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第九話 種族訪問 エルフ編

 朝。大和は久杉からの素晴らしいモーニングコールで目を覚ました。


「異人の報告書、毎日出してください。形式は、手元に良いのがありませんからなんでも良いですよ。それを基準にします」


 休みなどないことを思い知らされる仕事コール。さらに無茶ぶりも一緒になってやってきた。

 回らない頭を総動員して了承し、起床する。残念なことに布団以外何もない寝室と違い、大和がやることは山のようにあるのだ。

 



 目覚まし時計に起こされ、テレシアは機嫌悪く起床する。

 機嫌が悪いのは単純に、目覚ましが気に入らないため。エルフの耳ではアラームが不愉快な音として聞こえるのだ。

 ただテレシアはそれが当然だと思っている。目覚まし時計として渡され、ちゃんと目覚められるのだから。

 問題は目覚めがエルフの求める優雅さからは程遠く、悪夢から目覚めるような後味の悪さということだけ。


 朝食を摂りながら部下のエルフから報告を受ける。部下に任せていたのは観察官、津田大和の監視だ。

 観察官が逆に監視されているが、異人たちの立場からすれば当然のこと。

 この『特区』に日本人は一人しかおらず、日本政府に関わっているのも一人。日本政府の意向を知るには、大和の行動から推測するしかない。

 何より自分たちの価値を決めると思われている大和なのだ。媚びを売ることはあっても嫌われる要素は出来る限り排除したい。

 その大和が、ヴァルからの情報によれば挨拶に来るという。いつ来るのか分からない以上、監視を付けてでも完璧な状態で迎える必要がある。

 以前のような失敗はしない。


 朝九時、勝負の時はやってきた。


「朝早くに失礼します。各種族の代表に挨拶と、私の仕事の内容についてお伝えに参りました。一応公民館の着任式の際に触れはしましたが、こうしてきちんとお話し合うのも大切と思いまして。今は大丈夫でしょうか?」


「はい、問題ありません。では、どうしましょうか。皆を呼びますか? それとも代表の私が説明を受け、後で他の者に伝えますか?」


「他のエルフの方を集めるのは大変ですし、テレシアさんの方からお伝え出来ませんか? お手数をおかけしますがお願いします」


 頭を下げる大和に、手を振り恐縮する様子を見せるテレシアだが、内心では確かな手応えを感じていた。

 不特定多数の中の一人ではなく、個人として話ができる。テレシアは自分の第一印象をできる限り払拭しようと満面の笑みで対応する。


「それでは改めまして。観察官の津田大和と申します。私の仕事は皆さまの生活環境の確認と改善。日本社会への適応を目指すということになっています。もちろん、日本社会も貴女方を受け入れられるように変化するでしょうから、気負う必要はありません。お互いゆっくりと歩み寄っていきましょう」


 ゆっくりと互いに理解を深めていきましょう、と大和は伝えたつもりだったが、テレシアにはどの種族が素早く日本という国に馴染めるのか、その早さが評価対象だと解釈した。


「それで、ここに暮らしていた何か不満、不備などはありましたか?」


 テレシアは即座にない、と答えようとして考え直す。

 ここでない、と答えれば大和との会話はこれで終わり。関係の発展も難しい。何より観察官としての役割をさせないことになる。

 ここは何か仕事を与えるのが良策、と身近な悩みを告げる。


「そうですね。頂いた目覚まし時計なのですが、目覚めるには目覚めるのですが、あまり気分の良い目覚めではないですね。嫌な音で起こされるので」


「ほう、嫌な音。アラームがですね。エルフは身体的特徴がほとんど人と変わりませんが、耳だけが人と違って細く長いですから。可聴領域が異なるのかもしれませんね。いずれ調べてみましょうか。それで、目覚ましの音としてどのような音なら気持ち良く起きられると思いますか?」


「そうですね……。心地良い音となると、施設で聞いた音楽でしょうか。オーケストラなるものらしいのですが」


「オーケストラ、ですか。逆に眠ってしまいそうですが。分かりました。相談してみます。大丈夫だと思いますけど」


 納得するように大和は持ってきた資料に様々なことを書き込んでいく。その様子を見てテレシアは安堵する。

 小さな不満を口に出しても大和の態度は変わっていない。むしろ真摯に聞いて対応してくれている。

 これが最初だからかもしれない。小さな不満だったからかもしれない。それでもこれは減点対象ではない。そう分かりほっとした。

 後は加点をしてもらえるように動くだけ。テレシアの脳裏に狩りのお誘いと茶のお誘いの二択が浮かび、狩りは無理と判断して茶を選ぶ。


「大和さん、お茶はいかがですか? 日本には色々な飲み物がありましたけど、私たちエルフはお茶が馴染んだようで。お茶の入れ方などを学んだんですよ」


「ありがとうございます。ですが、これから他の種族の代表の方に挨拶に行かねばなりませんので、今日のところはこれにて失礼します。今度はエルフ全体での悩みなどをお話しできたらと思います」


 しかし残念ながら大和を捕らえることは出来ず、今の話を皆に伝えるようにと言って去ってしまった。

 ふむ、と残されたテレシアは考える。感触としては悪くはなかったが、望むならあと一歩踏み込みたかった。


「狩りの方が好みだったか?」


 大和の好みはいずれ調べることにし、今は部下たちに他の種族への挨拶を見張らせに行かせる。


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