フラス
A,C, 27/02/29
起きて、朝食を摂ります。その後移動なのですが、まずは”光”について教えておきましょう。
もし、千分の一、いえ万分の一でも、門番に止められた時、必要になりますから。
”光”とは、悪意を払う力です。ですがそれを知ったのは、私の代からなのです。私以前ではただの……”巫女”の証明でしかありませんでした。
”巫女”だけが”光”を使えます。だから、”光”を使えるという事は”巫女”という証明になったのです。
”光”を扱えれば、”巫女”です。どんなに……世界がリッカさまを、怪しもうとも……!!
(リッカさまを疑う者、怪しむ者、貶す者、蔑ろにする者。きっとこれからも出てきます。ですがこの”光”が、リッカさまを証明してくれます!!)
リッカさまを蔑ろにする人間が居るなんて、思いたくありません。この世界の為に立ち上がってくれたリッカさまを疑うなんて、許容したくありません。ですが、集落にしろ、先日会った行商にしろ、リッカさまに懐疑的な視線を向けていたのは事実……。
”光”で、全てを払拭します。
「では、私から見せますね」
魔力を練り、想います。”光”とは照らす力。魔を滅する力です。想うべきは世界の光。私が照らすのだ、という強い想いです。滅するべき悪意を魂で認識し、練り上げる――で、良いはずです。
光らせるだけなら、光れと想うだけです。先代達もそうやって光らせていましたから。ですが、マリスタザリアを滅しようと想うと、勝手が違います。
(その辺りは、自分でも分からないんですよ、ね。”光”を覚えた時から、アルツィアさま曰く完璧なイグナスと言われていましたし……感覚的な説明しか出来そうにありません)
そんな状態で、リッカさまに教えられるのか不安ですが、やるのです!
『いつ見ても、綺麗……』
「私に光の槍を……!」
私の魔法発動と、リッカさまからの熱い視線は同時でした。それを受けて発動した”光の槍”は――私が想像した数十倍の大きさとなっていたのです。
(リッカさまに見せるだけの物だったので、腕くらいの大きさで想ったはず、なんですが……)
数も、一つではなく三つ、ですか。リッカさまに良い格好しようと、無意識下で想ったのでしょうか。
とにかく、威力も、込められた”光”も、いつもよりずっと強いです。これならば――。
「――っ!」
杖を、槍が飛んで欲しい場所に向けます。すると”光の槍”が飛翔し、対象である岩に直撃しました。速度も、矢と同等ですね。ならば矢はもっと速く?
シャーン、と、鈴が鳴ったような音が響き、”光の槍”は役目を終え消えます。岩には一切の傷がありません。ただ、少し揺れています。
「ご覧のように、物や健全な人には全く効果がありません」
「衝撃は、少しあるっぽい?」
「はい、少し仰け反らせる事は出来ます」
ちょっと強めの風に煽られるくらいの衝撃があります。本来はその程度の衝撃なのですが、今回は岩を揺らす程の衝撃でした。やはり、威力が上がっています。もし人に当てれば、少しだけ吹き飛ばせそうでした。
(殺傷能力はありませんが、吹き飛ばしてしまうと怪我をする可能性がありますね……。今後は気をつけないといけません)
「この”光”は、悪意、悪意を宿す者に対しては、悪意を直接射抜きます」
「だから、悪意への特効攻撃」
普通の人は、外傷を与え、動物自身の命を断つ事でしかマリスタザリアを殺す事は出来ません。ですが私達の”光”は、悪意を直接攻撃出来ます。それは、マリスタザリアの致命傷です。
生命力の暴力と表現しても良い程、マリスタザリアは生命力が高いです。治癒力が物語っています。普通の武器でつけた掠り傷なんて、数時間で治ります。ですがリッカさまの武器に”光”を込めて斬れば、その箇所は治らないでしょう。悪意を断つのですから、マリスタザリアにとってその部分は死んでいるようなものなのです。
「実戦で見せるつもりでしたが、私の”拒絶の光”についても教えておきますね」
「……うん」
『アリスさんが、戦う…………でも、アリスさんの想いも、あるし、むむ……』
まだ私が戦う事に難色を示していますが、これを知って貰えれば、変わると思います。
「私の”拒絶の光”は、悪意への特効効果を最大限高めます。本来マリスタザリアとなった者の悪意は取り除く事など出来ません。損傷を与える事は出来ても、剥がせないのです」
「うん。だから、その……殺すしか、ないんだよね」
『いつか、私は、人を――』
私達は”巫女”です。聖女では、ありません。魔王が”人”である以上、私達は人殺しとなるでしょう。ですが、それこそが”お役目”。私達に課せられた、宿命なのです……。出来れば、止めは私が刺したいですが……。
「マリスタザリアになる前であれば、”光”で剥がせます。ですがマリスタザリアでは無理です。そうなっていますが、私の”拒絶”ならば剥がせます」
「それじゃあ――んーん……少しの間だけ、だね?」
「はい。少しの間だけ、私は悪意を剥がし、その部分を動物に戻すことが出来ます」
もしかしたら、この”拒絶の光”を極めると、本当に戻せるかもしれません。ですが……期待を持たせる事は、出来ません。
「少しの間でも戻せるなら、斬りやすいね。マリスタザリア、凄く硬いから……」
「ですので、どうか頼って下さい。今は一対一の状況だけですが、何時かは複数に囲まれる可能性もあります。そうなった時、殲滅速度が上がりますから」
「うん。分かっ、た」
『正直、私にとって一番必要な、魔法。アリスさんが一緒に戦ってくれた方がずっと、楽……。でも――っ』
私を戦わせたくないという、リッカさまの葛藤……それは伝わっています。ですが――。
「頼りに、してるね。アリスさん」
「はいっ。必ずや、貴女さまの力になってみせます!」
リッカさまはしっかりと覚えてくれています。マリスタザリアとの戦闘は短く、確実に行うべきものだと。
恐怖心を、周りが感じる前に倒すのは定石です。リッカさまの想いを蔑ろにするのは憚られますが……素早く殲滅するには、私が必須です。
「じゃあ、次は私の”光”だね――――私に光の槍を……!」
リッカさまが”光の槍”を発動させました。リッカさまが込めた想いは私の物を参考にしています。なので、大きさは同じくらいになるはず、ですが――。
「こ、これは」
「縫い針、かな?」
確かに縫い針……くらいの、大きさです。思わず驚いてしまいました。でもそれは、槍の小ささに対してではありません。想いに対して、起こった現象が小さすぎるのです。
(リッカさまの想い、込めた魔力、どれも完璧でした。手応えというものを、私側でも感じた程です)
ですが、小さい。
「どうやら、リッカさまは体から離れる、遠距離魔法が……」
本当に、そうなのでしょうか。リッカさまは遠距離が全く出来ないのでしょうか。ですが実際に、”疾風”と”精錬”だけ、ですし……。
「どうしよう、私遠距離攻撃できないみたい」
『困ったな……。遠距離出来ないと、近接一辺倒に……でも、いっか。”疾風”で、誰よりも早く、どんな位置からでもアリスさんの所にいける。”精錬”があれば、アリスさんの敵を斬れる。”強化”は私の想いで何処までも強くなれるし――”抱擁”は分からないけど……後は、”光”。一応、別の魔法が思い浮かんだし、試してみよう』
どうしようと言いながらも、リッカさまが困っているようには見えませんでした。むしろ、先を見据えています。その中で、気になる想いがありました。
”私の所に、誰よりも早く”と、”私の敵を斬る為”というものです。
(まさか、リッカさまが……”疾風”と”精錬”を使えるのは、私の、為?)
私の為と想えば、出来るのでしょうか。
単純にリッカさまは、『魔法を空想の物』という想いから抜け出せていないから使えないのかと、思っていました。ですが……私の為にならないと、使えない……?
(そうなると、”強化”すら――)
嬉しい反面、危険です。何とか意識改革を……ですが、下手に変えてリッカさまが魔法を使えなくなったら……いえ、リッカさまの想いの結晶たる”強化”が、消える事はないはずです。
(考えすぎですね。都合良く考えすぎです。少々自意識過剰すぎます。リッカさまの想いはリッカさまだけの物。私が干渉するはずが――)
「アリスさん。私、魔法をイメージしたときに別の呪文想い浮かんだの」
「本当ですか? では、見せていただけますかっ」
考えすぎな私は隅に置いて、リッカさまの魔法を見ましょう。リッカさまが想いついた魔法ですから、しっかりと効果を発揮するはずです。何より、リッカさまが使う魔法は、この世界ではまず見れない物です。興味が尽きません。
「私の掌に光を……」
込められた想いは、両の手への”光”。自身に魔法を纏うという異常事態も、リッカさまならば納得です。ですが、特筆すべきは――。
(なんて柔らかい、”光”)
遠距離ではなく、自分で纏う魔法はしっかりと発動させられるようです。その魔法が作り出した、”光掌”とでも言うべき魔法は、私の”光の槍”と同等の力を持っていました。
私の”光”が滅する力とするなら、リッカさまの魔法は祓う力、です。奇跡を体現したような光明は、荘厳と静穏を感じさせるものです。
「たぶん、ただの攻撃のイメージだったから掌に付与されたんだと思うんだけど……”精錬”と同じイメージでやれば、木刀に光の魔法付与できるかな?」
「恐らくは、可能と思います」
「よかった。とりあえずは形になりそうで」
ほっとした表情で、リッカさまは魔法を解きました。数少ない魔法を、リッカさまは自身に纏うという特異な力で幅を広げていきます。そしてそれを戦力に変えていくのです。
リッカさまもまた、核樹を持っていないと”光”を使えません。木刀が前提になります。マリスタザリアにはまだ……使えません。
(早めに、リッカさまの刀を見つける必要があります、ね)
リッカさまを戦わせたくないという想いには蓋をしています。ですからこの憂慮は、リッカさまの刀を見つけなければリッカさま自身が危ないという想いから来ているはずです。
王都に着いてやるべき事の優先順位は……宿と食材調達、そしてリッカさまの武器探しですね。
生活基盤を迅速に整え、武器探しを重点的に行います。情報収集も兼ねていると言いましたが――アルツィアさまが見つけられなかった魔王を、人が見つけられるとは思えません。
(魔王が動き出した今、その隙から何かを得られるかもしれません。それを見つけるのは私です)
刀探しを手伝いたいところですが、リッカさまの想いに叶う物を作ろうと想ったら……リッカさまに任せるしかありません。
(王都でやるべき事は固まってきました。場合によっては増えるでしょうけど、今挙げた物は確実に行います)
「リッカさまの”光”は完璧です。それならば、”巫女”の証明になるでしょう」
「”巫女”しか”光”が使えないから、だっけ。検問の時に見せれば良いのかな」
「もしもの時、ですね。そんな事になって欲しくはありませんが」
『私としては、アリスさんの護衛の剣士で良いんだけど、国に入れないと意味ないよね』
そうでは、ないのですが……。リッカさまは”巫女”としての矜持を手に入れたはず、なのに……。
(そう、ですか。リッカさまは”巫女”ですが、それは森と世界を守る者という意味なのですね。人助けはあくまで、便利屋リッカさま……なのです、ね)
人々の”巫女”はあくまで私で、リッカさまは私の支援者……と、思っているのですか。
私は、それを許容出来そうにありません。リッカさまは”巫女”として、この世界に根付いて欲しいのです。
「参りましょう、リッカさま。もうすぐ王都です」
「うんっ」
王都での生活がどれ程の日数になるかは分かりませんが、貴女さまに充実した生活を――。




