の強度も、最上位といえます。油断すると一瞬でやられるでしょう。もう一度言いますが……一体も、逃がしてはいけません。


『あんなに広範囲、しかも長時間汚染されるとは思わなかった』


 あの時……少しでも攻撃を加えておきたいと、リッカさまは考えていました。それが無理となった時、リッカさまは回避に専念しようとしたのです。


 プレマフェの経験はここでも活きました。”悪意”の広がり方や動きが、リッカさまの脳裏に刻み込まれていたのでしょう。それを考慮して、”疾風”で跳んだのですが……魔王が操った”悪意”は、リッカさまの想像以上の濃さを、長時間持続させる事が出来たのです。


(魔王の思考や行動の癖が見られたのは、僥倖でしたが……っ)

「死なないように」

「分ぁっとる。さっき死にかけた阿呆には言われたくねぇ」

「手痛いですね……」

「お二人共、無茶だけはしないようにお願いします。危ないと思ったら逃げに徹しましょう」

「うん」

「あぁ」


 ”悪意”が晴れてきます。レイメイさんとルイースヒェンさんには既に外が見えているでしょうけど――私達の合図で、外に出てください。王都大侵攻の時と同じかそれ以上の衝撃を受ける光景だと思いますが――シーアさんがここに来ていない事から、町を守ってくれているのでしょう。私達は、こちらに集中します。


(最悪の場合は……マリスタザリア殲滅を、最優先とします)

「状況、開始っ……!!」


 リッカさまの合図で――”領域”から飛び出しました。眼前にはマリスタザリアの大群。そして――変わらず佇む、黒い人形……。表情なんて分かりませんし、姿すらも曖昧ですが――余裕の態度だけは分かります。


「ぶぇっくッショッッ!」


 飛び出してすぐに、レイメイさんがくしゃみをしました。魔王らしき人形は構えてすらいませんし、私達だけが観察対象のようです。ですが――マリスタザリアは、餌を前に合図を待つ猛獣のようです。レイメイさんのくしゃみにも反応し、威圧の為に地面を踏み鳴らしたりしています。油断しないようにと、お願いしたはずですけど。


「死にますよ」

「うっせぇ」


 元々ルイースヒェンさんがマリスタザリア化させるつもりだったからでしょう。家畜たちは一纏めになっています。まるで隊列を組んだような……分厚い、鋼鉄の津波のような一団に、レイメイさんは突進していきました。心配ですが……私達も死地に居ます。


「……魔王、ですか」

『そうとも言えるが、どうだろうな。本質は一緒だが』

「悪意の集合体という意味では、ですね」

『そういう事だ。巫女よ』


 魔王その物ではなく、あくまで”悪意”の一端でしかないと……膨大な”悪意”の一欠片でしかないと、黒い人形は言いました。


『マクゼルトよりは心がざわめかない。それでも、比べ物にならない”何か”がある。強さや魔力、悪意を超えた……”何か”が』


 戦士としての圧は、ないようです。しかし、第六感を刺激する”何か”を感じています。強いとか『怖い』といった単純な物ではなく……複雑故に感じ取り辛い、”何か”です。


「今日はまだ、この先があるんだけど……」

「準備だけはしております。どうぞ、お使い下さい」

「……うん!」


 リッカさまに合わせて、撃ち込みます。次を考える必要はありますが、それでも――躊躇って良い相手ではないでしょう。”アン・ギルィ・トァ・マシュ”の準備をします。この為に……残して、いたのですから。


『それに、相手が悪意の集合体である以上、アリスさんの”光”が切り札』


 リッカさまも刀に”光”を纏わせる必要があります。あの”悪意”に攻撃を当てるには……それしか、ありません。


「予行練習っていうにはちょっと、本番っぽいかな」

『戦う気はなかったが。丁度良い』


 魔王自身が戦う気は無かったという言葉に、偽りはなかったのでしょう。リッカさまが空中に居る時、私が……茫然自失となっていた時、治療と状況確認をしていた時……襲うならば、いつでも襲えました。


(しかし……嘘つきです)


 息をするように嘘を吐きます。初めから、私達の実力を計ろうとしていたではありませんか。その証拠に――流れるように、圧が増しました。魔力を練った様子もなく、言葉を発した訳でもないのに、”何か”の魔法が掛かったかのようです。


「マナの王……」

「魔法に詠唱を必要としない上に、魔力を練る必要もないようです」

「アリスさん、気をつけてて。私が引き付ける……!」


 すでにリッカさまも、”抱擁強化”と”光”を使っています。ここから先は……詠唱の差が、そのまま命に繋がるでしょう。目を開け、集中し、発動を見逃してはいけません。私がこの戦いについて行くには……先んじて詠唱する必要があるのですから。


『来い。巫女、赤の巫女。確かめさせて貰おう』


 活歩で魔王に接近、そのまま陽動をかけ背後に回ったリッカさまを――魔王は目で追えています。それどころか……リッカさまの斬撃に合わせて、拳を出してきたのです。


『私の顔へのカウンター。この拳圧は……マクゼルトの……!』


 ですが、リッカさまは考慮しています。”疾風”で拳と拳圧を避けると、震脚を行い無防備となった腕に――刀を、振り下ろしました。


「シッ!!」


 裏拳に振る降ろされるリッカさまの刀は、魔王の腕を両断するはず。その隙に私は一気に詠唱しようとしましたが――リッカさまが感じた微かな第六感に、”アン・ギルィ・トァ・マシュ”以外に魔力を割きました。


「!? ぅ……!?」


 刀が、腕に届いていません。そこに壁があるかのように、リッカさまの刃は止まっています。鉄すら裂くリッカさまの斬撃が……押し戻されていました。


『こんな、に……差が……っ拙――っ』


 弾かれるか、()()()()()。よくない事が起ころうとしていると、リッカさまは後退を余儀なくされました。


「リッカさまっ」

「計画に、支障は無いよ。でも」


 無理に弾いて、離脱したからでしょう。リッカさまの手首が青く腫れていました。


「リッカさま、治療を――」

『時間稼ぎか。出来れば良いな』

「……」


 リッカさまは治療を拒み、痛みを我慢して刀に手を添えています。魔王にこちらの意図が読まれている以上、小細工は必要ないと……我武者羅に、押し切るつもりです。


(っ……魔力を溜めるのが、最優先です、ね。攻め手に欠けるのなら、私が……!)

「―――シッ!!」


 再び斬りかかったリッカさまの斬撃を、魔王は拳で受けました。防御を必要としない魔王は、マクゼルトと似た動きでリッカさまに拳を突き出しています。防ぐという一動作が無いだけでリッカさまは追い詰められませんが……相手は、達人に匹敵する使い手のようです。次第に、リッカさまの体に……傷が、目立ってきました。


『このままじゃ……ジリ貧……っ違う……! こんな弱気じゃ、魔法も落ちる……! 壁が実際にある訳じゃ、ない。だったら――』


 ”悪意”の底は、見えています。そこに届くだけの、”アン・ギルィ・トァ・マシュ”まで…………もう少し、です。


『疾く鋭く重く――』

『――!』


 速度を上げたリッカさまに魔王は素早く反応し、背後に回ったリッカさまを迎撃しようと裏拳を放った瞬間――リッカさまは、()()()()()()()


(何だ、赤の巫女が地面に吸い込まれ――)

(縮地――)

「シッ!!」


 拳一つ分の距離しかなくとも、リッカさまは刀を振る事が出来ます。紙の如き薄い隙を、リッカさまはするりと通り抜けました。そこから放たれる神の如き剣速は――空を裂きます。


『入った――!!』


 斬撃が決まり、魔王の上半身が宙に舞いました。確かな損傷を与えたという手ごたえがリッカさまにはあります。ですが――私は、私達は緩めません。多少の損傷程度で倒せるとは思っていないのです。


『時間が経つ毎により速く、か。報告通りだ、が――ふむ。マクゼルトより速いな』

「―――っ」


 やはり――ですが、少しの損傷すら与えられなかったのは、予想の外でした。


『少しもダメージを与えられないなんて……! とにかく離れ――ぇ?』

「リッカさま、早く――」


 一度離脱してください。私はいつでも撃てます。その為に、再び隙を――なのに、リッカさまが離れません。


(ちが――うごけ、ない――?)

『足が、地面から離れな――』

『やはり、お前達が我の――。だが、魔法への警戒が足らなかったな』

「ま、ほう」

「光の炎、光の刀つるぎ、赤光を煌かせ! 私の魂、私の想い、私の愛を捧げる……!!」

『どう避ける。赤の巫女ッ!!』


 長い、詠唱でしょう。戦闘の最中、このような長い詠唱……唱える暇なんてそうはありません。ですが――舌を噛み切ろうとも、私は急ぐのです……!!


『もう少し、なのに……だったら、やるしか、ないっ!!』


 残った下半身が、足を上げています。リッカさまの、顔を蹴り飛ばそうと――リッカさまは動けず、ただ、その時を待っているように見えました。ですが――リッカさまは、諦めていません。


『終わりか』

(だから――!)

『終わりになんて――』

「私の想いを受け、私の敵を拒絶せよ! 【アン・ギルィ・トァ・マシュ】!!!」


 詠唱は最短最速でした。想いは通り、魔力は世界を塗り替え、現実に【私】を具現化させます。なのに――リッカさまの顔に足が、もう、あんなに迫って――。


「ぁ………」

(嫌………なんで……間に合わ……)


 何度、喪いかけるのか。私の想いが揺れ、”アン・ギルィ・トァ・マシュ”が霞んでしまいます。光を喪いそうになった事で、私の瞳から光が消えかけた時――私の瞳に再び光を灯す、()()()()が迸りました。


『何……?』

「っ……!」


 私の耳に聞こえた、魔王の困惑。それは――起死回生の、瞬間です。再び想いを高め、魔力を燃やし、渾身の力で腕を揮います。私の想いに従い、【私のリッカさま】は――居合を、しました。


『何をした?』

「……」


 マクゼルトの一撃と遜色ありません。圧だけで人を壊せるはずの一撃が、効果を発揮せず……足が、()()()()()()()()()()()()()()()()。光に呑まれていく中で、魔王の足をリッカさまは……”光”を纏った肘で止めていました。


『む』

「時間です」

『……お前達は何処までやれる』


 何が起きたのか、分かりません。赤い閃光の正体も、リッカさまがどうして無事だったのかも、詳細を目視する事は出来ませんでした。ただ――魔王が何か話していたようですが、私の想いで放たれた居合は、リッカさまそのものです。会話する時間など、思考する暇すらありません。


『お前達を殺すのは――』


 ”アン・ギルィ・トァ・マシュ”が魔王を消し飛ばしました。私の攻撃は――魔王の欠片とはいえ、通じる。そう喜んだ方が良いのかもしれません。ですが何よりも――リッカさまの足元に滴り落ちた赤い雫が、私の頭を冷やしていました。



ブクマ評価誤字報告ありがとうございます!

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