表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
5.生活
41/952



「大変、失礼を……。すぐに、王宮へ伝えます」


 検問官には、リッカさまが本物だと伝わったようです。これで一先ずは、王都内に入る事が出来ます。


 ただ、周囲はその限りではありません。まだ少し、混乱の中に居るようです。事情を知らない人からすれば、”巫女”と思われる私が連れた者が”巫女”だった。という状況です。では私は誰なのか? という疑問が出てくるのでしょう。この世界の”巫女”は一人ですから。


(私の事は追々で良いのです)


 リッカさまが”巫女”と認識されるというのが、私の第一目標です。


「リッカさま、これで安心ですね」

「だね。でも驚いたよ。本当のこととはいえ」

「本当のことを伝えるのが一番ですっ」

「ふふ。アリスさんらしいよ」

『嘘とか、隠して通るより、本当の理由で通った方が良いもんね。でも”巫女”はアリスさんだけでも、良いと思ってたり。私は”巫女”じゃなくても――って、検問官が私に”光”を求めたって事は、アリスさんを信用しなかったって事、だよね。何かちょっと、嫌って、思っちゃう。私が怪しいのが悪いのに……』


 リッカさまが困ったような笑みを浮かべてしまいました。ですが、正しい認識を持って欲しいのです。周囲も貴女さまも。リッカさまも”巫女”なのです。世界にとっての”巫女”とは、世界の安寧を支える者です。貴女さまも、この世界の為にここに居ると、皆に知って欲しい。


 ですから、私が検問官に疑われた事は些事なのです。所詮私も、噂の中だけで生きている”巫女”です。むしろ私には”光”を要求しなかったのですから、それだけで十分と思っています。私も”光”を使うつもりで居たくらいなのですから。


 リッカさま。私達は凄く曖昧な存在です。アルツィアさまが居るという前提の中でしか、私達”巫女”は存在出来ないのです。これからも疑われる事が多々あるでしょう。ですが、二人でなら問題ないと確信しています。貴女さまが”光”で証明したように、行動で示していきましょう。


「お待たせしました。お二方共。どうぞお通りください」

「はい、ありがとうございます」


 リッカさまから受け取る時は適当だった検問官が、まるで献上するように剣を返しています。集落で渡された剣です…………その剣、オルテさんが普段持っている物に似ていますね。


(そういえば、その剣には集落皆の想いが、とリッカさまは想っていました、よね。まさか、集落の剣でしょうか。守護長が受け継ぐという……)


 それはつまり、オルテさんがリッカさまに託したという事です。言葉だけでなく、物まで、渡していたのですか……。


 集落で一番の剣ですから、リッカさまに渡すならば相応しいと思います。ですがリッカさまは、その剣に込められた想いを重視しています。守護者が”巫女”を守る為の剣です。その想いを、リッカさまは全力で体現するでしょう。


 リッカさまがオルテさんと約束してしまった時から決まっていた事とはいえ……。


「それと……王宮から、もし良ければお越しになって欲しいと、伝言を授かっております。どうか、ご検討ください」

『王様と、会えるのかな。確か、革命軍の元トップ、だよね。革命の理由が、圧制からの脱却と――先代が”神林”を狙った事への反発って、アリスさん言ってたっけ。森談義とか出来るのかな』


 呼ばれた以上向かうのが礼儀でしょう。元より、ご挨拶に伺うつもりではあったのです。”お役目”と私達の行動を許容して貰わなければいけませんし、リッカさまの身分証明もしなければいけません。王都と連携出来るのなら、それも取り付けたいと思っていました。自分達で出来る事には、限界がありますから、ね……。


 事務程度の話でしたから、まさか本人に会えるとは思っていませんでした……。コルメンス陛下が本当に、森好きだったらどうしましょう。

 

(どう……?)


 もしそうだったとしたら、私は、どうしたいのでしょう。止める……? リッカさまが森話で盛り上がっているのを、止めるのですか……? それは、ダメです。


『挨拶はした方が良いよね。でも挨拶くらいかな。早くアリスさんと王都回りたいし』

「かしこまりました。このまま王宮へ向かいます。どうかお伝えください」


 リッカさまが私を単純化させるのはもう、ここ数日で学んでいます。ですから、ええ。何も言いません。私も早く、リッカさまと王都を見て回りたいのですから、悩むのは勿体無いです。


 検問官に王宮へ向かう旨伝えてから、私達は門を通り抜け、王都に足を踏み入れました。


 


 時間は少し遡り、リツカとアルレスィアが王都南の高台に着いた頃。王都では一人の男が出掛ける準備ををしていた。


「……またあの夢を見ちまった」

(最近は、見んかったんだがな。馬鹿親父に馬鹿息子め……)

 

 百八十を越える長身に、黒く長い髪を後ろで雑に結んでいる。切れ長の目から覗く金色の瞳は、リツカの物とは別種の切れ味を見せていた――が、今日は何処か憂いを秘めているようだ。


(さっさと着替えて、アンネちゃんとこ行くかな。どうせ今日も出とるだろうしな、あの化けもん共)


 男の名前はライゼルト・レイメイ。アルレスィアが取り寄せている新聞にも度々名前が載っている、この国で今一番強い男だ。


 ライゼルトは職場であるギルドに向かっている。服装はこの国では珍しいもので、リツカの世界でいう所の着流しのようなものだ。少々西洋風にアレンジされているが、明らかに浮いた服装をしている。


「ライゼさんおはようございます!」

「お仕事ですか?」

「お昼一緒にどうですかー? 皆と一緒に!」


 浮いた服装の長身。それはもう目立ち、雑踏から文字通り頭一つ飛び出している。だが、誰も怪しんでいない。むしろ好意的だ。ライゼルトが歩くだけで、街には安心感が生まれているようにも感じる。


「悪いな。お茶をする余裕くらいはあんだろうが、昼を一緒に出来るかは怪しいな。また今度誘っとくれ」


 少し訛りのある言葉は、王都の大通りに良く響く。リツカならすぐに分かるだろう。鍛えた者だけが持つ発声。腹筋と体幹が鍛えられ、一呼吸の間に攻撃を完了出来る術を持ったものだと。


 ライゼルトは住民達と日常会話をしながらギルドを目指す。その背には、リツカの身長はあろうかという、百四十センチを越えた長剣が携えられていた。



「はい。はい。それは本当に? ”光”を……? 分かりました。すぐに連絡を」

「どうしたんだ? アンネちゃん」


 ライゼルトがギルドに到着するなり声をかけたのは、黒いショートヘアの女性だ。パリっとした、制服と分かる服を丁寧に着こなしている。印象としては、仕事の出来る者、といった所だ。


 雑多なギルド内でも、アンネリスが動けば空気が引き締まるような、キビキビとした動きをしている。


「ライゼ様。実は今門に、”巫女”様が来ているそうです」

「本物か?」

「”光”を使ったそうです」


 本物かどうか疑うのも無理はない。過去数千年遡っても、”巫女”が”森”から出たという話は聞かないからだ。


「噂の白髪美女か。一目拝んでおくか。仕事仲間になるかもしれんしな」

「…………」

「い、いや。他意は無ぇぞ……?」


 アンネリスの呆れ眼に、ライゼルトは慌てて注釈を入れる。その視線は、軟派な事はせずに仕事をしろという物だった。その真意は別にあるが、今は余談でしかないので省略する。


「白髪の美女である、噂通りの”巫女”様と、もう一人の”巫女”と思われる方が居るそうです」

「あん? 巫女は一人だろ?」

「それが、”光”を使ったのはそちら側との報告が入っています」

「ほう」


 疑いを向けるのも束の間、ライゼルトは面白いといわんばかりに、カカカッと、笑う。


「見に行くか? 何ならその後にお茶でも――」

「いえ、私は陛下に連絡がありますので」

「そ、そうか」

(今日もダメだったか……)

(……)


 ライゼルトがとぼとぼと聞こえそうな足取りでギルドを出て行く。普段は剣のように真っ直ぐな背中が曲がっているように感じる程だ。そんな背中をアンネリスは、呆れながらも苦笑いで見ていた。



 ライゼルトが南門に着いた時、すでに人だかりが出来ていた。普段なら一声かけて散らす所だが、ライゼルトもその雑踏に紛れる。その人だかりが意味しているのは、そこに”巫女”が居るという証だ。


(さて、どんな――)


 女たらしのような言動が目立つライゼルトだが、その実、誠実を形にしたような男だ。そんな男が、言葉に詰まる。

 門から入ってきた二人の女――いや、美女は、空気を一片させた。


 朝の、少し肌を刺すような寒さが吹き飛び、春の風が吹き込んだような、眩い光が二つも通り抜けたのだ。

 雪の如き白は、全ての音を吸収させるように音を消し去り、太陽の如き赤は人々の心に熱狂を生み出していた。


(驚いた。本当に人間か? ”巫女”が天使ってのは、あながち間違いじゃねぇな)


 二人共同じ服だが、赤い方事リツカの服は少しばかり派手目だ。スカートのスリットが熱狂の原因だが、当の本人は気にしている様子は無い。ずっと、隣に居る白い方事アルレスィアに、優しい笑みを向けている。


 その熱狂的な服装とは逆に、リツカの笑みは天使の如き眩さだった。そしてその笑みを受けているアルレスィアもまた、天使の様な慈愛の笑みを浮かべている。その二人が持つ印象は正反対だが、人々の心を明るくさせる存在感を持っていた。


 だが、ライゼルトが容姿に注目したのは一瞬だった。ライゼルトの中の光は、二年前から決まっている。その光のお陰で、ライゼルトは平静で居られたようだ。


(あの、赤い方……剣を持っとるな。しかも、何だあの足取りと気迫は。今この場に敵が出ても、一瞬で動けそうだな。つっても、あの剣……使いこまれちゃ居るが、あの娘っ子が使った訳じゃなさそうだ)


 まだ確信には至っていないが、ライゼルトは一目で、リツカが持つ戦闘力を見抜いた。今この場にマリスタザリアが現れたとしても、リツカはすぐさま対応出来ると。


(野次馬根性で見に来たが、大正解だったな。”巫女”と、もう一人の”巫女”――いや、()()()か)


 ライゼルトはニヤリと口角を上げ、雑踏から離れる。今日の仕事を確認しにいくのだろう。


(仕事仲間になりそうだな。少し観察しとくか。っと、ギルドに戻る前に――)


 男の名前はライゼルト。この国に居る数多くの冒険者。その中でも一握りしかな居ない――選任冒険者だ。




 門を潜り、王都に入りました。冬だというのに、熱気がこんなにも感じられます。門側に人が多い気がしますね。小声で聞こえる話し声も、折り重なれば大音量となります。ですが、私達が入ると少しばかり、音が消えたように思えます。


「わぁ、凄い人。入り口付近までお店あるんだ」

『アリスさんに向く変な視線は、ないね。私は怪しまれてるっぽいけど。やっぱり信心深いなぁ、この世界の人達。皆アリスさんの事知ってるっぽい』

「そう、みたいですね。本屋さんや飲食店――釣具屋もあるみたいです」


 リッカさまの思った通り私には、「まさか”巫女”?」といった視線が向いています。そして、リッカさまに対する……「誰?」という視線もです。それに混ざって、嘗め回すような視線まで。ですがリッカさまは、私に向く視線だけに注意しています。


(検問の時は自身に向いている視線にも、威圧を飛ばしていたのですが……)


 視線が多すぎる所為か、私に向いている視線にしか対応していません。恐らく自身の守りは、直接手を出そうとした悪意にのみ働くのでしょう。


 どんどんと、リッカさまが私に集中しています。それは嬉しくもあり、焦りを覚えるものでした。


(コルメンス陛下に、リッカさまも”巫女”と早く伝えなければいけませんね)


 ”巫女”と分かれば、不埒な視線を向ける人は減るはずです。このままリッカさまが、気を張ったままなんて耐えられません。気疲れを起こしてしまいますし、純粋に楽しめませんから。


(何より、リッカさまにそんな視線が刺さり続けるのは、我慢なりません……! リッカさまの安寧を取り戻す為に!)


 とりあえずリッカさまにバレない範囲で杖を握り締め、魔力を練る寸前で構えておきます。少しでも練るとリッカさまが警戒してしまうので、日常で準備する程度に、ですね。


(それに……変に魔力を練ってしまうと、勢い余って”光の槍”か”光の槌”を叩き付けてしまいそうです)

『あそこ、武器屋かな。後でいかないと――あの人、着流し? この世界にもあるんだ』


 リッカさまが視線を動かしていたのは、武器屋を探していたのですね。刀を作って貰わないといけないので、武器屋の調査は必須です。


(あの人、何処かで見たような気がします)


 リッカさまが注目した、長身の男性……確か、新聞で見たような――。


『むぅ』


 しきりに自身の服のスカート部を気にしながら、リッカさまが困った表情をしていました。

 

「どうかなさいましたか? リッカさま」

「いやぁ、なんか見られてるなーって」

『視線の質がまた変わっちゃった。アリスさんは”巫女”なのに、何でそんな視線が向けられるんだろ』


 少々回りに聴かせるような声の張り方だったのは、私に少なからず向いていた視線を霧散させるためだったようです。ですが、リッカさまに対しての視線は私に向いている物の比ではありません。


『私に視線が向くのは、目立つから仕方ないかな。でもこれは、嫉妬? 不信感が強いなぁ。この視線は慣れてないかも』

「リッカさまの赤く燃えるような髪。素敵ですから。見てしまいますよ」

「あはは……それは、違うと思う」

『私を見てるのは、アリスさんの隣に変な人が居るから――って、気にしすぎかな。変に回りを気にする事はないよね』


 回りなんて気にしなくて良いという意味を込めて、私はリッカさまの思惑とは別の言葉をかけます。慣れない視線に嫌気が差すかもしれませんが、もう少し待っていて下さいね。


『赤い髪を褒められて嬉しいけど、もし私の髪に注目したんだったら――アリスさんの白銀にも、だよね。だってアリスさんの髪本当に綺麗だし、何処からでも見つけられるくらい輝いてるもん』


 リッカさまは少し苦笑いになりながらも、私に視線を戻してくれました。確かに……髪に視線が集まっているのなら、私にも、でしたね。そこは失念してしまっていました。


(でも、赤い髪が素敵というのは、本音ですよ? リッカさまっ)


 私だって、何処からでもリッカさまを見つけられますよっ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ